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BLACK&WHITE  作者: 鷹雪
TWO FACES
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ファースト・アベンジャー

よかったら一読後、感想その他を残していっていただけると嬉しいです。

「これは驚いた。こりゃ、傑作だ」


 空いたままの口をそのままにMAXIMAは言う。


「どうやら昨今の名士達は、進んで自分の命を社会に捧げる運動でもしているらしい。この哀れな老人に自分が選ばれたことは大いに恥とするべきだが。自分と同じに選ばれた友人の君が、この道化にならっていたとはね。

 ホント、驚いて開いた口がふさがらない」

「MAXIMA、ミハエル氏を離すんだ」

「え?ああ、こいつのことか。いいさ、君を殺すのは後にしようと思ったが。気が変わったし。ほら、これでいいかな?」


 そういうと、MAXIMAはブルービーストを、痛めつけた老人を無造作に砂浜の上へとポイとゴミを捨てるように放り出して見せた。しかし、たったそれだけでもブルービーストの口からは苦悶の声が漏れ出てしまう。


「非力で哀れな人間が粋がるからそういう目にあうのさ。そして、それは君にもあてはまるんだよ。マイケル?」

「……」

「マスク・ド・ドミニオンだって?何をくだらない広告活動やっているんだと思っていたがね。まさか、活動がメインの広告塔とは考えもつかなかった。

 馬鹿だよ、アホだ。呆れてしまって、罵り方もシンプルが一番だ。バーカッ」

「……」

「このたった6年で君は多くの事を成し遂げ、デュポン社を大企業へとしてみせた。そしてアークシティだったか?

 あのアークナイト財団の足元に、本拠を移すそうじゃないか。TVじゃ、ずっとそればかりさ。今日の俺の発表会だって、もし実際にあったら記者連中はこぞってその事を君に聞いたはず」

「ビジネスに興味があると言う口ぶりだな?」

「そうかな?気のせいだろ?ところで、マスク・ド・ドミニオンは無口だそうだね?いつもは雄弁な君が、そいつをきると無口になるのはなんでかな?ちょっと推理して見よう」


 意地悪い顔でそう語るMAXIMAを制し。ドミニオンが、マイケルが口をはさむ。


「それより、もっといいことを教えてやる。僕が、なぜドミニオンの操縦者だと言わないのか。正体を隠しているのか、ということについて」

「ほう、それは興味があるね」

「簡単なことだ……自分の身を守るためじゃない、大切な人達を守るため。家族の身を守るために隠すんだ」

「なんだって?天涯孤独の君が、家族を守るだって?」

「そうだ。僕には家族がいた。最後の1人だった、ジェームズの事だ。彼は友人だった。そして兄弟だった。ライバルだったし、愛する家族だった!」

「ほう、それは……ふん」

「こうして素顔をさらすのは、ドミニオンとして守るべき全てを失ったからだ。そして決意を示すためでもある!」

「……」

「彼は、ジェームズは殺された。僕の友人と思っていたお前に殺された。それは、決して許されることではない」

「ならば、リベンジ(Revenge)すると?」


 MAXIMAの凶悪な顔に、意地の悪い笑みが浮かぶ。


「見くびるな!僕は復讐者ではない。ドミニオンがするべきことはひとつだ。アベンジ(Avenge)しに来たのだ」

「なら……始めようじゃないか?」

「ギグス、マスクを戻せ」

『了解』


 決着のゴングは静かに鳴らされた。



▼▼▼▼▼



 最初の一撃は、凄まじい轟音と衝撃から始まった。

 ドミニオンの一撃で、MAXIMAの体がよろめき、後ずさると。続いて追撃しようとするドミニオンを今度はMAXIMAが手を払うような形で振り払う。

 MAXIMAとは違い、ドミニオンは大きく木の葉のように吹き飛び。拳の当った部分のアーマーはこの一撃だけでへこんでいるのが外から見てわかる。

 それでも、ブースターを点火させてドミニオンはMAXIMAにむかって飛び込んでいくことをやめようとはしなかった。


 「死ねー!!」


 再びド突き合いが始まる。ドミニオンのパンチでよろめき、頭振って腕をふりまわすMAXIMA。その腕で吹き飛ばされ、アーマーを傷つけられても戻ってくるドミニオンは攻撃をやめようとしない。

