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ブラッドアンドハント  作者: アルミさん
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変わった世界

勝樹は先ほど作った赤い液体を筆に染み込ませ、紙の上へゆっくりと線を引いた。

右手には錬金術書。

左手には、スクロールの製法が記された古びた書物。

二冊を見比べながら、魔力回路の模写を進めていく。

最初から効率は求めていない。

回路さえ形になれば、あとはそれにふさわしい素材へ置き換えればいい。

失敗を前提にしているからこそ、まずは何の変哲もない紙で試す。

赤い液体が紙の上を走り、文字と魔法陣を描き出していく。

神経を研ぎ澄ませる。

一本でも線を乱せば、全てが台無しになるような気がした。

だが――何も起きない。

紙はただ赤く汚れていくだけだった。

机の周囲には、失敗した紙が何枚も散乱している。

1度、天井をみてからため息をつく。

凝った首をほぐしながら、ノートを開く。

そこには、自分が思いつくまま書き殴った術式の案や構造図、錬金術が並んでいる。

使えそうなものはないか。

別の発想へ繋がるものはないか。

何度も見返す。

しかし、何の成果を上げられず数日が経ってしまった。

行き詰まり、再び古城に踏み入れた。

謁見の間に落ちている槍を握り、魔法陣へと足を踏み入れた。

転送先で待っていたのは、紫色の肌をしたオークだった。

分厚い筋肉に覆われた巨体。

その手には、大剣が握られている。

1年前はゴブリンだったが、今はオークが相手になっていた。

ゴブリンと違い、オークは大人の身長で知能もある。

ましてやこのオークは異常なまでの再生能力があり、武を嗜んでいる。

今の勝樹は恐怖が殆ど無い。

この古城では死んでも生き返る。

故に何百回も死んでいた。

勝樹は槍を構え、牽制。

オークは低く唸り、勝樹に向けて剣を持ち上げた。

勝樹は半歩だけ横へずれる。

次の瞬間、轟音と共に剣が床へ叩きつけられた。

石床が砕け、白い粉塵が舞い上がる。

続く二撃目。

勝樹は槍の柄で刃を受け流し、そのまま穂先を滑らせるようにオークの腕を裂いた。

肉が裂け、血が噴き出す。

だが、傷はすぐに塞がり始めた。

傷を負っても、前へ出る。

痛みなど存在しないかのように、再び剣を振るう。

再び柄で受け流しながら勝樹は一歩踏み込み、槍の穂先を脇腹へ突き入れた。

傷口から赤黒い血があふれ出る。

オークは顔を歪め、反射的に剣を横薙ぎに振った。

勝樹はその場で身を沈め、刃の下を滑るように抜ける。

肉が盛り上がり裂け目が塞がる。

勝樹は槍を握り直し肩、膝、脇腹へと突く。

一歩後ろに下がり、与えた傷が塞がる。

オーク、勝樹両者は仕切り直しを行う。

今度は勝樹は自ら踏み込んだ。

槍の穂先がオークの喉元へ閃く。

相手が仰け反った刹那、今度は柄尻で顎を打ち上げる。

巨体が崩れ、膝が落ちる。

そこへ追撃。

突き、突き、さらに突き。

槍が何度も肉体を貫く。

普通のオークなら、とっくに絶命している傷だった。

だが、この怪物は死なない。

再生しながら、なお剣を振るう。

勝樹は攻撃を受け流し、すり抜けるように槍を突き続けた。

長い戦いだったが何とか勝ちを掴んだ。

全身から汗を流し、床に膝をついて息を整える。

「何かつかめたか?」

城の主が気だるそうに見下ろしていた。

「いや。」

何も掴めていない。

気晴らしとしては苛烈だったが、何も変わらない。

「…小僧の答えは今ではなく古にある。」

彼女はそう言い残し眠りにつく。

「今ではなく古…」

(いにしえ)とは何か。

何を言っているのか分からない。

朝が来て、仕事をして、帰る。

そんな日々の中で、一つだけ小さな変化があった。

育てていた植物が、芽を伸ばしていたのだ。

本当に些細な成果。

だが、何も進まなかった数日に比べれば、それは確かな前進だった。




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