表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転校先の清楚可憐な美少女が、昔男子と思って一緒に遊んだ幼馴染だった件【2026年7月アニメ放映】  作者: 雲雀湯@てんびんアニメ放映中
最終章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

400/425

400.動物園④気付いたこと

 改札を抜けると、西の空が仄かに色付き始めていた。

 いつもなら夕飯の支度をする頃だ。

 皆で遊びに出掛けた時も、帰りにスーパーに寄ることが多い。

 そのことを気にした春希が訪ねてくる。


「今日は買い物して帰るの?」

「いや、今日は姫子が沙紀さんと一緒に用意するって言ってた」

「ひめちゃんが? そりゃ珍しい」

「カレーって言ってたな。沙紀さんと一緒なら失敗のしようもないってさ」


 隼人が茶化すように言えば、春希も「そうだね」と笑う。

 都会にやって来てすっかり見慣れた住宅街を、引き伸ばされた影法師を引き連れ歩く。

 動物園の余韻が残っている。

 疲労感を感じ、足取りも少し重いが、決して悪いものじゃない。

 春希とこうして並んで帰宅しながら、ひどく郷愁を誘う夕陽を眺める。

 あの日、夏の終わり。

 幼いはるき(、、、)と別れの言葉を交わした時も、こんな感じだった。

 ふいにそのことを思い起こされ、胸が締め付けられる。

 何故そんなことが脳裏を過ってしまったのか。

 隼人は自分でも、なんとなくわかっていた。

 だけど、それを認めたくもなくて。

 その時、春希がにこりと笑った。


「なんだかんだ、今日は楽しかったね」


 隼人は今日一日を振り返り、自らの胸に問いかける。

 間近で見た迫力のある肉食獣たちや、巨体を誇る逞しい草食獣、他にも様々な愛らしい動物たちに興奮、感動して、そんな彼らが見せるギャップのある姿を見て、春希と一緒になってはしゃいだ。それこそ、つい無意識のうちに写真に撮ってしまっていたほどに。

 だから春希のその問いかけには、満面の笑みで答えることができた。


「あぁ、すっごく楽しかったな」

「また行きたいね、今度は皆も一緒にさ」

「そうだな、動物たちだけじゃなく、他の人のリアクションとかも気になるし。それこそ、〝#茉莉うっかり〟でもいい絵が撮れそうだ」

「隼人だって今日、子供の時みたいに目をキラキラさせてたもんね」


 春希が意地悪そうな顔をして揶揄ってくると、隼人はムッと眉間に皺を寄せて答える。


「え、俺ってそんなだったか?」

「そんなだったよ。初めてボクにミヤマクワガタを誇らしげに見せてきた時とか、山の中へ宝探しに入って古ぼけた祠を発見した時とか、河原でピカピカで真ん丸の石を見つけた時と一緒! 隼人ソムリエの第一人者のボクが、太鼓判を押そう」

「あのなぁ」


 じゃれるような、昔から続けてきた心地よいやり取り。

 今日は久しぶりに春希と2人ということもあって、昔のことを強く意識してしまう。

 そんな中、春希はしみじみと、どこか自分に言い聞かせるように呟く。


「やっぱりこういう日常っていいね。帰ってきてよかったよ」


 隼人はその零れた本音に、極力気付かないフリをして答える。


「そっか」

「あと、帰ったらごはんがあるってのもいいね」

「そうだな、準備しなくていいってのは楽だ」

「もう、そういうんじゃなくて、待っててくれる人がいるってことだよ」

「あー、そっちか。うちの母さん、帰り遅いからなぁ」

「パートだっけ?」

「そうそう、同じく帰りの遅い親父に合わせてるから。食べ盛りには待てないっての」

「今だってお腹ぺこぺこだもんね」


 そう言って機嫌良さそうに鼻を鳴らす春希を見て、隼人も「あぁ」と首肯する。

 だけど、どこか空滑りしているやり取り。

 そして足取り軽く前を行く春希を眺めながらスマホを取り出し、動物園で撮った写真を呼び出して眺める。

 今日の夕食時にでも、早速ネタにできそうなものばかり。

 隼人としても、会心のできのものがたくさん撮れたと思っている。

 姫子や沙紀の反応を想像するだけで口元が緩む。

 だけど、今日撮った写真の中に、春希を収めたものは1枚もなかった。

 髪を切ったことを慮ってというわけじゃない。

 これまでがそうだったように、春希がふいに見せた魅力的な姿があれば、自然と撮っていただろう。

 だけど、1枚も撮ることはなかった。

 撮りたいと思わせる顔を、見せていなかった。

 今だって春希は笑みを浮かべているものの、どこか偽物めいていて。


「…………」


 隼人は静かに息を吐き、胸の中でそのことを認める。


 ――春希は、うまく笑えていない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
本心を自分でも気付いてな…いや、どうかな…。
春希さんが本心から笑えていないことに気付いてしまった以上、そう遠くないうちに隼人さんはこの問題に向き合うのでしょうね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