#14 申してみよ
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「し、失礼しました陛下! このような所でお会いするとは思ってもおらず、大変な物言いを……」
「ほほ。よいよい、あまり畏るな。さっきの話し方のほうが其方の性格にあっておるぞ? 戻してはどうじゃ?」
劉辯はさも気にしないと言うように手をひらひらと払った。
いやいやいや、無理むりむり! だって陛下だよ?
下手を打ったらお母さまたちを救うどころか、不敬罪で先に私が処刑台送りになるわ!
「い、いいえ。それはさすがに……」
「ほう。なぜじゃ?」
「そ、それは……至上の方々に敬意を払うのは臣下の当然の義務でございます。それに、周囲の目もございます。もし誰かに見られたら、董家の命運にまで関わります」
そう答えると、劉辯はふむと一つ呟いて頭を捻った。
「そうか、つまり──余だと気がつかれなければよいのだな?」
「……え?」
言うが早いか、劉辯は御髪を振り解くと、ひらりと舞うように一つ宙返りした。
するとどうだろう。彼の衣服は白色の簡素なものへと早変わりし、その顔立ちさえも変わってしまった。先ほどまでは色白に薄桃の頬をした見るからに貴族子女然としていた風貌だったのに、今の彼の肌は浅黒く、鍛えられた身体つきは、どこか武家の跡取りのようにも見える。
「これでどうじゃ?」
嬉しそうにその姿を見せた彼は、年相応の無邪気な笑みをこちらに向けた。
「ええ!? いったいどうやったんですか!?」
「ほほ、驚いたようじゃな。なに、王家に伝わる護身の仙術の一つ──『変化の術』じゃ。これで周囲からは余が余であるとは思われまい」
ふふんと胸を逸らして得意げに語る。“仙術”──そんなものがあるのか。
「護身の仙術……ですか」
「ほほ、宮中も穏やかな者ばかりではないからのう。王たるものにも苦労はあるのじゃ」
「で、ですが口調がそんな感じだと怪しさ全開です!」
「ほほ、それは確かに……わはは、じゃあこれでよい……いいか?」
私の指摘に劉辯は口調を直してみせるが、やっぱり溢れ出る威厳は隠せていない。いや、最初全然気にしてなかった私が言うのも変な話だけれど!
「そんなことより。さあ董白、いったい何を困っている? 言えば、余が助けてやろう」
「あ……いや、ええと」
私は思わず口を閉じた。
だって、そうだろう。あんたの母親が私の母親を殺すかもしれないから、絶対に会わせたくない──だなんて、言えるはずない。それに、その根拠だって、私が夢で見た未来を書き連ねた怪しい竹簡だけなのだ。まさかあれをみせる訳にもいかないし、それこそ、反逆罪にだって問われかねない。
「どうした? 早く申せ。人の命に関わるのだろう?」
「あの、そうなんですが……内容が内容と言いますか……その、えっと」
歯切れの悪い私の口ぶりに、劉辯は何かを察したようだ。
「わかった。まだ会ったばかりだから余のことが信用できないのだな?」
「い、いいえ!? そ、そのようなことでは……」
「よい。まずは、その口調を改めろ」
「あ……うん。別に、信用できないと思ってる訳じゃない。でも貴方に話していい内容じゃないの」
私は考えた末にそう答える。劉辯はしばらくじっと私を見つめていたが、やがて提案する。
「そうか、なら。さっき何をしようとしていた? 助けるのではなく、単純に手伝いをしよう。それならば、其方も事情を話す必要はないだろう」
劉辯は相変わらず笑みを浮かべてこちらを見つめている。さっきは同じ年くらいに思えたのに、落ち着いた様子からはすでに王の気品すら感じとれて、とても五歳かそこらの子供には思えない。まぁ、私も中身は高校生だが……。
「えっと、そこに部屋があるでしょ。そこからある書状を盗みたいの」
「なに? 盗むのか?」
私の言葉に劉辯は眉根を寄せた。
「あ、違うの。あの部屋にいるのはさっき話した私のお爺ちゃんとお母さまで、私は二人を止めなきゃならないの」
「ほう。誰かが処罰を受けたりでもするのか……? あ、いや。すまない。事情は聞かない約束だったな」
言いかけた劉辯だったけど、すぐに言葉を引っ込めた。
「では、潜入だな。そういうのなら、余は得意だぞ」
ニヤリと微笑むその表情はとても楽しそうに見えた。
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