表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
BLACK&WHITE  作者: 鷹雪
DEADMAN CALLING
90/178

ハンターゲーム(2)

よかったら一読後、感想その他を残していっていただけると嬉しいです。

「た、助けてくれぇ!」


 ロジャーにしがみ付くように叫んだ囚人は、次の瞬間には宙を舞って壁に激しく叩きつけられて動かなくなる。

 アインを始めとした3人は、嵐の中で混乱に巻き込まれることなく。ただただ、突っ立っていた。


 いや、そうではない。


 正確には、何も出来なかったのだ。

 すでにパトリオットの暴力の嵐は数秒単位で犠牲者の数を増やし、恐慌状態に陥った囚人達はなんとかこの場から逃げようとするものの、それが出来たのは数人くらい。ほとんどがこれまでに見たことのないパトリオットのパワーと暴力によってなすすべもなくバットの餌食になって倒れていく。

(こりゃ、マジで凄いッスね)

 この時ばかりはアインもパトリオットのその動きに見とれてしまい。おかしなことだが、感心してしまっていた。

 もともと接近戦には定評のある男だとは思っていたが、いつも以上のキレと力はどうやって止めればいいのか、真剣に悩まなくてはいけないレベルにあった。

 そのため、本来なら止めさせるべく取り押さえにかからなければいけない状況だが、恐慌状態のこの囚人達が邪魔で、介入するのは難しかった。

 囚人達はパニックを起こして銃を持つ者は、無謀にも狙いをつけて撃とうとしているし。ボスもすっかりビビってしまってそれを止めようとはしていなかった。つまり、(こっちも、無意味に怪我なんぞさせられてはたまったものじゃないんスよね)ってことで傍観者となっていた。



 しかし、パトリオットの動きは驚嘆するにふさわしいものであった。

 まるで中国拳法の達人のように、バットを右手に抱え。左手と両足、さらには体を使って逃げ惑う囚人共を叩きのめし、時に右手が大きくふるわれるとバットが数人の頭を巻き込んで宙にはねあげさせていく。


「ああ!困ったな」

「どうした、ロジャー?」

「ドリー、なんか今のあのパトリオットは。どう見ても俺たちじゃ何ともできそうにないぞ」

「同感だね。もう、なんかやめようって気になる」

「だけどよう、ドリー。どうもアインは違うようだぞ?」


 2人が横に居る獣人の顔を覗き見る。

 確かに、そこには真剣な目でパトリオットの鮮烈な攻撃のおっているアインがいた。そして、気のせいではないだろう。その身体はゆっくりと、筋肉が盛り上がりを始め、毛が逆立ち、瞳孔もゆっくりと開いていくのがわかる。



 それはついに、側近たちによって逃がされようとしたボスが。パトリオットの手により、転んでは立ち上がり、また転んでは立ち上がりと3度続くと。最後にその側近たちのこと如くが排除された上で、振り抜いたパトリオットのバットの一振りは、実に珍しいことに芯を捕えることなく、ボスの頬を浅くとらえた。

 とはいっても、その威力は尋常のものではなかったらしく。クルクルと体を1回転半させると、ドリーとロジャーの胸の中に飛び込んでしまった。


「おや」

「ありゃ」


 そう2人が口から地を吹きながら自分達の胸に飛び込んできた男を受け止め冷静に反応しているその瞬間だった。

 ガシッと反抗する力がなにかを受け止めた音がしたかと思うと、そこにはロジャーとドリーの前に立つアインがいて、パトリオットの前に立ち塞がっていた。

 どうやら、ボスに止めを刺そうと2人の刑事ごと襲おうとしたことで、ついにアインが状況に介入することにしたらしい。


「チース。パトリオット、元気そうじゃないッスか」


 あの夜のように軽い声かけではあったが、その顔は真剣そのものだった。


「おう。ケダモノじゃねーか。俺の邪魔をしに来たのか?」

「違うッスよ。止めにきたんス」

「どう違う?」

「違わないッスよ。アンタはいつものように暴れるだけで、こっちは警官だから止めに入るってだけッス」

「…………どけ」

「どかないッスね。どけないでショ?」


 アインの言葉は事実で、ギリギリとお互いが力を出し合い組んだまま微動だにしない。

 とはいえ、もともと肉体的な強さを誇る獣人であるアインに対し。パトリオットがここまで対抗できるというのは、やはり驚くものがあった。


「ケダモノッ、警告したぜっ!!」

「こっちもネッ!!」


 そう言うとアインは腰を落とし、頭を落とし、パトリオットの脇下に潜り込むと、持ち上げて一気にバリケードとなって積み上がるドアへと突進すると、無理矢理にその山をかき分け廊下へと押し出ていく!!



▼▼▼▼▼



「行っちゃったよ」

「行っちゃったねぇ」


 凄まじい勢いで、さっさと部屋を出ていってしまった2人を見てドリーとロジャーはいつもの調子で感想を述べただけだった。まさか、最後にアインが自分から対決に赴くとは思わなかった。

 実際の話、この2人はゾンビなので肉体が消滅でもさせられなければ死ぬ(?)なんてことはない。

 だから、このへんの皮膚感覚には頓着はしない方だが、それでもバットで囚人達と一緒になって宙を舞う必要が無いとわかったのは喜ぶべきことなのだろう。


「た、助かったよ。ありがとう」


 パトリオットの一撃が浅かったとはいえ、すでに意識が絶たれそうになって茫洋としているボスにそう言われると、2人の特戦班に所属する刑事達は顔をしかめた。

 そして、改めて周囲を見回して確認する。

 このボスを含め、パトリオットの手にかかることなくただその恐怖に押し潰れそうになって腰を抜かしている囚人はまだここに10人以上いるように思えた。

 そして、彼等は刑事で。自分達は交渉で決裂したのではないだろうか?


