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SS6「アーデの習慣」

お待たせしました!どこまで続くかわかりませんがとりあえず新作をお届けします!(笑)

 アーデとアヤメはよく二人で訓練を積んでいる。

 訓練と言ってもアヤメの攻めをアーデが受けると言った感じの事が多い。これはお互いの役割が攻めと守りによるところが大きい。

 リリオも一緒に訓練をしたりもするがやはり実力が足りないので主にアーデとアヤメの訓練を横で見たり、けがをした時に手当をする事の方が多い。

「良い攻めですがまだまだですよアヤメ!」

「くぅ、固い!」

 アヤメは故郷では天才と言われるほどの拳法の達人だったが、やはり魔王を倒したパーティの壁役を一手に担ったアーデと比べるとまだまだ役者不足でなかなか攻撃が当たらない。

 もっともアーデの方にもそう余裕があるわけでもなく、気を抜くと容赦なく鋭い突きや蹴りが飛んでくるので内心でいつも舌を巻いていた。

 そんな二人だからこそ、この訓練は二人にとって実りあるものであった。


 訓練が終わってリリオから渡されたタオルで汗を拭いていたアーデがアヤメの方を見ると、アヤメはリリオの手で頭を拭かれていた。


「いいよリリオ、子供じゃないんだから!」

「ダメよ姉さん。私が拭かないと姉さんいつもいい加減で済ませるんだから!姉さんは髪も綺麗なんだからちゃんと手入れしなきゃダメ!」

「そんなの宿に泊まれた時にちゃんとやれば十分だって!」

「それは勿論だけど普段からちゃんと手入れもしておかないとすぐに髪が痛んじゃうんだからね!」

「フフッ……」


 そんな二人を見てアーデが思わず笑いをこぼしてしまう。


「な、なによアーデ!笑うことないじゃない!」

「ごめんなさい。あなたの事を笑ったんじゃないの。ちょっと昔を思い出して……」

 そう言って謝るとアーデは腰に付けた小物入れから一本の小瓶をアヤメに渡す。

「お詫びと言っては何だけどこれをあげるわ。私が普段使っている香油なんだけど、髪はもちろん肌に少量塗っても効き目あるわよ」

「わー、姉さんいいなぁ!」

「香油って柄じゃないけど、その・・・ありがと」

「女の子なんだから、戦いで勝つこと以外にも気を遣わなきゃね。って私が言えた事ではないのだけれどね」

「でもアーデさん、いつも寝る前に髪の手入れとか肌のお手入れちゃんとしてますよね。トモエさんもそうですけどいつも凄いなぁって思ってました。私も気にはしますけどどうしても手を抜いちゃうので……」

 リリオのそんな尊敬のまなざしをくすぐったそうにしながらアーデが昔話をする。

「昔は私もアヤメと同じ、いいえ、それ以上に自分自身に気を遣う事なんて無かったわ。私は姫様を護る騎士だし、魔王を倒す旅の途中で身だしなみなんていちいち気にしてられないって。半分女を捨てた感じだったわね」

