416.彼女との在り方
お昼を食べた後は、やたらとメルヘンチックな店構えの雑貨店があったので入ってみることにした。
店内には可愛らしいデザインの生活雑貨やオブジェ、ファンシーな家具類に花や動物をモチーフにしたアクセサリーなどが並び、まるで童話の世界さながら。
それらを眺めながらアロマキャンドルの種類が豊富、このマグカップが可愛い、玄関にこのオーナメント飾りたいねといったことを話して盛り上がる。
そしてすぐにあってもいいけど普段使いしないし置き場に困りそう、洗う時に気を遣って手入れが大変、等といった実用性についての話になってしまい、苦笑い。
だがそれも隼人と沙紀らしくて、悪くない。
次にアニメとコミックの専門店に足を向けた。
日本最大級といわれる売り場面積を誇る店だ。
隼人に沙紀も漫画やアニメに対しては、誰かからお勧めされたものを読んだり、世間で話題になっているものを観るといったスタンスである。
いわば受け身で、積極的に新規開拓はあまりしない。
店内にある様々なキャラグッズに圧倒されつつ、自分たちの好きなものが何かを探していく。
隼人の目を惹いたものは、かつて子供の頃にアニメで観たことのあるタイトルのもの。
月野瀬では原作に触れる機会があまりなかったから、という理由が大きい。
ジャンルとしてはアクションが派手な少年誌の冒険活劇、それとスポーツもの。
一方沙紀はといえば、少女漫画に惹かれたようだった。ある意味、納得な流れだ。
姫子は漫画よりドラマを好み、春希の趣向も自分と似ていたので、これまで少女漫画に触れる機会がなかった。
好奇心から試し読みが出来たので手に取ってみるも、思わず赤面してしまうほどの過激なシーンを目にすることになる。それだけじゃなく、男性同士の耽美な絡みのシーンも。
隼人はたまたまカバーの見た目と中身が違って、思ったのと違うなと冗談交じりに話を振るものの、沙紀はどうも反応からこういうものだと内容を分かっていた模様。
ここで隼人がこういうの好きなんだ? と聞いてしまったのが悪かった。
沙紀は拗ねたように頬を膨らませ、不機嫌になってしまう。
またもデリカシーに欠けた言葉と気付くも、後の祭り。
剣呑な空気の中、隼人は必死に機嫌を取るように宥めつつ、なんとか沙紀が一度入ってみたかった喫茶店の名物である堅焼きプリンを奢ることで手打ちにしてもらう。
そうして向かった喫茶店で向かい合い、件のプリンが運ばれて目にした沙紀は一転、目を輝かせた。
スプーンですくうというよりかは、割るといったしっかりしたプリンの感触に驚く。
プリンを口に運ぶと卵が主役といった、素朴だが奥行のある味に、隼人も感嘆の声を上げた。
「んまっ、この味ってどうやって出してんだろ」
「うーん、チーズですかね?」
「かなぁ? お菓子は専門外だからよくわからん」
「ふふっ、私もです」
なんとか機嫌を直した沙紀、ホッと胸を撫で下ろす。
そして美味しくプリンを食べ終えたところで、沙紀が少しバツの悪い顔をして、恥ずかしそうに呟いた。
「なんだか私が癇癪起こして、振り回す形になっちゃいましたね。さっきはあぁ言いましたけど、ここも別に奢りじゃなくていいです」
「いやいや、あれは迂闊なことを言った俺が悪い。だからそのお詫びってことで」
「いえ、アレは私も子供っぽかったと反省してまして。あと特殊なバイトで稼いだあぶく銭分も、さっさと使っちゃおうと思ってますし」
「そういうことなら」
沙紀の気持ちを汲み取り、ここは折れることにする。
しっかり割り勘で支払いを済ませ、喫茶店を後にした。
さて、次はどこへ行こうか。
何か物珍しいものがないかと、キョロキョロ探しながら繁華街を歩く。
すると沙紀が、釘を刺すように喫茶店での話を引き継いだ。
「お兄さん、さっきの漫画ですけど、大抵の女子はああいうの好きなんですからね! わ、私だけが特別だってわけじゃありませんから!」
「わかってるって。そういう需要があるからこその、ああいう供給だし」
「そうですよ!」
「ま、沙紀さんも案外むっつりなところあるんだって思ったけど」
「お、お兄さん!?」
「あははっ」
隼人が揶揄えば、沙紀は真っ赤になって声を上げる。
先ほどとは違う、予定調和のじゃれ合い。
こんなやりとりが心地よい。
そして沙紀は大きなため息を吐いた後、自嘲気味に呟いた。
「はぁ、今日は私の変なところもアピールすることになっちゃいました……」
「俺としては新鮮でよかったけど。それに多少空気が悪くなっても、すぐに元通りになれることもわかったしさ」
「そうですね。これも大きなアピールポイントになったと、前向きに捉え――ぁ」
するとその時、沙紀が足をもつれさせた。
幸いにして手を繋いでいたので、こけることはない。
隼人は足を止めて訊ねた。
「大丈夫、どうかした?」
「どうやら慣れないミュールで、靴擦れをしたみたいでして……」
沙紀が右足をちょんと前で出すと、ストラップの間から赤くなった素肌が見えた。
隼人は顔を顰めながら言う。
「あー、今日は歩き詰めだったしな。ちょっと待ってろ、保護テープ買ってくる」
「……お願いします」
沙紀は一瞬迷った後、了承する。
隼人は通行の邪魔にならないよう、街路樹の傍に移動し沙紀を、駅前のドラッグストアの方へと駆けだした。





















