SS5「トモエの戦闘服」
いつも見に来ていただきありがとうございます。
お待たせしましたがようやく新作をお送りできます。楽しんでもらえたら幸いです(笑)
ソフィスティアとトモエが買い物に出かけてから数日が経った。
ソフィはあの日の晩、買って来た服に着替えると早速ルディの前で披露し、ルディから『可愛いよ』『よく似合ってるね』と言われて上機嫌だった。
今まで聖職者として年頃の少女たちの様に着飾る事の無かったソフィは初めて『好きな異性の前で着飾る喜び』を知り、あれ以降、同じ年頃のアヤメやリリオ達と服やアクセサリーについて色々話を聞いている姿を見るようになった。
ルディはそんなソフィ達を微笑ましく見守っていた。
「ルディ……そうしているとまるで孫を見守るおじいちゃんみたいよ」
「そんな年じゃないよ!」
そんなある日の晩、ルディを始め女性達に思いがけない激震が走った!
それはルディが夕飯の準備を始めようとしていた時だった。
いつもなら調理を手伝ってくれているトモエの姿が見当たらなかった。
「シーダ、トモエを知らない?」
「トモエなら『鍛錬で少し汗をかいたので着替えてきます』ってさっきテントに入ってたわよ」
トモエはシーダやアーデ、サラ達との鍛錬を日々怠らない。それはトモエに限らずパーティメンバーはルディとソフィ、リリオ以外は常に鍛錬の時間を設けていた。
その間ルディ達はと言えばルディは雑用の合間に道化師として芸の練習、ソフィは祈りや教典の勉強、リリオは氣功術の修練とやはりそれぞれ時間を過ごしていた。
だからルディも気にすることなく「なら先に準備だけ済ませておくか」と食材や道具を準備し始めた。
「ルディ様、すみません。遅くなりまして!」
「いや大丈夫だよトモエ。気にしないで……!?」
トモエの謝罪の声に笑いながら気にするなと声をかけて振り向いたルディは、思わず動きを止めた。
周りにいた他のメンバーもまた、トモエの姿を見て驚いて動きを止める。
「すみません、気慣れない服なものですから思いがけず時間がかかってしまいました……ルディ様?」
ルディ達の前に現れたのは正統派な『メイド衣装』に身を包んだトモエだった……。
腰まで伸びた黒髪に映える白いプリムに白のフリルで襟元や袖口をまとめたモスグリーンの長袖とロングスカート。
大きな白いエプロンも身に着けたその姿はいつものどこか凛々しい佇まいが鳴りを潜めた清楚で従順な女性らしさを感じさせる格好であった。
「トモエ……その格好?」
「はい。実は先日、ソフィさんとの買い物の際に見つけまして、お料理やお掃除をする際に着るのにちょうど良いと思って思い切って買って来たんです。……変ですか?」
そう言ってわずかに不安そうに小首をかしげるトモエにルディは何故か顔を赤らめながら必死で否定する!
「そ、そんなことない!凄く、凄く似合ってるよトモエ……」
「あ、ありがとうございます……嬉しいです……」
そんなルディにつられるようにトモエもまた顔を赤くし、気が付くと他のメンバーたちの前には二人だけの空間を作り出したルディとトモエの姿があるのであった。
「ルディって……メイドが好きだったのかしら?」
「世の中には特殊な性癖を持つ男性もいるとは聞いていましたが……まさかルディもとは……」
シーダは王女、アーデも騎士とはいえ元々は貴族令嬢。メイドは常に身近にいて、なんら物珍しいものではなかった。
だからなぜルディがメイド服を着ただけのトモエにあそこまで動揺しているのか彼女たちには理解できなかった。
「確かに王族でも貴族でも美しいメイドに手を出して子供を産ませるという話は枚挙にいとまがないものね。実際、私も貴族の屋敷に潜入した際にメイドに扮した時には好色な主や子息から色目を使われたりしたものだわ」
「ああ、やっぱりそういうのあるんだぁ。でも男の人じゃなくてもメイドさんってちょっと憧れるよねぇ」
「うん。着ている服も可愛いし、テキパキと動いてカッコいいし、上品な大人の女性って感じがするもんね」
「私はああいう窮屈な服はあまり好きではないわね。もっと色々自由な服がいいわぁ」
「私はむしろ好きです。あまり派手な衣服よりも質素でありながら清潔感のある服の方が好ましいと思います」
サラとアヤメにリリオ、ウルザとソフィはそれぞれ思い思いの感想をもらしていた。
「……私がメイド服を着たら、トモエみたいにドキドキしてくれるのかなぁ?」
「シーダ様には他にお似合いの服がおありになると思いますよ?」
ぽそりとつぶやいたシーダの傍にはいつの間にかトモエが立っていた。
「うわぁ!」
「ウフフ……。もしよろしければ今晩、皆さんお話しませんか?ルディ様が寝てしまわれた後で……」
その日は結局寝るまでトモエはそのままの姿だった。
そして服装に合わせるかのようにメイドらしくルディに甲斐甲斐しく尽くし、ルディは終始ドキドキして眠りについた。
