フォール・オブ・ドミニオン 後編
今回、少しよろしくない表現が入っております。
よかったら一読後、感想その他を残していっていただけると嬉しいです。
2時間後……
『とても信じられない事態となりました。ここパイラン島では、いまも現場は混乱が続いています。詳しい状況は、まだデュポン社から出されておりませんが。
現場に流れる噂によると、Dr.マキシマが突如として研究所のセキュリティを掌握。スタッフを始め、彼のために用意された記者会見に出席しようと集まったゲストやマスコミの人間達を殺害しようと計画していたといいます。
事実、彼の研究に携わっていたスタッフ達は行方知れずとなっており。先程入った情報では、ゲストの1人だったミハエル・トロホウスキー氏も重症の状態で緊急搬送されたという噂がまことしやかに……』
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事件から早くも3カ月を過ぎようとしていた。
その日、僕はアークシティに移った本社に国防省の人間を迎えて、謝辞を述べていた。
「……ので、今回の事は助かりました」
そう言って手を差し出すと、相手はその手を握り返して
「ミスター・マイケル。あなたのような素晴らしい研究者で、ビジネスマンで、そしてなにより愛国者に国はこのくらい当然のように力を貸しますよ。もちろん、日頃のあなたの働きには、我々はいつも驚かされていますから……」
彼が言っているのは、マスク・ド・ドミニオンの事ではない。
デュポン社の開発する技術の軍事転用について言っているのだ。反吐を吐きたくなるような不快感が心の奥底に湧き上がるが、表情にはださずに僕は笑顔で「もちろんですよ」とだけ答えた。
はっきりとは覚えていないが、うちの技術を使って2,3の兵器開発の打診があった事を思い出す。
(クソッタレ。あの大馬鹿野郎のせいで、また世間で僕は心のない武器商人と言われる羽目になるんだな)
ターナー女史と共に、ロビーまでスタッフを送りだすと。部屋に戻るまでの間、小声でひたすらファックを口の中で唱え続けていた。
この事件は、皮肉にもそれまで上方修正でやってきたデュポン社にとって初めての大きなつまずきとなってしまった。そして、それは僕自身のつまずきとも繋がっている。
マキシマ・ヨウジという人物は、僕が思っていた通りの人物だったようだ。彼の行いで、デュポン社の被害は頭を抱えるレベルになりかけていた。
彼が自身の研究成果を処分した事で、援助に回した資金の回収は絶望的となった。さらにここにスタッフ達を殺害していたので、その家族からは我が社への訴訟問題になりかけている。きっと、そうなるだろう。
さらに複数の政府機関によって島の侵入は許されておらず、研究所は捜査の為と称して封鎖されてしまった。いまは誰もあそこに近づくことはできない。
信じがたい話ではあるが、どうやら彼は事がなった暁には、ヨーロッパへ向かう予定だったらしい。はっきりと証拠は残ってはいなかったが、いくつかの証言から、彼がテロリストかマフィアと呼ばれる連中と頻繁に会っていたという話が出ていると聞いた。捜査は続くということだが、正直期待はできないとも言われてしまった。
だから本当は嫌だったけれども。仕方なく、僕は政府に援助を願い出るしかなかったのだ。
彼等はそれを歓迎し、色々手を貸してくれた。その見返りは、相当に胸糞悪いものではあったけれど。
向こうの用意したシナリオに沿ってこの3カ月は物事が進んだ。いくつかピックアップされていた弱小のテロ集団を海兵隊が無差別に襲撃、そこにマキシマとの繋がりがあったとの偽の証拠を作成して、事件を強引に解決したことにしたのだ。
マキシマは、以前は世間からは狂人と言われていたけれど、今ではテロリストだったと認識されている。
僕自身の私生活にも厳しい3カ月となった。
まず、家族であり、仲間であり、相棒だったジェームズ・マッカーシーの死について。彼の元家族達に……元妻と、元子供達に報告をしなくてはならなかった。
