変わった世界
「憎い…憎い…憎い!」
勝樹は一心不乱に壁に頭をぶつけ続ける。
何度ぶつけても、憎しみは消えなかった。
額が裂け、血が頬を伝い、床を赤く濡らしていく。
それでも止められない。
やがて、勝樹の身体は糸が切れたように崩れ落ちた。
目を覚ますたびに謁見の間へ戻され、意志とは無関係に霊体の元へ送り込まれる。
あの霊体に会った瞬間。
腕や膝が本来曲がるはずのない方向に折れ、首が捩じ切られた。
抵抗する暇すらなかった。
一体何回これを繰り返せばいいのだろう。
終わりの見えない死。
「私の褒美は楽しんでる?言い忘れてたけど、あれを倒さない限り、現世には戻れないから。」
絶望した。
霊体には物理がほとんど通らない。
魔法が有効なのだが、勝樹はスキル、加護を持っておらず、魔法を使うことも出来ない。
唯一、効く可能性があるとしたら出来たばかりのスクロールだが、今は手元にない。
「待ってくれ!…道具を取りに行かせてくれ。」
彼女は答えず、再び目を閉じた。
肯定と受け取った勝樹は急いで錬金区に戻り、スクロールを数枚取り出す。
自ら魔法陣の中に入り霊体と対峙する。
現れた瞬間、2枚のスクロールを同時に使う。
1枚火を出現させ、もう1枚は風。
巻き起こった風が火を煽り火力を増幅させる。
「アァァ!」
悲鳴を上げたことにより勝樹は手応えを感じたが、すぐに後悔する事になる。
霊体の姿が掻き消える。
「え?」
気づいた時には、目の前にいた。
慌てて火や風、電気のスクロールで迎撃するも、間に合わず、脳を直接掴まれるような激痛が走った。
目や鼻、耳から血を流しそのまま意識がなくなった。
何度目かの目覚め。
勝樹は直に霊体を倒せなかった理由を探る。
魔法は有効だった。
問題は倒しきれなかったこと。
単純に火力が足りない。
加えて霊体の弱点である光魔法を使ってなかった事。
再び錬金区に行く。
スクロールの改良をしなければならない。
部屋に入り、書物を開こうとするが手が震えて上手く開けない。
呼吸が乱れ、切迫感と不安、恐怖が勝樹を押しつぶそうとしていた。
勝樹はナイフを手に取ると、左手に突き刺した。
灼熱の痛み、それに耐えるために息をとめる。
流れる血。
痛みに慣れ始めてようやく頭がスッキリした。
「……霊体を倒すことだけ考えろ。」
光魔法には手を出していない。
手を出していない魔法を今習得するのは時間がかかりすぎる。
ならば、火。
火力を上げ、風と火を合わせて炎に。
そこに突破口を作るしかない。
勝樹は書物をどけて、自分の頭の中にある知識を元に、術式を書き込んでいく。
実験はせず、いきなりの本番。
失敗すれば、また死ぬだけだ。
完成した三枚のスクロールを握り締め、勝樹は再び謁見の間へ戻った。
勝樹は意を決して、霊体と対峙した。
何度も自分を殺した相手を確認次第、一枚のスクロールを起動させた。
次の瞬間。
世界が白く染まった。
視界だけではない。
身体も、感覚も、思考すらも。
すべてが白に呑み込まれていく。
気づけば謁見の間。
「また死んだ。」
「そうね、残念だけどもう帰っていいよ。」
目の前に現世に戻るための扉があった。
勝樹は理解できず、掠れた声を漏らした。
「なんで?」
自分は死んだはずだ。
失敗のはずだ。
「自分ごと吹き飛ばしたのよ。」
霊体との戦いは制したが、自作のスクロールは失敗だった。




