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BLACK&WHITE  作者: 鷹雪
DEADMAN CALLING
86/178

ハンター・ゲーム

よかったら一読後、感想その他を残していっていただけると嬉しいです。

 目的のウダルー民間刑務所へと向かうヘリの中で、サンダーランドはついに暴動が始まったとの報を受けた。

(ついに来たか)

 恐れていた事ではあったが、実はこの時を待っていたともいえる。


 やることはただ1つ。騒ぎに乗じて再びあの馬鹿をこちら側に取り戻そうという、ただそれだけだ。こうなったらあとは、力づくでねじ伏せるように”解決”へと導かなくてはならない。

 後ろを振り向いてこの機に乗っているのを確認する。コピーキャット、イハラ、特戦班の居残り組だったドリーとロジャー。

 後方からついてきているヘリの2番機にはルシール検事、アイン、そして元SWAT経験者の男達である。



「いいか!?”驚いた”ことに目的地では丁度、暴動が始まったそうだ。混乱が予想されるが、こちらの目的に変更はない。あの馬鹿を、カーネル”サウザンド”パトリオットとかいうイカレタ男の確保だ!忘れるな!」


 通信で全員へと、そう激を飛ばすと再びヘリの前方へと顔を向ける。

 到着までは、まだ時間が必要だ。



▼▼▼▼▼



 ここで唐突ではあるが、この刑務所内の派閥について説明しておこう。

 白人はどれもマフィアに関係したのが3つ、黒人はストリートギャングと宗教観で2つ。アジア系とメキシコ系で合わさって1つとなっている。

 カーネル・パトリオットによる騒ぎが始まると、各派閥のボス達はさっそく”なにがこの場所でおきたのか”についてすぐさま理解し、自分の手駒の屈強な男達を集めるように指示を出した。

 そして、それぞれが所内の各所を占拠して立て篭もったのである。


 元々、各勢力ごとに話が通されていたため、集合はじつに効率よく素早く行われた。そしてそれぞれが、自らの”領地”に簡単に入ってこれないようにとバリケードを作り、手頃な要塞を作りあげていく。


 そして、当然だが派閥に属さない受刑者たちもいる。

 彼等の中でも特に勘の鋭い者達は、危険から遠ざかろうと知恵をふりしぼり。わからない者達は、何が起こっているのか理解できないまま右往左往するばかりであった。


 そんな無防備な男達をパトリオットは、最初の獲物に選び襲いかかっていった。


 いつも以上の常軌を逸したような哄笑をあげながら所内へと姿をあらわしたパトリオットは、走り抜けながら次々と容赦なく、抵抗しようが関係なく囚人達を殴り倒し回っていく。



 ロングショット・ビリーはここではちょいと名の知れた、はねっかえりのクセ者である。

 3件の殺人と8件の強盗の罪で服役中だ。彼の気骨を気にいり、いくつかの勢力が彼を取り込もうと声をかけたが決して飼い馴らす事はできなかった。そして、それと同じぐらいの数の人間が彼を叩き潰そうともしたが、野生の獣を思わせる勘の鋭さで、この中を生きぬいてみせていた。


 そんな彼も、昨日からここの空気に混ざる異様な恐怖と興奮の匂いを敏感に感じ取っていた。

 だから騒ぎが始まると自分の房へとさっさと戻り、騒ぎに慌てふためいている看守を焚きつけて牢の出口を閉じさせた。過去の経験から、彼のベットには丸めた服や毛布をかけている。これなら外から中にいるかどうか、覗き込んで見ただけでは確認できないはずだった。

(囚人なら、ただしく牢へ入れってな。ま、これで安心だろう)

 もともとがアウトローなので、いちいち隙間を探して立て篭もるなんて選択は彼には無かったのだ。

 だから、こんな大人しくしている自分が襲われるわけがない。そんな風に考えていた。


 響いてきたそれは、狂人の笑い声を思わせるバカ笑いだった。

 その声は、銃声と共に恐ろしいスピードで大きくなると、牢の中からは見えない下のホールに到着し、そして幾つもの悲鳴があがった。

 許しを乞う者、悲鳴をあげる者、罵声をあびせる者。いろいろあるが、それは片端から気配と共に消えていく。

 そして、肉と骨が異様な力でもって鉄の格子に撃ちつけられる嫌な音が続いて聞こえてきた。


「くそ、くそっ。当たらんぞっ!?」

「止めろ、やめさせろっ!!」

「チクショウ、なんだよこりゃ」


 看守達が口ぐちにそれを言い、テイザーの発射音や警棒のふるう風切り音がうする。だが、一向にあの不気味な肉打つ音が収まる様子はない。

(なにやってんだよ!?さっさと銃持ってる警官を突入させろ)

 ロングショット・ビリーは内心、無能な看守共を罵った。だが、同時に様子がおかしいこともわかる。

 軽い気持ちで様子でも見ようか、と体を起こそうとして……慌てて、顔を引っ込めた。


 彼がいる房は3階にあるのだが、いつの間にかその階にパトリオットが現れていた。大人しく牢の中にいる囚人を1人1人見て回っているようだ。

 笑えないのが、そんな男を挟み込むようにして看守達がへっぴり腰で立っている。どんな状況なんだ!?