妻の方は再婚しており、元夫の死を涙もなく。無表情にただ「そう」の一言で済ませてしまった。彼の息子もその辺は似たり寄ったりで、再婚相手の家のガレージに、バニラコーラの箱を持ちこみ。まだ11歳を過ぎたばかりだというのに体にタトゥーを彫って、TVゲームばかりしていた。彼は結局、父の死に何もコメントはなかった。
別れ際、彼の残した資産を手渡すと。その中の数字に目を輝かせた元妻は、今の亭主に興奮しながらこの金でまず2人でカリブに行こうと言いだし、その相手は僕の顔を見て、あせっていた。
奴等の家のドアを後ろにした時、僕の心の中であの時のマキシマのように「お前にはスーツがある。それで奴らに思い知らせてやれ」と囁く悪魔がいたことを告白しないといけないだろう。
僕は、ほんの少しだけ、彼を理解できた気がした。
もう1つは、わざわざ呼び寄せてひどい目にあわせてしまったミハエル・トロホウスキーのことだ。
MAXIMAによって老人の体は激しく消耗し、痛めつけられていた。僕は、大急ぎで研究所の病院施設を開放しようと思っていたのだが。そこに驚いたことに新たな客人を迎える事となった。
ナイトホークと呼ばれる、アウトキャストが使う戦闘機に乗って、まだ【若い】もう1人のブルービーストとその相棒のレッドミストのコンビが姿を現したのである。
彼等の存在については聞いてもいたし、ぜひ一度会ってみたいとも思っていたのだが。この時の対面はおおよそ考えられる中で一番最低のものだったことは確かだった。
彼等は、ミハエル氏の……先代のブルービーストの状態を見て取ると、自分達が連れていくので手をだすなと伝えてきた。一応、うちでやれる限りの事はするとは申し出たものの。先方にそれをかたくなに拒否されては、僕のできることなど何もなかった。
1ヶ月後、彼がそのままベットから起き上がることなく死んだ事を僕は一本の電話とTVのニュースで知らされた。
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フウー
その日も定時に仕事をやめ、プライベートルームの長椅子に僕は溜息をついて座る。
この3カ月、僕は自分の為の研究室に入ることはなかった。マスク・ド・ドミニオンとなることもなかった。
スーツは損傷していたが、ギグスに命じて修理だけはしておくようにと伝えておいた。本当にちゃんとやっていたかどうかは知らない。
事件の決着で、ようやく株価も安定してくれるようになった。そのおかげで、役員達の金切り声も今週は聞かなくてすんでいる。
だが、僕は”とても疲れて”いた。
あまりにも大きな事が起こり、あまりにも大きなものをたくさん失ってしまった。
今は何も考えたくもなかった。代わりに、酒と女にまみれている。今日も、この後デートの予定を入れておいた。食事をして、バーでカクテルを飲んで、その後は彼女と一緒のベットでクタクタになるまで腰を振って眠ることになるんだろう。
(なにをやっているんだ、僕は……)
金と才能のおかげで、遊ぶだけの女に苦労しない事はこの際なんの慰めにもなっていなかった。
結局、MAXIMAを止めることはできたものの、あのマキシマの”八つ当たり”によって自分は……マイケル・ヘルムスリーは全てを奪われ、汚されてしまったのだ。
(まるで、敗北したかのように……ってね)
心の底に、またどす黒い雪のようなモヤが降り積もっていくのを感じて、両手で顔を覆った。
「ギグス。起きているか?」
『はい、マイケル』
「レアに……彼女に今夜のデートはなしだと、メッセージを頼む。埋め合わせはきっとするから、と」
『今からですか?約束の時間まで、1時間をきっていますが?』
「ああ、そうしてくれ……」
『では、どうでしょう?次の機会をはっきりと明記されては』
「……そうだな。いつがいいかな?」
『あなたはすでに”色々”と夜の予定を入れてしまっていますので、来週の週末以降となりそうです』