「ウソ……」

「今のアーデさんからは想像もつかないです……」

 二人が絶句するのを横目に話を続ける。

「私が身だしなみを気にするようになったのは……ルディがきっかけなの……」


「アーデ!またそんなに傷だらけのままにして!手当てするぞ!」

「……こんなもの大したことない。かすり傷だ」

「かすり傷でも跡が残ったらどうするんだ!女の子は髪も肌も大事にしなきゃダメだ!」

 そう言ってはルディは寝る前に私の両手に塗り薬を塗っていくのがいつもの事だった。

 もちろん姫様を優先して手当てをしてもらっていたけど、敵の怒りを集中して受け止めるのが私の役割だったから生傷は私が一番多かった。

「今は魔王を倒すための旅の途中なんだぞ!いちいち手入れの為に必要なものなど持って歩くのも邪魔だし、どうせすぐに傷だらけになるのだからやるだけ無駄だ!」

 そもそもが家の反対を押し切ってまで騎士になる事を決めた時に女としての自分は捨てたつもりでいたから事あるごとに私を女扱いするルディの事が気に入らなった。

 だからその時はいつも以上にきつい言葉でルディに当たってしまった。

 するとルディはいつもの様に強く言い返すかと思っていたらそんなことは無く、急にどこか悲しげな口調でこう言った。

「アーデには魔王を倒した後にも人生があるんだ……。魔王を倒して平和な時間が長くなったら、アーデも鎧を脱ぎ、剣を置き、愛する人と家庭を持つかもしれない。

 その時に体中が傷だらけだったら周りの人が心配してしまうよ?」

「進んで死ぬ気はないが魔王は強大だ。姫様が負けるとは思わないが仲間を護って死ぬこともあるかもしないのにそんな先の事など考えられるか!」

「アーデは死なないよ。アーデ以外も誰も死なない。……決して死なせたりしない……」

「ルディ?」

 今思えばルディはもう、あの時には自らの死を受け入れていたのだと思う。だからこそ自分を大事にしようとしない私の事を歯がゆく思っていたのではないかな?

 そんな事を知らない私は、使命感に酔って随分と醜態を晒したものだと今は思う。


 それから少しして、ルディがとある小瓶を私に渡してきた。

「これは?」

「これは当方の国で髪などにつけたりする香油さ。これからは寝る前にこれをつけて寝れば髪が痛むのを防いでくれるよ」

「余計なお世話だ。むしろこのようなものは姫様にこそ差し上げるべきであろう!私などに……」

「アーデ、君は死にたいのか?」

「なに?」

「戦場で兵士たちが力を発揮するのは死にたくないからだ。生きて家族の下に帰りたいと思うから、必死になって戦うんだ。そうだろう?」

「そんなこと、貴様に言われるまでも……」

「だが君は違う。姫様を護るためなら死んでもいいと、むしろ姫様を護って死ぬために戦っているようにも見える。そんな奴が本当に誰かを護る事なんて出来るものか!」

「貴様ぁ!言わせておけば……」

「本当に姫様を護りたいと思うのなら死のうなんて考えるな!どんなに見っとも無くてもいいから生きて生きて生き抜いてみせろ!死なずに最後まで護って見せろよ!」

 あの時のルディの気迫は本物だった。

 単なるお荷物だと思っていたのにあの時はルディの気迫に負けて何も言えなかった。

「最後まで死なずに戦って、生きて姫様を連れ帰れよ!……そしたらさ、魔王もいなくなって、戦う機会も少なくなって、騎士としてだけじゃない。女としても自分の好きなように生きれる時間が訪れるかもしれない。そんな時に何の準備も無く『女の闘い』に立ち向かうつもりなのかい?」

 ルディが香油の入った瓶を私に握らせる。

「誰に言われたものでもない、自分の人生を生きたいと思ったから騎士になったんだろう?騎士になりたいと、自らそう思ったから。

 でも生きたいように生きるには力がいる。だから努力して今の強さを手に入れたんだろう?」

 そうだ。

 公爵令嬢として家の言いなりに生きて顔も知らない相手に嫁いで子供を産み育て生きていくというのが嫌だったから家を出て騎士を目指した。

 しかし騎士学校でも公爵令嬢の肩書がまとわりついて散々に悔しい思いをさせられた。

 だからこそ誰にも何も言わせないために、強くなろうと思って人一倍努力した!すべては自分が望む生き方をするために!

「人生は常に戦いの連続だよ。いざ勝負の場に立ったら『準備不足だから待ってくれ!』なんて通用しない。だから常日頃からあらゆる準備をしておくべきなんだ。

 騎士として、女として、あるいは一人の人間・アーデとして、護りたいものを自分の手で護るためにあらゆる戦いを想定して準備をしておく必要がある。

 身だしなみを大事にすることは余計な手間じゃない。次の戦いの為に必要な準備なんだ!

