394.対戦
お昼も近付き来客も増えてきたタイミングで、お開きになった。
一輝も手間取りそうなものは粗方、写し終えたようだ。
皆と別れた後、帰る方向が同じ春希と沙紀は、そのまま霧島家へとやってくる。
春希が久しぶりに姫子にも会いたいと言えば、断る理由もない。
玄関を上がるなり、春希は懐かしさを滲ませた声を上げた。
「うーん、ここに来たのなんだか久しぶりかも」
「そりゃ春希がアイドルになってから半年以上、一度も来てなかったしな」
「あんまり変わってないね。あ、ひめちゃんは?」
「まだ帰ってないっぽい。姫子の学校ここから結構かかるし、時間的にお昼どこか寄って帰って来るかも。とりあえずメッセージだけでも送っとくか」
隼人は適当な場所にスクールバッグを置き、スマホで姫子へ春希が家に来て会いたがってる旨のメッセージを送る。そう遅くならないうちに帰って来るだろう。
さてそれまでの間、どうしたものか。
時刻的にいつもならお昼を用意する頃合いだが、先ほどハンバーガーショップで軽く食べたということもあり、さほどお腹も減っていない。
微妙に手持ち無沙汰だなと思っていると、春希が自分のスクールバッグからあるものを取り出し、にやりと笑う。
「じゃ、ひめちゃんが帰ってくるまでこれやんない?」
「あ、それ最新のゲーム機。買ったのか、ていうか学校にも持ってきてたのかよ」
「ふひひ、持ち運べるサイズだからね、ついこないだ買ったんだ。今日はこういうこともあろうかと思って仕込んできた! 隼人はまだ持ってないよね?」
「あぁ、それなりのお値段するからな。伊織は買ってたけど」
「てわけで対戦しよう。ほら、沙紀ちゃんも一緒に」
話を振られた沙紀は、少し躊躇いがちに答える。
「えっと私、あまりゲームしないので、うまくできるかどうか……」
「大丈夫だよ、ボクだって買ってからまだほとんど遊んでないし、隼人だって今日が初めて。やり方なら教えるからさ、一緒にやろ?」
「そういうことでしたら」
全員初心者のようなもの、そう言われると沙紀も安心したように頬を緩めた。
春希はいそいそと慣れた手つきで、霧島家のリビングにあるテレビにゲーム機を接続していく。その間、隼人は沙紀と共に、飲み物と買い置きのお菓子を用意する。
ほどなくして準備が終わり、テレビ画面に見慣れたゲーム会社のロゴが映し出され、軽快なBGMが流れ始めた。
春希が持ってきたソフトは、昔からよくプレイしてきたレースゲームの最新作。
そういえばゲームも随分と久しぶりだ。
胸をわくわくと弾ませながらコントローラーを手に取り、テレビ前の適当なカーペットの上に腰を下ろす。
すると、すぐ隣に同じくコントローラーを片手にやってきた春希も腰を下ろしてきた。
「よいしょっと」
そこまではいい。並んでゲームをするなんて、いつものことだ。
だけど今日に限って、その距離がやたら近い。
というか完全に肩やら足もぴったりとくっついている。
「おい春希、近いって」
「え、いつもこれくらいじゃなかったっけ?」
「んなわけあるか、腕とか当たって普通にゲームしづらいだろ」
「そうかな? ま、ボクは別に気にしないんで」
「いや、俺が気にするんだが」
隼人がやんわりと窘めるものの、春希はどこ吹く風と涼しい顔。
それにこれは、傍からはどこからどう見ても密着状態。
さすがにいくら気心が知れた幼馴染とはいえ、相手はアイドルとして人気を博すほどの容貌を誇る異性なのだ。ドギマギするなというのが難しい。
また、沙紀の目もある。自分へそれなりの思いを寄せている沙紀が、この状況を好ましく思わないことがわからないほど、デリカシーに欠けていない。
隼人が後ろめたさを感じていると、その沙紀もまた隼人の空いている方の隣へ、ぴたりと密着するように座ってきた。
「失礼しますね」
「って、沙紀さんも!?」
「むっ」
思わぬ沙紀の行動に隼人はたじろぎ、春希は目を丸くする。
沙紀はといえば気恥ずかしそうに頬を赤くしつつも、毅然とした声で言う。
「ほら、私はゲーム自体初心者ですし、操作の仕方とか教えていただかないといけませんので、すぐ近くの方がいいかなと思いまして」
すると春希は頬を引き攣らせながら答えた。
「隼人もこのゲーム初めてだからさ、教わるならボクの隣の方がいいんじゃないかな」
