415.――私たちらしい
他にも店を一通り見て回ると、ちょうどお昼になっていた。
スマホで時刻を確認していた沙紀が、少し控えめに話を切り出す。
「お昼ですけど、実は事務所の人たちにデートするならここって、お勧めしてもらった店がありまして」
しかも既に予約もしてもらっているらしい。
特に断る理由もなく、それにデートに使うような飲食店にも興味があったので、その店に向かうことにする。
スマホの地図アプリを片手に連れてこられたのは、駅からほど近い大通りに面した道から一本脇に入ったところにあるビル内のとある店。
内装は落ち着いた雰囲気のインテリアで、カウンターには様々な種類のお酒のボトルが並んでいる。
夜にはバーになるのだろうか。
かなり大人びた雰囲気の店だ。
そのため高校生が入っていいのかと、及び腰になってしまう。
事実、店内にいるお客も隼人たちより年齢層が高い。
しかし沙紀はといえば、いつもと変わらぬ様子で案内に来た店員に告げる。
「予約した村尾ですけど」
「はい、こちらへどうぞ」
沙紀は堂々とした様子で店員に連れられ席へ向かい、隼人もそれに倣う。
そして椅子に座り、出された水で喉を潤したところで隼人はようやく息を吐き、苦笑しながら感想を述べた。
「なんていうかすごく雰囲気あるけど、オシャレ過ぎて緊張しちゃうな。本当にこういうとこ、俺らみたいな未成年が入っていいのかって」
「私もです。夜は色んなお酒を楽しめるところとも聞いてますので」
「へぇ、そうなんだ。って沙紀さん、普通にしてるように見えたけど」
「まぁ私は舞台慣れしてますんで、度胸だけはあるといいますか」
「あははっ、そりゃ頼もしい」
そんな軽口を叩きながら、メニューを開き目を通す。
どうやらイタリアンを中心にした、創作料理の店のようだ。
隼人は意外そうに呟く。
「あ、結構お手軽な値段なんだな」
「私もそんなに高くないよって聞いてましたけど、思った以上にリーズナブルでびっくりです」
「この雰囲気でこの価格帯なら、リピーターも多そう」
「ですね。ところでお兄さん、どれにするか決まりました?」
「うーん、それが色々あって迷ってる。あれとかすごく気になるんだけど……」
隼人は少し離れた席に運ばれた席を視線で促す。
そこにあるのは、一枚麺のカルボナーラ。
沙紀は目を瞬かせて、弾んだ声を上げた。
「ふふっ、ああいうのってお店じゃないと食べられませんもんね」
「だろ? そういうパフォーマンスめいたものを楽しみたい一方、純粋に味の方と向き合いたい気持ちがせめぎ合っているというか」
「この店を教えてくれた方も、料理が美味しいって太鼓判押してましたね」
「そりゃなおさら迷うな」
隼人と沙紀は困った顔をして笑い合う。
結局『本日のおススメ!』『一番の女子ウケ!』といった煽り文句から、隼人はポークグリルのハニーマスタードソース、沙紀はローストビーフストロガノフに決めて注文する。
ほどなくしてセットのサラダがやってきて、口にした沙紀が機嫌良さそうな声を上げた。
「わ、このシーザーサラダ、本格的ですね」
「確かアンチョビ潰してニンニクや卵黄、オリーブオイルやらチーズを入れて作ったドレッシングに、サラダを絡ませるんんだっけ?」
「かなり手間暇掛かりますよね。家で作るにはなかなか……それに材料費だって」
「けどアンチョビの代わりにベーコンにしたら、本格的に作ってもそれなりに安く作れそうじゃない?」
「あぁ、確かに! 今度挑戦してみるのもいいかもですね」
普段から沙紀と2人で料理しているということもあり、ついつい口にしているものについて語ってしまう。
それは運ばれてきたメインの、ハニーマスタードソースと、ビーフストロガノフについてもそうだった。
互いに一口ずつ小皿に分けて、味見しあいながら話す。
「初めて食べたけど、ハニーマスタードソースってピリッとしてて甘みと酸味があって、お肉とめちゃくちゃ合うな。これって家でも、簡単に作れるかも」
「醤油をちょっぴり足してもいいかもしれませんね。チキンとかにも合うかも」
「確かにアリだな。ビーフストロガノフも初めて食べたけど、濃厚なのに重くないというか、不思議な感じ」
「サワークリームのおかげですかね? これ、家でも再現できるかなぁ」
「ネットで検索するとレシピ出てくるんじゃね。これ、トマト入れても合いそう」
「今度、試してみましょうか」
「あぁ……っていうかさっきから俺たち、家でどう作れるかの話ばっかしてるな」
隼人がふいにそのことに気付き呆れたように口にすると、沙紀もまた目をぱちくりさせた後、可笑しそうに噴き出した。
「あはっ、そうですね。よくよく考えたら料理の味についての感想じゃなく、美味しかったからどう再現するかの話ばかりしています」
「いつものキッチンで似たようなやり取りしてるから、全然違和感なかったし」
「でもそれって私たちらしくて、いいと思いません?」
――私たちらしい。
沙紀の言葉が、隼人の胸にストンと落ちる。
そしていつの間にかどこか気後れしていたこの店で、食事を楽しめていることに気付く。きっとそれは、沙紀が一緒だったおかげだろう。
隼人はおかしそうに相好を崩し、同意した。
「あぁ、そうだな」





















