#23 俺は頭が悪いから
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「え……えっと、それはどういう……」
周倉は呆気に取られたまま、だけど小声で聞いてくる。
うんうん、成長成長。
「そのままの意味よ。明後日の朝、私がお父さまと一緒にここを通りかかるから、私をあの荷車に乗せて走ればいいの」
私は端的に説明する。
「おいおいおい。本当にそれが依頼か? しかも一日だけ? ……なんか、危ねぇことをさせられてんじゃないだろうな?」
周倉は疑いの目でこちらを見る。
「何を言っているの。いい? “私”が“私”を攫ってって言ってるの。危ないわけないじゃない。だって、本人が頼んでるのよ?」
また少し圧を乗せて言うが、周倉だって馬鹿じゃない。……いや、馬鹿だけど、勘はそんなに鈍くない。
「いや、ちょっと情報が足りねぇ。俺は金で動くけど、誰かを困らせたり傷つけたりするような依頼はこれまで断ってきたんだ。どうしてもって言うんなら、理由を話せ」
理由……理由ね。大切なことだけれど、周倉が理解するには少々難しい。
それに蔡邕はまだしも、いまの周倉はただの一般人だ。破滅に向かう董家のいざこざにまで深く関わる義理はない。だから、できるなら何も知らせずに別れさせてあげたい。
私は少し考えてから、周倉が納得できそうな形で理由を話した。
「いい? 周倉。私はある筋から情報を掴んだの。それは、とある高貴なお方の催事で起こる事件の話。詳細は話せない。だけど、その場には私のお母さまも出席することになっている。だから、私がいなくなることでお母さまがその催事に参加できないようにしたいの」
まあ、お母さまこそがその事件の一番の被害者なんだが……。とはいえこれが、彼に話せるギリギリのラインだろう。
「もし怪しいと思うんなら断ってくれたっていい。だけどね、これは誰かを傷つけるための依頼じゃない。私はただ、お母さまを助けたいの。そのためなら、お金なんて惜しくない。お願い、協力してくれないかしら」
決意を込めた瞳でそう言った。
でもあくまでも選択は周倉次第だ。これでダメなら、他の手を考える。周倉はたまたま見つけた適任者というだけなのだから。そう自分に言い聞かせてはみたけれど、なぜか喉が詰まる。目の奥が熱い。
周倉は目を瞑って考えていた。
しばらく石みたいに動かない彼だったが、一瞬薄く片目だけ開いて私を見た──と思ったら、今度は目をぱちくりさせながら言った。
「何でえ、そんな顔。似合わねえよ……お前はさっきまでの強気な顔してろい」
ポツリと呟いた声が小さく、でも確かに私の耳に届く。
「……え?」
「だってお前、今にも泣きそうじゃねぇか。小せえ女の子にそんな顔までさせて断ったってんじゃ〜、どう考えても俺が悪人だ。お前の言う通り、俺はあんまし頭が良くねえ。だから……“気持ち”で動く」
そこまで言って、にっこり微笑んだ彼の顔は眩しい。彼は右手を差し出した。
「乗るよ。いや、乗せてやる。俺の車に、だ」
差し出された手を握る。大きくて、ゴツゴツした手。でも、頼りになる手。そんな風に言ってくれたことが嬉しくて、いつの間にか私の頬を温かいものが流れていた。
「ありがとう」
「へんっ! その礼は後払いでいいぜ“お客さん”」
私たちはもう一度しっかり両手を握り合ってから、四人で細かい計画の打ち合わせをした。
決行は明後日の朝。
春の茶会は──もうすぐそこだ。
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