414.沙紀といえば――
まず最初に向かったのは、駅構内と直結している百貨店。
今まで繁華街に来る時は遊びのためというのがほとんどということもあり、何気にここに来るのは初めてだ。
1階にある名の知れたコスメやジュエリーの店を過ぎ、沙紀に連れてこられたのは上階にあるファッションフロア。
様々なテナントが入っており、隼人でも知っているハイブランドの店がある。
思いっきり女性向けといった場所ということもあり、少しばかり気後れしてしまう。
どこも高級そうなこともあり、なおさら。
沙紀もまた場違い感を覚えているようで、身体を固くしている。
隼人はこの場を和ませるように、思ったことを口にした。
「こういうところ初めてだから、緊張するな」
「わ、私もです。普段はお手軽価格の、ファストファッション系の店しか行きませんし」
「とりあえず、見て回ってくか」
「はい」
そわそわしながら、沙紀と共にフロアを見て回っていく。
様々な種類のデザインに溢れているものの、どの店も格調高いというか、フォーマルな場で使うようなものといった印象だ。
やがて沙紀がふと気になったという感じで訊ねてきた。
「ところでお兄さん、私に着て欲しい服とかってあります?」
意外な質問に、隼人は虚を突かれた顔をして聞き返す。
「え、似合うでなく?」
「はい、そういやお兄さんのそういう好みって、知らないなぁと思いまして」
「そんなの、考えたこともなかったな……」
「じゃあせっかくなんで考えてみてください。ほら、私をお兄さん好みにするチャンスですよ?」
「ははっ、わかった」
沙紀は茶化すような感じで言ってくるものの、その目は真剣だった。
隼人は苦笑しつつ、ぐるりと周囲を見渡して思案する。
果たして自分の好みは何なのだろうか?
これまで沙紀だけでなく、春希にも色々装いをこらした意外な姿を見せられ、ドキリとすることは多々あった。
だがその中で、一番どれがよかったかと問われると難しい。
周りをキョロキョロ見ながら歩いていると、店先のマネキンが着ているある服が目に入り、足を止める。
隼人の視線の先に気付いた沙紀が、訊ねてきた。
「お兄さん、あぁいうのが好みなんですか?」
「好みというか、なんていうか……」
隼人が言葉を濁らせていると、店員と思しきにこにこした女性がやって来て話しかけてくる。
「こちら今年最新のデザインなんですよ。よろしければご試着してみます?」
こうしたところに来るのも初めてなら、話しかけられるのも初めてだ。
沙紀も同じようで答えあぐね、どうすればいいかと困った顔を向けてくる。
それをどう捉えたのか、店員から聞き逃せない言葉が飛び出した。
「彼氏さんも、彼女さんに似合うと思いませんか?」
「い、いや俺は彼氏じゃっ」
「わ、私は今、どうですかって、売り込んでいるところでしてっ!」
「さ、沙紀さん!?」
なんともピントのズレた返事をする沙紀に、店員は目を丸くした後、微笑ましそうに言う。
「あらあら! それならいつもと違う自分をアピールするために、着てみないと!」
「は、はいっ!」
そして沙紀は店員に促されるまま、試着室へ。
1人残された隼人は周囲が女性だらけということもあり、沙紀に早く戻って来てくれと心の中で祈りながら、肩身を狭そうにして待つことしばし。
ややあって試着室から着替えた沙紀が現れた。
「どう、ですか?」
隼人は返事の代わりに「ほぅ」と安心したような息を吐く。
そして言葉を選びながら答えた。
「うん、似合ってるしホッとする、なんていうか俺にとって沙紀さんっていうと、その色の組み合わせというか……」
「紅と白、巫女服と同じ色合わせですからね、これ」
「あはは……」
沙紀が試着したのは意匠が凝らされ、鮮やかで華やかなデザインのセットアップだ。
だが沙紀の指摘通り、上が白で下が紅、どこか巫女服を連想させる色味でもあった。
隼人は乾いた笑みを零しながら、その服が目に留まった理由を正直に話す。
「俺にとって沙紀さんってやっぱり、巫女のイメージが強くてさ。幼い頃からずっとその姿を見てきたから、なんていうか落ち着くというか」
「ま、私も試着した自分を鏡で見た瞬間、しっくりきたので気持ちはわかりますけどね」
「ははっ、沙紀さん本人もか」
顔を見合わせ、くすくすと笑う隼人と沙紀。
ひとしきり笑った後、沙紀が揶揄うように言う。
「うーん、お兄さんが望むのなら、月野瀬に居た頃みたいに巫女服を着てもいいんですけど、さすがにこちらじゃ変ですよね。あ、お兄さん家にいる時の部屋着にするとか!」
「それ、俺が沙紀さんに巫女服を着させてる、変質者になるじゃねーか。なら似たような色合いの部屋着を、それこそ今着てるこの服とかどうだ?」
隼人の提案に沙紀は一瞬同意するかのように目をぱちくりさせるが、すぐさま眉を寄せて手招きし、商品タグを引っ張り見せてきた。
「お兄さん、これ」
「うげ、高っ」
隼人は高校生にとって、おいそれと手が出ない金額を前に目を剥く。
沙紀も苦笑しつつも、続けてランドリーマークを示しながら言う。
「それだけじゃなく、お洗濯にも相当気を遣わなきゃで、手間ですし」
「あ、こりゃめんどくさそうだ」
「普段使いは無理ですね」
「毎回クリーニングってのもなぁ」
「ふふっ、そうですよね」
隼人と沙紀は実用性の面を話題に上げ、おかしそうに笑った。





