 カーネル・パトリオットは吹き抜けの3階を見て回り、怯えた目を向けている囚人達の数を数え終えた。

(5人か)

「なぁ!看守さんよ、ひとつ頼みがあるんだがよ?」


 バットを肩に、なれなれしく聞いてくるパトリオットに。震える看守の1人が聞き返した。


「な、なんだ?」

「この牢を開けてくれ」

「な、なにをいっている?」

「だから、この扉を変えてくれと言ってるのさ。ここの中に入っている連中に、俺は”話がある”」

「お、お前!またさっきのように暴行を働くつもりか!?」

「よくわかったなぁ!それに近いことをするぜ」

「ば、馬鹿かっ。お前が投降してはいるなら独房だ。なんで、大人しい連中までそんなことをしようとするっ」

「そりゃ、俺が正義で。奴等が罪人だからだろうよ」

「く、狂ってるぞ。お前!」


 その言葉にカチンとくるものがあったのだろうか?パトリオットは動きを止め、鋭い視線を看守達に向けた。

 そして、急に鼻をクンクンと鳴らす。まるで犬のように匂いを嗅いでいるのだ。そして、ひとしきりその行為を繰り返すと、1人の看守に目を向けた。


「お前、だな」


 突如、看守達の列に紛れた1人にバットを向けた。


「お前から罪の匂いがプンプンする。臭いぜ、ひどい匂いだ。なにをした?罪人から金を受け取ったな、お前?俺にはそれがちゃーんとわかるぞ?隠しても無駄だ」


 まるで死刑を宣告する死神のように、ゆっくりと近づいていく。

 自然と看守達の中から、パトリオットに指名された男は弾きだされていた。

(あっ、あれはっ!?)

 たまらずに顔をのぞかせたビリーは見た。さきほど自分が金を握らせて、出入り口を封鎖させた看守である。

 あと数歩の距離になると、ついに観念したのだろうか。その看守は身をひるがえすと階段めがけて一目散に逃げだそうとした。だが、パトリオットは素早くその看守の横に回り込むと、顎先に鋭いバットの一撃を叩き込んでいた。


 その一部始終を見守っていた看守達の目の前で、哀れな罪人はクルクルと宙を横回転させながら吹き飛び、手すりをこえて3階の吹き抜けからまっさかさまに地上へと落ちていく。

 派手に机の破壊する音から下から響きわたり、彼が下でどうなったのかはすぐに予想がついた。


「ん?おかしいな。まだ匂いが消えない。”お前等の中にも”奴等から金を貰った奴が。まだいるってことか?」


 何気ないパトリオットの言葉だったが、その言葉の意味は悩む必要もないほどはっきりとしていた。

 ついに仕事だからというなけなしの使命感を放り出し、看守達は逃げだした。脇目も振らず、声もあげずに必死になって皆が駆けだしていく。



 静かになったをフロアの中を、陽気に鼻歌を歌いながら歩きまわっていたパトリオットは、ついにお目当てであった牢の開閉装置を見つけだし、適当にボタンを押しつづけると、ブザー音と共に全ての鉄の檻が音を立てて開いていった。


「さぁ!お前達、出ておいで!素直に出てくりゃ痛くしないが。面倒かけるって言うなら、少しばかり激しく行くぞぉ」


 当たり前の話だが、誰も出てこようとはしなかった。

 当然だ、出てきたバットをお見舞いしてやるといわれて、わかりましたと素直に従う奴はここにはいない。

 パトリオットはひゃっほー、と叫びながら再び階段を駆け上がっていく。最初の部屋にいる老人は、奥に小さくなって座っていたが。そんな様子など無視して、前に仁王立ちすると真上からバットを振り下ろす。


 続いて素早く牢から飛び出すと、隣の牢から逃げだそうと駆けだしてきた男の前、そこにバットを持った手をひょいと伸ばす。勢いよく駆けだしてきたそいつは、勝手にバットに自爆して鼻血を吹いて転がった。

