412.僕たち、友達だろう!?
しかし一輝は怯むことなく、追い打ちの言葉を浴びせる。
「正確には二階堂さんの足手まといになってしまう自分を、認めることに怯えてる」
「それ、は……」
今度は頭から冷たい水を被せられたような感覚。
一輝の指摘が胸に突き刺さり、ズキズキと痛みだす。
自分でも無意識のうちに考えないようにしていたことだった。
春希がどうして芸能界を意識から切り離しているのか――そんなの、本人がこの日常に帰ってくるためと言っていたではないか。
一緒に登校して授業を受け、お昼を食べて部活やバイトをし、同じ食卓を囲む。
そんな春希の日常の中心にいるのは、隼人だ。
隼人こそが、今の春希を縛っている。
そのことに否が応でも気付かされた隼人は、どこか曇った表情をしている一輝に弱音を吐く。
「……けど俺には、春希と同じところにまでいける才能なんてない」
「僕もだよ。同じ業界にいて、ひしひしと感じる」
「それでも一輝は、同じ土俵にいるじゃないか」
「姉さんたちのおかげだね」
「俺は一輝と違って、そんなコネもない。ただの高校生だ……どうすりゃいいんだよ」
隼人は項垂れ、やり場のない気持ちを零す。
すると一輝は肩を掴んで隼人の顏を上げさせ、真っすぐに目を見て思いをぶつける。
「なら、相談してくれよ! 僕たち、友達だろう!?」
「一輝……」
「僕だって、どうすればいいかなんてわからないさ。でも一緒に考えることはできる」
やがて隼人は肩の力を抜き、頬を緩めた。
「そうだな一輝の言う通りだ、悪ぃ。俺、今まで同世代の友達なんて初めてだからさ、こういう時、相談するっていう選択肢がなかった」
「だから、隼人くんはいつも1人で突っ走るんだよね」
「うるせーよ」
「猪突も――余計なこと考えず、すぐ動けるところが隼人くんのいいところだと思うよ」
「誰がイノシシだ!」
「ははっ」
そう言って隼人と一輝は互いにおかしそうに鼻を鳴らす。
一息吐いたところで、隼人は話を切り出した。
「で、実際どうすればいいと思う?」
すると一輝は少し思案した後、重々しく口を開いた。
「……僕はこのまま、二階堂さんが一般人に戻るのも有りだと思う」
「おいおい、最初と言ってることが違うぞ」
「あはは、そうだね。僕個人としてはアイドルや声優している方が、二階堂さんは活き活きしていると思う。だけど二階堂さんが、隼人くんの下に戻りたいというのも本心だろうね。けど……」
「けど、なんだ?」
もったいぶる一輝に眉を顰める。
一輝はやけに真面目な顔をして、厳めしく問う。
「隼人くんは、二階堂さんを受け止める覚悟はあるかい?」
「受け止めるって、どういう……?」
「母を亡くして天涯孤独になった二階堂さんにとって、幼い頃の思い出を共有している隼人くんと姫子ちゃんは、特別な存在だ。それこそ、ただの友達の範疇を超えた相手だっていうのは、理解しているかい?」
「それは……」
大袈裟だ、と言い切れなかった。一輝の指摘通り、今の春希にとって隼人は相棒以上に特別な存在だと、客観的に言われて初めて理解する。
一輝は、窘めるように言う。
「隼人くんが二階堂さんにこのまま日常に戻ることを、一般人であることを望むなら、その気持ちを受け止めなきゃいけない。その覚悟はあるかい?」
「…………」
改めて一輝に言われたことを噛みしめる。
親を亡くした春希は、寄りかかる相手がいなくなった。
その相手になれるのか?
相棒だ、なんて言ったところで、未熟者の青臭い約束でしかない
隼人はまだ、ただの高校生でしかないのだから。
そのことを、思い知ったばかりだ。
やがて予鈴が鳴ったところで、一輝が少し言いにくそうに話を締める。
「とりあえず今の僕から言えるのは、二階堂さんが芸能界に復帰するのか、一般人として戻るのかは、隼人くんの意思が重要ってことだね」
「……責任重大だな」
「はは、何かあったら頼ってくれよ」
「あぁ、そうする」
そして2人して、困った顔で笑った。
◇
――春希の今後をどうするのかを決めるのは、自分次第。
そのことを一輝に指摘された隼人は、余計にどうすればいいのかわからなくなった。
そもそも自分でも春希にどうなって欲しいのか、答えを出せていない。
だけど、このまま流されているのはダメだろう。
一輝からガツンと言われて、目が覚めた。
あぁして本心をぶつけてくれる友人に感謝だ。
隙あらば春希をジッと目で追い、考える。
どうするのが、春希にとって一番いいのか。
自分にできることはなんなのか。
そうやって自問自答し続けたこの日の夕飯時。
当の春希から、困った声が上がった。
「えーっと隼人、今日は午後からずーっと見られてる気がするけど、ボクに何かある?」
「あー、その……」
春希のことっを考えるあまり、ずっと春希を見つめていたようだった。
隼人が言葉を詰まらせていると、春希が聞きにくそうにしつつも訊ねてくる。
「やっぱ昼休み、海童にボクのことで何か言われた?」
「ふーん、おにぃってば一輝さんと何かあったんだ?」
「いや、なんていうか……」
続けて姫子がさりげなく昼休みの件について言及してくるも、答えあぐねる。
しばしまごつくものの、あの時のことをバカ正直に話すわけにはいかなくて。
隼人は観念したようにゆっくり息を吐き出した後、これまで思っていた、あることを口にした。
「今の春希ってさ、髪短くして昔みたいだなって。もし月野瀬であのままずっといたとしたら、こんな感じだったのかなぁって思ったんだ」
すると姫子が、どこか納得したような顔をして賛同する。
「あー、そうかも。今のはるちゃんだと、余計にそう思う。なんていうか幼い頃からこの4人で一緒だったら、こんな風だったのかなって気がしてさ」
「だろ? きっとそういうあり得た日々もさ、楽しかったんだろうなって。だけど、現実は違う。もう、そんなことはならないんだ……」
「おにぃ……」「隼人……」
隼人が胸の内を吐き出すと、どこかしんみりとした空気が流れる。
きっと、皆も同じことを思っているのだろう。
だがその時、ふいに沙紀が思いもよらぬ声を上げた。
「お兄さん次の休みの日、私とデートしましょう!」
「で、デート!?」
いきなりのことにびっくりしたのは隼人だけでなく、姫子と春希も沙紀へと驚きの目を向けている。
その沙紀は毅然とした態度で、はっきりと口にした。
「はい、デートです!」
「えっと、どこか行きたいところでもあるのか?」
「あるといえば、あります。けどそれはお兄さんと、年頃の男女として行きたいところ、って意味です」
「へ? それって……」
「文字通り、年頃の男女がするデートです。私的に、お兄さんをドキッとさせるつもりで臨むデートです。ダメですか?」
いきなりの展開にあ然としつつも、隼人は沙紀の勢いに気圧される形で頷いた。
「あ、あぁ、わかった」





