この日はルディを寝かせるためにお酒も出してルディに飲ませたため、一度眠るとルディはそのまま朝まで起きる気配はなかった。
そこでトモエは女性陣を集め、トモエによる『女の戦闘服講座』を開催した。
「好きな殿方に対し、時々印象を変える事で相手により深く意識させる。そのための手段として衣服を利用することはとても有効です」
と前置きして解説に入るトモエ。
「今回の場合、普段から東の装束を好んで着る私が敢えてこの国の装束を着る事で相手が持つ印象を揺さぶる事が出来ました」
「その効果は見ていてよくわかったわ。でもこの国の装束を選ぶのに何故メイド服を選んだの?」
「良い質問ですシーダ様。印象を変えるためとはいえ何事もやりすぎるとかえって逆効果になります。例えばシーダ様が突然酒場の女性のような格好をしてルディ様の前に出たら、きっと何事かと強く思われるでしょう。
大事なのはその人の持つ『本質』を活かして、外見だけ変える事です。
私の場合は国にいた際に母から花嫁修業として『殿方に尽くす女性の在り様』を学んでいました。それは私自身の核となっていますから今から殿方をないがしろにするような真似は出来ませんししようとも思いません」
「トモエのいた島国は特に男尊女卑の強い国だもんねぇ」
「私達もお母さんから将来の妻や母としての振る舞いは教わったけどトモエさんほど厳しくなかったもんね」
アヤメとリリオの言葉にトモエはにっこりと微笑む。
「確かに教えは厳しかったですが妻として、母として、美しくあり続けた母上の姿は私の理想でもありましたから苦にはなりませんでしたよ。
少し話がそれましたが私は私自身の本質を活かすのに最もふさわしいものは何かと考えて、その結果選んだのが『メイド服』と呼ばれるこの給仕服でした」
「確かに夫に尽くすというのはある意味、主人に奉公するというメイドの在り様に通じるものがあるかもしれない」
「アーデさんのいう通りです。本質は普段の私のまま、なのに外見は普段とは全然違う姿。もちろん似合っていなければ左程の効果もありませんが似合っていればどれだけ効果があるかは……もう皆さん、お分かりかと思います」
確かにルディはメイド服姿のトモエにはっきりと目を奪われていた。本人は隠そうとしていたが端から見ればバレバレだった。
「このように好意を持つ殿方に振り向いてもらうために着る服こそが女にとっての『戦闘服』です。普段から着ていては慣れてしまい効果が薄まりますが相手の隙を伺いここぞという時に攻め立てる時にはとても効果があります。
……将来的にはその、よ、夜の営みにも役に立つと母上が……」
その言葉に純粋培養で未だそういう知識のないソフィ以外が、言った本人も含めて、全員顔を赤くする。
「ま、まぁ、言いたいことはわかったわ!でも自分の本質を変えずに外側の印象だけを変える服って、なかなか浮かばないわね……」
「シーダ様でしたら普段は『勇者』としての印象が強いですから逆に『姫』としての印象を強める服を着られるだけで十分効果があるかと思います。『勇者』にして『姫』というシーダ様のみが持つ二つの側面を上手に活かしてみればよろしいかと。
アーデさんも同じく『騎士』にして『令嬢』なのですから普段の凛々しい佇まいを少しだけ緩めて、『令嬢』らしい華やかさを前面に押し出せば良いでしょう。
ソフィさんの場合は私の国の女性の聖職者が着る『巫女服』に着替えるといいかもしれません。聖職者の方の服装ではありますがとても可愛らしく、私もお手伝いで着させていただいた折には不謹慎ながらとても気分が高揚したことを覚えています」
「そっか。確かに『勇者』の私も『姫』の私もどっちも私だものね。むしろ旅に出るまでは『姫』としての私が素だったしね。良いかも♪」
「なるほど。騎士になる時に貴族令嬢としての自分は捨てたつもりでいたのだが、無理に捨てる事もないという事か。これは面白い」
「白の上衣に緋色のハカマ?というスカートのようなズボンですか?色のコントラストも目に鮮やかで素敵ですね!いつか着てみたいです!」
「……私はどうしたらいいかしら?」
「男性の心理を利用する衣服の可能性……なかなか興味深いわ」
「ねぇねぇトモエ、私だとどうかな?」
「ズルいお姉ちゃん!私も相談に乗ってくださいトモエさん!」
こうして少女たちの『女の戦闘服談義』は夜遅くなっても一向に冷めやらず、盛り上がっていくのであった。
ちなみにこの日以降、ルディは何故だか身近の女性たちにやたらとドキドキするようになり、『体に異変が出てきたのだろうか?』と真剣に悩むようになるのであった。
次回投稿は未定です。SSの6作目か新ヒロイン登場の本編になるかと思います。
というかSSも最近本編みたいになってきましたが(笑)




