408.あちら側とこちら側
改札を抜けた先のある一画が、やけに行き交う人たちから注目されている。
中には足を止め、黄色い声を上げる人たちも。
周囲からの「うわマジか」「本物!?」「姉弟揃ってビジュ良っ!」といった声を拾うに、なんとなく状況を察せられるというもの。
隼人たちはもしやまさかといった顔を、皆と見合わせ乾いた笑いを零す。
覚悟を決めてその場へ向かうと、いち早くこちらに気付いた一輝が、バツの悪い顔をして片手を上げながら近寄って来た。
「やぁ、皆」
隼人は一輝の背後を見ながら、やれやれといった調子で苦言を呈する。
「思った以上に大人数だな」
「あ、あはは……事務所で映画観に行きたいから予定を調整したいって相談したら、隣で聞いてた姉さんも行くって言い出して」
一輝の後ろには姉の百花だけでなく愛梨に茉莉、さらに柚朱までいた。
周囲が騒ぐのも当然だ。今をときめくモデルやアイドルが集まっていれば、一体何の集まりなのか囁かれるのも致し方ないこと。
そして一輝に続いてこちらにやって来た百花が、春希を見るなり目を大きくし、素っ頓狂な声を上げかけた。
「わ、はるぴマジで髪――むぐっ!?」
「ちょっ、ももっち先輩! 一輝くんから、そのことは触れないようにって言われてるでしょっ!」
百花が春希の髪型のことを口走りそうになったので、愛梨がすかさず両手で口を塞ぎ、ぴしゃりと説教をする。そのことを言われて思い出したのか、百花は片目を瞑り右手の拳でコツンと頭を小突き、誤魔化し笑い。
相変わらずマイペースな百花に、皆もしょうがないなと頬と空気を緩ませる。
一方茉莉は髪を切った春希を見て、複雑そうに顔を歪めた。
今の春希はティンクルをしていた時のイメージとは、まるで別人。
既存のファンが見たら、どんな反応を示すことやら。
ユニットの片割れとして、言いたいこともあるだろう。
実際茉莉は何かを言いかけるも、なんとか言葉を呑み込む。
春希も気まずそうに顔を逸らす。
隼人は眉根を寄せつつ、しかしなんてことない風を装い茉莉へ声を掛けた。
「茉莉も来たんだ?」
「こないだ、たまたま事務所でMOMOや一輝がおじさんと映画の話をしてるところに出くわしてね。聞けば、皆で行くって言うじゃない。なら、私1人増えたところで、っていうか、こんな面白そうな集まりがあるなら、私も誘いなさいよ!」
「元は学校の友達で行くって、内輪の話だったんだよ。そんなノリだと、茉莉が来ても肩身狭くなるだろ?」
「う~、そうかもだけどさ、そこにアンタや沙紀、姫子にみなももいるっていうじゃない。ならそこまで気を遣わないし、ダメもとで聞いてくれてもいいじゃない」
隼人の言い分に理解を示しつつも、茉莉は拗ねたように唇を尖らせそっぽを向く。
子供っぽい反応をする茉莉に、隼人は宥めるように言う。
「あー、すまん。それは悪かったな。知ってる顔も多かったし、一声かけるべきだった。ただでさえボッ――友達が少ないから、仲間外れにされたって思っちゃうよな」
「おいコラ、誰がボッチだ! あと言い直せてねーぞ!」
隼人が揶揄うと、茉莉はムキになって抗議する。
いつも通りの気安いやり取り。
だがここは人通りが多い。しかも茉莉は人気沸騰中のアイドルだ。その茉莉が大声を上げると、何事かと周囲の興味を集めてしまうというもの。
そして隼人は、ただの一般人。
この場に降り注ぐ視線に気付いた隼人と茉莉は、バツの悪い顔を作る。
しばし傍観していた一輝が、この場をとりなすように皆へ告げた。
「ここに居てもなんだし、移動しよう」
◇
皆で完成披露試写会が行われる映画館へと向かう。
本日集まったのは、合計12人。ちょっとした集団だ。そのまま固まって動くと通行の邪魔になることもあり、自然と2つのグループに分かれることになった。
一輝をはじめ百花、愛梨、そして茉莉に腕を引かれた沙紀が先行し、その後を隼人に春希、姫子、みなも、伊織と恵麻が続く。そして柚朱もこちら側だった。
柚朱が一輝に想いを寄せているのは、ここに来ている皆が知るところである。
それなのになぜこちら側にいることに、後発組の皆から意外そうな顔を向けられた柚朱は、自嘲気味に理由を話す。
「さすがに、あの有名人グループの中に交ざる肝の太さはないわ。あなたたちが来るまで、身の置き場に困ったんだから」
そして柚朱は「せっかく愛梨から誘ってもらったのに」と呟き、大きく肩を竦めた。
これには隼人たちも、何ともいえない顔で苦笑い。
確かに柚朱の言う通り前を行く面々は芸能人たちで固められており、行き交う人たちからも好奇の目を向けられている。
期せずして芸能人組と一般人組で別れた結果、こちらに居る春希に目を向ける人もおらず、気付かれていないようだ。
すると隣の姫子がなんとも複雑な顔をして、少し寂しそうに呟いた。
「沙紀ちゃんって、あっち側なんだね」
「それは――」
隼人は咄嗟に否定しようとするが、適切な言葉が出てこない。
そして姫子の言葉を肯定するかのように、周囲から「茉莉の隣の子、もしかして」「あの舞姫じゃね!?」「うわ、マジだ!」「またどこかで出るんかな!?」といった声が聞こえてくる。
まるで芸能人に対する反応そのもの。
胸が嫌な風に騒めく。
本人の意思に関係なく、世間が求める流れに呑み込まれていくことがあるのは、よく知っている。
そして、その場所は隼人にとって、とても遠い世界だということも。
そのことが顔に表れてしまっていたのだろう。
春希が安心させるかのように、優し気な声を掛けてきた。
「沙紀ちゃんは大丈夫だよ、ボクとは違うから」
「それはそうかもしれないが……」
「事務所もしっかりしているし、両親とか頼れる大人もいるから、沙紀ちゃんにその気がなきゃ向こうになんていかないよ。それに騒がれてるのも今だけ。どうせ次の話題が出たら、世間なんてそっちに意識が向かっちゃうよ」
「…………そっか」
まるで自分へ言い聞かせるように話す春希に、隼人もまたそうであって欲しいと、曖昧な笑みを返した。





















