399.動物園③思わず撮れたもの
ウェットティッシュで手を拭き、いただきますと手を合わせ、春希が作ってきた弁当に手を伸ばす。
おにぎりの具はオーソドックスに梅だった。なんだかんだ汗をかいたので、梅の酸味が染みる。玉子焼きは甘めで、おにぎりの合間に食べるのにちょうどいい。たこさんウィンナーはそこにあるだけで、弁当が賑やかだ。
ぱくぱく弁当を食べていると、春希が話を振ってきた。
「そういや隼人、スマホで写真いっぱい撮ってたよね」
「おぅ、どう見ても猫な感じの虎とか、プールへの飛び込みを微妙に失敗してるシロクマ、それから羽を広げたオオワシがポーズ決めてたやつとかカッコよくて、つい反射的に撮っちゃったんだよな。ほれ」
隼人がスマホを取り出し撮ったものを見せると、春希は目を丸めてくすりと笑う。
「あはっ、こんなシーンあったなー、っていうかよく写真に捉えたね?」
「動物園一緒に行った方が良かったって、皆に悔しがらせるものを撮るチャンスだと思ってさ」
「確かにこんなの見せられたら、生で見たかったってなるかも」
「だろ?」
「うんうん、ボクもこないだ隼人が撮ってきた月野瀬での写真で、ほら〝#茉莉うっかり〟でもバズってたやつとか」
「羊に収穫したトウモロコシ、食べられてるやつ?」
「それそれ! 他にもグルチャの方に送られてきた、沙紀ちゃんが巫女服姿で回覧板を回してた時のやつとか、心太くんとつくしちゃんが山車の上で主役ですと立ってるやつとか、ひめちゃんがラムネ開けるの失敗して溢れさせてるやつとか見てて、あーボクも行きたかったなって思っちゃったもん」
「そりゃ、あれは春希も来ればよかったのに、って思わせたくて撮ったからな」
「むぅ、意地悪」
そう言ってふくれっ面を作る春希に、隼人は煽るように意地の悪い顔を向ける。
しばしバチバチと見つめ合った後、どちらからともなく噴き出した。
「ははっ」
「あはっ」
そしてひとしきり笑った後、春希は目尻の涙を手の甲で拭ってしみじみと呟く。
「隼人っていつの間にか、隙あらば写真撮るようになってるよね」
「実は前から、気が付いたら撮ることあったんだよ。意識して撮るようになったのは、ティンクル非公式ファンクラブを手伝うようになってからだけど」
「あ、そういや今日とかも何かいいの撮れたら、非公式のやつに載せるの?」
考えもしなかったことだった。隼人は眉を顰めて答える。
「春希が髪切った姿とか、まだ世間に知られなくないから載せられないだろ」
「いや、ボクじゃなくて動物のやつ」
「さすがにそれは、非公式ファンクラブの趣旨から離れすぎじゃ」
「でもバズると思うよ、すっごくよく撮れてるしさ」
「別にバズのために撮ってるわけじゃないし」
「うーん、ボクとしてはせっかく面白いの撮れたんだからさ、色んな人に見て欲しいって感じなんだよね」
純粋にこれが面白いという気持ちを皆と共有したいと春希が言えば、無下に断りづらくなる。
隼人はしばし考え、やがて肩を竦めた。
「茉莉に聞いてみて、判断を任せるわ」
「そっか」
◇
お昼を食べ終えた後は、西側エリアを巡ることにする。
途中、東西を繋ぐためのモノレールの駅の跡があり、乗ってみたかったといったことを話しながら歩く。
まずはウマ、ヤギ、ウサギといった身近な動物と触れ合い、でも月野瀬では見かけないといって笑い合う。アルパカの気まぐれなところを愛でたり、エミューの大きさと人懐っこさに驚いたりも。
次に訪れたレッサーパンダはもこもこした愛らしさに魅了される。まるで動くぬいぐるみだ。そのすぐ近くにいたキジの鮮やかさに目を奪われた。
アフリカの動物たちがいるエリアではキリンの背丈の高さに驚き、サイの鎧を着こんだかのような迫力に度肝を抜かれる。カバはずっとマイペースにプールを泳いでいてほっこりする。
小さな獣たちが見られる施設の中で、一番気を惹かれたのはマヌルネコ。ふわもこした愛らしさの中に、隠し切れない野性が垣間見られ、夢中になって眺めていた。
両生類や爬虫類を展示している建物にも入る。
岩に溶けるような見た目のオオサンショウウオ、自分たちよりも大きな迫力あるイリエワニ、のっそりと動く大きなゾウガメ、力強さを感じさせるニシキヘビ等、動物とは違った面白さがある生き物たちを、興味深く見て回っていく。
物珍しい生き物を前に、童心に返ってはしゃぐ隼人と春希。
西側も粗方巡り終えた後は、トラやシロクマ、ゾウ、キリンやウマなど、もう一度見たいと思った動物を見て回る。
その後はギフトショップへ足を向けた。
様々な動物をモチーフにしたぬいぐるみ、マスコット、キーホルダーといった定番のものから、シャツや靴下、文房具に雑貨類、お菓子などが並んでおり、見ているだけでも興味は尽きない。
そうこうしているうちに、陽射しも大分傾いていることに気付く。
家までそれなりに離れていることもあり、隼人と春希は少し早めに帰路に着いた。
帰りの電車の中、隼人が撮ったカバが欠伸をして意外に大きな牙を見せたものや、子供たちに群がられて無心でどこかを見つめるアルパカを眺めながら、今日のことを振り返って笑っているうちに、いつもの最寄り駅に帰ってきた。





















