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BLACK&WHITE  作者: 鷹雪
DEADMAN CALLING
94/178

怪人の帰還

第5部【DEADMAN CALLING】は今回が最後となります。

よかったら一読後、感想その他を残していっていただけると嬉しいです。

 久しぶりのオフ、検死官のジャッキーはその日、人との約束があって外出した。

 向かったのは 公園の中央ベンチ。噴水の前でホットドッグを仲良くパクつくことになっている。約束の時間には15分程早かったが、すでに1人はそこへと到着していた。


「どうも、お待たせしたかな・・・って早いですよ。時間を間違えたかと」

「やぁ、年をとるとこうして早めに動かなきゃならん。約束の時間に間に合わんなどと考えると、気が急いてしまってな。おかげで、早く来やがってと若い連中に嫌な顔をされる」


 待っていたのは、アークシティ警察の副本部長ポール・アルケット。

 今年で67になるこの老人は、生まれた時からこの町で暮らしてきた人物だ。同時に荒んだ時代を戦って生き延びてきた古参の警察官でもある。そんなわけで、彼の同期のほとんどが墓の下で眠るか、老人ホームで人生の落日を嘆いている者ばかりかのどちらかだった。

 そして、老人同士。このジャッキーとは長年の付き合いがあった。副本部長などという大層な地位ではなく、現場で捜査をしていた頃のこの2人は、いつも激しくやり合っていた仲もあった。


「副本部長をお待たせするとは、けしからんですな」

「まったくさ。おかげで、彼等に苦労するという時にみせる目の間の皺の演技は冴えわたるばかりだ。今からでも役者を目指そうかと思う時もある」


 そういいつつ、ポールは先日のサンダーランド警部との会話を思い出した。



▼▼▼▼▼


「ふむ、なるほど。つまり、”何事もなく普通に”捜査は行われ。正しい犯人を捕まえた。そう理解していいのだね?」

「はい……すいません、余計な苦労をおかけします」


 彼の前に立つサンダーランド警部が、顔を歪めて律義にも心配りを見せる。

(相変わらず、どこぞの戦士を率いるような。そんな時代がかった男だ)

 この男を育てて来たのは彼だった。好ましい人物で、信用における。だが、もっと狡猾さと卑劣さが欲しいと物足りなくもあった。それが無いことが彼の美点なのだとしてもだ。


「構わんさ。むしろよくやったと褒めるところだ。我々によってくる”政治”なるものは大抵がくだらないことで、どうでもいいことだ。そして、こっちにしてみればいつもの当たり前の事をして当たり前の手続きで犯人と証拠を集めることができれば、あとは好きにしてくれて構わんよ。とりあえず、そういうことにしておくのが良いんだ。

 今回、お前さんは良くやった。全て向こうの言いなりになれば、こちらのメンツは丸つぶれだ。署長や本部長への説明に力を貸してくれとその時来たら、今のようにお前を優しく迎えたりはしなかったよ」

「怒ったあなたの顔を見ると、私は胃が痛くなりますので」

「いいことだ。散々お前を虐めてきたかいがあるというものだ。その調子で、こっちの血圧には注意してくれることばかりだと嬉しいな」

「努力します」


 そのままパラパラとファイルを適当にめくって読むそぶりをすると、ポールは珍しくサンダーランド警部と話をすることにした。


「サンダーランド警部、実は少し話がある。まぁ、座れ」

「はっ」


 相手が席について緊張がほぐれるのを待つと、ポールはゆっくりと話しはじめた。


「心配はいらんよ。本部長も署長も、政府の介入をひっくり返したと聞いて顔色は変えるかもしれんが。どうせたいした騒ぎにはならん。あの2人も、要するに”政治屋”なのだ」

「はぁ」

「気の無い返事だな?だが、忘れてもらっては困る。お前は今、この町のほとんどを管理する側に居るのだ。遠からず、この席も空きが来る。その時、まずはお前がここに座るんだ」


