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BLACK&WHITE  作者: 鷹雪
DEADMAN CALLING
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雷人 vs 愛国者

よかったら一読後、感想その他を残していっていただけると嬉しいです。

 タオ・ヤンロンはU.S.エージェントである。

 それも唯のエージェントではない。この組織を動かす、そのための原動力たる”知”であるという自負がある。

 この世界では、全ては計算式では割り切れない。アノマリーが、矛盾が存在する。

 だがタオはそれすらも読みとり、予測し、計画に折りこむことこそ自分が最も得意とする所であると自負し。それは事実だと考えている。


 だが、そんな彼でも。であるからこそ彼は、時にこの矛盾によって苦しめられることがある。

 そうだ、今回のように。あの愚か者と有名だった、3流のヒーローであるはずの。廃棄物のようなゴミによってそれを味わわせられている。

 会議室には、幾人ものエージェント達がいて。彼等は今日のこの時を、タオの呼び出しを受けて集まっていた。”新人のスカウト”というのが名目であったが、本当の所は目的は少し違った。


 カーネル”サウザンド”パトリオットという天災的存在を使った爆弾のデモンストレーションのはずだった。


 これには少し、説明がいるだろう。

 彼等エージェントの中にも、”事情通”達はいる。彼等の見たてで、カーネル・パトリオットという。いかにも超人としてゴミのような奴が、意外にもとても”面白い”存在であるということをタオは知ることができた。

 曰く、彼は人の感情をエネルギーとして吸収し。それを集めることによって力に変えて、ヒーロー(彼が考える)のように振舞う存在なのだという。つまり、彼が見せる尋常ではない精神的強度は、そうしたエネルギーによって構築されたものであると解釈した。


 ならば、とタオが考えたのだ。

 その彼が、出がらしの状態の時に吸い上げるエネルギーが、まじりっけ無しの純粋な、恐怖、苦痛、怒りをはじめとした負のものばかりだった場合。彼はどうするだろうか、ということだ。

 その疑問に対し、皆が同じ答えはしなかったが。ある部分だけ、”彼の力は強まるだろう”とだけは皆が一致する見解であった。


 だからタオは実際に実行することにした。

 彼の考えでは、人を波。つまり川と考えるならば、その力が強くなるとは濁流になるということだった。力のコントロールなどなく、暴走し、それは容易に弱い者達を容赦なく殺していくはず。

 つまり、”刑務所などのような”施設に彼を入れてしまい。そこで吸収を行えば、彼はいつものようなヒーローではなく。暴力にとりつかれた悪魔に、殺戮兵器としてつかえるかもしれないと考えたのだ。


 そうして始まった、暴走からの暴動は開始から数時間。

 その間、ここにいるエージェント達と共に。刑務所内に仕掛けた様々なカメラの映像で中の様子を見ていたのである。

(な、なんということだ!大失敗だ)

 結果は、見るも無残なものである。一方的な暴力は繰り返し行われ、パトリオットの力は予想通り強くはなったものの。タオが期待したような殺戮機械となって囚人共を血の海に沈める、なんてことはおこらなかったのだ。

 相も変わらず木製バットなんぞを後生大事に抱え、勢いよく頭をかっ飛ばしているが、死体の山などつくられなかった。こんな結果では……まったく意味が無い。


 出席しているエージェント達の視線も痛い。

 実際、彼等は内心ではタオの失敗を笑いつつも、こんな無駄な時間を拘束されるたことに同時に怒りを感じているはずだった。

 だが、ここで少しばかり面白い展開になってきそうだった。

 あのカーネル・パトリオットの前に、雷人サンダーランドが姿を現したのである。超人として、他の超人の力が。それがどちらが優れているのか確かめるのは、本能のようなものだ。

