413.プレゼンという名のデート
週末、沙紀とのデート当日。
待ち合わせ場所は、いつもの繁華街の改札口を出た先。
先日、完成披露試写会で一輝と待ち合わせしたところと同じ場所だ。
隼人は落ち着かない様子で沙紀を待つ。
これまで沙紀と2人で出かけ、結果としてデートっぽくなることはあった。
だがこうも、ストレートにデートに誘われたことは初めてだ。
そうこうしているうちに、改札口に沙紀が現れた。
改札からこちらへとてとてと向かってくる沙紀を見て、隼人は大きく息を呑む。
「お兄さん!」
「っ!」
女の子らしい白く洒落たデザインのワンピース、胸元と耳でキラリと光るアクセサリーが沙紀を鮮やかに彩っており、随分大人びて見える。
今日の沙紀は明らかにいつもと違い、絢爛に華やいでいた。
これまで着飾った姿を見てきているが、今日は別格だ。
隼人がドギマギしていると、傍にやってきた沙紀がにこりと微笑む。
「待たせちゃいましたか?」
「いや、今来たところ」
「ふふっ、よかったです。って、漫画みたいなやりとりですね」
「そ、そうだな」
沙紀は口元に手を当て、くすくすとおかしそうに笑う。
隼人は動揺を誤魔化すようい頭を掻いて、目を逸らす。
なんだかんだ、沙紀とも長い付き合いだ。
沙紀はこちらの動揺を見抜いた上で、上目遣いで訊ねてくる。
「今日の私、どうですか?」
「……あー、かなり気合が入ってるというか、正直びっくりした」
「ふふっ、実は茉莉さんにお願いして、事務所の人たちにメイクとか手伝ってもらったんです。服やアクセサリーも選んでもらって、借りちゃいました」
「なるほど、それでか」
プロの手によって、沙紀は完璧にオシャレに仕上げられたらしい。
なるほど、道理でこれまで見たことないくらいに可愛らしく綺麗になっているはずだ。
沙紀は隼人の反応と言葉に満足したのか、茶目っ気たっぷりに言う。
「とりあえず、最初の目的であるお兄さんをびっくりさせる作戦は成功ですね」
「あぁ、見事にしてやられた。ここまで本気でデートに望んでくるとは思わなかった」
隼人は努めてなんてことない風に、軽い感じで言う。
一方、沙紀はまっすぐにこちらの目を見つめてきた。
「そりゃ、本気ですから。少しでも可愛い自分を見てもらうために、使えるコネとか使い倒しちゃいますよ」
隼人は気圧され後ずさりそうになるも、沙紀は逃すまいとばかりに腕を取り、絡めてきた。
柔らかな感触が腕を通じて直接伝わり、ふわりと甘い香りが鼻腔をくすぐり、一気に顔が熱くなる。
沙紀にしては随分と大胆な行動だ。
また決して、悪ノリでこういうことをしない性格だというのも知っている。
それだけに沙紀が本気で自分に想いをぶつけようとしていることがわかり、心臓が痛いくらいに暴れ出す。
とはいえ沙紀本人としても、慣れないことをして恥ずかしいのだろう。
身体はガチガチに固くしてしまっており、顔は耳まで真っ赤だ。
隼人は必死に頭を回転させ、折衷案を口にした。
「えっと俺、腕とか組んだことないからさ、うまく歩ける自信がないというか……腕の代わりに手を繋ぐっていうのはどうだろう?」
「っ、そうですね、私も初めてですので、歩ける自信がありません。そうしましょう」
沙紀が身体を離すと、少しばかり寂しく思ってしまい、隼人はなんとも現金な自分に呆れてしまう。
そして沙紀に手を取られたかと思うと、今度は指を絡めてきた。
いわゆる、恋人繋ぎだ。
普通に手を繋ぐのと、触れる肌面積が別物。
相手との密着感が段違いで、なにより深く結び付いている感じがする。
隼人が驚きの目を向けると、沙紀は照れくさそうにしつつも、えへへと笑う。
胸がキュッと締め付けられ、心が鷲掴みにされる。
ただでさえ沙紀のことは、都会に来てから交流を重ね、魅力的な異性として意識し、憎からず思っているのだ。
強く意識してしまうというもの。
しかし何分、異性とのこうした経験がないので、自分の気持ちを持て余す。
隼人はどうすればいいのかわからず、気になっていたことを訊ねた。
「ところで、今日はどうして急にデートしようなんて言い出したんだ?」
すると沙紀はムッとした感じで頬を膨らませる。
「デートしたかったから、ではダメですか? 理由とか要ります?」
「いや、それは……」
隼人はここでようやくデリカシーのないことを言ったことに気付き、慌てふためく。
沙紀から特別な感情を向けられていることに、気付いていないわけじゃない。
特に同じ高校に入学してきて以来、積極的にアプローチもされている。
そして沙紀は動揺している隼人を見て、堪らずといった感じで噴き出した。
「ふふっ、いきなりといえばいきなりのことですからね、びっくりしたと思います。そうですね、今日の目的はプレゼン、といったところでしょうか」
「プレゼン?」
思いもよらない言葉に隼人が小首を傾げると、沙紀は繋がれていない方の手の人差し指をピンと立て、くるくる回しながら説明する。
「えぇ、プレゼンです。改めて私といるとどんなメリットがあるのか、知ってもらおうと思いまして」
「なるほど、自分の売り込みポイントのアピール」
「えぇ、そうです。ちなみに今日の最初のプレゼンが、見た目でした。プロの手にかかれば、私だってそれなりに見られるでしょう?」
「それなりどころか、沙紀さんは相当可愛い部類だと思うけど」
「は、はぅっ!」
思ったままのことを言うと、沙紀は頭からポンッと湯気を出して固まった。
隼人はそれに気付かず、自嘲気味な笑みを浮かべながら言葉を続ける。
「あぁ、今日とかほんと眩しくて、沙紀さんというよく見知った相手じゃなかったら、声を掛けるのも躊躇っただろうよ。俺も姫子に髪や服選びを協力してもらったけど、隣に居て釣り合いがとれるかどうか不安になるくらいだ」
「別に私は、そんなことっ」
「ははっ、それだけ沙紀さんが女の子として魅力的だってことだよ」
「~~~~っ、お兄さんはもうっ、ほんとっ、そういうとこありますよね!」
「そういうところって?」
「もぅ、知りませんっ!」
隼人がよくわからないなと聞き返すも、沙紀は拗ねたようにそっぽを向く。
しかし沙紀は繋いだ手を、ギュッと握りしめてくる。
どうしていいのかわからない隼人は、誤魔化すように頬を掻き、別の話を切り出した。
「それで、今日はどこへ行くとか決まってるのか? 待ち合わせ場所しか聞いてなかったけど」
沙紀は小さく息を吐き、気を取り直して答える。
「特に決めてませんが、これをしたい! っていうテーマは決めてます」
「ほほう、それは?」
「『私も知らない私を知ってもらう』、です」
隼人は一瞬眉を寄せてその言葉をかみ砕き、聞き返す。
「要するに今まで行ったことない店や、初めての場所を訪れてみようってこと?」
「有り体に言えばそうですね」
「なるほど、それは楽しそうだ」
「ふふっ、でしょう?」
沙紀は機嫌良さそうに笑った。





















