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BLACK&WHITE  作者: 鷹雪
DEADMAN CALLING
93/178

シアターで会いましょう

よかったら一読後、感想その他を残していっていただけると嬉しいです。

 今は何者でもない青年は、目をそっと開けた。

 いつものように、小さな劇場の中、そこの一番良いと思える席に座り、彼は”いつものように”目を覚ましたのだ。

 この劇場で今日はどんな映画をを流すのだろう?

 ここから外に出たことも無ければ、何を上映するかというポスターも見たこともなかったが、本日の上映プログラムは過去に流した”作品”のリバイバルだと瞬時にそう”思った”ので、すぐに青年の心は落ち着いた。

 たぶん、ここにいて”いつものように”時間が来るのを待っていれば、”いつものように”勝手に上映は始まると思っていた。だから、彼は座って、ただその時が来るのを待っていた。


 だが、意外なことに今日は”いつも”とは少し違うことがあった。


 それは突然、劇場のドアの向こうに姿を現わすとなにやら買い込んだのだろうか、ビニール袋をさげ、歩くたびにジャワジャワと音をさせながら入ってきた。服装は”とても趣味の悪い”……オレンジ色っぽいスーツ姿に、ロングコートと帽子という季節感を無視した格好をしていた。気取っているのだろうか、その帽子も深くしているせいで顔はよく見えない。

 青年はちょっぴり驚いて(いえいえ、実は十分に腰を抜かさんばかりに驚いて)いたが。その異質な存在にちっとも興味ありませんよとでも言うように、無視して振舞おうとする。

 それなのにあろうことかその不審な姿の客は、さっさとこちらの方へと歩いてくると、一番いい席だと思われる青年の”隣の席”に来て座ってしまったのだった。


(なんで、わざわざここまで来たんだよォ!)

 とは、青年のいつわざる本心ではあったが。だからといって2人しかいないこの劇場で、相手がどこの”席”につくかは相手が選べばいいだけの話。つまり、居心地は悪いが上映中は青年は彼(?)を無視していればいいだけの話だと冷静に考え、納得することにした。

 それなのに、である。


「君、”この劇場”はいいね。清潔で、よく掃除がされている。無神経にも携帯電話をチカチカさせるバカも、アホみたいに吐き気を覚えるほど臭い匂いを放つ香水をつけた奴もいない。

 つまり邪魔者が限りなく居ない空間というわけだ。理想的だ」

「……ア、ハィ」

「ん、そうだ」


 せっかく青年が相槌を打ってやったというのに、相手はそれに気にすることなく自分が持ってきた袋の中を見て何かを探し出す。

(無視かよォ!だいたい、”館内”にいるのにいつまでその趣味の悪い色のデカイ帽子をかぶったままなのだァ!?いい加減に脱げよなァ!)

 などと青年が思っていると、相手の男は”持ってきた袋から出したとは思えない大きさ”の紙のカップに入ったあふれんばかりのポップコーンを取り出してきた。


「どうかな、これ?すまないが、キャラメルソース味だ。あ、そうそう。飲み物も必要かな?ここにダイエットペプシがあるが、これでいいかね?」


 そう勝手に話を進めると、ポップコーンの山と1リットルはあるであろうジュースのカップを青年になれなれしく差し出してくる。

 その勢いにのまれ、青年はついついその両方を受け取ってしまうと、相手はそれに満足したのか。自分は小さな湯気をあげるコーヒーカップを取り出すと、席に据え付けられたコースターに入れて座りなおした。

(まぁ、こういうのもいいか)

 さっきまでの不満は現金なことに目の前の食い物の存在で許してしまうことにしたらしい。青年も座り直すと、さっそく失礼してポップコーンの山に手を突っ込み食べはじめた。


 ちょうどその時、劇場内でブザー音が鳴ると、灯りがゆっくりと落ちていき映画が始まる。



▼▼▼▼▼



 男が1人、現れた。

 正確にいうと、男が1人。何もないところに突然、生まれた。これが正しいだろうか?