「いえ、同じ初めてならお兄さんから教わった方が、一緒に上手くなれていいんじゃないかなと思いまして。あと純粋に私が、お兄さんに教わりたいです」
「へぇ、そっかー」
「ふふっ」
隼人を挟んで不敵な笑みを浮かべ、バチバチと視線で切り結ぶ春希と沙紀。
一体どうしてこんなことをと思いつつ、隼人は肩身を狭くしながら強引に話をゲームの方へと切り替えた。
「とりあえず、ゲームしながら操作覚えていこうぜ」
そして春希の軽い説明の後、皆でゲームを開始した。
操作自体はさほど難しいものじゃない。
しかしギミックやアイテムのランダム要素もあって、単純なゲームの腕以外でも勝敗を大きく左右する。
そういう部分での読み合いは、プレイしている人が仕掛けてくるところなどで性格がよく表れていることもあり、白熱するところだ。
そしてある程度操作やルールを覚えたところで、本格的に勝負をすることに。
「え゛っ、沙紀ちゃんこのタイミングでそのアイテム引く!?」
「運も実力のうちですっ!」
最初の剣呑な空気はどこへやら、春希と沙紀はすぐさまゲームに夢中になった。
さっきから隼人も加え、一進一退の攻防を続けている。
「…………」
だが隼人は、なんとも仏頂面でゲームをしていた。
楽しくないというわけじゃない。現にゲームにこれ以上なく集中している。
なぜか隼人がこういう顔をしているかというと春希と沙紀が、ゲームをすると操作するキャラクターに合わせて身体が動いてしまうタイプだというのが、問題だった。
2人とも隼人と密着していることもあり、そりゃもう動けば動くほど、身体のあちこちが当たる。それこそ、当たってはいけないような膨らみとか当たってしまう。そして春希も沙紀もゲームに夢中になっていて、そのことに気付いていないというのがタチが悪い。
彼女たちの身体の柔らかさ、異性の香りが鼻腔をくすぐり、気を抜くと意識が2人に侵食されてしまう。だけどそれをわざわざ指摘するのも、自分だけが春希と沙紀を意識していることを認めることになり、なんだか負けた気がして。
だから隼人はこうして、無心でゲームに集中するという選択肢を取った。
現在ゲームはレースの終盤、決着までもうすぐだ。
ここまで集中しているのなら、どうせなら1位を取りたい。
そんな感じで差し迫った最終コーナー。
全員僅差ながら3番手という微妙な立ち位置にいた沙紀が、どうにか挽回しようと勢い余って、思いっきりこちらに身体を傾けてきてそれが起こった。
「これで――きゃっ!?」
「おわっ!」
「このっ――んなーっ!?」
ドシンと大きな音を立て、床の方へ重なるように倒れ込む沙紀、隼人、春希。
春希もまた沙紀同様に思いっきり身体を動かしていたこともあり、揉みくちゃ状態。
「わわ、ごめんな――あっ!」
沙紀が慌てて身をどけようとするも、3人の身体が絡まり合ってうまくいかない様子。
そんな中、春希が面映ゆい声で呟く。
「ちょっ、隼人、どこ触ってんのさっ……えっち」
「お、お兄さん!?」
「ま、待て待て待て、不可抗力だ、わざとじゃないっ!」
隼人は自分でもどこを触っているのかわからず、ただただあたふたしてしまう。
すると今度は沙紀が身を捩らせ、艶めかしい声を上げた。
「や、ぁん……あのそのお兄さん、そこをそういう風に触るのはシャレにならないというか、まだ早いと言いますかっ」
「ええ゛っ!? 待ってごめん、って、俺は動いてないから」
「じゃあこれって……」
「あ、それボク。ほー、これが沙紀ちゃんの感触」
「は、春希さんっ!?」
「うししっ」
なんだか混沌として収拾がつかなくなっていく。
テレビからはずっとゲームのBGMがループしている。
とにかくまずは落ち着き、体勢を整えねば。
「いいから、ゆっくりと身体を――」
「――ゆっくりと身体を何? てかおにぃたち、何やってんの?」
するとその時、ぴしゃりと冷たい声を浴びせられた。
隼人、春希、沙紀が声の方に顔だけ向ければ、冷ややかな目で腰に手を当て、こちらを見下ろす姫子の姿。
「あー、これはアレだよ、アレ」
「えっとそのアレだね、アレ」
「あ、あはは……アレ、ですね」
気恥ずかしさから笑ってごまかす面々に、姫子はこれ見よがしに特大のため息を吐く。
「ったく、アレって何さ! 沙紀ちゃんまで一緒になって、もぅ!」
親友からの呆れた反応に、これ以上なく顔を赤くする沙紀だった。





