 会議室に流れていた、呆れた空気は取り除かれ。今では皆がディスプレイに集中している。


 もちろん、タオもその1人に違いない。



▼▼▼▼▼



 ルシール検事と、イハラ刑事は爆発音とともに何かが中庭に飛び出してきたことを知った。

 激しくわき上がる砂煙の中から姿を現したのは、いつもとちがって囚人服ではあったものの。ボロボロの木製バットを手にしたカーネル・パトリオットだと視認した。


 しかし、その姿は壮絶なものであった。


 頭からだけではない、目は毛細血管が破れたか。眼球が真っ赤に染まり。鼻血が流れて唇の中に落ちていく。それだけではない。手や足の、いくつかの毛穴からも血が流れていて。激しいダメージを追っているのは見ただけでも明らかであった。

 だが、それにもかかわらずこの男の目の中に光る強い意思は微塵も揺らぐことは無かった。舌なめずりをして、ついていた片足を震わせてゆっくりと立ち上がろうとする。


 その一方で、彼をそんな姿にした男の姿も確認できた。

 雷人、サンダーランド警部。ルシール検事はその時、初めて己の肉眼でその荒々しくも神々しい姿を見たことになる。

 4階の通路の壁をぶち抜き、パトリオットを中庭に放り出した超人は、そこから地上を睥睨していた。

 その身体からは激しい感情の高ぶりと、尽きることのない戦闘本能をあらわすかのように、細く青い電気の網がパチパチと音を立てて発せられ。穴の壁に、床に、天井にと這いまわっている。


「ペッ…………どうじだぁ!おれぁ、まだピンピンしてるぞぉっ!!」


 挑発のつもりなのだろうか。パトリオットがそう口にすると、またたく間に警部の身体中から発せられる電気の網がその数を増やしていく。


「降りてごい!戦ってやるから!俺が怖いがぁ!?」


 次の瞬間、凄まじい雷撃の束が放たれるとパトリオットへ直撃して見せる。その光景を、多くの目撃者が見ていた。



 飛んできたのは雷撃である、銃の弾ではない。

 その強いエネルギーを”完全”には逃すことができないパトリオットであったが、手に持ったバットを前に掲げると直撃してくる雷とぶつける。すると、バットに当たったから砕けた、わけではないだろうが。雷は幾本にも別れると、パトリオットの立つ周辺の地面を焦がしながら好き勝手に踊るように動きまくる。


「ざ、残念だっだなァ。今度は、今度は立っていられるぜぇ」


 その一撃に耐えると、声こそ勢いはなくなったが。その目の力強い輝きが変わることは無くそう言い放つ。

 そしてそれを見てだろうか、サンダーランド警部の体が宙に浮くと、ゆっくりと4階に開けた穴から地面へと降りてきた。


「ど、どうじだぁ!?こ、来ないのか!」


 ボロボロのまま、身体中から血を噴き出すのではないかと不安になる中で。本人だけはまるでそんなことにはならないという確信を持っているかのようだった。


「あ、あの町の偉そうなクソ野郎共全員に。お、俺は言いたい事があったんだ!

 いつも、い、いっつも。俺の邪魔ばかりしやがって。特に、テメェとあの不気味な探偵だ!ギャーギャーと一々わめきやがって、お、お前らなんてな。へ、屁でもねぇぜ」


 だが、そこでついに限界が来たのか。パトリオットは顔をゆがませると、その場にゲーゲーと嘔吐しだした。


 「へへっ、吐いたらテメェの攻撃なんぞ。治っちまう」


 顔を上げて片手で口もををぬぐうと。そういって、ニカッと笑ってみせる。まるでなにも問題はないと言う様に。




(これはこれは、意外な収穫になるかもしれませんねぇ)

 画面を見つめていたタオはこっそりと顔に笑みを浮かべた。

 少々退屈な展開ばかりで、客がすっかり冷え切ってしまっていたけれども。ここに来て面白いことになりそうだった。

(あれは殺しますね。いや、殺し合いになります。サンダーランドが負ける、とも思えませんが。しかし、相手はあの”天災的問題児”ですからね。ヘヴィ―級の試合並みの面白いカードになりましたね)

 すでに、タオの中ではパトリオットの使い道が無いとわかった以上。この実験に意味はなくなってしまったが、そのかわりにこの面白いカードでやってくれるならば。その苦労に十分な価値のあるものになるだろうと楽しみ始めていた。


