#12 お返事
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「じゃあ、早速お返事を書き直しましょう。と、言いたいところだけれど……」
私たちはいま、行政宮の一室にいる。手元には、滲んだ手紙。
「文姫、これ読める? 私は無理」
まぁ、滲んでなくても読めなかったとは思うが、それでも識別困難なレベルで手紙の文字は乱れていた。
「あ〜。ええと、そうですねぇ。ん〜〜」
しばらく頭を捻っていた文姫だったが、やがて匙を投げた。
「無理ですね」
「っておいっ! まじかよ! じゃあなんて書いたのか文官に聞きにいくか」
それを横で聞いていた華雄は呆れ顔で提案する。
「いいえ、その必要はないわ。どうせ中身も書き換えないといけないのですから」
「勝手に書き換えて大丈夫かよ、お嬢?」
「大丈夫よ」
(むしろ最初からそれが狙いですから)
「それより、華雄は箱を用意なさい。あんまりごつごつしいのはダメよ? 手紙はこちらで仕上げるわ」
「あ〜なんか難しいな。わかったよ。じゃ、そっちはくれぐれも頼んだぜ?」
「誰に言ってるんです? ほら、いいからいいから」
促されるまま、華雄は部屋を出ていった。
「よし、行ったわ。文姫、いいわね。角を立てないようにお断りするのよ」
「ええ!? いいんですか!? 勝手に断ってしまって……」
「何言ってるの。いいに決まってるじゃない。このままお母さまが春のお茶会に出ることになってしまったら、秋の茶会で毒を飲まされるのよ?」
「違うんです。私が言ってるのは、赤麗さまご自身が既にご出席なさるおつもりだった場合、このお手紙でどうお返事しても、その日赤麗さまはお茶会に顔を出されるのでは?」
「……あ。それもそうね」
盲点だった。
文姫の言うとおりだ。ということは、この手紙で断った上で、当日お母さまを足止めする必要があるということだ。というか、そもそもいつ茶会があるんだ? どちらかといえば、この返事の手紙よりも誘いの手紙の方が重要ではないか。まずはそれを手に入れなければ。
「わかったわ。私はお誘いの手紙を探してくる。文姫は、適当に断りのお返事書いといて! くれぐれも風流に、角を立てないように、ね!」
「ええ!? ふ、風流!? な、なんて書きましょう!?」
「そんなの適当でいいわよ! 春はあけぼの──みたいな?」
「なんですかそれ!?」
古代中国じゃ“枕草子”は通じなかったか……まあいい、頼んだぞ文姫!
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文姫と別れた私は、忍び足で行政宮を探索する。いや、別に悪いことはしてないんだけど、なんとなく。
お母さまたちは執務室にいた。お爺ちゃんの声が廊下まで響いていたからすぐにわかった。
部屋をのぞけば、竹簡が山のように積まれた机の前で、お母さまが一つ一つお爺ちゃんに内容を報告しているようだ。
ふむ。ここに入ってしまうとなかなか出られそうにないな。
私はゆっくりと部屋を迂回して壁際に隠れる。
さて、茶会とはいえ霊帝さまもやってくる公的な催しだ。おそらくは書面もしっかりしたものだろう。
と、いうことはこの執務室にある可能性が高いが……あ、待て待て。そういえば私文字が読めないんだった。そもそもその手紙をどうやって見つければ──
「其方、ここで何をしている」
悩んでいた私の後ろから声がかかる。
「は、はい! すみませんでしたぁ!! ……って、え?」
反射的に振り向いて頭を下げた私だったが、すぐに先ほどの声が幼い男のものであったことに気がつく。
顔をあげれば、そこにいたのは子供──って言っても、私もだけれど。同じ年くらいの男の子がそこに立っていた。
「なんじゃ。変わった服装、それに、面白い髪と目の色をしておるの」
紫の衣に身を包んだ裕福そうな出立をしたその子は、私の全身を観察しながら興味深そうにつぶやいた。
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