暴徒
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「すいません、警部。その……もう一度、いいですか?」
驚いた表情で質問をしてくる部下に、サンダーランド警部は同じ言葉をゆっくりと繰り返した。
「突入するのは、私と、ドリー、ロジャー、アイン、そしてコピーキャットだ。他は外に出てきた奴等を1人も逃がすな」
「……その命令には、我々は納得できません」
「わかっている。その理由を今から”専門家”に直接話してもらおう。コピーキャット」
言われると、そう呼ばれるとわかっていたのか。怪人は集まっている警官達の中から前へと進み出ると語りだした。
「カーネル・パトリオットという男がどんな超人か。ここにいる皆が知っていると思う。だが、実際は知らないことの方が多いはずだ。それは無理もないこと。
中に入るのを超人だけに限定したのは理由がある。それを今から説明する」
まだ彼の前に並ぶ警官達の顔には不満の色があったが、怪人の話は聞くつもりのようだ。
「いつもの町中ならば、君達に頑張ってもらいたいし。それが一番だが、ここでは違う。
ここは刑務所で、なかにいるのは大半が罪を犯した罪人たちだ。そしてここにあの男がいるのは、危険だ。
なぜならば、彼は………………」
▼▼▼▼▼
音楽室に閉じこもった白人たちは、この1時間余り。こっそりとつくった抜け穴から10人の斥候を出した。
帰ってきたのは4人、とはいっても1人は壊滅した別の所の奴だから、実質3人しか戻ってこなかったことになる。奴だ、ここに放り込まれた罪人に堕ちた元ヒーローが、好き勝手にこちらを相手に人狩りをしているのだ。
「こいつらだけか、戻ってきたのは」
それを見たここのボスは、小さな声でそれだけ漏らすと。彼等に近づいていく。
その中には、他から来た黒人がいたが。そいつはなぜか視線が怪しく宙を泳ぎ、体を小刻みに震えさせておびえていた。
「おい、お前!外はどうなっている!?」
「も、もう2つ3つ潰された……アジア人の奴等のとこが最初だ。隠し通路があっさり見つかって、そこから侵入されたって。うちも……俺達の所に来た時もそうだった。
い、いきなり通風孔から飛び出してきて、着地と同時に問答無用だ。バリケードで逃げ道はなくて」
(クソッ!それならうちも塞がないとダメじゃないか)
話で聞きながら表面上は誤魔化していたが、内心では罵倒の嵐だった。
相手は超人だ。バリケードが無意味になった時の事を考えないわけにはいかなかったが、まさか相手はそれを見越したかのようにそれを利用するなんて思わなかった!
ここだけは別だと考えたい気持ちはあるが、せっかく手に入れた情報を無視して乗りこまれたら、自分の間抜けってことになる。そして、自分は間抜けではない。ボスはそう考えていた。
「……それで、なんでお前は助かった!?」
「隠し通路を2つ用意してたからだ。ほんとうはもっと、逃げられたはずなのに。コールの野郎、びびっちまいやがって。てめぇの体の図体を忘れて通路に潜り込もうとしてつっかえちまった。おかげでその後ろの奴等が逃げ遅れて。俺はその直前だったから、逃げられた」
「オオゥ、間抜け野郎が」
悩ましげに吐き捨てるが、その罵り声に力は無い。
震えていた男は今だ落ち着く様子はなかったが、動かした視線の先にここの連中によってとらえられた看守達が拘束されているのを見てとると、途端に気が動転したのか叫びだした。
あわててそれを押さえつけながらなだめようとする。
「嫌だぁ、駄目だぁ!ここから逃げろ!!」
「落ちつけ!どうした!?落ちつくんだ!」
「お、お前等!看守を捕まえていたのか!?なんでそんなことをしたっ」
「……当然だろうが。人質がいなけりゃ、外を囲んでいる連中は気兼ねなくここに突入されちまう。交渉の材料の為に必要なことだ」
「違う!そうじゃない!!あいつは、あの化物は、犯罪の匂いにつられて動くんだ!犬のように、獣のように!アジアの奴等は、看守を2人殺していて。さらに5人捕えていた。
うちの所も、3人いた。そしたら、あいつが来て言ったんだ。『ああ、まだ罪を重ねるのか』って。奴は罪の匂いに反応して動く、ハンターなんだよ!」
「こいつ、イカレてますよ」
(殺しますか?)
