423.春希が在るべき場所
踵を返し駅前に戻るにつれ、やけに周囲が騒めいていく。
原因は一目瞭然。
大きなトラックが駅前の広場に停まり、側面が開かれている。
その中にはスピーカーやらライトが配置されており、ステージそのもの。
さらに上部には〝ティンクル〟の文字とロゴ。
周囲からは「ゲリラライブ!?」「再起動!?」「何があるの!?」といった期待の声が聞こえてくる。
だがそんな周囲は、春希に気付いていない。
なんだかそのことが滑稽で、隼人は笑ってしまう。
当の春希はどう反応していいかわからないといった、困り顔で呟いた。
「隼人が付き合って欲しかったの、これ? ふぅん……あの子、1人でやるのかな?」
「このゲリラライブ、俺が頼んだんだ」
「へ?」
春希の口から素っ頓狂な声が上がる。隼人は苦笑しつつ、ほどよくステージが見えるところで足を止め、スマホでメッセージを送った。
そうこうしている間にも、どんどん人が集まっている。
ご丁寧にも道路まで封鎖し、やってくる人たちを整理をしているお揃いのジャンパーを着ている人たちのなかに、見知った顔を見つけた。隼人がスタッフに対して軽く手を上げると、その人に気付いた春希が困惑した声で言う。
「何で白泉先輩がここに……!?」
「人手が足りなさそうだから、他にも伊織やみなもさん、伊佐美さんに高倉先輩もにも手伝ってもらってる。あと生徒会の人や、ドル研の人たちにも」
「どうして……」
「そんなの決まってる」
隼人はそこで言い切った後、ステージの方へと視線を向けた。
まだ何か言いたそうな春希も、それに倣う。
するとややあって、ステージ衣装に身を包んだ茉莉が現れた。
茉莉1人だけということで、集まった人たちからどよめきが上がる。
なんとも当惑した空気の中、茉莉は威風堂々マイクを片手で掲げた。
すると辺りに静寂が広がっていく。
アーリーサマーライブの一件を経て以来、貫録を滲ませつつある茉莉が高らかに謳う。
『今日はティンクルの活動再開を祝ってのゲリラライブッ! てことで、力強い人たちが応援に駆け付けてもらいましたっ!』
そして追加でステージに上がってきた人たちに、周囲から快哉が上がる。
春希だって信じられないと、目を大きくしながら思わず驚愕の声を漏らす。
「え、嘘っ!?」
現れたのは茉莉とは別種の、バックダンサー然とした衣装を着たMOMO、愛梨、逢地羽衣。それだけでも豪華絢爛なメンバーだというのに、かなり長身の美少女もいる。
誰もが知る人気モデルの3人にも負けずとも劣らない要望を誇る謎の美少女に、この場の誰も「え、誰!?」「背、高っ、スタイルすごっ」「モデル仲間!?」といった驚きと期待の囁きが焦れるように広がっていく。
そのことをすぐさま肌で感じ取った茉莉は、皆を煽るように叫ぶ。
『この子が誰か知りたいかーっ!? 聞いて驚け、大人気カリスマモデルMOMOの弟、KAZUだーっ、私も信じられねーっ!』
『どうぞ、よろしくお願いします』
茉莉がすかさず女装した一輝にマイクを向けると、そこから発せられたどこからどう聞いても男の声に、この場が一瞬静まり返った後、絹を裂くような黄色い声と戸惑い交じりの歓喜の声が上がる。
隼人もまた、愉快気な声を上げた。
「ははっ、マジかよ! 一輝、本当にやりやがった!」
「てか海童、ほんと何やってんのさ!?」
「見た目だけだと、違和感ないのすごいよな」
「……なんか、おいしいところもってかれたみたい」
どこか悔しそうに呟く春希に、隼人はおかしそうに笑う。
ステージでは茉莉が「KAZUさんめっちゃ似合ってるんですけど!?」と声を上げると、一輝の代わりに百花が「子供の頃、うちの服とか着せてた。超似合ってた」と答えると、今度は愛梨が「ちょっ、写真とかあります!? めっちゃ見たいんですけど!」といったトークで盛り上がっている。
期待が高まる中、茉莉は続けて重大な発表をした。
『次は新メンバーの紹介、アーリーサマーライブでの活躍から、満を持しての正式加入だーっ!』
『さ、沙紀ですっ』
茉莉と似たステージ衣装で手を振りながら現れた沙紀に、一部の熱心なファンから強烈な歓喜の声が上がり、まだティンクルのことをよく知らない人たちからは、一体誰なんだと戸惑う声が上がる。
春希もまた、狼狽えたような声を零す。
「沙紀ちゃんどうして……?」
隼人はそれに対し、何も答えず黙ったまま苦笑い。
そんな中、間髪入れずに曲が流れ出す。
ティンクルのデビュー曲だ。
茉莉が唄う。
『――――♪』
豪華な人気モデルをバックダンサーに据えたパフォーマンスが始まるや否や、この場から騒めきを奪う。
そして沙紀に対する不満や戸惑いといったものは、すぐさま賞賛と歓声に塗り替えられていく。
茉莉の圧倒的な歌唱力に、沙紀のダンスの豊かな表現力。
たちまちこの場に居る人たち全てを魅了する。
さらに騒ぎに引きつけられて、人波がどんどん膨れ上がっていく。
ステージでは茉莉と沙紀が相乗効果でそれぞれの良さを引き出され、圧巻だ。
バックダンサーの4人もいい塩梅に茉莉と沙紀を演出している。
既存のファンだけじゃなく、今まで彼女たちを知らなかった人たちも「曲は知ってたけど生で見ると迫力ヤバい」「ダンスえぐくね!?」「推せる!」といった声が聞こえてくる。どうやら、新規にファンを獲得しているようだ。それだけの迫力があった。
この場の空気がどんどんヒートアップしていく。
しかし誰もがどことなく、不満ないし物足りなさを感じる空気が流れていた。
その理由は歴然。
茉莉と沙紀が織りなすパフォーマンスには、隼人の素人目にも、あからさまに欠けているものがすぐにわかった。
沙紀のダンスには、次に繋げて盛り上げるべきものがバックダンサーたちで誤魔化されているし、茉莉の方は露骨に無言のパートがある。
その隙間を埋めるべき相手がいるというのがわかる、あからさまな表現。
観客の間に、ある期待が高まっていく。
このステージが、何を訴えているのかは明白だった。
――春希、来なよ!





















