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董卓の孫娘はお爺ちゃんを救いたい!〜悪役令嬢、竹簡の予言で滅亡回避〜大悪党の董卓ファミリーが闇堕ちする前に、私が全部救います!  作者: 雨咲 しゆみ
第一章──破滅の予言と滲む未来

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21/83

#20 滲む未来

 ***


「なるほど……こういうことでしたか」

 一つ目の竹簡を読み終えた蔡邕は、深いため息をつきながら天を仰いでそう呟いた。


「こんな話、いきなりされたって困るよね。もちろん、全部をそのまま信じてもらおうなんて思ってないわ。ただ、これから先わたしがしようとしていることには理由がある。それをわかって欲しいの」

 いま私がどんな顔をしているのか、自分ではよくわからない。でも蔡邕は、優しく頷きながら私の話を聞いてくれた。


「最近の小紅さまは、どこか覚悟を決められたように見えておりました。この蔡邕、その変化に気が付かないほど耄碌してはおりませぬ。貴女さまが乳飲み子の頃からお側におります故……」

 蔡邕はこちらを見つめてそう言った。


「ありがとう蔡邕。実は、ここに書いてあること。私も全部は覚えていないの。ここ数日で消えてしまった記憶もあるから。でも、これと同じ未来を、私はまだ覚えてる。漢の滅亡と董家の粛清──この二つは、私の知る限り必ず訪れる。それを、私は止めたい。だから、貴方にも協力してほしい」

 そう言って頭を下げる。


「お顔を上げてください小紅さま。もちろんでございます。私如きでお力になれることがあれば、何でもお申し付けください。それで、いったい何をすればよろしいのでしょうか?」


「それは……もう一つの竹簡を開いてみればわかるわ」

 私は、二つ目の竹簡を差し出す。外側に巻かれた帯にはこう書かれている、『第二巻・毒』──。


「毒……ですか」

「そう、毒よ。それが、私たちが回避すべき最初の予言」

 私に促されるまま、蔡邕は竹簡の紐を解く。そして内容を確認してすぐ、眉を寄せた。


「──!? これは少々……何と言いますか……」

 言い淀む蔡邕。その顔に浮かんでいるのは恐怖を孕んだ驚きだった。


「ひどいでしょう? もう、時間がないわ」

 しかし蔡邕が顔を顰めたのは、その内容にではなかった。


「あの、そうではなく……」

 その反応に違和感を覚えた私は、蔡邕が開いた竹簡に恐る恐る顔を寄せる。


「これ、文字が……動いております」

「何ですって!?」


 竹簡を覗き込むと、蔡邕の言うとおり文字は滲み、そればかりか、まるで生きているかのように動いていた。

 元々そこに書かれていたはずの文は乱れ、内容はほとんど読み取れない。

 ただ、辛うじて判別できたのは、『春』、『誘い』、『秋』、『茶会』、『毒』、そして『恨み』。 

 それらの文字だけが、滲むことなくただ漂っている。まるで──避けようのない未来を暗示しているかのように。


「ど……どうして?」


 ほんの数日前までは、ここにはしっかりと書かれていた。董家の滅亡につながる一連の事件、その始まりが。

 この内容を初めて読んだ時、確かに怖いと思った。でも、いまはそれ以上に不気味にさえ思える。

 まさか、書かれていた内容が消えるなんて。


 竹簡の麻紐がきしりと鳴った。

 ただならぬ私たちの気配に、一歩引いて私たちを見守っていた文姫も寄ってくる。


「いったい……何が起こってるんでしょう?」

 思わず呟いた文姫に、私は首を振って答える。


「わからない。でも、ここに書いてあったはずの予言が消えてる」


「いったい……元々ここには何と?」

 蔡邕が尋ねた。


「ここにはね。明後日何皇后が開かれる茶会にお母さまが呼ばれ、そこで霊帝さまに見初められると書いてあったわ。ほら、これがその招待状よ」

 私は懐にしまっていた書状を取り出して蔡邕に見せる。


「これは……いったいどこから?」


「行政宮にあるお爺ちゃんの執務室から、ちょっと拝借したの。本物よ」


「いま何と!? ……こほん、失礼。まあ、今はそのような小さいことに構っている場合ではありません。それで、その後どうなるのですか?」


 蔡邕は一瞬目を見開いていつものように小言を言いそうになったが、事態が事態だ。ここは一旦目を瞑ることにして、すぐに続きを促した。


「嫉妬に狂った何皇后に毒を盛られることになる。秋の茶会でね」

 私が続きを言えば、文姫が補足する。


「董璃さまはその毒でお身体を病むばかりか、あのお美しい容姿までなくなっちゃうの。そんなの、絶対に許せません!」

 私たちの言葉を聞き、蔡邕はしばらく頭を抱えていた。しかしやがて顔を上げると、冷静に私たちに問いかけた。


「とても聞き捨てなりません。何とかしましょう。まずは、春の茶会そのものを無害化しなければ。……ですが、もう一つ教えてください。ここに書いてあった予言。なぜ今このように滲み、消えてしまったか心当たりは?」


 私と文姫は顔を見合わせる。この竹簡は、見つからないように隠していた。だから誰かがこれ自体に悪さをしたということはないはずだ。だとすれば……


「実はこの茶会。すでに断りの連絡を入れました。華雄が持っていた返事の文を私たちで書き換えたのです」

「あとは、董璃さまが当日茶会に行かなければいいの!」文姫がまた付け足す。


「でも、もしかしたら……」

 私の言おうとしたことは、蔡邕の予想と重なった。


「ええ。未来は変わり始めています……ですが、抵抗もしている」


 蔡邕の言葉に、私たちは改めて竹簡に目をやる。

 不気味に蠢く文字の中で、『毒』の一文字だけが一際強く脈打っていた。


 ***

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まだまだお付き合いくださいね☆

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