コメディアン(2)
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ハァ、と再び溜息をつくアインの方を見るでもなく。特戦班所属(一応)の2人は、気心の知れた相棒同士らしいスムーズな連携を見せながら刑務所の中を進んでいく。
すでにアイン達の班はサンダーランド警部とコピーキャットと別れ、とりあえず偵察ということで意見が一致していた、はずである。少なくとも、別れてから最初の角を曲がるまでの議論ではそうだった。
しかし……。
「その、本当にそのショックガンなんたらいうの、持ってきちゃったんデスネ」
「もちろん!警部も何も言わなかっただろ?」
「あの人が何も言わなかったということは、これを使うべきとの判断は間違っていないってことだよ。なのになんで心配そうなんだい、アイン?」
「……イエ、いいです」
確かにその通りだった。この2人が警部に対して、いつもの調子でランボーとコマンドーな武器を自慢げにたらたら説明をしようとするのを止めると「構わん、やってみろ」とだけ言って許可してしまった所は自分でも見ていた。信じられなかったけど。
「でもね、アイン?むしろ心配は別にあると思うんだ」
「どうしたよ、ドリー?なにか心配が?」
「なんスか?」
「この偵察さ。今回のパトリオットは危険、だから僕等が選ばれた。つまり、戦って勝てということだろう?」
「ちょ、ちょっと待ってクダサイよ。そうじゃない、お2人はその……アレですし。僕は獣人ですから逃げ足が速い、そう言うことデハ?」
「おいおい!違うだろ、アイン。聞いたぞ?公園じゃ、犯人の1人の頭を飲み込んで、”八つ裂き”にしてやったと。ナイスだぜ、さすが獣人だ!」
「相手は半身をボリボリと喰われてしまったと聞いたけど、本当に食べたの?おいしかった?」
「食べてませんヨ!!ナンですか、その手のつけられない猛獣扱い!ちょっと……ちょっと、捻って。大怪我させてしまった、くらいデス」
「なんだ、食べてないのか」
「食べなかったんだ、残念」
またもやハモらない、返答をされてアインは脱力しかける。
「と、とにかく集中しまショウよ。ミスとか洒落にならないッスから」
「わかってるって!」
「でもさ、だからこそこの偵察……」
話していた3人組に対し、突如通路の横から複数の銃声がして慌てて壁に張り付いた。様子を見ると、通路の先にはいつのまにかライフルを手にした囚人の5人組がいて、油断なくこちらに銃口を向けながら「でてこい、投降しろ」などと口々に叫んでいるのがわかる。
「ああ、見つかっちゃったね」
「そうだな!なんで見つかったのかわからないが」
「ロジャー刑事が、いちいち大声あげて会話しているからでショウがっ!」
「おおう!俺の所為?」
「そうみたいだ。お前の所為だ」
「それよりも!どうしまショウか?逃げますか?」
「???」
「……なにいってるんだい、アイン。僕等は刑事だよ?こういうときは、権利を読みあげてやって逮捕してやるのさ。見ていなよ」
そういうと、アインが止める手をすり抜けてドリー刑事が通路にさっさと出ていってしまう。……その両手には、どう見ても凶悪なマシンガンンにしか見えない形状の武器を構えたまま。
「いいかい、君達!いますぐ武器を捨てて……」
ドリー刑事が最後まで言い終える前に、パンパパンと乾いた音がすると、その身体にジャケットにシャツと複数の穴をあけ、遅れてその穴の周りが出血で真っ赤に染まる。
(う、撃たれた!?)
