421.確認作業
四方を山に囲まれて、見上げた空はまるで額縁に入っているかのような、狭い世界。
そんな過疎の進む片田舎、月野瀬。
あの日、夏の終わりの夕暮れ。
はやとはどうしようもない別れを前に、無力感に打ちひしがれたことがある。
あの頃は子供で、状況に流されるしかなかった。
じゃあ今は違うかと言われれば、容易にそうじゃないと言い切れない。
成長して、また都会で様々ものに触れて、色んな物事がみえるようになってくると、自分にできることとできないことが見えてくる。
そんな中、自分ができることを見定め、進路を決めるのだろう。
隼人たちは、今そんな岐路に立っていた。
幸いにも隼人がやろうとしていることは、ティンクルやMOMOの人気を作り出した、確かな審美眼をもつプロデューサー清司からも太鼓判を貰っている。
進むべき道を定めた。
後はひたすらに駆け抜けていくだけ。
そこに迷いはない。
しかしその前に、するべきことができた。
だがそれは、とても難しいことだ。
ここのところ隼人は、自分ができることの限界を痛感している。
隼人の1人の力なんて、たかが知れているのだ。
なら足りない部分は、誰かから借りればいい。
今はもう、頼りになる友達がたくさんいるのだから。
そして隼人が皆に連絡し、とある作戦を立ててから数日後。
今年の夏はしぶといらしく、残暑が厳しい日の昼休み、秘密基地。
いつものように皆でお昼を囲むも、春希がどこか不満げに唇を尖らせた。
「最近ボクだけのけものにして、何か裏で企んでない?」
当たらずとも遠からず。
隼人は皆と顔を見合わせた後、曖昧な笑みで応える。
「んなことねぇよ」
「いやだって今、思いっきり皆とアイコンタクト取ってたでしょ」
「ところで春希、今日の放課後空いてるか? ちょっと付き合って欲しいんだ」
「うわ、露骨な話ずらし」
「はははっ」
「いや、はははじゃなくて! まぁ空いてるけどさ」
「じゃあ、決まり」
そこで無理やり話を打ち切ると春希は「はぁ」と。これ見よがしに大きなため息を吐いた。
◇
放課後になると、隼人は一輝と伊織、みなもに「後はよろしく」と言って、それぞれから「任せて」「また後でな」「はい!」といった返事を聞いてから春希のクラスへ向かう。
春希は自分の教室の席でクラスメイトに囲まれ、話を振られているようだった。
こうして傍から見れば、どこにでもある女子高生たちの日常といった光景だろう。
しかしクラスメイトたちから振られる話題は、どこそこの撮影で着ていたブランドの服がどうこう、いつぞや共演していた相手が自分の推しのアイドルで羨ましいとか、一般人のそれとはかけ離れている。しかも廊下にはアイドル研究会の面々がいるからなおさら。
隼人は彼らに曖昧な返事をしている春希に、苦笑しながら手を上げ名前を呼ぶ。
「春希」
するとこちらに気付いた春希は周りの人に断りを入れた後、傍に駆け寄ってくる。
「おまたせ。って、隼人だけ?」
「あぁ」
「ぶぅん」
春希は意外そうにしつつも鼻を鳴らし、それ以上追及してこない。
そして隣を歩いてくるのを確認してから、隼人はさり気なく訊ねた。
「さっきみたいに芸能界絡みのこと、話しかけられるのか?」
「まぁね。なんだかんだ珍しい世界のことだし、気になる人も多いみたい」
「それもそうだな。一輝から用意されていた衣装のサイズが合わなくて焦った話とか、ヘルプで入った現場の勝手がわからなくて主役の人の位置に間違って入って冷や汗をかいたこととか、面白おかしく聞かせてもらってるし」
すると春希は目を瞬かせてから、少し驚いたような声を上げる。
「へぇ、海童ってそんなこと話すんだ」
「よく話すよ、半ば愚痴って感じだけど。春希にもそういうのないのか?」
「うーん、どうだろ……」
答える気がないのか、春希はクラスメイトの時と同じようにはぐらかす。
隼人もまた、それ以上何も言わない。
まだまだ人気の多い校舎を、しばし無言で歩く。
そしてやってきたのは1年生のとある教室。
周囲から珍しい人が訪れてきたなと好奇な視線が注がれる中、春希が不思議そうに呟いた。
「ここって……去年のボクたちの教室?」
「あぁ、そういやここで春希と再会したんだよなって。すぐには気付かなかったけどな。もし今の髪型だったら、すぐにわかったかな?」
「あの時は月野瀬に居た頃と、印象が全然違ったからね。けどボクの方は隼人だってすぐわかったよ、だって昔と雰囲気そっくりだったんだもん。ちなみにいつボクだって気付いたの?」
「2人になったとき、バンバン背中叩かれてもしやと思って、放課後に手を引かれて春希の家まで追いかけっこした時に確信したな。完全にノリが昔と同じだったから」
そう言って隼人と春希は懐かしむように、くつくつと肩を揺らす。
「で、隼人が付き合って欲しかったところって、ここだったの?」
「いや、ここには確認しにきた感じかな?」
「確認?」
小首を傾げる春希に、隼人は誤魔化すような笑みを浮かべて促す。
「ま、付いてきて」





















