403.正しい才能の評価
「はい」
沙紀は硬い表情で小さく頷き、先ほどまで振り付けの改善案を話し合っていたスタッフたちと顔を見合わせ、深呼吸。
そして音楽が流れ始めると共に、舞いはじめる。
「――――っ」
先ほど見たものとは違う。
どうやら彼女たちの意見を取り入れ、改良したもののようだ。
そして最初に見たものより洗練されていた。
大輪の花が弾けんばかりに咲き誇る、華やかかつ力強さに、目を奪われてしまう。
茉莉は瞠目し、清司も「ほぅ」と感嘆の息を吐く。隼人も思わず、シャッターを切る。
やがて曲が終わると共に、清司から惜しみない拍手が送られた。
「素晴らしい。問題ないとは思っていたが、想像以上のものを見せてもらった」
「き、恐縮です」
清司からの賛辞を受け、沙紀は照れくさそうに背を縮こませる。
そんな沙紀に清司はにこりと微笑んだ後、茉莉へ水を向けた。
「茉莉くん、少々難しそうに見えるけど、大丈夫そうかい?」
「っ、やってやるわよ! せっかく私から頼んで、沙紀に考えてもらったんだもの!」
「月末の収録に間に合わせられそう?」
「完璧に仕上げてやるわ!」
挑発的な清司の問いかけに、茉莉は威勢よく気炎を上げる。
スタッフたちもやる気満々だ。
清司は鷹揚に頷き、沙紀へと向き直った。
「ちょっとした質問なんだけど、この振り付けって春希くんがいた場合、春希くんの分もお願いしたりすることはできるかい?」
「はい、できます。というか、どういう風になるかも考えています」
「それは心強い。ついでにもう1つ……もし春希くんだけじゃなく、沙紀くんも含めた3人態勢になった時の振り付けをアレンジすることは可能かな?」
「それもできますけど、私はアイドルなんてやりませんよ」
沙紀はやんわりと断り、清司へアイドルする気がないと牽制する。
苦笑した清司は残念そうに両手を上げ、どこか芝居がかった調子で言う。
「わかってる、聞いてみただけさ。それはさておき、今回の振り付けに対する報酬だが――」
そして清司の口から告げられた金額を聞いた沙紀は、みるみる目を大きくして素っ頓狂な声を上げる。
「え、そんなに!? こ、こんな大金もらえませんよ!」
沙紀が慌てふためくのも無理はない。
隣で聞いていた隼人もまた、毎月バイトで稼ぐ10倍以上の額に、耳を疑っている。
しかし清司はやけに真剣な表情で、沙紀を諭すように言う。
「受け取りなさい。沙紀くんが考えた振り付けは、ティンクルが正式に採用を決めたものなのだ。それだけの価値がある。茉莉くんは決して安くないからね、我々にはその対価を払う義務もある。先日のアーリーサマーライブの出演料を払った時と同じ口座でいいかな? あの時も言ったが、沙紀くんの技術は評価されてしかるべきものなんだよ」
「あぅぅ……」
沙紀はまごつき、目を回している。
清司の言っていることは正しいのだろう。
とはいえ、高校生にとってまるで現実味のない金額を提示されているのも事実。
感覚的には友達の手伝いをしているだけなのだ、沙紀が狼狽するのもよくわかる。
だが一方、隼人は清司が言う通り、沙紀が子供の頃から研鑽してきた舞には正当な評価をされてしかるべきだろう。
するとその時、どこか呆れた顔をした茉莉が、縮こまっていた沙紀の背中をバシンと叩いた。
「沙紀、胸を張って受け取りなさい。アンタは私が認めた友達なんだもの、それくらいもらって当然よ!」
「茉莉さん……」
「それともなに? この私の友達って、そんな安い女なのかしら?」
「……ふふっ、そうですね。桜島さん、ありがたく頂戴いたします」
茉莉にそう言われると、沙紀としても頷くしかない。
隼人の目からも、沙紀は茉莉と並び立つほどのものを持っているのだから。
清司もにこりと笑っている。
隼人も落ち着くところに落ち着いたなと、軽口を叩いた。
「沙紀さん、他の人にはできない、ちょっと変わったバイトをしたと思えばいいさ」
「そうですね」
沙紀も不承不承といった顔で苦笑する。
すると茉莉が何かいいことを思いついたとばかりに、パチリと指を鳴らした。
「そうだ、バイトよ! 沙紀、正式メンバーじゃなくバイトとして、ティンクルのダンサーとかどうさ!? たまに単発で参加するの!」
「お、それはいいね。僕としても大歓迎だ」
清司もすぐさま名案だとばかりに、賛同する。
「えぇっと、それは……」
「私さ、いっぺん沙紀やおばさんの3人でステージ立ってみたいんだよねー。なんか考えただけでもわくわくしてくる、っていうか沙紀と一緒におばさんを倒したい! ねね、おばさんが復帰したらさ1回だけでいいから、沙紀もバイトで参加してよ!」
「う゛っ……バイトで1回くらいなら、出てもいいのかな……?」
最初は渋る様子の沙紀だったが、バイト、一度だけ、と言われて心が揺らいでいるようだ。
正直なところ、隼人だって3人が織りなすステージを見てみたい。きっと、いい絵が撮れるだろう。
そして茉莉は、冗談交じりでもう1つの野望を口にした。
「その時のポスターは、隼人が撮ってくれたらめっちゃテンション上がるんだけど!」
いつもなら聞き流すところだ。
実際皆にはこの場のノリの発言の類と思われており、特に誰も気にしていない。
だけど隼人には、前々から気になっていたことでもあって、努めて軽い感じで茉莉の言葉に乗っかる感じで、清司に聞いてみた。
「で、実際のところそれってアリなんですかね? 俺がその、ポスター撮るってやつ」
茉莉や沙紀、スタッフたちがそれいいかもといった空気を醸す中、清司は「ふむ」と唸った後、困った笑みを浮かべて答えた。
「それはちょっと難しいかな」
「っ」





