まさかいきなりこんなことになるとは思わず。やや冷静さを失うアインとは裏腹に、何故か今度はロジャー刑事が楽しそうに駆けよっていくとドリー刑事の前に周り。続いて”大爆笑”した。
「ぎゃはははははは!おい、おいおいドリー。お前、腹に穴が……」
パンッと音がして、駆けよって爆笑していたロジャーの腰に当たった弾は、貫通して反対側の腹から血肉と共に飛び出していく。
「……あ?」
「お前も”撃たれた”ようだ。2人そろってハチの巣……ぷぷぷぷぷ」
「うぇ、2人とも。笑い事じゃないッスよ!!」
思わず、ツッコんだら負けだとわかっていてもアインが声をかけると。今度は妙に冷静になった2人は「そうか」とハモって返事をしてくると、お互いの顔を見た。
そこで何が決まったのかは分からない。
ドリー刑事は、撃たれたのにもかかわらず。平然とした様子で2歩前に出ると、そこで両脇の武器を発砲してきた囚人たちに向けた。
「チクショウ!まだ死んでねーぞ。さっさと片付けちまえっ」
ヒステリックの声が響きわたり、再び囚人達の銃が火を吹くが。今度はドリー刑事の2丁のライフルも同じく火を吹き始める。それは時間にして僅か4秒のことだった。
2人の刑事は、再び腹だの足だの手だのに多くの穴をあけられたが涼しい顔のまま。対して襲ってきた囚人たちは皆が地上に倒れ伏して動けなくなっていた。
(アークシティのまさに正真正銘、純度100%のゾンビ刑事。恐るべし)
アインは恐る恐る壁からようやく顔を出し、その結果を自分の目で見て感想を述べる。
そう、このドリーとロジャーは不死の探偵ダ―クハートとは違い。すでに”死んでいるのにもかかわらず動いている”刑事たちなのである。
まぁ、とは言っても。不死ではないので、肉体を消滅させられるとアウトらしい(これは秘密だが)。他にも、体がこのような事で傷んだとしても、治ることはないし。自力だけでは何ともできない。ただ、崩れ、壊れていくに任せたままだ。
だから、いつも 病院へ行って特別な処置により肉体の損壊部分の修復をしてもらうことで、”普通の外見”というのを手に入れる必要があった。そんな、まさに狂気の存在ともいえる最悪の超人達である。
「新しい穴が空いちゃったよ。また、直してもらいにいかないと」
「大丈夫さ!このくらいなら、服変えれば気がつかれない。ほら、前見たく火事で煙にまかれた時とは違って騒ぎにはならない」
「あれね。カリカリに焼かれた状態で出たから。気持ち悪いから出てくるなっていわれて、救急車に閉じ込められたっけ」
「そうそう!皆が冷たかった!」
「……当たり前じゃないッスか。あの時、あんたらカリカリに焼き上がった、まさにゾンビでしたし。声帯もなくなっちゃったから、口を開くとヒューヒューいっててよくわからんし。ひどい匂いだし。アレで、トラウマになったって奴もいるんスよ?」
2人に続くようにして歩きだした3人は、囚人達の元へと近づいていく。だが、彼等に近づくとその様子を見てアインは目をむき、あわてて近寄っていった。
「おお!ちゃんと”突きささって抜けてないな”。感心感心」
「”そこ”が重要だったからね。これで役に立ちそうだ」
なにやら満足している2人の刑事を無視して、次々と囚人の体調に変化が無いのをか確認してからアインは怒鳴った。
「何やってるんスカ!?こ、こいつら、7ミリはあるだろうと思われる針が刺さっているじゃないッスか!」
「当然だ。そういう銃だぞ?これはニードル銃だ。ショックガンセットの手始めの部分」
「はァ!?言っている意味がわかりまセン」
「じゃ、離れてこっち来いって。みせてやるから。で、こっちがセットの仕上げ。エナジーキャノン。こいつをぽちっとやるだけでェ」
そういうと、ロジャーはミサイルの入らないそれを片の上に担ぐと、あっさりとトリガーを引いた。
それだけで針に刺し貫かれた囚人達が、さらに悶絶すると次々と泡を吹いて気絶していく異様な事態が始まった。
