#21 神速の男
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「確かに不気味ね。でも、このまま指を咥えて見ているだけじゃ、お母さまはこのまま茶会に行ってしまうわ」
蠢く文字を前に一瞬私は怯んだが、それでもやることは変わらない。お母さまを見殺しになんてできない。
「あんなに丁寧なお返事まで書いたのに、それはそれで悪目立ちしちゃいますもんね」
文姫も私に同意する。
「ええ。ここまできたら、お茶会への参加は絶対に阻止しなきゃ」
「ですが、どのようにして止めましょう」
先ほど仲間になったばかりの蔡邕も、すでに一緒に頭を悩ませてくれている。
「それなら、さっき文姫と一緒に作戦を練ったの」
私は蔡邕に先ほど発案した作戦を話すことにした。
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「小紅さまが迷子に? なるほど、だから急に一人で外出したいなどと……はぁ」
蔡邕は納得の言った顔で、しかしため息を吐きながら言った。
「そう。言っちゃあ何だけど、これでも私、お爺ちゃんとお母さまには愛されている自信があるわ」
「あ、阿樂さまもですよ……」
ボソっと文姫が付け足すが、今はそんなことはどうでもいい。
「だから、私が急にいなくなれば、とてもお茶会になんて参加できないと思うの」
「うう〜ん。それはそうですが、それでは世話係としての私の立場が……」
蔡邕は腕を組みながら唸っている。
気乗りがしないのもわかる。これまで精一杯わたしを危険から遠ざけてきたのだ。その肝心の私が、ここ一週間ほどで2回もぶっ倒れるわ、あまつさえ行方不明になったんじゃ処分をもらっても仕方がない。
「何を言っているの! お母さまの命がかかってるのよ!?」
「うう……それはそうですが、こうも立て続けに失敗が続きますと……」
しくしくと、蔡邕は泣き真似をしてみせた。
「うふふ。蔡邕、大丈夫よ。お父さまとの訓練中に私がいなくなったら、まず責められるのは貴方じゃなくてお父さまだわ。安心なさい。貴方はその次……逃げる時間は十分にあるわ」
「うわぁ、躊躇なく阿樂さまを犠牲に。非情ですお嬢さま」
文姫が小さく呟く。
だって、いいじゃない。ここ数日私を恥ずかしい目に合わせてきたお父さまを懲らしめるいいチャンスだわ。
「……小紅さま。お帰りになるまで、私たちの無事もちゃんと祈っててくださいね」
「大丈夫よ。お父さまも蔡邕も、そんな風に見えて図太いもの。お爺ちゃんの一太刀くらいで死んだりしないわ! 自分を信じて!」
「ええっ!? それはちょっと、冗談にしてもひどすぎません!?」
しばらく青ざめていた蔡邕だったが、特に代案も出せないようだったのでそのまま押し切った。
ごめんね。ほんと。
***
「とにかく。蔡邕に責任を一人で背負わせないためにも、協力者を探さないと」
「やったーー! やっとお出かけですね!」
「全然まったく気が乗りませんが、仕方ありませんね……」
三者三様の反応をしつつ、私たちは董家の馬車に乗る。
行政宮まで乗れば、いつも訓練している大通りはすぐそこだ。格好は、文姫のいつも着ている侍女のものにした。董家の娘だと知られたら、そこからお母さまたちに計画が漏れるかもしれない。ここからは慎重に行かないと。
いつもの通りを下っていくと、昼間だからかいつも止まっているはずの馬車はない。
「やっぱり、いつもと違う時間だからないのかな?」
「このまま組合に顔を出すというのはどうでしょう?」
文姫が言うが、私は首を振って答える。
「組合はダメよ、足がつくわ。このまま客を乗せた帰りの馬車を捕まえて、個人的に頼んだ方がいい」
「ふむ、逆に怪しまれるのではないでしょうか? それに、明後日の朝本当に来てくれるか保証がないですよ」
「ん〜〜。それもそうだけれど……」
蔡邕も混ざってああでもないこうでもないを繰り返していると、変わった幟を見つけた。
『神速の人力車』──そこにはそう書いてあった。
「“人力車”??」
私がそう呟くと、幟を差した荷車の影から若い男が顔を出す。
「お、何だい? お客さんか?」
その肌は黒く薄汚れていて、着ている服も粗末なものだった。だが、その両脚は逞しく、まるで丸太が二本並んで付いているようにも見える。
「あ、貴方……これで人を運ぶの?」
「おう! 乗り心地はイマイチだけど、速さだけは保証するぜ!」
私が尋ねると、男は満面の笑みで答える。
「ちょっと……小紅さま」
振り返ると、後ろで見ていた蔡邕が手招きしている。近づけば、彼は小声で私を諌めた。
「あの男……素性が知れませぬ。口が軽ければ噂になります。董家の名が漏れれば、董璃さまにも届きかねません。それに、阿樂さまは旅で鍛えた脚と勘があります。下手をすればすぐ追いつかれましょう」
「ちょっ……何だとぉ!」
若者は耳がいいのか、大声でこっちに叫んだ。
「俺様の人力車はな。これでも速さで馬車にだって負けたことはねえんだ。人呼んで──“神速”の周倉。舐めてもらっちゃあ困るぜ」
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