変わった世界
巨大な古城。
激戦が行われた跡、城壁も床も砕け、かつて栄華を誇ったであろう城は、見るも無残な姿。
決して太陽は昇らず、地球でみる月より大きな月が存在する。
そんな巨大な古城にある錬金区と呼ばれる錬金術を行うための区画がある。
魔物が現れてから1年。
銃の取得だけではなく、錬金術をここで学んでいた。
錬金術の本を読み漁る日々。
だが実際に錬金術を行ったことは殆ど無い。
錬金術とは魔法の一種であり、科学とは違う。
スキル、加護を持たない彼に魔力は無い。
どれほど知識を得ても、彼の体には肝心の魔力がない。
理解しているのに、動かせない。
その現実だけが、冷たい石壁のように彼の前に立ちはだかっていた。
倉庫にあるものを調べてみると骨や鉱石など貴重な素材があったが、あくまでも素材でありそのまま使うことはできない。
唯一出来そうな物と言えばポーションだが。
「やっぱり駄目か。」
植木鉢には枯れた植物。
太陽が昇らないこの場所では植物が育たなかった。
現世で植えても結果は同じ。
これはあくまで想像だが、魔力の問題だろう。
現世では魔力がなく、古城では太陽が無い。
その為、この植物は育たない。
結局魔力だ。
魔力を得るために方法を考えてみて、勝樹には一つだけというか、今の彼にはこれしか思い浮かばなかった。
「血は命の象徴」
レイナが口にしたあの言葉。
そして、個人が使う必要は無い。
必要な物を必要な所に流す。
何処かでそのエネルギーを調達して、流す回路を造る。
錬金区の地下へ向かった。
そこには、血から魔力を抽出するための巨大な装置が眠っている。
勝樹が錬金術を行えなかった理由の2つ目が錬金区そのものに魔力が流れていなかったこと。
高度な錬金術を行うためにはそれなりの設備が必要だ。
錬金区には全てが揃っているが、それを動かす魔力がない。
魔力を作り出し区画全体に魔力を流す心臓部が停止していた。
魔力さえ循環していれば魔力の無い勝樹でも動かせる。
残念ながら、目の前にある装置では心臓部を動かすほどの出力はない。
機会があればそれを動かしたいとは思ってはいるが、今は不可能だろう。
勝樹は2リットルの血液を装置の中に流し込む。
血液が流れ込んだ瞬間、装置は低い唸り声のような音を上げた。
金属同士が擦れ合う甲高い音が地下に響き、内部の歯車がゆっくりと回り始める。
どこからともなく、まるで生き物の様に脈打つような鼓動が聞こえた。
赤い液体は管の中を走り、暗い装置の奥で不規則な光が瞬いた。
それは起動というより、眠っていた何かが目を覚ます音に近かった。
血液から魔力を抽出しているのだろう。
しばらくすると別の出口から赤い液体が出てくる。
それを別のペットボトルに入れる。
2リットルの血液から、魔力を抽出した500ミリリットルの液体を得られた。
再び現世に戻り実験を行う。
問題が魔力不足なら、この液体をかければ現世でも植物は育つはずだ。
現世に帰るには謁見の間にある扉からしか帰れない。
いつもなら玉座に座り居眠りをしている彼女は半目を空けていた。
「血を使ったのね。血液を集める役目を忘れたの?」
怒っている様な口調ではないように感じるが、無表情なので判断に困る。
「忘れてないよ。血を集めるには俺は力不足だ。だから力を得るためにいろいろしないといけない。近日中に借りた分の血は持ってくるよ。」
彼女の目は閉じられ、再び眠る。
勝樹は足早に扉を開けて現世に戻った。
庭には植木鉢があり、そこに植物の種が植えられている。
赤い液体を半分ほどかけ、育ってくれるように願う。
「これでうまくいけばいいけど。」
勝樹は自室に戻ると次の作業に移る。
魔力を流す回路を造ること。
これはスクロールというアイテムを参考にしてみた。
スクロールとは紙に魔法陣や文字を描いて魔法を封じ込めてあり、必要に応じて使用することができるアイテム。
うまくいけば魔力の出力制御や流れ道などもできるだろう。
魔力を持たない勝樹にはここが鬼門だ。
これが成功するか失敗するかで、魔力のない勝樹でも魔法が使えるかどうかが決まる。
机の上に置かれたノートを一度手に取る。
1年間、錬金術の勉強をしながら頭に浮かんだアイデアや使いたいことのリストをまとめたノート。
夢に見たこれを使う日を現実にするために、気合を入れた。




