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転校先の清楚可憐な美少女が、昔男子と思って一緒に遊んだ幼馴染だった件【2026年7月アニメ放映】  作者: 雲雀湯@てんびんアニメ放映中
最終章

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396/425

396.〝貸し〟ですからね


 新学期が始まり、しばらくが過ぎた。

 最近めっきり陽が昇るのも遅くなり、朝や晩は冷え込むことがあるものの、日中はまだまだ厳しい暑さが続いている。

 春希を取り巻く周囲は、思ったよりも静かなものだ。

 登下校時に注目を集めることもなく、学校でも始業式こそ騒がれたものの、その後は鳴りをひそめている。今では意識されて目立っているものの、絡まれることもない。

 春希本人は、学校へ毎日顔を出すようになったから飽きられたんじゃない? なんて言うものの、隼人の目には周囲が腫物扱いしているようにも見えた。

 普段、今までとあまり変わらない態度の春希だが、春希は母を亡くしたばかり。

 田倉真央の死はメディアでも喧伝されていることもあって、周知の事実。

 そのこともあって、周囲も話しかけづらいだろう。

 隼人たちだって、そのあたり気を遣っている。

 だがそのおかげで変に騒がれず、春希が日常に戻る一助になっているのはなんとも皮肉。

 そんなある日の昼休み。

 隼人、春希、沙紀、みなも、一輝、伊織、恵麻の7人が集まり、すっかり手狭になった秘密基地。

 いつものように伊織と恵麻がいちゃつきだし、食べさせ合いっこに発展してやけに甘くさせられたお昼を皆が食べ終えた頃を見計らい、春希がある提案を切り出した。


「ね、今度の休みさ、動物園に行かない?」


 どこの動物園かピンときた隼人は意外そうに目を丸くしつつ、訊ね返した。


「それってここからちょっと離れた駅の前にある、すっごく大きなところの?」

「うん、今まで行ったことないと思ってさ」

「いつもの思い付きか。そういや俺も行ったことないな。丁度いい機会だと言いたいところだけど……春希、そんなところへ行って大丈夫なのか?」


 かつて春希が街に繰り出すのも苦労したことを思い返し、そのことを指摘すれば、春希はあっけらかんと言葉を返す。


「多分、大丈夫じゃない? あの時とは状況が違うし。それにまだ、ボクが髪を切ったって世間に認識されてないからさ、登下校時とか寄り道した時に騒がれてないでしょ?」

「ふむ……」

「だから平穏無事に遊びに行くなら、今がチャンス!」


 そう言って春希はパチリと指を鳴らす。

 確かに春希が言うことには説得力があった。

 隼人は確認のため、こういうことに詳しそうな人物に訊ねる。


「一輝、どう思う?」

「そうだね、僕も大丈夫だと思う。二階堂さんが言う通り、今だけの機会じゃないかな」


 同じ芸能人である一輝から、今ならばとお墨付きを貰えた。

 ここのところ色々あったし、気晴らしに遊びに行くのもいいだろう。


「なら決まりだな。待ち合わせとかどうする?」

「それだけど、僕はモデルの仕事があるから……ごめん」

「あー……」


 確かに今、一輝はモデル仕事の踏ん張りどころと言っていた。以前にも増して精力的に取り組んでいる。迂闊だった。

 隼人がバツの悪い顔をしていると、続いて伊織と恵麻も、申し訳なさそうに言う。


「すまん、オレもその日は予備校だわ」

「私もバイトが……」

「むぅ、一輝だけじゃなく伊織に伊佐美さんもダメか。なら日を改めるか?」


 何とも間の悪いことである。隼人が残念そうな顔をして仕切り直しを口にすると、ふいにみなもが慌てた様子で前のめりになって力説した。


「いえ、こんな機会滅多にないので、是非行った方がいいです! あ、私も当日、多分、きっと、何かの予定が入って行けませんけどっ!」

「み、みなもさん……?」


 みなもの勢いに気圧されどういうことかと周囲に視線を向けると、一輝、伊織、恵麻も神妙な顔でうんうんと頷いている。春希と沙紀はといえば、どこか困った顔で苦笑い。

 隼人はたじろぎつつも、今週末の動物園行きを了承した。


「わ、わかった。今週末、姫子も誘って行ってくるよ」

「「「「はぁ~」」」」


 すると皆からは、こいつわかってないなと言いたげな、盛大なため息が漏れた。



 その日の夕食時、霧島家。

 トマトとツナの冷製パスタと大根の和風冷しゃぶサラダを囲みながら、隼人は姫子に昼間の話を切り出した。


「なぁ姫子、次の休みに動物園へ行かないか?」

「動物園って、ちょっと離れたところの駅前にある、あの大きな?」

「あぁ、世間は春希が髪を切ったことを知らないし、今なら見つかって騒がれることもないだろうってことで」


 春希も「そゆこと」と頷くと、姫子は目をキラキラさせて賛成する。


「行く行く、あたしも一度行きたかったんだよね! あ、他に誰が行くの?」

「それなんだけどさ、一輝はモデルの仕事、伊織は予備校で伊佐美さんはバイト、みなもさんも何か用事があるって言って、行くのはここにいる4人だけ」

「えー、それじゃ日を改めた方がよくない?」

「俺もそう思ったんだけどさ、皆はその日に行けって」

「ふーん」


 姫子は不思議そうな顔をして、夕食を再開する。

 あの後みなもだけじゃなく他の面々からも、春希が髪を切ったことを知られていない今だけ、自分たちは気にせず早く行った方がいい、どこからショートカットになった情報が漏れるかわからない等と、説得された。

 皆が言うことはわかるものの、どこか釈然としないのも事実。

 隼人が難しい顔をしながらくるくるとフォークにパスタを巻き付けていると、ふいに姫子が何かに気付いたかのように「ぁ」と声を上げた。


「姫子?」


 どうしたことかと隼人が声をかけると、姫子は「そういうことか」と呟き、フォークをお皿に置く。そして姫子は神妙な顔をして、隼人を真っ直ぐ見据えて告げた。


「おにぃ、あたしと沙紀ちゃんもその日、予定できたから」

「は?」

「え?」


 これには隼人だけでなく、沙紀も驚きの声を重ねる。


「ひめちゃん……」


 春希も何か言いかけるも姫子から視線で牽制され、言い淀む。

 いきなりかつあからさまな妹の心変わりに、どういうことかと問い質す。


「姫子、どういう――」

「まぁまぁいいから、おにぃとはるちゃんの2人で行ってきてよ。ね、沙紀ちゃん?」


 そして姫子から話を振られた沙紀は、なんとも複雑な表情で姫子と隼人を見た後、春希へ視線を移してしょうがないなと言いたげな、諦め交じりのため息を吐いた。


「そういうことです。これは〝貸し〟ですからね」



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― 新着の感想 ―
でかい
確かに今のタイミングを逃すと、次がいつになるかわからないですからね。ずいぶん大きな貸しになりそうですが。
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