 とにかく、20代中盤の若く健康そうな男が突然にして”生まれる”と、自分が立っている場所を確認するかのように周囲を見回した。


 そこは荒野で、なにもなかった。


 男は”やっぱり”孤独だったのだ。

 彼については、このままうやむやで話しても話が進まないのではっきりと断言してしまうが、先程までは神であった。

 より正確に言うと、”神”に近しい存在の1人(?)だったのだが、それは今の彼ではない。

 混乱させてしまっただろうか?つまり、この神はトラブルの末にこうして男となって地上に放り出されたと言いたいのである。


 そんなことになってしまった原因についても説明しよう。彼は……”自分の子供”を作り、力を与え、それにふさわしい存在にしようとして教育したのだが。全てが裏目に出てしまい、息子は親である彼の力すら奪い取り、無情にも人としてこの世界に投げ出したのである。


 彼は、自分の手を見つめてみる。

 確信があった。それまで簡単にできたすべての事が、今では全くできないということを。己が限りなく無力で意味の無い存在となり果てたことが嫌でも理解できた。

 彼の力は奪われたが、その時の”分かっていた事”までは息子は手を加えなかったらしい。

 神は、男はこの”知”でもって息子に対抗することにした。


 そうして、彼は次々と”類い稀なる力”を持つ者達のもとに訪れることになる。

 

  その全てが快く彼に力を貸そうとは言ってくれなかったが。それでもその数は、ちょっとした一国の軍隊並みの戦力になるだけを集めることができた。

 戦いの準備を終えると、男は先頭に立って彼等を息子の居る場所へ。地底深くにある大鍾乳洞へと導いた。




 そこには、例えるのが大変に困難なことなのだが、ざっくりと説明すると巨大な植物の芽があった。太陽の無い地底の暗い洞穴にあって、みずみずしい緑色のそれは異様な存在感を放っている。

 神だった男は、息子のその姿を見るなり大いに嘆き、失望する。


「お前は恐れられる者として作ったのに。それが父の力を奪ってまで、はたしたことが無力な植物の芽だと?」


 息子は返した。


「恐れられる者になど興味はない。自分はただ、この星の全てが欲しいのだ」


 言葉は交わされたが、結局はなにもかわらなかった。

 息子は父の要求をすべて拒否し。

 父は自分の力すら奪ってみせた息子を、そのままになどするつもりはなかった。


 彼の号令と共に、集められた軍が。超人達が、植物の芽となった息子に襲いかかっていく。

 その戦いはとても激しく、そして信じられないほど長時間にわたって続けられた。後に地上ではTHE CRASHに匹敵するほどの地震だったとして。また、その年が特別悪い事件が多かったことから。この間に起きた地震災害を総じてデビル・クエイクと名付けられることになるのは、また別の話。



 この戦いが始まって7日目には息子の勢いに陰りが見え、10日目に入る頃にはようやく決着がつくのではという気配がみえてきた。

 神だった男によって選ばれた”類い稀なる力を持つ者”達は、その力を十分に見せ付けていた。

 ”許されぬ大罪”を犯した息子を激しくうちすえ、叩き落とし、さらに攻撃を重ねて加えた。


 そしてついに最期の時が来た。

 息子は抵抗する力を全て、失ったのである。

 それまで無力なゆえに離れた場所で事態をただひたすら見ていた男が、再び進み出ると言葉をかける。だが、それは温かい情など微塵もない。

 冷たく、無慈悲に今から行われる死刑の宣告であった。


「嫌だ!死にたくない!恐れる者になどなりたくない!」


 息子の悲痛な声にも男はどこまでも冷たい。


「まず、お前の体を焼き尽くして私の力を取り戻そう。次に、お前の体を”作りなおして”からその命を奪おう。その骨となって大事な部分。頭部の、髑髏を取り出したら再び生まれ変わらせてやる。この失敗は次に必ずいかす。

 お前はその時、私の望む完全なる恐るべき者となって誕生するだろう」


 死をこえてなお残酷なその全てを語り聞かされ、息子は嘆きと懇願、謝罪を口にするも無情にも男の腕は振り下ろされた。同時に、超人達による情け容赦のない攻撃は、この星の洞窟にあった違和感のある巨大な芽を焼き払っていく。

