#19 蔡邕
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「というわけで、早速行きますか!」
意気揚々と馬車の下見に向かおうとした私だったが、そんなにうまくはいかなかった。
「小紅さまお一人で市街へ!? だめに決まってるじゃないですか!」
出かけようとしたところを蔡邕に見つかったのだ。
当然、世話係を申しつかっている蔡邕は止める。そりゃそうだよね。チッ。
いま私は自室で彼と向かい合い。必死の説得を試みているところだ。文姫は部屋の隅で、固唾を飲んで見守っている。
「なんで、蔡邕? 道はわかってるわ。毎朝お父さまと一緒に通ってるあの道よ?」
「それはそうですけれど、洛陽は広い。一つ通りを間違えたらどこへ行ってしまうかわかりません」
「だけど、まっすぐな道よ?」
「ええ、それでもです」
「じゃ、文姫を連れて行くわ」
文姫を盾にしてそう告げる。文姫には当日蔡邕をうまく引き離す策を仕込んでもらうつもりだったが、まあそれは明日でもいい。
「ダメです。子供二人であってもよからぬ輩に攫われるかもしれません。小紅さまは目立つのですから。文姫じゃそれを止められません」
「でもこの前は文姫と二人で歩いたわ」
「あの時は、外に馬車を待たせてあったのです! 小紅さまたちがいつの間にか飛び出していったから、家中は大騒ぎになっていたんですよ!?」
「むむむむ……」
あの手この手で何とか言いくるめようとしてみたが、蔡邕の意思は固かった。
「だから、私もついて行きます」
「ええ〜〜」
「なんでそう拒まれるのですか!? いったい私が何かしましたか!?」
いや、そういうわけじゃないんだけれど。蔡邕にはまだ予言のことは話してないからなぁ。
「うう〜〜ん。そうじゃ、ないんだけどね」
蔡邕にはお爺ちゃんが殺された後、その死を偲んで涙を流したせいで処刑されたってエピソードがある。
これもまた有名な話で、これがあるから私は蔡邕の名を覚えていたと言ってもいいくらいだ。
忠義の固さは史実でも折り紙つきだし、味方に引き入れて悪い相手じゃない……か。
「……蔡邕」
「はい?」
「……私を信じられる?」
声を低く落として、私は言った。
「ええ、もちろん信じておりますが、それとこれとは……」
また別の手段で外出させろと言い出すと思ったのか、蔡邕は話を遮ろうとした。しかし、そうではない。
「いいから聞いて、これは真剣な話。私を本当に信じられるかどうかを尋ねているの」
「……」
真っ直ぐ自分を見つめる視線に、彼は気づいた。そして、私のまとう空気がいつもと違うことにも。
「信じられる?」
改めて問う。
蔡邕は息を呑み、しばらく言葉を探した。軽々しく頷けば、董家そのものを危うくする──そう理解した顔だった。
「は。私は小紅さまを信じております」
ゆっくりと深く礼をしつつ、彼は答えた。それはいつもの世話係の簡単なお辞儀じゃない。
私に忠誠を尽くすという──家臣の礼。
「では、董家のために秘密を守る覚悟はあるわね?」
「もちろんでございます。私は董卓さまに救われました。どんな秘密も、墓まで持って行きましょう」
顔を上げる蔡邕。その眼差しに、曇りの色はない。
「いいわ、蔡邕。じゃあ私も貴方を信じる。見せたいものがあるの」
私は蔡邕に、あの予言のことを明かすと決めた。
「文姫、持ってきて」
「はい、小紅さま」
文姫に合図すれば、彼女はすぐに竹簡を二本持ってくる。
“第一巻・破滅”、そして……“第二巻・毒”。
「まずは、これを読んでほしいの……」
私が差し出したのは一つ目の竹簡。これを読んだ蔡邕は、いったいどんな反応をするのだろうか……
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