 老人のいきなり告げられた引退計画に、サンダーランド警部の顔が少し曇る。


「ポール、本気で引退すると?}

「自分からは辞めんよ。どうせ、後はかつての同僚たちよろしく、老人ホームでお迎えがくるのを待つだけだからな。家族がいないからそれも仕方が無いのだが」

「……」

「本部長は殺人課のエースあがり、まだ34歳だ。野心も強い、上院議員を狙っているともっぱらの噂だ。何より本人が否定していないしな。今回、お前がイハラ刑事をごり押しで戻したのはいい判断だった。

 彼は、殺人課だけは超人にやらせてはならないなどという頓珍漢だからな。まったく」

「副本部長……」

「何を笑っている。悩ましい現実だ。署長は外部から引っ張りこまれたというのもあるが、おかげで現場の事はなにもわかっておらん。51歳、黒人、女性。そのすべては政治家として武器にもなるが、弱点にもなる。

 後ろから若いメキシカン・ハーフの若者が追い越そうと盛んに狙っているんだ。さぞかしスリリングだろうさ」

「……」

「聞け、サンダーランド。

 こうした連中もまた、そのうちいなくなる。追い出すわけじゃないさ。ただ、本人達が望むように”次のステージ”とやらで活躍してくれればいい。だが、彼等のような連中の”意思”を絶対にここに残すな!」

「そんなことは……」

「優しく気のいい大男なんてのは、いらんのだ。冷酷が嫌なら、厳しくなれ!奴等のような連中のご機嫌うかがいを続けるつもりなら、お前の今の苦労はお前の後任が引き継ぐことになるだけだ。

 その時、そいつにとっての私がいなければ。もっと苦労することになる」

「ポール……」

「準備を忘れるな、サンダーランド。この町の平和を警察が守ると考えるつもりなら、お前はその時に行動が必要になる」


 2人は無言になり、ポールはジェスチャーでサンダーランドの退席を許した。



▼▼▼▼▼



「”嵐はとりあえず去った”ということですかね?副本部長」

「非番だ。ポールと呼べ。しばらくの話、さ。どうせすぐに嵐は来る。いつだってな」

「お互い、引退できませんなァ」

「ふっ、こっちは死ぬまでしがみつかせてもらうがな。どうせ、孤独死間違いなしだ。それなら、いい椅子に座って死なせてもらうよ」

「いやな爺ィになりましたな。お、どうやら最後に到着のようだ」


 西側の門から入って近づいてくる存在に、ジャッキーは目ざとく気がついた。それはあの季節感を無視したロングコートに帽子を深くかぶった。怪人、コピーキャットの姿であった。


 近くの売店でそれぞれがホットドッグを頼むと、それをベンチに座って無言のまま食べた。

 今日のコピーキャットの顔は、見たことのない青年のものだったが。どうせいつものように、誰かの顔を”借りて”いるのだろう。でもそれはしかたがない、そうしなければ口が無いので物が食べられないのだから。

 そして、そんな超人の隣に座る白髪で皺くちゃになった老人達は同じ空間を共有しているというだけで自然と自身の最盛期の出来事を思い出し、久しぶりに心が若返った気持ちを楽しんでいた。