 どちらも引くことを知らない、ド迫力の殴り合いではあったが。その効果の違いは一目瞭然であった。


『警告、マスク・ド・ドミニオン。外部装甲のみ損傷率が30%をこえようとしています』

「……」

『マイケル!冷静になってください。このままではアーマーは破壊されてしまいます』

「……っ!?」


 この時、倒れていたミハエルことブルービーストが身じろぎする。何かを小声で口にすると、おれた右腕の手の甲に動く左手を乗せた。その一瞬、電気がそこで発生して踊るのが見える。


「っ!?ギグス、今のを聞いたか?」

『はい。ミハエル氏は、これを使えと言っていました』

「先人のアドバイスは貴重だ。ショック・サーキットの準備をしろ」

『了解』


 内部でやり取りをしつつ、もう何度目かの突撃を敢行する。

 また繰り返し行われたようにドミニオンの一撃が入り、MAXIMAの反撃が入る。と思ったら、今度はドミニオンがそれをよけた。


「ここだっ」


 そういうと始めて連続して、今度は顎を跳ね上げるアッパーを叩き込もうとした。しかし、振り抜かれた拳はMAXIMAの顎を捕えることはなく。変わりによけたMAXIMAが、勢い良く跳ね上がって完全に無防備な状態になっていたドミニオンを両手に抱えてベアハッグにしてしまう。


「ま、マズイぞ。これはっ」

『破損32%をこえてなおも上昇中、マイケル!』


 慌てるドミニオンだが、しっかりと両腕の間に挟まれてしまっていて。しかもメリメリと音を立てて圧迫しているのがわかる。


「あははははは、どうしたドミニオン?どうしたマイケル?早くしないと、俺の腕の中でバラバラになるしかないぞ?」


 間近であざ笑う凶相を見ながら、マイケルはギグスに、ドミニオンに指示をだす。


「スモークだ。続いてニ―ドル・ボルト発射!」

『了解、スモーク』


 するとドミニオンの足の裏にあるマズル部分からモクモクと白い煙が上がり始める。


「おお、なんだ?お前も煙幕か?こすい手を使っても、はなしてはやらないぞ。今度はなぁ」

『続いてニードル・ボルト』


 ギグスのアナウンスが終わると同時に、霧の中のMAXIMAが苦悶の声を漏らすのが聞こえた。何をしたのかは霧に隠れてわからなかったが、究極の体から血が噴き出し。それが地面に飛び散ったことだけはわかる。

 そして、MAXIMAの腕の力が僅かに緩んだ。


「ブースターだ。脱出しろ!!」

『了解』


 ついでにMAXIMAの体を後ろに蹴飛ばしつつ、点火したブースターで一気に距離を置くと。ドミニオンは今度は両の腕を前に突き出してみせた。


「アームウェポン、可能なだけ使うぞ。用意!」

『ブラスター3種、マイン1種。レディー』


 ディスプレイの端に次々と武器の名前が表示され、その反対側にバーチャル映像で武器の表示がされる。さらに、コマンド実行に関するYESかNOかの表示は、勝手にYESが押される。

 すると突きだされた両腕の表面に次々と変化が現れ、射出口のようなものがあらわれた。


『ソニック・ブラスター、エネルギー・ブラスト、ヒート・カッタ―照射。続いてNマイン』


 ドムドムと音を立てて次々と発射口から攻撃が繰り出される。音が、エネルギー波が、熱光線が次々と放たれ、巨体の男の体をめがけて飛んでいく。さらに、左手からはNマインが放出され、放物線を描いていって相手の足元に転がった。

 MAXIMAはその前のブースターこみの蹴りからちょうど起き上がろうとしていたところであったが、次々とドミニオンの放つ遠距離からの波状攻撃にさらされて、再び苦悶の声を上げることになった。

 ブラスター攻撃の嵐によって、MAXIMAの皮膚はさらに裂け、肉をえぐり、血を噴いて骨をのぞかせる。さらに、頭の一部や肩口、腕などに火がつくとそれはメラメラとゆれたまま消えようとはしなかった。

 しかし、ドミニオンの攻撃はこれが最後などではなかった。


「続いてミサイル」

『オーケー、ミサイル照準よし。発射。』


 そういうと、ドミニオンの肩口後ろ側にある方の蓋が開くと、其の中にはびっしりと小型のミサイルがしまわれている。それが次々と点火してやまなりの軌道をへて、MAXIMAの体に次々と着弾する。

 同時に、先程ばらまいたNマインが反応を示してこちらも次々と爆発。上下からの爆破攻撃がMAXIMAを襲う!