 そして、男は再び神へと戻った。

 彼は、彼に変わりそれまで戦ってくれた超人達を前で、宣言通りに焼き払われた息子の体を作り変えると人の姿にまずは戻した。

 途端に、溢れる涙とあげる悲鳴に微塵も動揺することなく。

 神は取り戻した自らの力で息子の体を再度焼き尽くし、その頭部の髑髏を手中に収めた。時が来れば、これは彼が作ろうとした”恐るべき者”となって生まれ変わるはずである。



 「戦いは終わった」それはこの場に集められたすべての者の思いだった。

 しかし、ここで意外な展開を迎える。



 神の息子は、自身を植物へと変えた後。その身体の成長に人間を攫って食っていた。

 それはルールの無い、無慈悲で不条理な決断の末の行いだったが。神の力を持つ者としての当然の事として平然と息子はそれを続けていた。

 だから、そんな面倒くさいことになるとは神も超人達もまったく思っていなかったのだ。


 問題が全て終わったと思った時、新たな問題が姿をあらわしたのだ。

 焼き払われたと思ったかつて息子の体だった植物の中から、1人の青年が姿をあらわした。

 その処遇をめぐり、神と超人達の意見が紛糾したのである。


 そいつは言った。

「我々が集められたのは何のためだ?このような存在を許さないためにこの戦いがあったのではないか?」

 そういうと、青年の頭を吹き飛ばそうと主張した。


 あいつは言った。

「求められた戦いは終わり、決着はついた。予想外の展開だが、歪みがただされた以上我々がここですることはない」

 そういうと、青年の存在をみなかったことにしようと主張した。


 どいつが言ったのだろうか?

「戦いは終わり、決着もついた。この青年の背景が不明な以上、即断即決の行いは厳禁であろう。保護するべきだ」

 そういうと、青年を助けようといって彼の前に立ち塞がった。


 かつて父であり男だった神は、それに一言も口を開かなかった。

 困惑するでもなく、おかしな感情を込めた視線を向けるでもなく。ただ、ただじっと青年を見つめていた。

 結局、超人達は自分達の意見がまとまらないことを悟ると、神に全てをゆだねることにした。


 処断すべしと言えば、その場でおわらせてよし。

 関係ないと言えば、その場で見なかったことでよし。

 助けよと言えば、その場から連れ出して家に戻してよし。


 だが、神はそのどれもをえらばなかった。

「ただ、あるがままによし」

 そう口にすると、もう全てに興味が無いというように。超人達を置いてその場から背を向けさっさと離れていってしまった。



 処断すべしとされなかったことで、自分達がここで手を下すのは興ざめだ。そう言ってまずは強硬派の超人達がここから離れていった。次に、自分達のいった通り。その青年の事など見なかったと結論づけたもの達が立ち去った。

 最後に、青年の側に寄り添った超人達は彼を地上へと連れていった。彼には名前があり、家は重度の精神治療中の患者いる病棟であった。

 青年が姿を消した時、もう戻ってこないだろうと諦めていたスタッフ達は喜んで迎え。その様子に満足した超人達はようやくのこと家路についた。



 こうして、全ては終わった。そう誰もが思っていた。



 それから数年の時がたつと、病院のスタッフの前から再び青年は姿を消した。

 だが、今度はそんな青年が消えたことに、この病院のスタッフの誰もが心痛めるわけでもなく。むしろ、居なくなってせいせいしたと考えていた。彼は一度姿を消して戻ってくると、別人のように変わってしまっていて、皆がそれを不気味に思っていたからだ。

 だから、結局なんだかんだ理由をつけ、今度は警察にも捜索願は出さなかった。


 青年はどこに行っていしまったのだろうか?

 彼は、あの日の神のようにこの世界から消滅したりなどしなかった。そのかわり、ある場所へ。ある町へと向かったのである。



▼▼▼▼▼



「ちょっと!誰だよ、こんなにしたのは!?なんとかしてよっ」


 空のポップコーンの箱をおいて立ち上がると、なにものでもない青年は不満の声をあげた。

 劇場内は、まだ暗かったが。スクリーンは真っ白で映像を映しておらず。スピーカーからも音が飛んでしまって、なんだかイライラさせられた。

 ストーリーはまさに最終局面で、ここからもうすこしすると、あの不幸な青年は生まれ変わってヒーローとしてある街の人間達に向かって名乗りをあげるシーンが来る。これがこの映画の最大の見せ場であり、彼自身もそこの部分を見るのが楽しみだったのだ。


「おーい!おーい!灯りはつけなくていいから、上映を続けろー!」


 反応は全くないが、たぶん”誰かが聞いてくれているはず”で。この不具合も”直してくれる”はずなのだ。


「あっ。ど、どこにいくんです?まだ、映画は終わっていませんよ」


 抗議の声をあげる青年に嫌気がさしたのか、それともこんな場面で客を白けさせる劇場側に不満をいだいたのか。隣に座った帽子をかぶったロングコートの男が立ちあがってこちらに背を向けて歩きだしたところで、たまらず青年は始めて自分から声をかけた。

