404.現実
本日より、てんびんアニメ放映開始です
清司の否定の言葉に、頭の中が一瞬真っ白になってしまう。
少なからずショックを受けている自分に気付く。
実は密かに、もしかしたらという期待があった。
被写体に恵まれているとはいえ、非公式ファンクラブで数字的にも世間から高評価を得ているのだ。それだけでなく春希経由で耳にしたことだが、清司自身も隼人のカメラの腕を認めていると聞いている。
それなのに、何故?
同じことを思ったのか、あ然とする隼人の代わりに、茉莉が清司に嚙みついた。
「ちょっと、どうしてさ!? おじさんだってアイツの写真、着眼点がいいって褒めてたじゃないっ!」
「そうだね。けど、隼人くんは僕と同じ側なんだ」
「はぁ!? なにそれ、意味わかんない!」
はぐらかすような物言いの清司に、茉莉は納得がいかないと不満をぶつける。
隼人だって同感だ。沙紀も口にはしないものの、表情に不満げな感情が滲む。
清司は茉莉を宥めるように言う。
「表舞台に立つ茉莉くんたちとは違うんだよ。僕たちは裏方だ。ただ好き勝手にそれっぽい写真を撮って、はいおしまい、というわけにはいかない。撮るにしても相応のクオリティが求められるのはもちろんのこと、我々クライアントが意図したものを反映させたものが必要だ。さらにはデザイナーが加工や演出し、多くの人が協力して作り上げる。そして隼人くんは、何の経験もないただの高校生だ」
「それは……けど誰だって初めてはあるし……」
なおも食い下がる茉莉に清司は、まるで聞き分けのない子供を宥める困った顔を向けた後、今度は隼人へ質問を投げかけてきた。
「そもそも隼人君がこれまで写真撮ってるのは、スマホだけじゃないかな? 質問だけど、キミに撮影用のカメラを渡して、光源を絞ったり感度やシャッター速度を調整したりといった機能を十全に使いこなし、我々の注文に沿う写真を撮れる自信はあるかい?」
「ない、です……」
隼人は悔しさを滲ませた声で答える。
いくら非公式ファンクラブで高評価を得ているとはいえ、技術的には素人に毛が生えた程度。
プロの現場で応えられるだけの技術を持っていない。
全くもって、清司の言う通りだ。
やはり芸能界は、春希や茉莉、沙紀がいる世界は、遠い。
だけどそれを認めたくない自分がいて、縋るような声が心から漏れた。
「じゃあ、どうすれば……」
「簡単だよ、学べばいい」
「……学ぶ?」
「あぁ、技術や知識なんて後からいくらでも身に付けられる。だけど決定的な瞬間を捉える嗅覚、構図のセンス、それらは先天的なものだ。隼人くん、ちゃんと勉強すればキミはいいカメラマンになるよ」
「はぁ、どうも。で、勉強するったって、具体的には?」
「専門学校、それに大学にも写真学科や、映像メディア学科があるね。実績とかを考えると、お勧めは――」
清司の口から示されるカメラマンの進路先に、隼人はどんどん顔を顰めていく。
「しかしそこだと、ここから随分と遠いっすね。今の家から通うのはとても」
「だが、その道を目指し学ぶなら、素晴らしい環境だ。実践面でも、僕からいいバイト先も紹介できる」
「その提案は魅力的っすね。けど親元を離れることになるし、俺1人は決められない」
隼人が思っていた以上に、プロの道を行くのは険しいようだ。
進学先も1人暮らしを余儀なくされるし、せっかくできた友人たちとも離れ離れになってしまう。
それに清司が自分のことを評価してくれているものの、もし本格的に撮影のことを学んだとしても、必ずしもプロに成れるという保証もない。
また、カメラマンになりたくてやってくる人たちと競合することになるだろう。
夢や目標に向かって本気でやっている人が、どれだけの努力をして足掻いているかだなんて、茉莉を見てよく知っている。
隼人のようにただなんとなくとか、興味本位で行こうとしている人種とは、意志の強さや気迫が段違いだ。
到底、彼らに勝てるとは思えない。
もしカメラマンに注力して成れなかった場合、就職の潰しもきかなそうだ。
人生をベットするにはリスクが大きい。
そこまでの覚悟が隼人にあるかと問われれば、すぐさま清司が示す道に頷けなかったところに、既に答えが出ている。
隼人が弱気を顔に滲ませていると、清司はあやすように言う。
「キミはまだ高校生なんだ。将来の選択肢の1つとして、参考までにこういう道もあると思ってくれればいい」
「そう、すね」
隼人は曖昧な笑みを浮かべ、誤魔化すように返事をする。
清司は一瞬、自嘲めいた表情を作るもしかし、やけにすっきりとした顔で告げた。
「だが表舞台に出る人たちを自分の手で輝かせるのは、楽しいよ」
「…………」
一見、隼人に向けた自らの業界の良さを謳う、ありふれたアピールだ。
だけど隼人の胸に、強い引っ掛かりを覚えさせる言葉だった。
完結まで毎日更新していきます





















