401.なに隠し撮りしてんのよ
ある日の放課後。
隼人と沙紀は馴染みのない街へ電車で繰り出し、スマホ片手に地図を確認しながら都内某所にあるティンクル所属事務所が所有する養成所のスタジオに訪れていた。
以前より茉莉から頼まれていた、ソロでも映える振り付けを教えるためだ。
沙紀のアドバイザーという役どころは対外的な形式上のものだったが、茉莉からどうしてもと頼まれれば、断りづらい。
それに事務所には、同業他社からの防波堤になってもらっているという恩もある。
ちなみに春希にも声を掛けたが、活動休止中ということもあって遠慮された。
スタジオ入り口で茉莉が出迎えてくれ、ある一室へ案内される。壁の一面が鏡になった、教室ほどの広さの部屋だ。
そして早速沙紀は、茉莉と隼人の他、何人かのスタッフに見守られながら、曲に合わせて自ら考案した振り付けを披露した。
「――と、こんな感じです」
「け、結構腕の動きが複雑なのね」
頬を引き攣らせる茉莉に、沙紀はにこりと微笑む。
「はい、その分見た人の印象に残りやすいと思いますよ」
「そうかもだけどさ! とりあえず、やってみるわね……えっと、こう?」
「いえ、こうです。基本は内側から外側に円を描くような感じで」
「あ、こうか。結構忙しいわね」
「ステップは単調なので、無理のない範囲でアレンジした方がいいかもしれません」
「そうね、現状だとちょっと地味だわ。例えばこ――うぎゃっ!?」
「茉莉さん!?」
腕の動きに集中し過ぎたのか、茉莉は足をもつれさせてしまう。
躓きかけるも幸い、すぐ傍に居た沙紀に寄りかかり、事なきを得る。
そして隼人はその時に茉莉が見せたあまりに驚き必死な形相を、つい反射的にパシャリと写真に収めた。
撮影音に気付いた茉莉が恨みがましい目を向けてくるので、隼人はにやりと意地の悪い笑みを浮かべてサムズアップを返す。
「いい〝#茉莉うっかり〟いただきました」
「いくなーい! っていうかなんでいきなり、そういうの撮るのよーっ!」
「ははははははっ」
「笑うなーっ!」
隼人に揶揄われ顔を真っ赤にしてがるると犬歯を見せる茉莉に、沙紀は眉根を寄せて宥める。
「まぁまぁ、新しい振り付けを覚えるのに苦労した、ってのが伝わると思いますから」
「それがわかるだけに、載せるなって言えないのよっ!」
ぐぬぬと歯噛みする茉莉を前に、隼人は沙紀と顔を見合わせくすりと笑う。
沙紀が呼ばれたのは茉莉へ振り付けを教えることに対し、隼人が呼ばれた目的は、ティンクル非公式ファンクラブとして、そのメイキング的を撮るというものだった。
隼人は早速、いいものが撮れたとほくそ笑む。
アーリーサマーライブで圧倒的な歌唱力を見せつけた茉莉は、今や決してティンクルの〝じゃない方〟なんて呼ばせない人気を博している。
非公式ファンクラブで投稿される写真も、人気の一助になっていた。茉莉本人的には不本意ながらも、〝#茉莉うっかり〟は人気獲得の上で無視できないものだとか。
現在、春希が母のこともあって休止をしていることもあって、茉莉単独での仕事が多いらしい。今、沙紀に教えてもらっている振り付けも、そのためのものだ。
気を取り直した茉莉は、振り付けの確認を再開する。
茉莉が何度か繰り返すうちに、それまで同じ部屋で神妙な顔をして見守っていた何人かの女性スタッフたちが、沙紀へ声を掛けていた。
「もしかしてこの振り付けって、花が咲くのをイメージしてますか?」
「広がる感じが、そう見えまして」
その言葉を聞いた沙紀は、瞠目して答える。
「はい、田舎に帰省した時、ひまわりが咲いてるのを見て閃きまして」
「なるほど、それじゃここは――」
「思ったのですが、こうすると――」
沙紀の振り付けの意図を汲んだ彼女たちは、すぐさまこうした方がいいんじゃという案を出してくる。
それを受けた沙紀はみるみる目を大きくした後、「それです!」「なるほど、それじゃここは更にこうした方が!」などと嬉々とした様子で意見を交わす。
たちまち振り付けの改善案についての話に花が咲く。
その光景を、隼人は羨望交じりに眺めながら目を細める。
彼女たちが何者かというと、茉莉が所属する事務所で振り付けや演出を担当するスタッフだ。先日のアーリーサマーライブで沙紀のダンスを見て感銘を受け、今日の件を茉莉から聞き、ぜひ沙紀と話をしたいと言ってきたのだとか。
沙紀としても表舞台に出るわけでもないので、これを了承。
こうして振り付けの話で様々な意見が飛び交う中、彼女たちと対等に話を切り結ぶ沙紀は、やはりプロの中でも一目置かれるだけの実力があるようだ。
そして振り付けに、舞うことについて真剣に話す沙紀は、とても楽しそうな顔をしていて輝いて見えた。
その顔があまりに眩しくて、隼人はつい無意識のうちに写真に撮ってしまう。
「(――ぁ)」
こんなの、まるで盗撮だ。
隼人は咄嗟にしてしまった自分の行動に動揺する。
幸いというべきか、話に夢中の沙紀やスタッフたちは、写真に撮られていることに気付かない。
そのことに胸を撫で下ろしつつ、スマホの画面を視線を移す。そこに映る沙紀は自然体で、まっすぐに自分の好きなものに向かっていて、純粋で、ドキリと胸が騒めく。
すると振り付けのことで皆からそっちのけになっていた茉莉が、いつの間にか傍にやってきており、隣から隼人が撮った沙紀の写真を覗き込み呆れたようなため息を吐く。
「なに隠し撮りしてんのよ」





