「説明するぞ!これこそが、俺達のショックガンだ。ニードルで相手の”体”に当てて、俺のこのバズーカで仕上げだ。ここから発射された音波が、あいつらに撃ち込んだニードルに伝わると熱を発したりしてあっというまに手軽に拷問や気絶をさせることが出来てしまうんだ!」
「な、なんというオソロシイものを」
「だが、ちゃんとした非殺傷武器だぞ?針を受け、音波を受けたらそこで苦痛により一気に気絶する。誰も、例外なく」
「ちょっと持ち運びがアレだけど、すこぶるシンプルで素晴らしい」
「なにがッスか!?その針だって、当てた場所が悪かったら死ぬかもしれないんでしょ?」
「……それは、考えて、なかったな」
「うん、そうだ。困ったな。仕方ない、やはりフルオートはやめておくことにしよう」
▼▼▼▼▼
サンダーランド警部は絶妙のタイミングで力を抜くと、手の中にいる囚人はようやく苦痛から解放された。
どうやらあの馬鹿は、この刑務所の中の連中を恐ろしいスピードで駆逐していっているようだ。
(時間が無いな)
この事態の収拾を急がねばならなかった。
「やはり、効率が悪いよ。アイン」
「なんスか?ドリー刑事、さっきから何度も何度も。なにか案がアルノデ?」
「おお!名案か!?」
「うん、聞いたんだけどさ。ここの囚人達はいくつかのチームを組んでいると言ってたろ?」
「ああ!」
「ハァ」
「そこにいって、彼等の話を直接聞こう」
「それはいいな!」
「んなこと、許すわけないッショ!」
相棒のロジャーと違い、アインはさっそく猛反対を見せる。
「いやいやいや、良く考えてみようよ。だってさ、どうやら立て篭もっているようだし。それなら、出来るだけたくさん人のいる所へ行って。そこで待っていれば、向うから来るんじゃないかな?}
「そうだな!」
「違うでショ!なに、囚人たちに混じって仲良く待とう、みたいなコトを言うのデスかっ!?こっちは警察!あっちは囚人!犯罪者なのですよっ!?」
「……そうだよ?」
「はっはっはっ、アイン。それくらい分かっている事じゃないか!」
「いや、オカシイ!わかってないでショ?殺されちゃいますよ?あいつら、自分達の事は棚にあげて、こっち逆恨みしているような連中デスヨ?」
「そうか…………よし、わかった。なら、もう一度みんなで最初から考えてみようよ」
「そうだな!」
「いや、ダメですから。そこはゆずれませんカラ、僕だって命は惜しいデスから!」
「そうか、わかった。でも、それならどう行動するか、皆で考えてみようよ」
「そうだな!」
そうしているうちに、アインは自分がいったいどの位置に立ってどんな発言しているのかわからなくなっていき。そうすると、なにもかもがどうでもよくなってしまい。気がついた時には、2人の刑事の後ろで囚人達のなかに立っていた。
それは黒人の集団で、いわゆる宗教色の強い派閥であった。そこのリーダーは40近くのまだ若く、エネルギーに満ちあふれてはいたが、不思議と落ち着きを感じさせる雰囲気を持っていた。
「我々は、サマキッドという。己の犯した罪を悔い、過去と決別して未来を歩もうという者たちだ」
「そうか!俺達は警官だ!ロジャー、それとこれが相棒のドリー。うしろのおっかない獣人はアインだ」
「そうですか……それで、我々となにかを話したいのだと聞きましたが?」
「ああ!………………ドリー、お前が言えよ」
「ん?ああ、そうだった。話がしたくてね。君達の、現状についてだ」
「ほう……それならば、あなた達に言われるまでもない。わかっていますよ?ここは今や混乱のるつぼで、我々はその中から動くこともできず。だから、自らが身を守っています」
「へェ、囚人がいつからライフルを持たされるようになったか。興味あるッスね」
「あれは……たしかに、奪ったものだ。盗みはしたが、武器庫の鍵が開いたままだったからだし。それに、誰かを率先して傷つけるような真似をしたわけではない」
実際、それは信じてもよさそうな気がした。
ここの連中は、皆囚人だったが看守を始めとした人質の姿が無く。また、逆にそれゆえにここまでパトリオットに目をつけられることなくいられたのだろうと推測された。
