#11 礼儀作法って難しい
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「じゃ、私が読みます!」
文姫がはいはいと手をあげる。
「そうね! 華雄、貸しなさい」
私は再度圧を出しながら命令するが、流石は董家筆頭の猛将と言うべきか、華雄は首をぶんぶん振ってその威圧に耐えた。
「だ、だめだだめだ! なんて書いてあるかはわからねぇけど、これは王宮に持っていく大事な手紙。それをお嬢たちみてぇなガキに読ませたってんじゃ、俺の信用に関わる!」
威圧がだめならむうと膨れてみせるが、それでも華雄は譲らない。
「それじゃあ、華雄。こうしましょう。これなら貴方も納得するわ」
埒が開かないので、私は一つ策を弄すことにした。
そんなに見せたくないって言うなら、見せたくなるようにしてあげようじゃない。
「な、なんだよ。もう馬も呼ばせてあるし、そんなに時間はやれねぇぞ?」
華雄は勘弁してくれというふうにこちらを見た。
「王宮へのお返事ですもの、特に礼儀を尽くすことが必要よね」
私が指を立てて問えば、華雄は少し首を傾げつつも肯定する。
「ああ。よくわからねぇが、きっとそうなんだろうな」
「その返事は、誰が用意したの?」
「あ? ああ。これは長安から連れてきた文官が……」
「ふぅん……。その文官、私よりも礼儀作法に詳しいのかしらね?」
「……どういう意味だ?」
少し不安はあったけれど、どうやら上手く食いついたみたい。
「そのままの意味よ? 王宮に出しても恥ずかしくない便りになっているか心配してあげてるの」
「ば、馬鹿にしてんのか? 長安だって立派な都会だぞ!? あそこは先の都だったわけだし……」
「……でも、それはもう200年近く前のお話。いまは“都”じゃない」
「う……」
私の言葉に、華雄は怯む。
そうだ、私はこの都──洛陽に物心ついた時から滞在しているのだ。長安はここから400キロほど西。都の事情に疎いのではと言われてしまえば、華雄は不安にならざるを得ない。
「で、出鱈目を言うなよお嬢。それに、いくら頭領の孫だからってお嬢みたいなガキに王宮の礼儀作法なんかがわかるってのかよ」
「あら、私を疑っているの? 華雄──」
私は目を光らせて華雄を睨む。
その眼光を受けて華雄は一歩退がった。なら、もうひと押し。
「じゃあ一つ教えてあげる。高貴な方々に出す文は、普通そんな風に“裸”で持って行ったりしないわ。よっぽど急ぎでもない限りね。だって、少し考えてみたらわかるわ。それって、とっても失礼だもの」
私の言葉に、華雄は手紙に目をやって口をぱくぱくさせている。
「その感じだと、おそらく内容も……そうね。風流な茶会のお誘いですもの、“季節の挨拶”は絶対に必要よね。まさか、お誘いどうもありがとう行きますみたいな味気ない内容ではないと思いたいけれど……」
ごくりと誰かが唾を飲み込む音が聞こえた。後ろでは、なぜか門兵も姿勢を正したような気がする。
「それに、紙の質も大切だと思うの。本当に、そんな藁紙でいいのかしら? ほら、貴方の汗でもう文字が──」
「ああもう!! わかった、わかったよお嬢」
そこまで言うと、華雄はもう降参だと言うように両手を上げた。
「わかったんならよろしい。ほら、書き直してあげるから出しなさい」
その言葉で、華雄はとうとう手紙をこちらに差し出した。
「あちゃ〜、だいぶ滲んじゃったわね」
「ったく、誰のせいだよ」
「あら? 貴方の汗よ?」
「……それは、そうだけどよう」
華雄はぐうの音も出ないでしょんぼりとしていたが、文姫がすかさずフォローしている。
「華雄さまは何も悪くないです。ただ、相手が悪かったのですよ。相手の“性格”が……」
「文姫、お前も大変だな……」
何やらぶつぶつ言いながら二人で肩を寄せ合っているが……とりあえず、聞かなかったことにしておこう。
「──では文姫」
「は、はいぃ!」
呼びかけると、文姫が焦ったように姿勢を正して応じる。
「……どうしてそんなに背筋が伸びるの? そんなことより、さぁ、一度中に入りましょう。新しいお返事を用意するわよ。華雄も、ついてらっしゃい」
「わかりました!」
「っちぇ。わかったよう」
こうして私たちは行政宮の中へと入って行った。
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