とある長い一日、の終わり
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「いやぁ、参りましたよ」
アークシティ警察署の会議室では、再び戻ってきた以前のメンバーによる”手うち”の儀式が行われていた。その冒頭、タオは心の底から愉快そうにこう言ったのだった。
「3流はしょせん3流。自分の言った言葉でしたが、その通りの結果となってしまいました。
まったく、大恥をかいてしまいましたが・・・いい勉強になりましたよ。こちらの完敗です」
「なら、そちらが勝手にした裁判記録は……」
「もちろん、無かったことにさせてもらいますよ。あなたが嫌といっても、今度は私が嫌ですからね。こんなバカに本気で関わったなんて、経歴には残って欲しくもありませんし」
「……それだけか?」
「もちろんそれだけですよ?なにか他に望むものでもありましたか?
あなた方警察は、捕まえた真犯人を解放しなくてもいいですし、あなた自身はあの可愛がっている3流ヒーローの無実を証明した。そこの可愛い検事さんは自身のキャリアを守り、その上司も首の皮でつながる。
となれば、この騒ぎの真相は明かされることは決してありません。誰にとってもいいことずくめ、皆さんの完全勝利ですよ」
「あの刑務所はどうする?」
「あそこがなにか?」
「今回の暴動で、死者が出ただろう!囚人看守をふくめて31人だったか、それはどうなる?」
「こちらで処理しておきましたよ」
「だから、どうしたと聞いている!?」
するとタオは画面の向こうでやれやれという仕草を見せ、わざとらしく溜息などついてみせると。駄々っ子を慰めるような口調になり
「いいですか、警部?あの舞台は今回、当然”使いつぶす”為に用意されたものです。私の考え通りであるならば、あの3流の手によって全員死亡であるところを。たった31人ですんで良かったじゃないですか。
しっかし、たった31人!はっ!その中であの3流が1人も殺していないということが、なによりも恐ろしい無能さを示していますね」
ギリリッ、音がする。それはサンダーランド警部のする歯ぎしりの音であった。
それを画面の向こうで眺めていたタオは、それまでの表情をやめてスッと冷静になると、画面を覗き込むように近づけてしげしげと観察を始めた。
「今回、私が唯一得られたのはあなたのその顔だけ。まったく、腹立たしいことにね、警部。
そして忘れてもらっては困る。我々エージェントこそが!この世界で唯一絶対の”正義”を掲げるにふさわしいチームであるということをね。あなたの町や、あのアウトキャストといった連中のように。自身の事は棚にあげ、我々をことさら敵視するのは間違っているということを」
(そしてわかっていましたよ。例え、私の満足する結果に至ったとしても、あなたはきっと我々の動きに対して断固たる行動をとるだろうということをね)
それは決して言葉にはしなかったが、複雑な心情の混ざった感嘆の言葉であり、この超人の敗北宣言でもあった。
「さて、お互いもう話すことはありませんね。
いや、違った。1つありましたよ。実は、我々は”騒ぎを聞きつけて”例の場所をずっとカメラで監視していたのです。あなたの雄姿もみてましたよ?大活躍でしたね。
ただ……ただ、1つ気になることがありました。
あなたとあの3流が激突した時の事ですよ。おかしな人がいましたよね?