 …………………。


『ミサイル、Nマインは打ち止めです。グレネードが残っていますが。近くにまだミハエル氏がいますので、使用についてはよした方がいいかと』

「わかった。MAXIMAはどうなった?」

『分析中』

「各ブラスターはどうだ?使えるか?」

『使用した分は、一斉攻撃によりオーバーヒート。使わなかった一種のみ可能です』

「ブーストだな?それはダメだ。飛べなくなったら、ドミニオンは不利になる」

『同感です』


 砂塵が収まる中、ユラリとその中で動く影が見えた。

(まだ……生きていたか)

 再び構えをとると、油断なく相手の状態を分析しようとするドミニオン。

 大地に横たわっていたMAXIMAは、体を起こして膝をつこうとしていた。


 だが、その姿は先程までとは違った無残な姿となっていた。


 ヒューマンではない。スーパーヒューマンでもない。アルティメットヒューマンだと豪語した男であったが。ドミニオンの放つ猛攻の前には流石に無傷ではいられなかったのだ。


 額と左胸にはひと筋の焼け跡からは、いまだに炎がメラメラと小さく燃えたままである。

 左腕は特にひどく、ブラスターの集中攻撃の結果だろう。2か所から異様な方向に折れ曲がり、掌は炭化していた。右腕はそれに比べれば幾分かましではあるが、皮膚は裂け、肉ははみ出し血が流れている。

 左の脇腹の肉は一部を削られていて、右足首と左腿も肉がごっそり削られ、さらに熱線で焼かれた一本の線が走っている。

 そして、顔……顎にはドミニオンの置き土産であろう。ニードル・ボルトと思しき3本のトゲが、顎下から突き上げるような形で、突きささっていた。MAXIMAはそのトゲを唯一動かせる左手で一気に引き抜いて見せると、くぐもった笑い声を響かせた。


 うふふっふふ、ははは、あっははははっはっははは


 何がおかしいのだろうか?ボロボロにされて笑うこの化物はなにを考えている?

 MAXIMAはドミニオンに向かいあうと、発音が悪くなったのにもかまわずに話しはじめた。


「お、お前の事を評価するよ。マイケル、たいした奴だった」

「……」

「お前を自分と同じ……青臭い夢にすがった夢想家だと、思っていた。俺の……ミスだ。究極は、まだ完成ではなかった」

「……なにをいっている?」

「そこで死にぞこなっている老人と同じではないと……評価を変えたと言っている。お前は、やはり……あのヒノモトと同じクソでしかなかった。最初からな」

「……好きに呼べ」

「なんだ?不満か?……なら、この俺の姿を見ろ。この俺を見てみろ!お前は今、この俺に何をした!?」

「お前を止めるために必要な事をしただけだ!」

「それだ。それだよ……フフフ、まったく同じだ。マイケル……お前はやっぱりヒノモトと同じだ」

「???」

「あいつらは、あいつ等の要望を一度だけ拒否した俺を。あいつ等のやろうとしている事をやめさせようとした俺を、滅茶苦茶にやってのけた。マスコミを使い、権力を使い、自分のところのニンジャ達を使った。

 その結果、俺はあらゆる名声を地に落とされ。いわれのない犯罪者のレッテルを張られ、全てを奪われ、投げ出された。

 俺がボロボロになって、やはり無罪だったといけしゃあしゃあと言われて解放された時だ。その場所に、ヒノモトのクソ共はあろうことか元妻をよこしてメッセージを伝えてきた。

 『君の無謀な行いを止めるために必要なこと、すべてをやっただけだ』だと。

 それを、息子達を連れて1人。金で俺を売った妻に伝えさせたんだ。それをあの馬鹿な女は、たった5千万の為だけにそれを恥知らずにも引き受けた。それまでだって何一つ不自由をさせなかったのに、愛していたのに!」

