393.進路
本日、始業式の他はSHRだけである。
担任教諭から簡単な注意事項と、進路についての話が触れられ、それでもう終了だ。
昼というには早すぎるけど、朝というにはもう遅い午前10時過ぎ。
折角久しぶりに皆で顔を合わせたのに、このまま帰るには勿体ないということで、春希の発案で駅前にあるハンバーガーショップに寄ることになった。
隼人と春希、伊織に恵麻、みなもに一輝、そして沙紀の合計7人になる大所帯。
丁度モーニングからレギュラーメニューに切り替わったばかりの店内は、平日ということもあって閑散としている。
それでも一応、外からは見えにくい奥まった場所の一画を陣取り、フライドポテトやオニオンフライ、ナゲットの盛り合わせを注文してシェアしながらお喋りに花を咲かす。
ちなみにこれらは一輝の奢りである。
その報酬として、夏休みの課題を写させてもらっている形だ。
話題は主に夏休みに何をしていたかについて。
隼人は月野瀬に帰省した他は、バイトに勉強、たまに伊織に声を掛けられ集まって、誰かと一緒に街に繰り出して遊んだりした程度。あとたまにティンクルの非公式ファンクラブの活動(茉莉からの呼び出し)。
他の皆も似たり寄ったりで、一輝はモデルの仕事漬け、みなもが父と祖父と3人で京都へ旅行したくらいだろうか。
そんな中、伊織がこの夏に始めた意外なことに、隼人は驚きの声を上げた。
「伊織、予備校通い始めたのか!?」
「あぁ夏期講習に参加して、そのまま通うことにしたんだ。家だとすぐゲームしたり漫画読んだりサボりがちだからさ、まずは予備校で勉強する習慣を身に付けるためにな」
どこか気恥ずかしそうに頭を掻く伊織に、隼人だけでなく皆も感心した息を吐く。
隼人は続けて、気になったことを訊ねる。
「やっぱ、大学受験見据えて?」
「まぁな、うちの店のためってわけじゃないけど、食品とか栄養のこと、しっかり学んでみようと思って。恵麻が目指してる大学にもそういう学部あるけど、オレの成績だと今から頑張らねーと厳しくてさ」
「はぁ、なるほど。って、伊佐美さんにはもう目指してる大学とかあるんだ?」
伊織の口振りから、恵麻はもう明確に目指しているところがあるらしく、興味を持った皆の視線が一斉に恵麻へと向かう。
すると恵麻ははにかみながら答えた。
「うん、私は経営学を本格的に勉強したくて。だからそれに強い大学をね」
「経営学?」
恵麻の口から意外な志望学部が飛び出し、思わずどういうことか聞き返す。
皆も頭上に?マークを浮かべている。
恵麻はちらりと伊織を見た後、照れくさそうに理由を口にした。
「えっと、和菓子作りとかは苦手でも、お店の経営方面では私でも手伝えるから」
そして伊織もちらりと恵麻を見てから、言葉を引き継ぐ。
「店の経営は恵麻、オレは現場、そんな感じで役割分担するのも、いいかなって」
「私もいーちゃんにはいいものを作るのに、専念して欲しいから」
「恵麻なら安心して、店のこと任せられるし」
「いーちゃん……」
「恵麻……」
伊織と恵麻はいきなり惚気だし、ぴったりと肩を寄せ、手を握り、視線を絡ませ甘い声で互いの名前を呼び合い、2人の世界を作りだす。
ここ最近見慣れた光景に、あぁまたかと呆れたように眉を寄せる隼人たち。
しかしそんな中、やけに驚いた様子の春希が、共感性羞恥を発揮したのか顔を赤くしながら小声でこっそり訊ねてくる。
「(もしかしてあの2人、外でもこの調子なの!?)」
「(あぁ、今は人目も少ないしな)」
「(にしても、ベタベタしすぎじゃない?)」
「(ははっ、もう慣れた)」
そういや春希は朝の待ち合わせの時や昼休みの秘密基地で、隙あらば朝の待ち合わせや昼休みの秘密基地でいちゃつくバカップルぶりを知らなかったなと、隼人は苦笑する。
春希は沙紀、みなも、一輝へ真偽を確かめる視線で訊ねれば、皆からも肯定の苦笑いを返され、あ然としてしまう。
とはいえ伊織と恵麻は進路について、真剣に考えているようだ。
年明けから色々春希のことで振り回されていたが、高校2年の2学期となれば、そろそろ受験を意識してもおかしくはない。ましてや進学校となれば、なおさら。
隼人はもう1人、進学先を定めようとしているみなもへ水を向けた。
「みなもさんは農学部志望だっけ?」
「はい、わたしも野菜を育ててるうちに、その生産や改良、環境や流通とかを学んでみたいと思いまして。まだ自分の中でふんわりしていますが、ゆくゆくはそれらの中で興味を持った分野へ進んでいきたいなと。先日、農家さんと話して自分でも農業関係で何か出来ることがしたいと、強く思うようになりました」
「そうか、みなもさんも進路のことしっかり考えててすごいな……」
伊織に恵麻、みなもたちはしっかりと自分の将来を見据え、まっすぐ進んでいる。
そんな友人たちが眩しく見え目を細めていると、伊織がこちらに話を振ってきた。
「そういう隼人は進学先とかどうすんだ?」
「俺は特にやりたいこととかないし、とりあえずできるだけいい大学行って、選択肢を増やす感じかなぁ」
「わ、私もそれくらいしか考えてません」
沙紀も恐縮しつつ、隼人に同調してくる。
また一輝も、課題を写す手を止め自分の意見を述べた。
「それが普通というか、ほとんどの人がそんな感じじゃないかな? 僕もモラトリアムのために進学って感じで考えてるし」
それを聞いた春希は意地の悪い笑みを浮かべ、一輝を揶揄う。
「海童は進学の前に、ちゃんと進級しなよね」
「うぐっ」
手痛いところを突かれた一輝が頬を引き攣らせると、周囲から笑い声が上がる。
そして春希もまた、進路に関して言う。
「ま、ボクも隼人や沙紀ちゃん、海童と同じく将来に備えて進学かな」
「春希さんや海童さんもですけど、アイドルやモデルの方に専念するっていうのは?」
沙紀が皆が気になっているだろうことを何の気なしに訊ねると、春希は一輝と困ったように眉を寄せて言う。
「アイドルやモデルなんて、いつまでも続けていられるわけじゃないでしょ。人気が落ちれば終わり。それこそ3年後とか、元、になってることだって十分あり得るし」
「あー、現実的なことを考えると進学した方が将来的に、ってことですか。スポーツ選手が引退した後のことを見据えてな感じといいますか」
沙紀が感心したように相槌を打つと、春希は「まぁね」と言って肩をすくめる。
するとそこで何かに気付いたのか、「ぁ」と小さく声を上げた。
「でも、なりたいものはあるかも」
「へぇ、何なんだ?」
隼人が興味深そうに思って訊ねると、春希は沙紀に意味ありげな視線を送ってから、悪戯っぽい笑みを浮かべて答えた。
「ないしょ」





