部下のその目はそう訴えていたが、言っている本人の言葉が事実ならと思うと安易に黙らせていいものか即断しかねた。
「ええい、仕方がねぇ。叩きのめせ、それで静かになる」
ボスの言葉に、部下達は即座に従うと、叫ぶことをやめない黒人に殴る蹴るを始める。すぐに叫び声は小さくなり、それが静かになったのを確認して、ようやくその無慈悲な行為をやめた。
「静かになったな。ま、これで大丈夫だろう」
まったく自信も根拠もなかったが、ボスはそういうことで、区切りをつけようとした。殺してないし、わめかれてこっちもイライラすることもない。安心ってわけだ。
しかし、肝心の事を彼等は忘れていた。そう、今自分達がしたことは、哀れな1人の男を”集団でよってたかって袋叩きにした”という罪を犯したという事実を。そして、その男が言った事が本当であるならば、その罪の匂いに反応する鬼が1人。
ドカン!!
突然、尋常ではない一撃がバリケードの向こうで炸裂し。椅子か何個か崩れ落ちてくる。再び、ドカン!と衝撃が走るとそこからはノンストップだった。慌てて押し負けないようにと、バリケードの外から両腕で全体重をかけて男達が防ごうとしたが、それはまったく無意味とでも言うように、次第に扉自体が破壊され、押しあけられていく。
「来たぞっ!」
(来やがった!?本当に、ここにやってきたのかよ!)
誰もが慌て、不安に顔を見合すことしかできない。勘の鋭い奴は、パッと抜け道に飛び込んでいくが。すぐにそれに反応して、抜け道前が混雑して争いが始まってしまった。
その間も、扉は凄まじい衝撃でみるみる崩壊していく。
その超人流ともいうべき激しいノックは、内側から必死に筋骨隆々の大柄な男達が何人も力一杯押し返していたというのにまったく効果のないまま、10回も扉を叩くことなくアッサリと破られてしまった。
そのあがらいがたい凶悪なパワーに押され、崩れ落ちたバリケードの前で腰をついていた屈強な男達の上を巨大な物体が通り過ぎていき、影をおとした。それは、その勢いそのままで部屋の奥の壁に激突するまでいくと。ようやく地上に落ちるも、動かない。
「ひっ、こ、こりゃなんだ!?」
奥で身をすくめていた連中が、飛び込んできた物を確認すると悲鳴をあげて慌ててその場から逃げていく。
まぁ、それも無理からぬことではあった。大きな身長のみならず、腹も出た巨体のそれは死んでいた。その醜くブクブクと太った腹からは自分の骨だけではなく、なぜか”鉄の棒”などもつきだしており。何度も激しいノックに使われたせいだろう、その皮膚は裂けてところどころから中身が覗いていた。匂いもそうだが、とても正視に耐えられるものではない。
あえて付け加えるなら、その太い足の一本が引きちぎられていて”新しいモノ”だということがわかる。
そして、その傷を作った原因と思われる者が口を開いた。
「おお!開いたなぁ……」
それは、野獣が獲物を前にしての舌なめずりする声そのものであった。
激しいノックによって砂や埃が舞い、見難くなっている中を。バットを背に、もう片方の手には、他人のちぎれた片足をもった男が立っていた。
その目は、埃の中にあってはっきりとは確認できないはずなのに、真っ赤に燃えあがっているということを見た全員が感じて、背中に冷たい汗がわき出て流れるのがわかる。
「と、止めろ!!」
必死に威厳をたもちつつ、ボスは命令を発した。
どうじに、訪問者は手に持っていた足の残骸を興味なさげにポイと捨てた。
看守を押さえた時に手に入れた、ライフルと拳銃あわせて7丁が部屋の中で一斉に火を吹く。
それは間違いなく、いまだに砂埃の中にいるそいつにむかって飛んでいき。その身体をズタズタに穴だらけにしているはずだった。
なのに、そいつは”まるで当たっていない”かのように自然のまま立ち続けているだけであった。
「撃て!撃てッ、撃ち殺せ!ミートパテにしてやれ!!」
銃を持たない連中は、応援するかのように口々にそうはやしたてるが。銃を構えている連中の顔には次第に焦りが浮かび、撃ち尽くした先から弾倉をかえていく。普通なら発砲の衝撃と暴力の喜びにうち震えているはずなのに、なぜか今はそれが来る気がしなかった。
そして彼等の不安は的中し、ついに弾が尽きてしまった。手に持つ銃がただの鉄のオモチャになったのだ。
巻き上がる薄煙に隠れるようにそこに立つ男が、”あれだけ撃たれたはずなのに”何事もなかったかのように喋り出した。
「終わりなのか?なら、次のターンを始めようぜ!」
そして、カーネル・パトリオットは走りだした!