「……」

「昨年の話だ。その女が連絡を入れてきた。居場所が無いんだそうだ。俺の元妻、元子供だとここで生きていけないと。お前に拾われた今の俺と、やりなおせないだろうかとな。

 もちろん断ったさ。俺が苦しんでいる時、俺を金で売った女だ。その女にお前の父は恥ずべき男だと教えられた息子だ。どちらも、もう俺にはいらない。死んだのと同じ奴等だ。

 そしたら奴等、俺に当てつけるように自殺しやがった!」

「……そうだったのか。気の毒に」

「なんだと?マイケル、今何を言った?俺に御気の毒といったのか?お前の友人を、家族も同然の男をついさっき殺した俺に、昨年死んだクソ女と、そのガキが死んでお気のどくだと!?」

「……」

「ククク、お前はあの時、あの場所で語ったな。『超人が、人の遺伝子の進化であれ。突然変異であれ。人の未来に違いはない。人とマシンで未来を作って見せる』とな」

「そうだ、それは変わらない僕の夢だ」

「違う!それがお前の言い訳する理由なだけだ!もう一度俺を見ろ。この究極となった今の俺の体を見てみろ。

 お前はなにをした?

 世界のどこの軍隊でも使われていないようなハイテク武器をたっぷり使い、この俺にそれを食らわせ、味あわせた。だから俺はこんな目にあっている!違うか!?」

「……」

「そうなんだ。結局はそうだ。お前らみたいな、ヒノモトと同じ奴等はそうだ。

 パワーゲームのためだといって、人の夢を、魂を奪っていく。そして積み上げられる札束の枚数が増えるのを見て、満足するのさ。自分達が素晴らしい事をしていると、だから人々は自分達の”商品”を買わずにはいられないのだと。

 金、金、金、金!結局はそれだ、金なんだ!知識の探求は、金の生み出せるかどうかの1点でしかない。人類の為?人々の生活の為?平和のため?

 そんなものはごまかしだ!

 馬鹿でいたくないなら金をだせ!腹をすかしたくないなら金をだせ!身長伸ばしたいなら金をだせ!愛が欲しいなら金をだせ!健康でいたいなら金をだせ!死にたくないなら金をだせ!それしかもうないのさっ」

「……」

「どうだ、ドミニオン?どうだ、デュポン社のヒーロー?どうだ、答えてみろマイケル!?」

「……」


 しかし、マスク・ド・ドミニオンは黙したまま語らない。



▼▼▼▼▼


『MAXIMAの分析終了』

「どうだ?」

『当初に比べ、脅威は60%以下まで落ちていると想定されます。また、言葉から意識の混濁を見て取れます』

「そうだな」

『現在の状況から。16通りのやり方で90秒以内に決着がつきます。あなたの勝利です、ドミニオン』

「そうか……」

『ご希望のコースは?マイケル』

「……あいつは友人だった。一番激しくてきついのがいい」

『了解、リストを参照ください』

「こんなことは終わらせよう、ギグス。終わってもやることは山のように残っている……」



 マスク・ド・ドミニオンは態勢を入れ替えると、胸を張り、顔をあげてMAXIMAを正面から見やった。

 それはまるで、これまでの会話など退屈しのぎだったのだよとでもいうように。どこか傲慢で、宣告を下す裁判官のような振る舞いだった。


「MAXIMA。いや、マキシマ・ヨウジ。おしゃべりの時間は終わりだ。

 今すぐ抵抗をやめ、降伏しろ。そして、お前が処分した研究データのすべてを私に渡すんだ。お前には治療が必要になる。もし、これを拒否するというなら。今からお前を完全に制圧する」