「今日はお招き預かり、感謝する。ジャッキー、ポール」

「昔を思い出して懐かしい感じですな。もう、古い連中は我々くらいだ」

「1人は超人だから違うが、白髪が目立って女も必要なくなったのが確かにいるな」

「ふふふ、意地悪だなポール。超人とて、老いは避けられない。自然現象だ。だが、確かに残念ながら私には”普通”はここにも許されることは無かった……」


 しばし、無言の時が流れる。


「サンダーランドやジャッキーから聞かせてもらったよ。今回はお前の力が大変助かったとな……たしか、今は違う名前を名乗っていたな?}

「ああ、コピーキャットという。【模倣者】、私に相応しいものさ」

「ふむ」

「しかも探偵ですよ?驚きですなァ」

「もう、”支配者”はやめたのかい?」

「……過去を知っている連中と会うのは、これだから嫌なのだ。痛い事を知ってて聞かないでくれ。来るんじゃなかった」

「はっはっはっ」

「ちょっと、いじめないでください。せっかく、こうして会えたんです。次があるかどうか、わからないじゃないですか……」


 ジャッキーの言葉に、3人は再び黙る。

 老いは確実に3人を過去の者として近い未来に訪れるであろう終わりを告げていた。それが、いつかはまだわからないが、その時は必ず来るのだ。

 しんみりとした空気が漂い始めたの嫌うように、コピーキャットは口を開いた。


「ポール、時代は変わった。つまりはそういうことさ。今はその時代も終わり、さらに別人達がこの町で活躍している。”支配者”は用済みだ」

「……それは」

「そうかい、だがな。時々考えてしまうのよ。お前さんが一線で、散々に動きまわってこっちの捜査を邪魔してくれた頃の事をな。あの時のあんたが、今もいれば手を結ぶこともできるんじゃないかと思ってしまうことがある」

「それは無理だ、ポール。私の”聖戦”のあの時の一番の敵はアークシティ警察だった。つまり、あんただ。

 そんなことにはならなかったのさ。それに、結局私はグレイスンのファミリーだけは手を出せなかったし。他ならぬ私自身も時代の、いや街の変化についていけずに追い出された形にもなった。色々と、限界だったのだ」


 はっきりとは言い現わさなかったが、彼等のぼかした中に込められた言葉の意味には強い想いが籠っていた。


「そうか、そうだったな。しかし、それで探偵か?」

「それは深読みのしすぎだ。私も所詮は君等と同じ老人だ。かつての”やり方”をすべて捨ててはやり直すことはできない。しかしそれはそれで意外と不便でね。肩書がなにもないと、怪しんで人は信じてくれない」

「まさに怪人!というわけだ」

「うまいな、ジャッキー」


 そういうと3人は笑い声をあげる。


「お前さんが、どこかのヒーローのように姿を消して引退したわけではないというのは知っていた。良く聞こえてくる、怪しげなオカルト話は、昔から有名だったからな。たぶんそうだろう、とは考えていた」

「後輩たちのアドバイスだ。騒ぎを大きくしなければ、人は勝手に理由をこじつけて想像で解決させてしまうから、と。ならば怪人でも生きることはできるだろう、とね」

「うちのモルグの連中も、皆うちにきたら”霊感”が強くなったと困ってましたなァ」

「いいさ、いいさ。そう言う慌てて困っている顔の若者をとぼけて観察するくらいの楽しみを持たせてもらってもな。別に不都合にはならんだろうよ」


 ポール副本部長はそういうと、この懐かしい会合の最後にと知りたかったことを聞くことにした。


「コピーキャット、だったか。本当は、お前にこの町の表通りに帰還して貰おうと、そんなことを考えていたんだ」

「必要のないことだ。そもそも、私は以前も影に潜むものだった。それは今も変わらない。どうしたってね」

「そうだな、それを忘れていた。だが、それならばお前のやり方でこれからも我々に力を貸してくれるのか?」

「……言い訳ではないが、私自身もまた時代に取り残されないようにと次のステージに、新たな場所を見出している。すでに説明した通り、やり方は変わらない。目指すものも変わらない。ただ、関わるやり方に変化が出来たというだけの事だ。

