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3.終わりと始まり 3

「はぁ~、嫌になるわねホント」

 王宮の自室に戻ったシーダが心底疲れたようにソファに座る。

「姫様、そのような座り方をされてはドレスにしわが・・・」

 同じくドレスに身を包んだ女騎士のアーデがそう言ってシーダを嗜める。

「でも確かに疲れました・・・。城に戻って来てから毎日パーティですから」

 シーダに同意しながらもソファに行儀よく座るソフィスティアは、聖女と言ってもまだ13歳という事もあって余計に気疲れしているようだった。

 もっともドレスが作る胸の谷間は最年少でありながら誰よりも深かった。

「本当よねぇ。私もいい加減もらうものもらって研究に耽りたいのだけれど・・・」

 女魔法使いのウルザは年齢以上に妖艶なその肢体をソファにもたれさせ、気だるげにしていた。

「むぅ・・・」

 シーダは体面に座るソフィとウルザの胸元を見た後にこっそり自分のものと見比べる。

 シーダも年相応の成長をしていて均整のとれた体つきをしているのだが、年齢にそぐわないものを持つ二人に対し何となく劣等感を覚えるのであった。

「仕方あるまい。姫様がパーティに呼ばれる以上、私達だけ欠席をする訳にもいかないのだから」

 シーダは傍らに立つアーデの方を見る。

 アーデもまた、普段は鎧で隠れている為わからないがかなり大きかった。

「姫様、どうかなさいましたか?」

「・・・いいの。気にしないで」

 胸の大きさなんて今まで気にした事が無かったのにこうも気になるのはパーティで男達から向けられる不躾な視線のせいであった。

(そう言えばあいつも・・・たまに見てたわよね・・・)

 シーダは旅の途中、ルディが時々自分達の胸元を見ていた事に気づいていた。

 あの頃は気にするほどの相手でも無かったしいやらしい感じは殆どしなかったから無視していたのだが、今はどうだろう。

(ルディも・・・やっぱり胸の大きい女の子が好きなのかなぁ・・・)

 と、そこまで考えてシーダは頭を横に振った。

 考えても仕方が無い。ルディはもう死んだのだから・・・。

「・・・ルディの事を思い出しておいでですか?」 

 アーデの言葉にシーダが驚いて反応する。

「べ、別にそんな事!」

「ルディ兄様・・・」

「・・・・・」

 アーデの言葉にシーダは慌てるが、ソフィやウルザもどうやら思い出していたようだ。


 国王への報告の後、四人にはそれぞれ変化があった。

 一番大きな変化はソフィがルディの事を『ルディ兄様』と呼ぶようになった事だろう。

 以前は他の人に声をかけるのと同様に『ルディさん』だったのが、今ではルディの事を語る時には必ず『ルディ兄様』と呼ぶようになった。

 魔王討伐の旅の途中、ルディはひと際年の離れたソフィスティアをまるで妹のように気にかけていたから心境の変化でソフィがルディの事を『兄様』と呼ぶのはおかしくないかも知れない。

 ウルザはと言うと、ルディの話題が出ると口数が少なくなるようになった。

 旅の間はルディの事を、それこそ自分専用の小間使いのように扱い、雑用などを押しつけていたからその事を後悔しているのかもしれない。

 アーデは一見すると何も変わっていないように見えるが、以前よりも練習に熱が入っているように見える。

 そして以前はそれこそルディに対して何の感情も見せなかったのが、今ではルディの事を語る時にはどこか哀しそうに、しかしそれを隠すように優しい感じで話すようになった。

 シーダはと言うと事あるごとにルディの事を考えるようになった。

 何か迷う事がある度にルディは、ルディならと考え、そんな自分に気づいて恥ずかしくなり色々誤魔化そうとしていた。

 

 だけど日に日に積もっていく思いは段々と大きくなっていく。

 シーダは自分がルディの事を好きになっている事をはっきりと自覚していた。


「本当に・・・何で死んだのよ、アイツ」

 シーダの呟きに全員があの時の事を思い出す。

 ルディは常々言っていた。


『最後まで絶望に抗い、最初に希望を届ける者。それが道化師なんだ!』と。


 道化師の仕事は人を笑わせる事、楽しませる事。

 自分が笑っていなければ他人を笑わせる事など出来ない。

 だからこそ苦しい時こそ笑って、人を笑わせて、微かな希望を探すのだ。

 そうでなければ道化師などいる意味が無い、と。

 ルディは最後まで言葉通りに生き、決して諦めようとはしなかった。

 『トリックスター』というスキルがあっての事とはいえ、最後まで仲間を支えようと彼は彼なりに頑張っていたのだ!

 そこでふと思う。

 あそこまで他人に『諦めるな』と言っていた人間が自分の事だとあっさり諦めるのか、と。

 もしかしたら何らかの方法が見つかっていてそれで助かり、世界のどこかで生きているのではないかと。

 それはあるはずもない希望。こうあって欲しいと願う願望が生み出した妄想に過ぎない。

 だけど何もしないでただ王宮で愛想を振りまいているくらいならルディを探して旅をする方が遥かにマシだと思えた。


「私、ルディを探しに行くわ」

「姫様!?」

 シーダの突然の発言にアーデだけでなくソフィとウルザも驚く。

「だってあんなにも諦めの悪い人だったのよ。自分の命を懸けてでも絶望に負けなかった強い人なのよ!だったら自分の死くらい覆してどこかで生きてるとは思わない?」

「姫様、それは流石に無理が・・・」

「そうかもしれない」

 シーダの言葉に最初に同意したのは意外にもルディに蘇生魔法を使った当の本人であるソフィであった。

「兄様は最後、女神様の御許に召されました。ならもしかしたら兄様は女神様の使いとしてこの世界のどこかに復活しているかもしれない」

「・・・面白い話ね。少なくともこの城で話しかけてくる貴族のお坊ちゃん達の話よりはずっと面白いわ」

「ソフィ!ウルザまで!!」

「ソフィの言う通りよ。ルディの亡骸は消えてしまったんだもの。だったらどこかで甦っていたとしてもおかしくはないわよね!」

「ですが歴史上死んだ人間が生き返ったなど殆どありません!蘇生魔法にしても確率は低いのですよ?」

「何事も起きていないからといってこれから起きないとは限らないわ!あぁ、そうと決まったらこんな動きにくいドレスなんかさっさと脱いで城を抜け出すわよ!・・・アーデ、あなたはどうするの?」

「・・・私は騎士です。騎士ですが私の忠誠は既に姫様に捧げています!姫の御側こそ私の居場所です!!」

 そう決意をあらわにするアーデにシーダは苦笑する。

「正直じゃないわね」

「本当ですね」

「鎧を着こんでいるから頭まで固くなったんじゃなくて?」

「何だとウルザ!?」

「ほら急ぐんだからさっさとして!日付が変わる前にここを出るわよ!」

 こうして姫勇者一行は旅の支度を整えると、人知れず城を抜けだしたのであった。

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