 この場合の【完全な制圧】というのは、なんのことはない。【相手を殺す】というのと同義である。

 そして無論、MAXIMAはこの言葉に歯をむいて唸り声をあげることで、拒否の意を示した。


「そうか、ならば仕方がないな」


 そういうとドミニオンな、駆けだそうというのか前傾姿勢をとり。つられてMAXIMAも先程の繰り返された一連の激突を思い、好戦的な笑みを浮かべて走りだそうとする。


「釣りだすぞ。同時にフラッシュグレネードだ」

『レディー』


 ピクリと反応を示すとMAXIMAは釣られて突撃を開始するが、ドミニオンは前傾姿勢のまま動かない。かわりに、ポンと何かを撃ちだす音だけがした。

 それは、ドミニオンに向かってくるMAXIMAの眼前で炸裂すると強烈な光を放って見せ。MAXIMAは足を止めて苦悶の声をあげ、目を覆ってみせた。


「スパイダー・アンカー」


 続いてドミニオンは姿勢を変えて両腕を前に突きだすと、腕の内側からまさに蜘蛛の糸のようなものを飛ばしてMAXIMAの両の肩にべっとりとくっつかせる。


「マックスパワー、ストレングスだ!」

【了解、マックスパワー】


 そこからはまるで立場が逆になったような光景が繰り広げられた。

 突如、ドミニオンは力強く、アンカーの先にいるMAXIMAをブンブンと振りまわしはじめたのだ。

 そして、数10メートルはある先の研究所の壁に向かってまず放り投げる。壁に叩きつけられ、砕き、めり込んでしまい。もくもくと砂ぼこりが晴れる頃。さらにアンカーが飛んでくると、今度は飛んできた方向へ戻ってくるようにというように、勢いよく前のめりに引っ張り出される。

 転がるようにして戻ってきたMAXIMAにドミニオンが渾身の右フックをブチ込むと、最初のMAXIMAがやってみせたように。今度はMAXIMAの方が木の葉のように空中を舞って岩場の中に墜落する。


 それでも、ドミニオンの攻撃は緩まない。


 アンカーは3度、MAXIMAの体に張り付くと。再びブンブント振りまわして今度は海面上に激しく叩きつけた。

 コンクリートに等しいその場所に怪力で持って叩きつけられた衝撃に、MAXIMAは肺腑の息を全て吐き出してしまい。空気を求めて必死で息を吸おうとするも、力んでいるせいで海に浮かぶ事が出来ず。ゆっくりと海中に沈みながら、体の中に海水を飲み込んでいく。


『ドミニオン。ラスト14秒です』

「ショック・サーキットは構築してあるな?」

『レディー』

「いくぞ!」


 海中にゆっくりとMAXIMAが沈んでいくことを、ドミニオンは眺めるつもりはなかった。

 マイケルの合図とともに、胸部の前面が僅かに動くと。円状の白色クリスタルがそこに姿をあらわした。

 そのクリスタルは急速に輝きを増していくと、いきなりそこから高電圧の雷撃を放ってMAXIMAがいる辺りの海面に激突。その周辺をひたすら走りまわってみせた!


 この瞬間、ギグスのカウントを待つまでもなく。MAXIMAとドミニオンの勝負の決着はついたのである。



▼▼▼▼▼



 決着はついたが、マスク・ド・ドミニオンはMAXIMAの体を海の底へと沈めるに任せたりはしなかった。

 すぐに海中から引き揚げ、海岸へと引っ張っていく。


「マキシマ。この僕が、超人をこえたと断言する君に対して、なんの勝算もなく戦うわけがないだろう」


 MAXIMAに意識があろうが無かろうが関係ないのだろう。ドミニオンは引きずりながら、独白を続けた。


「マキシマ。君は僕やミハエル氏を笑ったが、君にはわからないだろうな。人間だからじゃない、超人だからじゃない。ただ、力は良いことに使うべきだと思って、それが出来ると思ったからやっているんだ。

 君のように、自分の夢の中に逃げ込んで。独善的な究極の存在などに興味はないのさ」


 MAXIMAに語りかけているようで、実はそれは彼自身に向けた言葉なのかもしれない。


「僕の放浪の10年の意味を、君は評価しないだろう。僕はその中で最善を求めて、新たな知識を求め、新たな発見を求め、知識の実践を行ってきた。

 だけどね、一度として勝利を掴むことはできなかった。確かに惨めだったよ」


 それは、彼が決して多くを語ろうとはしない。秘密の記憶。


「君との出会いの後、僕は父にあった。最後の対面だったよ。僕はあの席での興奮を父に伝え、僕の考えを父に伝えた。褒めてもらいたかったわけじゃない。だが、力強いメッセージをあの死人のような父にも感じて欲しかったんだ。