その人物が誰で、何をして、どうなったのか。教えてはもらえませんか、サンダーランド警部?」
「…………」
「いえね。うちの何人かはなぜか青白い顔をしたまま『まさか、違う』などといって話してくれないし。うちの誇る超人のデータベースにも”彼”の情報は載っていないのですよ。ぜひぜひ、こ……」
タオが言い終える前に、向うから連絡を切られてしまったらしく。画面は黒くなると接続切れとの警告が映し出されていた。
それを苦笑して視線をはずしながらボソッとつぶやいた。
「これだからアークシティは興味が尽きません。これからにも期待していますよ」
もう繋がりのなくなった画面に、だからこそ珍しくタオは本心をそのままそこへとぶつけた。
▼▼▼▼▼
2人そろって会議室を出ると、ルシールは思い切って自分から切り出そうとした。
「その、警部。今回は、本当に。そう、本当に……」
「検事。そのことなんだがいいですかね?」
彼女の言葉を警部を遮った。
「実は、イハラ刑事は優秀ですが、あの性格なもので殺人課にはこのまま長くは置いておけません。しかし、あいつにはこの事件に限りといって約束して復帰させました。デスグラジアを捕えた今、殺人課の連中の目がうるさいんですよ。
すいませんが、これからあいつと病院に居るデスグラジアの兄妹の尋問をおこなってきてもらえますか?」
「え、ええ。それは、それはいいけど」
「今回の事件は……大変だった。誰にとってもね。
私は少し……いや、違うな。他に用があるので、連絡を入れたり他の事件なんかのね。だから、ここで失礼しますよ。あとのこと、お願いできますか?」
「も、もちろん。喜んで、精一杯やらせてもらう、わ」
「よかった。アインに運転をさせましょう。イハラだと危険だから」
そう言うと、アインとイハラを呼ぶ。イハラは全てわかってますよという笑顔で検事の腕を引っ張って駐車場へと向かい。アインはその後を慌てて追う。
そんな彼らの背中を見送りながら、警部は思った。あのアインも、今回で色々と一皮むけたように思う。遠くない日に刑事になる時の為に、今はああしてついて回ることがいい勉強になるだろう。
自室に戻ると、まず最初にエグザイルに連絡を入れ。次に不死の探偵であるダ―クハートに電話した。騒動が終わり、彼のほうも帰ってきていいと伝えるためである。
「そうかい、そっちも楽しそうで何よりさ」
電話の向こうから、ブツブツと文句を言うあの髑髏の探偵の不満そうな声を聞きサンダーランドは笑った。むこうもなにやら部下達の休暇に付き合った結果、色々あったようだった。だが、今の警部にそれを聞いてやる元気は残ってない。
「とにかく、こっちの事件は終わったよ。ああ、あいつは無実だった。真犯人も捕まえた。
意外にも、面倒が色々と山になって押し寄せたおかげで大変だったが。そっちも?そりゃそうだろうが、戻ってくるまではちゃんと面倒を見るって約束だろ。部下なんだ、よろしく頼む。
戻ったら、こっちの事情もきっちり全部話して聞かせてやるから。早く帰ってこい、取調室の席を空けて待ってる」
電話の向こう側で、怒りの抗議をする声が聞こえるがサンダーランドは答えることなく、お構いなしに受話器をさっさと置いた。
ふぅ
溜息をついて両手を頭にやって髪をなであげていると、特戦班のドリーとロジャーがノックして顔だけ入れてきた。
「どうした?」
「あの!警部、俺達役に立ちました?」
「ああ、”今回は”やってくれたな。助かったよ」
「それはよかったです。こちらも、話をしやすいので」
「??」
「ああ!ドリーが言っているのはですね。今回の俺達の兵器。つまり、開発した新兵器についてなのです。感想というか、改良の部分の意見が無いか。上司としてお願いしたな、と」
「次回の幹部会で、あれをもっと改良した奴にしてから採用して貰えないか。提出しようと資料を用意したいと思いまして」
「……お前達、アルバイトに熱心なんだな」
「いやいや、警部!俺達、刑事としても頑張ってますから!」
「まぁ、自分達のアイデアが他の警官に使われる、とかいうのも夢ですけど」
「アイデア料がか?」
「はい!……いえ、まさか。そんな訳がありませんって」
「そんなに、高い価格設定はしませんから」
「そうか……それはありがたいな。ならばはっきり言ってやろう」
「おお!」
「ありがとうございます」
いつになく優しく応対してくれる警部に、2人の問題児は喜ぶが次の瞬間
「あんなの、警察で使えるわけないだろうが!!」
さっそく、雷が落とされた。
「何が新兵器だ、お前ら。聞かせてもらったぞ!
約8ミリの針をレールガン仕様の砲で射出して、体内を貫通しないようにさせ。で、次にあの怪しげな電子装置を使って、特定のエネルギー周波を針に送って、対象の神経を体内で焼くそうじゃないか!」
「そ、そうです!非殺傷兵器ですから」
「なにがそうです、だ!お前ら、その針をマシンガンの要領で撃ちまくってたそうだな!?死人が出なかったのは、奇跡だぞ。どうしてそんなものを考えた!」
「えーと、CIAの技術の1つを応用しようと、そう思いまして」
「バカが!それは拷問するための技術だろうが!そんなのを警察が堂々と使えるわけがないだろう。もういい、すぐにあれをここにもってこい!」
「え、ここに?」
「そうだ!お前等が馬鹿な考えに取りつかれないように、俺が今からこの手で念入りに粉々にしてスクラップにしてやる」
「「そんなぁ」」
ハモる2人の情けない顔と声に、いつもの張りのある声と厳しい表情の戻ったサンダーランドは怒鳴りつけた。
「いいから、持ってこい!」
次回更新でエピローグとなります。




