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坊っちゃまの朝


朝だ。カーテンの隙間から漏れる日差しに網膜が焼かれる。思わず寝返りをうってから、さらにタオルケットを頭の方まで勢いよくかぶった。

夏の朝は涼しい風が吹いていて気持ちがいい。この季節は涼しい早朝に起き出さなければもったいない。そう思うのだが、視界がぼやける起き抜けはどうにも瞼がくっついてしまって、再度意識が落ちそうになって困る。

視力の悪い方の片目を(すが)めて、目を光に慣らす。徐々にタオルケットをズラして直接窓の方を見る。

暑いからと一晩中窓を開けていたが、気持ちの良い風がカーテンを揺らしていた。まだ明け方が過ぎたくらいの時間なので、薄着のままでは肌寒さすらあった。

頭が覚醒してきたからか、遠近の距離感が気持ち悪くなって、サイトテーブルに置いた片眼鏡に手を伸ばす。装着して、視力が補正される気持ち悪さに頭を慣らして、そうしてようやくベッドから身を起こすまでが朝の一連の流れだった。


手早く朝の支度を済まし、使用人が朝食に呼びに来るまでの時間を予定の確認と勉強で埋めてしまう。

今日は父上が別件で通常の仕事を抜けるので、その間は僕が引き継がなくてはならない。普段も政に関わっているとはいえ、父と僕とでは管轄が少し違っていた。

代々家の仕事というものは引き継がれていくものではあるが、この家では才能と効率、技量や能力が優先される。つまり自らが一番動きやすい環境を整えていき、功績を残すことに重点を置いていると言える。であるので、大きな派閥を持っているのではなく、あちこちに顔が利く言わば渡り歩く相談役のような立ち位置であった。

そのため僕が父の仕事を引き継ぐには基礎知識だけでは足りず、最近はこうして早朝から勉強に追われていた。

最近発見されたという遺跡、その報告が届いた時から無意識下でそわそわしてしまっている。早く調査したいのになかなか暇が作れないでいた。


僕の仕事は主に環境、文化を保全し振興し、後世に伝えてるのが役目である。歴史を継承する意味合いもある。まあ全て自分の興味のあることをまとめた、やりたいことを仕事にしたというのが正しいだろう。

やりたいことをやるために勉強を惜しむことはしない。


「坊っちゃま、朝食の用意が整いました。」

「わかった、すぐ行くよ。」


一旦ここまで、ペンを置いて席を立つ。

さて、今日のご飯はなんだろう。集中力が切れた途端にキュルキュルと音を立て始めた腹を撫で、部屋を出た。




「お、リアム様今日はご機嫌が良いようで羨ましい!」

「からかわないでくれ。ただ朝食に好物が出て嬉しくなっただけだよ。」


屋敷の古株の庭師が外出しようとする僕に声をかけてきた。昔からこの家に仕えていたこともあって、小さい頃からよく面倒を見てもらっていた。使用人の中ではなかなか気安い関係を築いている一人だ。


「と言うと、今日はいつものお気に入りスープでしたか。」

「あんなに下処理の面倒なものを朝食に出してくれるだなんて、うちの料理長には頭が下がる。」

「俺らの食事にもまれにおこぼれが回ってくるんですが、あれは絶品ですな。」

「同じものを共有出来ているようで嬉しいよ。それじゃあ行ってくる。」

「お気をつけて!」


久々に外出するものだから夏の日差しに一瞬くらりとする。まだ昼前だと言うのにもう肌が痛いくらいだ。手で覆いを作って思わず空を見上げた。今日も蒼空に大きくはっきりとした雲が映えている。日差しの暑さは少々困るが、この空は好きだ。


さて、日が天辺まで登りきる前に目的地へ向かわなければ。そして早く片付けて、残りの勉強をしてしまおう。早く終わらせれば終わらせるほど、あの遺跡を訪れる機会が巡ってくるのだから。

美味しいものを食べて、やりたいことをするために少々の苦労も厭わない。そんな生活がたまらなく幸福で、得難いものだということを噛み締めて、今日も一日役目を果たすのだった。



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