 その彼は、青年の呼びとめに足を止めて振り向くと言った。


「そのようだ。しかし、残念ながらこちらも時間がなくてね。実は待っていた人からようやく連絡があった。これから会うんでね、私はここまでだ」

「で、でも。映画はまだ!」


 青年の言葉に、彼はひとつ頷いてみせると


「実はこの後のシーンを私は”知ってはいる”んだよ。それじゃ君、またどこかで……」

(どこかで?何処で会うって言うんだろう)

 青年は彼の言葉にそう疑問を持ったが、それを口にすることは無かった。

 彼は結局、その後は一度として振り返ることは無く。激情の出入り口から出ていってしまう。入ってきた時は、あんなに警戒したものだが。会話をして去ってしまうと、すこし寂しい気持ちもした。


 不思議な話で、白いスクリーンがなおったのは彼がここから出ていってすぐの事だった。青年が後ろ姿が見えなくなって興味が無くなり席に座ると同時に再開した。もう、青年の頭の中にはさきほどまで一緒に見ていた彼の事など忘れている。

 だってそれも仕方が無い。いよいよ見せ場、主人公が名乗りをあげるシーンが来たんだ!


『俺の事を知らないだぁ!?まぁ、しょうがないよな。忘れられない名前だぜ?良く聞け、この俺の名は……』



▼▼▼▼▼



 怪人コピーキャットが目を覚ますと、眼前にはあのデッドウーマンがいて彼の顔を覗き込んでいた。


「お目覚め?どう、気分は?」

「……どうかな、悪くはなさそうだが」


 怪人は体を起こすと、自身が服を着ていない素っ裸であることに気がつき。天を仰いでからため息をつく。


「知らなかったわ。あなたって、本当の自分の顔になると。髪もなくなって、体毛も全くないのね。つるつるでお手入れが簡単そう。うらやましいわ」

「服は?」

「まだよ。ちゃんと”戻ってこれた”か。確かめないと。自分で調べるとかいって、面倒をかけないで」

「色男じゃないから退屈だろうな。まかせるよ」


 デッドウーマン、不思議な女だった。

 ボーイッシュな髪、猫を思わせる大きな釣り目に、小顔の美人だがその外見は全体的に”蒼い”色をしている。それが、名前をあらわす死人のデスマスクを思わせるからデッドウーマン。酷い名前ではあるが、よく”本質”をあらわしてもいる。


 裏地が赤の白いマントに、腕の付け根から先は剥き出しの白のボディースーツ。

 白と青のコントラストは、どこか冷たく、落ちついていて、妙な色気も感じる。色気?自分が?怪人はそのことに笑い声をあげそうになる。性別など、これまでの自分には全く意味のない事だったではないか。

 それを見て、怪人の手をとり、首元に指を置いて脈をとったりしているデッドウーマンは勘違いをしたのだろう。


「なに?そんなに、あそこで面白いことがあったのかしら?}


 そういって、後ろを顎で指し示した。


 そこにはもう1人、男が眠っていて安らかな寝息を立てている。

 カーネル”サウザンド”パトリオットだ。

 最後に会った時は、彼は血を拭きだしながら囚人服を身につけていた。ボロボロではあったが、あのギラつく目の輝きが特に印象に残っている。

 

「”彼の中”ってどんなだった?」

「……」

「興味があるけど、ちょっと自分で入ってみたいとは思えないのよね」

「その方がいいだろうな。それに……そう、”なにも”なかったよ。わかっていたことだ」

「そうね……そうなんでしょうね」


 そう言ってデッドウーマンは怪人の体から離れると


「さ、服を着てもいいわよ。向こうに置いてある」


 そう言って、眠ったままのパトリオットの側に立った。


「スリーピング・ビューティー(眠り姫)っていうか、ボーイ?ふふ、こうして見ると。”あの時”は随分幼い印象を受けたけれど、ワイルドな顔。いつもはこういうのは趣味じゃないけど、可愛いわ」