「なら、投降して貰えるかい?}
「それはお断りします」
「ナゼに?」
「見てもらえればわかるが、我々は大所帯だ。そして、今はこの皆が家族でもある。
忘れてもらっては困るが、いまこの刑務所の中は巨大な悪魔の狩り場となっている。あちこちで襲われて悲鳴が上がり、我々もそれをこそ恐れてここに身を隠している。ここを出るとなれば、また襲われるかもしれない。そのような危険はおかせない」
「……では、抵抗すると?」
「それも勘違いされては困る。あの、人を見たらひたすら襲い続けているあの悪魔を、あなた方が速やかに取り押さえてくれるならば。我々は喜んで、武器を降ろしてここから出ていくでしょう」
「では、それまではここから動かない?」
「その通りだが、動かないのではない。動けないということを理解してほしい」
(まぁ、聞いているとそれなりにまともなことは言っているんスけどネ)
アインは鼻をひくつかせながら、周りの男達の様子を窺っている。確かに、自分たちよりもはるかに数の少ない(だが超人だ)警官を前にしても、殺気立つことはない。
しかし、経験則上。このような綺麗な受け答えをする元極悪人を心の奥底から信じるというのは、かなり世間を知らない人間の反応にも等しいように思えた。
「なら、もう一度話そう。こちらが3人、君達をエスコートする形で外まで行くから、そこで投降して欲しい。これならどうだい?」
「それもお断りしたい。我々は、十分に安全が保障され、医師の手を煩わせることなく健やかでいたいのだ。戦場の前線を、弾が飛び交う中でマーチ(行進)するようなことは拒否させてもらう」
「……デスってヨ」
「ああ、わかってる。それは俺も聞いたぜ、アイン…………なぁ、ドリー。どう思う?俺はバカだからだろうが、こいつらの言っていることがさっぱりわからん」
「……そうだね、ロジャー。実は僕も、話していてさっぱり分からなかった」
「そうだよな!!なら、どうするよ?」
「そうだね。そうなるとしょうがないかな」
そう言うと、2人は手に持つ武器をよっこらせと構えなおし、それをうけて銃を持つ囚人たちは構えて狙いを警官達に定める。
「待て!落ちつけ、誰も撃つんじゃないぞ…………刑事さん達。あなた方はなにを自分がしているのか、わかっているのだろうか?ここには銃を構えた男が10人からいる。その一方で、あんたたちは3人しかいない。結果は見えている」
「……」
「我々は穏やかにしていたいだけだ。進んで、争いを作るのは愚か者のすることだ。違うかな?
さぁ、その武器を降ろして。すまないがこちらに渡してもらおう。念のためにね。我々がいがみ合う理由は……」
相手のリーダーが最後まで言い終わらないうちに、ドリーがいつものダウナ―な口調で勝手に話しだす。
「俺達も、別にやりあおうとは思っていない。だが、お前達にこの武器を渡しはしない。その必要が無いからだ」
そこまでいうと、ロジャーが脳天気な笑顔を浮かべてアインの方へと向いた。
「どうだ!?こんなもんなら、いけるんじゃないか?」
「ええ、そうッスね。十分ッスよ。これだけ……これだけ緊張感があれば、腹をすかした犬かというくらい。大喜びで”いつもなら”飛んできますから」
周囲の囚人達が放つ、恐怖と興奮のアドレナリンを鼻で嗅ぎつつアインは断言した。
「そうだ。こちらもお互い気持ちよくいこうと考えていたが無理だった。なら、しょうがない」
「なんだっ!?なにかしたのか!?なにをやった、なにを考えている!?」
「おいおい!やったのは俺たちじゃないぞ。お前達が勝手にやったんだ」
「ああ、コリャ。2人とも、どうやら来たッスよ!」
アインがそう言い切る前に、部屋の中央の天井が轟音とともに一気に崩れ落ちてきた。
そして、そこに1人の男が ―― カーネル”サウザンド”パトリオットが立っていた。
遠目で見てもわかるくらい、やけに激しく興奮して荒い息遣いをして見せているその姿は。誰かが言ったわけではないが、まさしく罪人をとっては食らう鬼のそれを思わせるものだった。