 しかし、敗者が得るものは少ない。それは歴史が示す、当然の帰結。


「ん?おい、誰か出てきたぞ。見たことない奴だな、誰だ?」


 誰かの言葉が会議室の中に響くが、この場にいたエージェントの何人かは顔色を変えただけでそれに返事はしなかった。ただ、ただ画面にじっと集中し続けるだけ。




 ステージ上の戦いの空気を台無しにする者がそこにいた。


「サンダーランド警部、そこまでだ」


 その声の主はそう言うと、怒れる雷人の気を静めようとするのは怪人コピーキャットである。

 性別不明、存在から怪しいこのアークシティのもう1人の超人探偵は、借りたままのエグザイルの顔で姿を現したのだ。


「……中に戻る。あとは”よろしく頼む”」


 サンダーランド警部はそれだけ言い残すと、パトリオットに背を向けると、一度も振り返ることなくこの場から立ち去ってしまう。それに驚いたのはパトリオットの方だった。

 立ち去る警部の背中に、あらん限りの罵声を浴びせるものの相手は結局全てを無視した。それでもまだ不満があるらしく、ぶつぶつとパトリオットはつぶやいている。


「白けるぜ、逃げやがって。これじゃ、おれの不戦勝じゃねぇか!」

「つまらぬことをきにするんだな」


 やる気をそがれ、悪態をついているパトリオットにコピーキャットはこの時、初めて声をかけたのだ。


「ああ!?……お前、あれか?あのクソ探偵の女?店をやってる……野郎の代わりに、お前が相手をすると?相手が女でも、俺は容赦しないぜ!」

「……」

「なんだよ、びびっちまったか?それならいいぜ。あのクソ警察を呼び戻せよ。再戦してやるからってよ!」

「再戦?その必要はない。勝負は一瞬でつく、結果は分かっている」

「おおい、なんだそりゃ。どうなるっていうんだ?」

「お前は負ける、絶対にだ。逆にいえば、だからこ、そここにコピーキャットは存在するのだ」

「へ、訳がわからねー奴だな」

「……ふむ、色々と。面白い”成長”を遂げたものだね。青年」

「!?」

「あの時、あの姿を見た者の1人として、とても感慨深いものがある。これは、私にとっても驚くべき心情というものだ」

「てめぇ……あの女じゃないのか?誰だ!?」

「ここでは少し、不都合がある。こちらを見ている”目”が多すぎるのだ。隠してしまおう」


 そう言うと、コピーキャットは自分の帽子のつばに手をやり、深くする。

 すると風が強くふきはじめ、巻き上げるように中庭の砂埃を吹きあげはじめた。同時に、再び帽子をあげはじめたコピーキャットの真の顔を見て、目も鼻も口もない真っ平らなそれを見てカーネル・パトリオットはショックを受けた。

 その表情を確認すると同時に、コピーキャットは動きだすとパトリオットへと近づきながら宣言する。


「”この顔”を見ればわかったな!勝負は一瞬、お前の負けだ!!」




 全ては風によって砂が巻き上げられ、埃によって皆の視界が遮られた一瞬の出来事だった。

 コピーキャットのものと思われる鋭い声が上がると、それで全てが静まり返った。それから数秒後、ようやく風が収まったそこには信じられない光景が広がっていた。

 かつて、コピーキャットなる探偵が身に着けていたと思わしきコートを始めとした衣服が地面のあちこちにちらばっていて、姿は見えなくなっていた。そして、カーネル”サウザンド”パトリオットのほうは倒れていた。

 気を失ったわけでも、KOされたわけでもない。まるで疲れ果てた、とでもいうようにスヤスヤと子供のような寝息を立てて、コンコンと眠っている。


 結局、怪人の探偵はその後も姿をあらわさず。残りの囚人も全て押さえたところで、サンダーランド警部は事件の終結を宣言した。

 実に、行動から6時間のスピード解決であった。

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