いつもと同じなのは、手に”相棒”のバットを持っているというだけ。
囚人服を着た愛国者は、服装だけではなくその力もなぜか強くなっていた。
最初の一振りでバットが3人を”昇天”させると、吹っ飛ぶその身体に巻き込まれて倒れていく者が続出する。
さらに、その隙に走り抜けようとした囚人にぱっと近づくと、襟首と掴んで引き戻すのだが、その力が強すぎて男はさらに数人を巻き込みながら地面を転がっていく。
いつもアークシティで見せているような姿からは想像もつかない、まさに人を超えた力をふるう超人の暴力を今のカーネル・パトリオットは示していた。
そして、ここもまた1人の超人によって嵐の如く蹂躙されつくすのである。
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「……というように、かの人物の特徴はエネルギーにある。
そうである時も、そうでない時も。彼の本質に変わりはない。ただ、スイッチが入っているかどうか、それだけが違う。
そのエネルギーとは、周りから発せられる感情のエネルギー。それを無差別に吸収することで、スイッチに切り替えが行われる。なにかな?」
コピーキャットが話している間、突然手をあげる警官がいてそれを教師のように指差した。
「その、今聞くとだいたいがわかりました。その、経験からいっても納得できるものです。
ただ同時に、疑問がわきます。それだと、あのパトリオットは誰もいない隔離された場所でならば拘束が可能、そういうことでいいのでしょうか?」
「それは確かにいい質問だし、誰もが考えるであろう疑問だ。
だが、この際だからはっきりといわせてもらう。余計なことを考えるな、だ。
君達は警官だ。その職務のなんたるかを私のような部外者がいちいち口にして説明する必要はないだろう?
同じように、カーネル・パトリオットのような”実に厄介な存在”について、君達が正しい知識を持つ必要はない、ということだ。それは、彼をどう扱うべきかということであり。彼をどう捕えるかということだ」
「……つまり、あんたの言っていることは全てではないし。俺達が知る必要はないってことか?」
「不満を覚えるのはわかる。しかし、君達は理解するべきなのだ。
今回、警部を始めとして事件を散々にひっかきまわされた原因の1つは。君達の同僚が、”噂”を頼りに”勝手に自己の判断”でやってはいけないことをしたことが原因だということを。
この先の未来、彼が”本当の罪”をおかして逮捕する瞬間があるかもしれない。しかし、それは今回の事件ではないし。今ではないのだ。
…………だいたいだがね。君達はあの奇人にして変人の全てを知りたいと、本当に思っているのかい?」
コピーキャットの言葉に、周囲の警官達の表情から緊張がぬけて笑い声が低く漏れる。
「よし!専門家の説明を聞いてわかったな!?
今から全部、俺達で終わらせるぞ。
デビット、看守共は役に立たんが数にはなる。尻を叩いて、正面に一緒につくように動かせ!ベンとボリスは班を連れて裏に行け。大丈夫だと思うが、囚人を誰一人ここから逃がすな!
中に入れないと不満をわざわざ口にしたんだ!外に出てきたら逃がさないよう、中から出てきた囚人の皆さんを、お前等が優しくきっちりと保護してさしあげろ!」
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ぞろぞろと全員が動き出すのを確認すると、サンダーランド警部はイハラ刑事とルシール検事に再度確認をし。
それから突入する連中を呼び寄せる。
「よし、聞け!中に入ったら、まずあの馬鹿を見つけることも重要だが。引きこもっている囚人共も問題になる。どちらも押さえなくてはならない。
チームを3つにわける。ドリー、ロジャーはアインと行け。私と探偵は1人づつで動く」
サンダーランド警部の言葉に、もういちどハァとアインが溜息をついていると。突然、コピーキャットが。あのエグザイルの顔を眼前にまで近づけてきた。
(こ、これはっ!?)
こいつはあの人じゃない。違う偽物なんだとこころのなかではわかっているが。みつめられてしまい、獣人の心拍数が尋常ではない速度をあげて跳ね上がっていくのがわかる。
「集中だ。アイン、気を抜いてはダメだからな?」
「……ァ、ハイ」
小さくそう呟いて見せる獣人と怪人を見ていた警官たちは、一斉ににやけた笑みを浮かべると「おお」と感嘆の呟きを洩らした。
書き上げた後、読んでもらうと一番反応が悪くて困ってしまった回。
おかげでちょっとだけ、どうしようか考えてしまった。なおさなかったけれども。