 怪人はデッドウーマンのその感想にはなにも言わず。黙って服を探す。


「おい、デッドウーマン。これは……」


 服を見つけたが、そのデザインを見て動きを止め。困惑の声を漏らした。


「なにか問題が?」

「……わかっているだろうに」

「さぁ?なにかしら?」

「色だ。他に何かあるか?」

「不味かったかしら?あなたには懐かしいと思って。1930年代のグル―ヴって感じで」

「……ふん、そんな訳があるか。”その頃”でも十分、おかしな格好だったさ」


 そう言うと、怪人はデッドウーマンが用意した彼のいつもの服装に手をのばした。

 季節感を無視したロングコートはそのままであったが、スーツと帽子はあの劇場に居た時と同じ。変わった色の、オレンジを基調としたものだったのだ。それは確かに、21世紀の今でもおかしな格好ではある。


「そのスタイルで表を歩けば、多くの人が驚くでしょうね?エージェントの何人かも、血の気が引くどころでは済まないショックを味わうと思うけど?」

「……デッドウーマン、質問がある。君は、子供のころからその髪型だったのか?」

「いいえ、なぜ?」

「よかった。子供の頃の髪形を今もずっと続けていると言われたら、こうは言い返せない」


 そう言いながら、テキパキと衣服を身につけていく。


「時がたてば、流行と同じで趣味も変わるのさ。同じ格好でも色が違うだけで印象は違うもんだ」

「なるほど、そりゃそうだ」


 オレンジ色の帽子を深くかぶると、顔の無い怪人は眠るパトリオットを見た。


「彼はどうなる?」

「彼の罪はなかったことになるって。あそこで起こった事件は、全てなかったことにされたって。民間刑務所の運営会社にプレッシャーを与え続けて、職員達の口は封じ。囚人達には刑期の減退で黙らせたって」

「そうか」

「彼の逮捕と記録が抹消されたことで、真犯人の逮捕が改めて発表。カーネル・パトリオットの逮捕の発表は、検察の勇み足ということで、減俸処分ですってよ」

「なるほどな」


 特に感動もなく、自分の知らないその後の話を怪人はまるで他人事のようにして聞いていた。


「興味はないの?もう、終わったことだから。それとも、”戻ってきた”ばかりで現実感が無い?」

「そのどちらでもないな。決着がついたのは喜ばしいが、それを大喜びしていないというだけだ」

「ふーん、本当に??}

「なぜ聞く?」

「視線、かな。おかしな話だとはわかるけれど、私には妙に熱っぽいものを感じるのに、話には上の空。だから、ね」

「…………そうか」


 そういったまま黙ってしまう。

(混乱してる?そんなことはないか。でも、話すつもりもないということか)

 デッドウーマンは無意識に眠るパトリオットの無精ひげを指で弄びながら、怪人の信条をそう分析していると。コピーキャットも歩いてきて、彼女の横に並んで眠るパトリオットを見下ろした。


「これまで、彼とは極力接触を避けてきた。あの出会いは、誰にとっても最悪なものだったし。彼を助けようと思ったのも別に深い意味はない。ただ、”それでは納得できない”という、わりと身勝手なものだ」

「そう。でも、そんなこといったら皆がそうだった。好き勝手に自分の意見を言って、騒いでたんだから」

「確かにな。だが……今回、彼に深くかかわったことで皮肉にも…………感じてしまったのだ」

「なにを?愛?」

「ふざけるな。茶化すんじゃない、真面目に話しているんだ…………いや、やはりやめておこう」

「待ってよ。ちゃんと聞くからさ。なに?」


 ”のっぺり”した顔の怪人は、大きく息を吸って吐くと。ついに本心を明かすことにしたようだ。


「なんのこともない。”同病相哀れむ”というやつさ。知っているか、この言葉?」

「東洋の言葉ね、知っているわ。そう、つまりあなたは……」

「そうだ、お互いに似たところが多くて冷静ではいられなかった」

「そんなに?」

「ああ。人としての名を捨てた。超人としての名も、過去も捨てた。それでもなお、生きて自分が信じた道を歩こうとする。みじめな姿をさらしてな」


 その言葉の一つ一つに、このコピーキャットなる怪人の苦痛と苦悩が刻まれているかのような重いものがあった。


「そう……」

「やめよう。これでも、古い南部の男の価値観を持っていてね。泣き言とか人から憐れまれるのは、いい気分がしない」

「あら、それじゃ私は南部の女ってことかしら。そんな弱気な男を見ると、さらに虐めたくなってゾクゾクしちゃうの」


 コピーキャットとデッドウーマンはそこでようやくお互いの顔を見合わせると笑いあう。

 同時にそれは、お互いがこの事件に関わることがようやく終わることを意味していた。

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