雨の日の風邪っぴき
初冬の、凍るような雨が降っている中 雨宿りした先で俺はあの人と会った。
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その日は朝のうちに庭の手入れも終わり、暇ができたので休憩しようと思っていた矢先にお使いを頼まれ、休憩時間を台無しにされたことから、不機嫌になりながら街へと向かった。
えーと、買い物は……。
城で料理長のバルドさんから渡されたメモには とても俺一人では持てないでだろう量の品々が並んでいた。
・メモ
小麦粉 10kg
芋 2kg
野菜(何でも) 買えるだけ
東国で主食と言われている コメ というもの 3kg
塩 1kg
はぁ、こんなの持って帰れる訳が無い。
仕方が無いと諦めて、いっそのこと一気に買い集めることにした。
芋に野菜、コメに塩……あとは小麦粉だな。
これだけで既に腕は限界だった。いくら自分が男だと言っても、ここから 更に小麦粉を持って何キロもある城までの道を帰るのは苦労するだろうとは容易に推測できた。
それもこれも、元を正せばアイツのせいだ。
俺がお使いを頼まれたのは、急に客が来るから食事のメニューが変更されたとか何とかで、執事のハリスとかいう男がバルドさんに無理難題を押し付けたせいだ。
あの男は嫌味ったらしいし……なにより、クレイさんにベッタリだから、嫌いだ。
買ったものを両腕に抱え、そんなことを悶々と考えながら歩いていた。
そうしているうちに目的の店を通り過ぎてしまい、郊外の方まで出てきてしまっていた。しまった……こんな所、来るはずじゃなかったのに。
ここまで来るのにだいぶ時間が掛かっていたのか、初冬である今、既に夕日は沈みかけており、店や露店はそろそろ店仕舞をしている頃だろう。
そんな時、運悪く雨まで降り始めた。せっかく買ったものが濡れてしまう。俺は自分の体の方に荷物を引き寄せ、濡れないようにしながら雨宿りできそうな場所まで走った。
結局、小麦粉も買えていないし……。何やってんだろ、俺。
雨に濡れた服が体の熱を奪っていく。このままでは城に帰ることも出来ないし、風邪もひくことだろう。
最悪、だな……いや、自業自得かな。
ハリスのことにしろ、雨で立ち往生していることにしろ、 自分が上手く立ち回れていたならお使いも他の人が頼まれていただろうし。
もし、俺が行くことになったとしても補助で人数を増やして貰えただろう。何も言わずに引き受けた自分も悪い。
軒先で座り込み、腕に顔をうずめて自己嫌悪に陥りかけていた、そのとき、
「何、してんだ?」
雨宿りしていた建物からだろう、マフラーをした白衣の男が声をかけてきた。
*****
「ほら、こっち向けって」
雨で濡れていた髪を柔らかいタオルで丁寧に拭かれる。ある程度乾くとブラシで髪を整えられ、服まで貸してもらった。
「俺の服は大きかったか。まぁ、小さいよりかはマシだろ、着とけよ?」
ほい、っと目の前にマグカップが差し出される
暖かいココアだ。お礼を言って受け取り、一口飲む。
「美味しい……」
冷えていた体に火が灯ったような じわりとした暖かさが広がった。堪らずに一気に飲み干す
。
甘さは控えめであるのに何処か懐かしいような、昔に飲んだとこがあるような、そんな心を落ち着かせてくれるものだった。
「そりゃ よかった」
ついでに、眼鏡曇ってんぞ?と、笑いながら言われ少し恥ずかしくなった。最近、クレイさんに買ってもらった眼鏡だ。
まだかけ慣れていないんだ、仕方が無いじゃないか曇るものは曇るのだから。
俺を招き入れてくれたのはここの主、アレックスだった。彼は医者で、そろそろ病院を閉めようと 外に出たときに俺を見つけたらしい。
外の雨はますます勢いを増し、いよいよ城に帰るのは不可能となった。
なので、今日は泊まってけ という彼の言葉に甘え泊めてもらう事になった。
「ベット、あんまり数ねぇからオレんところ使ってくれ。オレは姉貴のを使うから。」
「俺はソファーでもよかったのに……」
「ちゃんとベットで寝ろって、唯でさえ今は冷えてんだ。ソファーなんかで寝たら確実に風邪引くって!」
「でも……」
あー、さみぃ!
と、口癖のように言いながらベットメイクを終わらせ、自分の寝床を譲ってくれた。
ありがたく使わせてもらおう。
「んじゃ、ちゃんと暖かくして寝ろよ?」
「え、でも今はそこまで寒くないし……大丈夫。」
「は? どう考えたって普通にさみぃだろ………まさか。」
部屋を出ていこうとしていたアレックスは踵を返し、俺に近づいてきて徐ろに額に手を当てた。
「あー、やっぱり 少しだけど熱いな。お前、基礎体温低い方だよな?……ってことは結構、熱あるのか。」
さっき雨に濡れたからだろう、熱が出ていたらしい。寝ていればすぐに治るだろうと放置しようとしていた時、
「ほら、突っ立ってないでさっさと寝とけ!
薬調合してくっから。まだ意識は落とすんじゃねーぞ?」
「えっ?」
「え、って何だよ。オレが直々に看病すんだ! だから、明日には治ってるだろ。」
肩を押されて強制的にベットに座らせられる。
ほら、毛布被っとけ! と 投げ渡された。
それを受け取ったのを見届けたアレックスは薬のために部屋を出ていった。
その後、テキパキと確実な看病をされたらもう 病人スタイルの完成だ。
「家に泊まらせてもらうだけじゃなくて、看病までさせてしまって……ごめん、なさい。」
「いーよ、別にオレが気にしてやっただけだし。」
本当に申し訳ない……。
その後、アレックスは体温で温くなった額のタオルを交換したり と、一晩中看病していてくれたらしい。
らしいというのは、俺が夜中に熱が上がってしまいあまり良く覚えてないってだけなのだが……。
「本当にお世話になっ……りました。」
「無理して敬語にすんな、タメでいい。」
「はい、じゃなくて...うん。」
ありがとう、と再びお礼を言えば頭をわしわしと掴むように撫でられた。
「あ、そういやアレ!」
「え、……。」
アレックスが今思い出した と言わんばかりの勢いで病院に駆け込み、戻ってくるときには大きな紙袋を持っていた。
「ほら、昨日言ってただろ? 小麦粉。」
「な、なんで……。」
「ほら、持って帰れって!あー、そりゃ城で出るほど高級なのじゃねーぞ? でも、質は悪くないからいけるだろ。」
昨日、寝てしまうまでに話したことを覚えていたのだろう。ちゃんと10kgの小麦粉が用意されていた。
「これ、持って帰ったら一応はちゃんとお使いしてきてる事にはなるだろうから怒られないだろ。」
「でも、そこまでしてもらうわけには……。」
「気にすんな。あ、ちゃんと代金は貰うけどな!あとこれ重いだろ、台車に乗せてけ。」
「うん、それはもちろん。ほんとに色々と、ありがとう。」
彼には昨日今日と、迷惑を掛っぱなしだ。
「今度はお礼、ちゃんとしに来るから。」
「別にいいのに………あぁ、待ってる。」
はぁ、と溜息をつかれたが気にしない。待っていてくれるということなので また後日、ちゃんとお礼をしに来よう。
こんな出会いがあるのなら、たまには雨もいいかな。




