#18 作戦会議
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「文姫! 一大事よ!」
「うわ! な、何ですか小紅さまそんなに慌てて……」
部屋に戻ると、文姫は何やら怪しい草やらキノコ、それに……尻尾(?)ようなものを煮詰めていた。ぐつぐつと煮立ったそれはおどろおどろしい色をしていて、見るからに『毒』って感じだ。鼻をつくようなツンとした匂いで目まで痛い。
お爺ちゃんが壊した部屋の扉はまだ修理されていないから、簾をかけているだけの入り口から匂いがだだ漏れだ。さっきからどこかで異臭がしていると家人たちが騒がしかったが……こいつが原因だったか。
「いや、貴女こそ何をしているの!?」
「ああ。これですか? いや、董璃さまがどうしても茶会に参加なさるというならいっそのこと毒を……」
「え、毒!? 貴女まさか……お母さまを腹痛にでもして止めようって気じゃないでしょうね?」
毒だと? おいおい、毒をもって毒を制すってやつか? しかし、背に腹は変えられないという言葉もある。文姫なりに考えた末の、苦肉の策というやつなのかもしれない。
「ち、違いますよ。なんてこというんですか! 小紅さまには、私が董璃さまを平気で害するような、ひどい侍女に見えたんですか? そうだとしたらああ悲しい! 文姫は悲しいでございます!」
私の言葉を、すぐさま文姫は大袈裟に否定した。え、違うのか?
「じゃ、じゃあその毒は何のために使うのよ?」
「あ、これですか? えへへ、いっそのこと、この毒で春の茶会のうちに何皇后をやっちゃおうと思いまして。そうすれば秋の茶会なんて──」
「ちょっ! だめよ!? なんて物騒なこと考えてるの! そんなのバレたらそれこそ、お家取り潰しになっちゃうじゃない!!」
だめだ。古代中華の倫理観終わってる。文姫の目も何だか虚ろだし……彼女も相当頭を悩ませてくれたのだろう。
私は文姫の服を掴んでゆさゆさと揺らしながら、ペチペチと頬を叩いて彼女を正気に戻した。
「あいてて……。それで、何かいい案を思いついたんですか? お茶会は明後日ですよ?」
「そう。それがね、いい報告があるの。実はあのお茶会には、私も行くことになっているみたいなの」
「あ! そうだったんですね。すみません。宛て先が董家と書かれていたので気が付きませんでした」
「別にいいわ。私だって、そんな慣習になっているとは知らなかったんですもの」
文姫は申し訳なさそうに言うが、今は正直そんなことどうでもいい。
「それでね。私考えたの。なら、“私”がいなくなればいいんだ……って」
「っえ!? どういうことですか?」
「もうっ、勘が鈍いわね。つまりね──」
私が考えた作戦はこうだ。
当日の朝、私は父と一緒にいつも通りお散歩にでる。途中で疲れた様子を見せれば、お父さまは間違いなく馬車に乗ろうと言い出すだろう。そしたら、一人で乗りたいと言うんだ。そして、お父さまに馬車との競走を提案する。
お父さまは、ああ見えて勝負事が好きだ。それに、脚の速さにも自信があるだろう。
間違いなく私の提案に乗ってくるはず。
そこで私が道を逸れて消えれば、間違いなく大騒ぎになる。お母さまだって茶会どころじゃない。
お父さまの面目は潰れるが、お母さまを救うためだ。ここは軽く目を瞑ってもらうとしよう。
「こんなところかな?」
「ん〜〜そんなに上手くいきますかね。もし阿樂さまが勝負に乗らず、一緒に馬車に乗ってきたらどうするんです?」
私の話を聞いて、文姫は頭を捻っている。
「その時は、屋敷についてから必死に隠れんぼするしかないわ。でも、それだと蔡邕が邪魔になるわね。あの人、どこにいても私を探し出せるから……」
「ああ、そうなんですよね。父はなぜか昔から勘が働くというか……。探し物は得意なんです」
私がもっと小さかった頃、お屋敷の奥にある堀に落ちて登れなくなったことがあった。その時は家人もほとんどいなくて、誰も私が堀に落ちたことにさえ気が付かなかった。とても怖かったけれど、すぐに蔡邕が飛んできて、私を堀から出してくれたんだ。あの時、彼はどこから見ていたんだろう?
「さあ、考えていても仕方がないわ。もっと計画を詰めることにする。まずは下見よ。一度は馬車に乗っておかなきゃ。それに、肝心の明後日馬車がそこに居なかったら困るもの。御者に何か握らせて、同じ時間にそこで待っていてもらうことにするわ。文姫、貴女は──」
「私は父に頼み込んで、何とかして屋敷から離します」
「それでいいわ。万が一があっちゃ困るからね。頼んだわよ」
「はい!」
こうして作戦は出来上がった。あとは、うまくやれるかどうかだ。
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