 ……魔王と戦って死ぬことなく生き続けると、大切なものを何一つ捨てずに生きていくと、そう自らに誓いを立てるための儀式なんだよ」


「その日から、私は毎晩もらった香油をつけるようにしたわ。

 すると自然と自分の体に注意を払う様になり、無理をさせすぎないように気をつけるようになってかえって怪我が減っていったわ。

 不調があれば早めに整えるようになったから私は常に万全の状態で戦えるようになった。

 そしてルディが言ったように毎晩私は誓いを新たにした。迷いや不安が生じても、誓いを立てる事で気持ちを強く保った。

 

 私は確かに強くなった!……それでも魔王には力及ばず、ルディを死なせることになったのだけれど……」

 

 アヤメとリリオはアーデの話を神妙になって聞いていた。

 単なるお小言ではなく実際にあった、それももっとも苦い教訓から得た話なのだから当然だった。

 そんな二人にしかしアーデは笑ってみせた。

「そんなに暗くなる必要はないわ二人とも。ルディは無事、とは言わないけれど私達の下に戻って来たし、あの時ルディが香油をくれたから今のこの状況下にあっても私は卑屈にならずに堂々とあなた達や姫様たちと肩を並べる事が出来るのだから!騎士としても、女としてもね」

 そう言っていたずらっぽく笑うアーデは女の身であるアヤメやリリオから見ても魅力的に見えた。

「私、アーデはもっと頭の固い人だと思ってた。真面目で、シーダ姫一筋で、親切だけどちょっとだけ近寄りがたい人だって勝手に思ってた」

「私もです。ごめんなさい。でも今日、アーデさんの話を聞いてとても優しい、もう一人のお姉さんのような人だって気付くことが出来ました!」

「別にいいのよ。私も勝手に世話の焼ける妹たちの様に見ていたから。ソフィは魔王討伐の旅でも一緒だったからどうしても妹って言うより仲間という意識が強いのだけど、あなたたちは私が丸くなってから出会った娘たちだからつい、ね?」

「私、今までお姉ちゃんとかいなかったから、妹って存在に少しだけ憧れてたから……嬉しい」

「私も、姉さんとは同い年だし双子だからちゃんとした年上のお姉さんが出来て嬉しいです!」

「……ありがとう。ねぇ?もし良かったら香油の使い方を教えるから私にあなたたちの髪の手入れをさせてくれないかしら。ダメ?」

「ううん、全然!」

「私も、良いんですか?」

「もちろんよ。足りなくなったら声をかけて。予備は幾つか常備してるから。それと……」

「なに?」

「私の事、これからは『姉』と呼んでくれて良いわよ?もちろん嫌じゃなかったらだけど……」

 そう言って顔を赤らめるアーデに二人は嬉しそうに返事をする。


「わかったわアーデ姉!」

「ありがとうアーデ姉さん!」


「なんか最近、アーデとアヤメやリリオの三人が凄く仲良くなった気がするんだけど……」

「なんでも最近『姉妹の契り』を交わしたそうですよ兄様。良い事ですね!」

「だからか。道理でここのところアヤメやリリオからアーデによく似た髪の匂いがすると思ったわけだ」

「……女の子の匂いを嗅ぐなんて失礼ですよ兄様」

「あ、そういうつもりは無くて」

「もしも女の子の匂いを嗅ぎたくなったら私に言ってくださいね?……恥ずかしいですけど兄様の為なら私……」

「いや、そんな趣味は無いから!それよりもソフィはアーデの妹にはならないの?」

「私はルディ兄様の妹だから良いんです。アーデの事ももちろん姉の様に慕ってはおりますが……」

「私はどうしたらいいのかしら?」

「ウルザかサラの妹にでもなったらシーダ?」

「はねっ帰りの妹なんて御免だわ」

「……私も、ソフィならともかくシーダに姉とは呼ばれたくないかな?そんなに年上じゃないし」

「私だってウルザの妹なんか嫌よ!サラを姉さんと呼ぶのは私も微妙……。ところでなんでトモエが入ってないの?」

「トモエはほら、姉というよりみんなのお母さん……」

「ルディ様?私、……そんなに老けて見えますか?」

 優しい笑顔の上にルディはトモエの故郷の演劇で使うと言われる『般若』お面を見た気がした。

「いや、あの、そういう訳じゃなくて、その……」

「ならどういう訳ですか?折角ですからいろいろお話いたしましょう?」

 気が付いたらルディの周りから人が消えていた。


 こうしてルディはこのあと夜まで正座で過ごすことになったのだった。

まだ頑張れると自分を鼓舞しております。気長にお待ちください(笑)

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