「なら、そこで彼女の自由が聞く時間を教えてくれるように、と」
『わかりました。花も一緒にどうでしょう?』
「そうだな。なにか適当に頼むよ」
そう言って立ち上がると、バーに行ってグラスをとりだし。氷と一緒にウイスキーを乱暴にブチ込む。
グラスからあふれるのもかまわず、グイと口の中に放り込むと。喉に激しい痛みが走った。
『マイケル……今夜はお酒が相手ですか?』
「ああ……そうかもな」
『それなら、レア嬢とのデートの方がまだ何倍もマシだと考えますが?』
「何だって?」
ギグスの。自分とジェームズがいじくり倒した人工知能のいいようがおかしく、また腹立たしくて挑発的に聞き返した。
「僕の才能と金、それにゴシップ紙にとりあげられることだけを目的の女と寝ることが。お前の言うマシな考えだというのか?」
『そうです』
「ふざけたプログラムだなぁ?いや、それともポンコツ人工無能だったか!?1人で酒を飲もうが、お決まりの口説き文句で女と寝ようが。僕が何をしたっていいだろう!」
『しかし、Dr・ジェームズの言葉を借りれば。マイケル、あなたの飲み方は体に悪いと文句を言っていましたよ』
ギグスの言葉に反論をせず、僕は流し台にグラスをたたきつけるように放り込むと。まだ中に半分以上残っていたウェイスキーだったが、水道の蛇口を捻ってグラスの中へと勢いよく水を流し込む。
『マイケル?』
しばらく滝のように注がれる水道水によって、グラスの中のコハク色がみるみるうちに無色となっていく様を、僕はじっと眺めていた。
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「ギグス、起きているな?」
『はい、マイケル』
流し台でグラスを洗うと、僕は再びギグスを呼び出した。
「電話をかけたいんだ」
『わかりました。どなたにでしょう?』
「……学生時代の……友人だ。連絡先は、まだ残っているはずだ」
『……』
「”×××”だ、検索し。ヒットしたら電話を頼む」
『検索終了、コールします』
僕は再び長椅子に戻って腰をかけると、近くの小机の上にある受話器を手に取って待つ。
『はい、どなた?』
受話器から聞こえる、まだこんな時間なのにもう寝惚けたような男の声が聞こえ。僕は受話器を耳に押し当てると、静かに話しはじめた。
「やぁ、覚えているかな?マイケルだ……ん?マイケル・ヘルム……”ヘイズ”だよ。そうだ、懐かしいね」
相手が思いだしやすいように、学生時代につかっていた父の名字を久しぶりに口にした。
「ああ、まぁね……そう、色々大変さ。……………ふふふふ、そうだね。ところで、電話したのは他でもないんだ」
心の底の黒い雪のようなモヤがドロリとうねってみせる。意識のどこかでまだ間に合う、よすんだと声を張り上げて抗議する自分がいる。
「君は、今も使っているんだろ?……そうそれだ。悪いんだけれど、少し僕に融通してくれないか?」
ドラッグ。敗北者達が現実をみないで済むようにするためのマストアイテム。
「コカインにヘロインだって?おいおい、よしてくれ……Sも御免だ。あれにはいい思い出はなくてね」
学生時代、酒、女ときてドラッグの味を覚えた。当時は色々試してみたい年頃だったからだ。けれども、周りで人気のSとLSDだけは、僕はどうしても気にいらなかった。
高い金をだしたのに、酷く悪いSをつかまされ、それでもといって皆で楽しんでいたら。脳におけるドラッグの有用性を、乱交パーティしながらディスカッションしてしまったことがあったからだ。
あれはさすがに、後で自分で振り返ってみても破廉恥に過ぎたと反省している。
「マリファナか……そうだな、キノコがあれば最高なんだが。……そう、ありがとう。すぐに受け取りに行くよ」
悪い習性だ、それは分かっている。
だが、今だけは夢を見ていていたいのだ。このあまりにもさびしくて冷たい現実の中で、甘い夢で見ていたいんだ……。
【The Fall of Dominion Fin and Next?】




