395.〝思い出餃子〟
その後、姫子を3人で必死に宥めた。苦しい言い訳をだと自覚しつつも、ゲームに熱中し過ぎたが故の事故だと押し通す。当然、姫子は訝しんでいる。
しかし隼人たちは姫子もやればわかると説得し、一緒にゲームをすることに。一緒にゲームで盛り上がって、先ほどのことをうやむやにしようという魂胆だ。
「おりゃー、そこだー、どけーっ! あたしの前は走らせねーっ! うがー、おにぃ邪魔、はるちゃん甘いっ! ぎゃーっ!? 沙紀ちゃんここでそのアイテム引いちゃうの!?」
そしていざゲームが始まれば、姫子が一番色めき立って没頭した。
大声を張り上げ、操作するキャラに合わせて前後左右に身体を揺らし、コントローラーを持つ手を振り回す。おかげで姫子の周囲には、空白地帯ができている。
やがて勝負は接戦を繰り広げ、姫子は僅差でトップを逃した。
「きぃ~、悔し~っ! もっかい――って、どうして皆そんな離れてんの!?」
「そりゃあんだけゲームしながら大暴れされたら、俺たちだって避難する」
そう言って隼人が肩を竦めながら指摘すれば、姫子は先ほどの自分を思い返し赤面しつつ、コホンと誤魔化すように咳払い。
「確かにこれは我を忘れちゃうね。うん、先ほどのことは不問にします。あ、それとあたし、こうなったのゲーム自体久々だったからっていうのもあるからね!」
「そういやひめちゃん、その制服本当にあの名門校に入ったんだね。受験も相当頑張って、入学してからも勉強漬けだって聞いてるよ」
「まぁねー」
春希が改めて感心した声を掛ければ、姫子も満更でもなさそうに鼻を鳴らす。
そこへ沙紀が、微笑ましそうに姫子へ言う。
「でも今日の姫ちゃん、ちょっと昔に戻ったみたいで安心しました」
「あぁそういや最近の姫子、やけに大人ぶってたもんな」
隼人も沙紀に同調するように苦笑すれば、春希は意外そうな目を姫子に向ける。
「へぇ、ひめちゃんそうだったんだ」
「うっさい、いいでしょ別に! ほら早く次のレースしよっ!」
姫子は気恥ずかしそうに唇を尖らせ、ぶっきらぼうにゲームの再開を促した。
◇
その後、姫子だけでなく他の3人も童心に返ってゲームで夢中になって騒ぐ。
たまにはこういうのもいいだろう。
やがて誰かの腹の音が、ぐぅと鳴る。
気付けば陽もかなり西に傾いており、そろそろ夕食の支度の時間。
ゲームが一区切りしたところで、姫子がさも当然といった風に春希へ問う。
「そろそろお腹空いたね。はるちゃん、今日は夕飯一緒に食べてくでしょ?」
「えっ、あー……いいのかな?」
「そんなのいいに決まってるでしょ。ね、おにぃ?」
どうやら久方ぶりのことで遠慮を見せているらしい春希に、姫子から話を振られた隼人は、気にしなくていいのにと思いながら答える。
「あぁもちろん。何か食いたいものでもあったら、言ってくれ」
春希はむむむと唸って思案した後、恐る恐るといった様子でリクエストを口にした。
「じゃあボク、餃子がいいな」
「おう、わかった」
◇
4人で連れ立ってスーパーで買い物し、夕飯の準備を開始する。
「俺は野菜を切るから。沙紀さんは――」
「私は調味料とかそのへんの準備をしますね」
「あぁ頼む。姫子は皿とかボウルを出してくれ」
「はーい」
「えっとボクは……」
「春希はお米をお願い」
「オッケー」
隼人が指示を出し、沙紀がサポートする形でてきぱきと夕飯の準備が進められていく。
いつもより多めに作られた餡を、4人がかりで和気藹々と包む。
出来上がったものをフライパンで小麦粉を溶いた水で蒸し焼きにし、綺麗な羽餃子へ仕上げる。余りものの野菜を利用しつつ、中華風卵スープ、それにみなもに貰った園芸部産の茄子の一夜漬けを並べれば、夕食の完成だ。
「「「「いただきます」」」」
皆で手を合わせて食べ始める。
ほどなくして春希が大皿に並ぶ餃子を見て、揶揄うように言った。
「相変わらずひめちゃんが作った餃子はどれか、すぐにわかるね」
「はるちゃん、うっさい!」
普段はあまり料理をしない姫子は、以前と変わらず歪な餃子を量産していた。
そのことを指摘された姫子が拗ねたように頬を膨らませていると、沙紀は姫子作の餃子を食べて助け舟を出す。
「でもほら、味は美味しいですよ」
「そりゃ中身はおにぃが作ったし、てか沙紀ちゃんそれ微妙にフォローになってない!」
「うっ」
姫子のツッコミに、皆から笑い声が上がる。
やがて夕食を食べ終えた頃、春希がしみじみと呟く。
「やっぱ霧島家で食べるごはんは格別だね」
「ならこれからまた、いつでも食べにくればいい」
隼人が優し気な声で言えば、姫子と沙紀もそれに続く。
「そうだよ、はるちゃんが居た方がごはんが美味しくなるしさ」
「私も1人のごはんが味気ないから、ずっとここで食べてますしね」
春希は皆の言葉を噛みしめるように目を瞑り、胸に手を当て心の裡を吐き出す。
「ふふ、そうする。あとこの餃子で、1人じゃないって実感できたし」
「うん? 普通の餃子だが?」
隼人がよくわからないといった顔で聞き返すと、春希はおかしそうに笑って答える。
「覚えてない? ボクが隼人とひめちゃんに1人ぼっちだってバレた時、強引にこの家に連れてきて一緒に食べたのが、皆で作った餃子だったんだよ」
「そうだっけ?」
なにぶん1年以上前のこと、記憶は曖昧だ。
春希は大事な秘密を打ち明けるよう、はにかみながら言葉を続けた。
「そうだよ。あの日、ボクにはもう隼人やひめちゃんがいるんだって思わせてくれたんだ。だから隼人が作ってくれるこの餃子が、〝思い出餃子〟になった」
「春希……」「はるちゃん……」「春希さん……」
春希が如何にこの〝思い出餃子〟を大切に思っているか、伝わってくる。
隼人はあの時、春希をあの1人の家から強引に連れ出したことは間違いなかったと、少し自分を誇らしく思う。
そして春希はこの少々しんみりしてしまった空気を吹き飛ばすべく、華やかな笑みを咲かせて嘯いた。
「芸能界とかお母さんのこととか終わってさ、ボクはやっとあの日に帰って来れたみたい。だからね――ただいまっ!」





