 結果は最悪だった。

 彼は、彼のままだった。生気のない、感情のない死体のような人。

 僕の言葉に彼の答えはこうだ。『お前の夢が出来ると思うならやってみろ。できるものならやってみせろ』とね」


 それは悲しい記憶。


「マキシマ、君にはないのだろうな。救おうとして、救えなかった命。身を守るために、奪ってしまった命。そんな事、君にはなかっただろう。僕はある。その数は、50人をこえた時に数えるのをやめた。

 そして理解した、始めてね。あの父の姿は、僕と同じ無力感から来るものではなかったのかとね。

 なにもかもやり方を変える必要があった。だから僕は、母の姓を名乗り。デュポン社とドミニオンをつくったのさ」


 MAXIMAは意識が戻っていないのか、無言のまま引きずられていた。


「君にはわからない、マキシマ。自分の知的衝動を。好奇心を満足させるためだけに、知識の探求のみを求めることしかない君にはね。

 デュポン社を始めた時、僕等は電子工学を中心に医療、工学、航空力学など多岐にわたって新規技術の開発を始めた。全ては少しでも良い方向に世の中が進むようにとの思いだったが、その技術のあらゆるものは軍事に応用したいとのもうしでがあったことを。

 かつて、学者は魔法使いだといって罪人扱いされたのと同じでね。現代では、発明家や技術者は一歩進むごとに殺人者と呼ばれる汚名を浴びせられる恐怖にさらされる。

 君が嫌う金持ちというのは、そういうことの積み重ねで”人間”としての大事な感情を切り離してしまった化け物たちなのさ。だから、人の不幸には鈍感で、自分の幸福には敏感になる。それで楽に生きていけるからね。

 それを憎むあまり、あらゆる相手をすべて同一のものだと認識してしまった君は、本当に残念だ」


 静かになった砂浜に上がると、岩場にMAXIMAを投げ捨て、身動きをとれなくなっているミハエル氏をドミニオンを見る。


「だが、それはそれだ。そしてこれはこれなんだ」


 その声には、わずかに緊張の色があらわれていた。

 MAXIMAもそれに気がついたのか、ここでようやく。酷い声でドミニオンに問いかける。


「俺を……殺すのか?」

「そうだ。今からお前を殺すよ、マキシマ」

「俺は……俺はもう……抵抗できない。無力だ」

「今はな。私が勝ったからだ。それだけだ」

「無抵抗の……相手を殺す……それがヒーローなのか?」

「都合のいいことを言うな。いっただろう、それはそれ。これはこれ、とな」

「それが……お前の……理由か」

「何処までも自分勝手な奴だ。僕は警告したぞ。投降し、君が破棄した研究内容を開示しろとな」

「……」

「君は天才だ。その君が自分を超人をこえる存在になったといった。まだ生まれ変わったばかりで、学べばさらに強さが増すともいった。私はそれが事実だと考える」

「それは……俺の……興奮して言っただけだ」

「どうかな?君は慎重な男だ。計画は確実にしたい男だ。確信もないのに、自分の研究を破棄したりはしない。これが完成だと思ったから、誰の目にもさらせないと処分したのだ。」

「ち、違う」

「いや、そうだ。僕はお前が人類にとって潜在的脅威であり続けることを許すわけにはいかない」

「お、お前は……」

「あいにくだが、自分の手が血で汚れてるなんて知っている。それが必要だと思ったからそうしてきた。アーマーを着ても、それは変わらない。そして今のお前は危険だ。そのままにはしておけない。」

「やめろっ……こ、このっ」


 MAXIMAの懇願と罵倒が交互に口にして騒ぎ始まるが、マイケルはそれを聞こうとはしなかった。かわりに、研究所に叩きつけた際にMAXIMAといっしょに飛び散っていた鉄パイプの一本を手に取る。

 苦しげに呼吸をしていたブルービーストことミハエル・トロホウスキーは、この後の光景を目にしたくなくてゆっくりとまぶたを閉じた。 

 マスク・ド・ドミニオンは哀れな化物の上にまたがって立つと。手に持った鉄パイプを力一杯振りあげ、そしてためらうことなく振り下ろす。


 太陽は西の地平線へと沈みかけていた。

 砂浜では静寂に包まれていた。戦いは終わったのだ。


「チクショウ」


 マイケルのいまいましげな声が聞こえる。


「マキシマ、この大馬鹿野郎。友人だったお前にこんなこと、この僕にさせやがって……」

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