 そのおかげで、かつてのように町から追い出されることもない。そしてこれが誰にとっても、いいことだと考えている。これが答えになっているといいんだが」

「……そうか、わかったよ」


 この瞬間、唐突にこの約束の時間の終わりの鐘がなったと、そう3人とも感じた。

 そして3人は立ちあがると、お互いの顔をよく見ようと向かい合う。


「今日は、招きに応じてくれてありがとう」

「……こうして、3人が揃って会うのは。これが最後でしょうなァ」

「お別れだ、ジャッキー、ポール。古き友人たちよ」


 お互いがしっかりと握手を交わすと怪人は2人の老人に背を向けると振り向くことなく人の雑踏の中に姿を消していった。

 かつて、”同じ世界”をめざしながらも立場の違いから、いがみあっていた過去が彼等の間には確かにあったかもしれない。

 だが、それはもうセピア色の過去の光景だ。ジャッキーはまだ若く、ポールは家族を捨てて、わけもわからず仕事に全てをかけていた。

 そして……そして怪人は、闇の世界から傲慢にも”自分の正義”を語り続けていた。そんな昔の話しだ。


 怪人は光の下に姿をあらわすことを、町に帰還することを拒んだ。

 その必要はないと言って。なぜならば今の町に居場所が無いからと言って。

 そして、これが古き者達が集まり会話した。最後の機会となった。



▼▼▼▼▼



『……次のニュースです。……では、新たな銀行強盗団による被害の拡大が警告され……』


 そして、彼は目を覚ました。

 気がつくと、”なぜか”彼の家に戻っていて、”いつものように”24時間のニュース番組をつけっぱなしにしているが。いつものとおりそこから流れ出てくる現実の事件の情報は何一つ彼の中に入ってはこなかった。

 そのかわり、彼はよろよろと起き上がると台所へと向かう。


 小さなマンションの一室だった。

 部屋には服が脱ぎ散らかされて山となっていて、台所も流し台には汚れたまま積み上げられた皿が強烈な臭気を漂わせている。さらに、床や申し訳程度にそろえてある日用品には埃がつもっているのが見える。

 それを、彼はボウと見て回る。


 台所にある小さな窓にかかるカーテンを少し動かし、そこから外を覗き見る。

 まだ高い太陽の下、裏通りに頭を奇天烈な髪型をした革ジャンの馬鹿共が大声でバカ笑いしながら、壁にスプレーで落書きをしているのが見える。

 『スピリッツ、参上』と書いてあることから、最近活動を活発にしているジャンキーにしてストリートギャングの連中だと推測できたが。

 彼はとりあえずそのことだけを”心の中”にとどめておいた。


 そして、彼は次に室内の掃除に着手する。それもとても神経質に、几帳面に、休むことなく。

 まず台所の片づけから入り、ゴミ捨て、拭き掃除、食器の片付けなどをやっていく。床などには買い置きしておいた洗剤を豪快にぶちまけ、何時間にも渡って雑巾で隅から隅まで拭きつづけた。

 次に、床の洗濯物を集めるとそれを持って公衆の洗濯機の所へ行き。えんえんとまわし続ける。

 もちろんその間を利用して、なくなってしまった洗剤の購入と食事を済ませると。洗濯機の横で仮眠をとる。


 それが終わって自宅へ戻ると、そこからまた掃除の再開となる。床だけではない、壁にも雑巾で拭きつづけ。掃除機を念入りにかけてから、また洗剤をぶちまける作業に戻る。

 そうして次第に、雑巾で僅かな汚れを落とし続けることの作業が長くなっていく中。ほぼ24時間を近所の罵声を無視して掃除を続けるのだ。


 だが、掃除はいつまでもは続かない。

 まるで新品の部屋に生まれ変わると、彼は今度は変えたばかりのシーツのベットに潜り込んでしまう。

 彼はまず眠る。そして、また起きて食事をして掃除して眠るという作業を繰り返すのだ。


『……の見解に対し、この報復攻撃は必然なものであるとの見解を示しました。続いてはワシントンより中継です』


 外は日没、テレビでは夕方のニュースを伝えている。

 彼はいつものように、食事を終えるといつものようにシャワーを浴びてから早々にベットに潜り込もうとした。

 だが、今日は少し違うことをした。


 ベットの脇にかかる。服を見上げたのだ。

 そこにはハンガーにかかった安っぽい色の迷彩服があり、足元にはピカピカに磨いた軍靴と、パルプマガジンのヒーローがつけるようなアイガードがあった。

 そういえば、干し終えた洗濯物は全てたたんでからタンスに入れたが。これだけは自然と”こうするのが正しい”ような気がしていた。

 いや、考えて見れば”いつもいつも”これについてはそう考えてはいなかったか?