「そうだな」

「そういうことだね」


 お互いが頷きあう。こういう……たぶん、他の奴らなら”そんなことはしないし、考えない”という瞬間。この2人は気持ち悪いくらい心を一つにすることができた。まさに夫婦のように。

 そこでまず、まだ必死に感謝の意を伝えようとしている目の前のボスに対し。


「いいよ。気にしなくて」


 とだけいうと、ドリーは銃のトリガーを引いて彼の膝に鋭い棘で貫いた。

 それに周囲が驚く顔を見せると、再び銃のフル・オートのスイッチを押したドリーが次々とまだ”無傷の囚人達”にむかってトゲを発射し、撃ち抜いていく。この間わずか7秒の事。

 続いてやけに人の悪い表情を浮かべたロジャーが、担ぎあげた機器のスイッチを押して5秒。これで全てが終わった。


 部屋の中を動いているのは刑事2人を除いて誰もいなかった。パトリオットによってバットで白目をむいているか。もしくは今、2人の無慈悲な刑事達によって白目をむいて口から泡を吹くかのどちらかしかいなかったのだ。



▼▼▼▼▼



 アインとパトリオットの対決は、激しくこの時も続いていた。

 一見するとそれは拮抗しているようにも見えたが、実はそんな事は無かった。


 アインは防戦主体で、素早く動き回り。逆にパトリオットは攻撃を主体に激しく責め立てていた。お互いの一撃が体を捕えることは無かったが、アインの爪と牙は囚人服を切り裂き、その下の皮膚も切る。そして、パトリオットはアインを押したりいなしたりはすることはあっても、バットと体術が一撃となってダメージを与えることは無かった。

(しかし、これは、まずいッスね)

 最初の興奮が引き、冷静さが恐怖と一緒になってアインのもとにやってくると。改めて自分の不利を悟ってしまう。


 何故なら、すでにアインは守りながらも後退一辺倒にあり。獣人の持つスピードのおかげで、相手の攻撃をかわせてはいても、このパトリオットの異様な身体のキレの攻撃によって圧倒してくるのである。

 そもそも、以前よりパトリオットと対決するなら接近戦をやれとはいわれていたが。実際のそれが可能な奴というのはこの町全体で考えてもそう多いとは言えないだろう。

 下手な奴が……例えば、あの中身がよくわからないマスク・ド・ドミニオンの時だと平気でボコボコにしてくるのだ。ただの殴り合いでも生半可な強さではない。


 最初は胸を張って殴り合うような形であったが、状況の劣勢はついにアインをまさに獣のように地に4つんばいに這わせることで、攻撃するパトリオットに近づくことすら困難になっていった。

(もう勝負するどころの話じゃないッスね。とはいえ、こうも鋭い攻撃ばかりだと逃げられるかどうか……ムリかも)

 我がことながら、あまり嬉しい状況ではなかったのは事実だ。


 鋭いローキックが鼻先をかすめるが、さらに大きくバックステップをする。チラとみた周囲の状況を確認。だが、やれるのはこれだけ。すでにバットが振り下ろされようとしていて、さらに後ろに下がっていく。

 ジリ貧、まさにそれだった。

 戦うことも、逃げることも難しい。そして……

(微妙にッスけど、追い詰められてるッスね。建物の角に押し込まれるかもしれない)

 焦りを感じないわけにはいかなかったが、それで集中力を切らせばあっというまに攻め込まれてしまう。アインにとって、厳しい時間が来ていた。


「怯えているなァ?考えているのか?追い詰められているって事実をよォ」


 駆け引きだ。それはわかる。


「その通りだぜ。すばしっこい犬ッコロになっても、俺には関係ねぇ。逃がさねぇ、誰も。誰も俺の前からは逃がしやしねぇ」


 それはただの脅しだったのかもしれない。だが、言葉に秘められた執念の異様な強さを、この時のアインはついつい感じ取ってしまった。

 それは恐怖に変わり、わずかに一瞬だったが体に強張りを生んでしまう。そこにパトリオットの足が飛んでくるが、なんとか両腕をあげてそれを防ぐも、体が浮いてしまい、さらに態勢を崩してしまっていた。


「勝負ありだぜ、犬ッコロ!!」


 そう叫ぶパトリオットは、勝利の確信し。いつものバットを両手に握り締め、振り抜くモーションへと入っていく。今日の彼のキレは並大抵のそれではない。アインといえど、この瞬間に振り抜かれては逃れることなく直撃を貰うことだろう。しかし ―― そうはならなかった。


 バシィ!!


 突如として空気を裂き、不快な音を立ててアインとパトリオットの間を分かつように、裂こうとするように走る電光がひとつ。

 地面と壁を焼いたその光のもとに、あの雷人が。サンダーランド警部が、厳しい顔を浮かべて立っていた。


「アイン、よくやったな。ここからは俺が変わろう」


 アインはホッとした表情を浮かべ。パトリオットは、いつもの不敵な笑みを浮かべたまま自分の”相棒”に軽くキスをしてからささやいた。そうだ、相棒。新しい敵が来たぞ、と。

次回更新で終わりが見えそうです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