 そんな事を考えながら、彼は眠気に誘われてはいないが目をつぶる。こうしていれば、すぐに眠れる。そう言う風に”出来て”しまうのだ。


『……ちゃんはまだ6才。ご両親は、この子供の無事を心配しており。犯人に対しては要求に応じる用意があるとの……』


 そして唐突に”彼”は目を覚ました。

 哀れな子供についてのニュースが流れているが、彼がそうだったように。”彼”にもそれは聞こえてはいなかった。

 そのかわり、別の声がその耳には届いていた。


『迎えに来て、迎えに来て、私はここよ』


 それは涼やかな心休まる女の声だった。

 ベイビー、”彼”は心の中で彼女に呼び掛ける。ベイビー、ちょっと待ってくれ。おめかしが必要だ。


 台所にある窓の前まで行くと、そこにかかるカーテンを力強く引き払う。

 アークシティは夜になっていた。それは街角には闇が生まれ、そこに悲鳴が吸いこまれていく世界だ。

 鼠色の上下を乱暴に脱ぎ捨てると、”彼”のコスチュームを身につけていく。緑が強めの土色のとっくり、そして迷彩服だ。シューズのひもはしっかりと結んでほどけなくする。最後に、鏡に映った不敵な笑みを浮かべる自分の顔にマスクをつけると準備完了だ。

 冷蔵庫を開けて牛乳を取り出すと、でかいボウルにシリアルと一緒に乱暴にぶちまける。それを平らげると、流し台に放り込んで放置したままさっさと家を出た。


 夜のマンションの廊下には、部屋から追い出されて寄ったまま寝こけた男と。そいつに忍びよろうとしたジャンキーだけがいた。

そいつは、寝ている男の胸ポケットを探ろうと手をのばそうとしていたが。しかし、なにか違和感を感じて周囲を見回した。

 それが彼の命拾いとなる。

 真っ暗な影の中から、爛々と眼を輝かせる不審者の姿が現れたのだ。


”彼”だった。


 凍りつくジャンキーの横まで行くと、”彼”は低い声で話しかける。


「消えろ。今回は見逃してやる。だが、戻ってきた時にそのオヤジが胸にいれてた金を取られたと騒いでいたら。その時はお前に会いに行くぞ」


 ヒィ、とジャンキーは声をあげて尻もちをつくが。そこにはもう”彼”の姿は無く、階段を駆け下りて離れていく音だけが響いていた。

 彼はマンションの前に立つと、今度は口に出して彼女に呼び掛ける。


「ベイビー。すぐに会いに行くぜ、お前に会うのが楽しみだ…………”シ―ナ”」

『私もよ、早く来て』


 彼女の。いや、”相棒”の言葉に喜びを感じ、ほのかに興奮を覚える。



 彼は帰還し、そして”彼”が帰還したのだ。

 ”彼”の名前はカーネル”サウザンド”パトリオット。

 ある人は変な奴だといい、ある奴は奇怪な理解できない存在だと口にするのもはばかる怪人。


 そんなヒーローは、今夜も”相棒”を従え、この町で彼が掲げる”正義”のための”聖戦”を始めることになる。敵は強大で、そのすべてを把握することは”不可能”ではあるが、彼がそれに絶望することなど決してあり得ない。世界を1000回救った戦士であり、兵士なのだ。戦い方は心得ているし、それで十分だ。

 ”彼”の”聖戦”の目標は最初から明らかだ。この厳しい戦いを勝ち抜いて、愛国者として、”自由と平和”の旗のもとにこの国に相応しくない罪人共の手に縄をかけ、つないでおくのだ。

 ”彼”には敗北はあり得ない。ただただ、約束された勝利に向かい前進するのみ。


 この”聖戦”のラストシーンはもう決まっている。

 ”彼”の手を、罪人共の手につけた縄の端に括るのだ。その瞬間、勝利の栄光は”彼”へと降り注ぎ、罪人共は次々と地獄へと落ちていく。そして、人々は彼等が戻ってくることに怯える必要はまったくない。

 なぜならば、落ちていく奴等が這いあがることが無いように。地獄の底でもきっと自分が目を光らせ続けるのだから。

第6部については、しばしお待ちください。

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