 呻きながら転げまわるそいつに、まるでゴルフのスイングよろしく跳ね上がるようにして額を撃ち抜く。


 3人目は無茶をして3階から飛び降りたが、そのせいで足を痛めたのだろう。うんうん、唸ったままなのでしばらく放置することに決定。

 そんな彼を見習って、パトリオットも3階から飛び降りるがこちらは普通に何事もなく立ち上がってみせた。


 4人目と5人目は、ほぼ同時にパトリオットの前に立ち。やはり同じく左右に分かれることでパトリオットの脇をすり抜けようと試みるが、まるで意味が無かった。

 パトリオットは地面に転がっている、先程の看守が落としていった警棒を片方の顔めがけて投げつけ。それを顔面でもろに受けてしまったそいつは鼻血を吹きながら派手にひっくり返る。

 その間に、パトリオットはバットの中心を手に持つと。細い柄でもって、駆け抜けようとした5人目の足をすくい上げた。

 形は違うが、それぞれが地面に転がって呻く中、パトリオットはバットを手に容赦なくそれを3度続けて振り下ろすことで決着をつけた。


 クンクン、パトリオットは鼻を鳴らす。

 フガフガ、今度は体を起こし。吹き抜けに並ぶ3階建ての牢を見まわしながら、匂いを嗅ぐ。

 中に入っているのを確認したのは5人。そして、そいつらはきっちりと”終わらせて”おいた。つまり、ここには誰もいないということになる。


 だが、なぜまだ匂うんだ?



▼▼▼▼▼



「警部、見えました!」


 パイロットの言葉に反応して、サンダーランド警部は体を乗り出す。

 山の間からそれらしき建物の壁が覗いていた。


「おい!!下を走ってきてる連中の到着はいつになる?」

「道路の状態次第なんではっきりとは、わかりません。ですが、遅れても1時間ってところでしょう」


 その言葉に警部は頷く。

 ついに、戦場に到着したのだ。だが、まだ中に入ることはできない。準備が必要だ。




 ロングショット・ビリーは、ブザー音とともに牢が一斉に解放されたことを知ってベットの中で丸まって隠れていた。

 目を閉じ、耳と口を塞いでいたのだ。

 自分がここにいるのを、あのイカれた野郎が見てはいないはずだった。つまり、哀れにも姿を確認されてしまった奴等が料理されてしまえば、彼に気づくことなくあいつもここを立ち去るだろう。

(耐えろ、息を殺せ。気づかなければ、あとは警察が入ってくるのに合わせて投降するだけでいい。馬鹿騒ぎに参加するなんて御免だ。巻き込まれて怪我なんてしたくもねぇ)

 どれほどの時間がたっただろうか?


 そろそろと口と頭を押さえていた手を離すと、顔をあげた。

 いつもはクソ共がいるせいで、夜中でもこんなに静かなるなんてことはない。周囲は不気味なほど無音の世界となっていた。

 体を起こし、ゆっくりと床の上へと裸足で降りる。静かに動いたつもりだったが、音が低く響きわたる。背筋が凍ったが、何の反応もない。静かだった。

(もう……もういった、のか?)

 ベットから離れて、開け放たれた出入り口から身を乗り出すかどうか。手製の武器を持っていくかどうかも合わせて少し悩んだが、結局はなにも持たないで外の様子を確かめることにした。


 辺りは静寂に包まれていた。

 まるで、ここだけが時間を飛び越えて皆が死んでしまったかのように、静寂につつまれている。

 誰もいないことを確認してから、自分と同じように牢の中へと戻っていた連中の姿を探した。だが、牢の中に彼等の姿はなかった。

 奴等には運が無かったのだろう。

(俺は助かったのか。運が良かったな)

 遠くでバリケードでも作っているのか、重い物を引きずる音が聞こえてくる。それ以外に、なんの音も聞こえなかった。

(これでいい。あとは寝て待とう、そうすればいずれは安全になる)

 ここで好奇心にまかせ、歩きまわったあげくにまたあのイカれ野郎に出会ってしまっては目も当てられない。

 このままここで当初の予定通りに”自宅警備”にいそしむことにしよう。

 そう思って、ベットへと戻ろうと後ろ振り向いた時だった。


 そいつがそこにいた。


 同じ三階の廊下の端、出てきた時に見回したら誰もいなかったその場所に。そいつが立っていた。目を閉じ、頭を下げていたが、その顔にはあのいささか狂人じみた笑みをまだ浮かべている。

 信じられないものを見て、硬直しているロングショット・ビリーに対し。パトリオットは顔をあげると、そこでカッと目を見開いた。


「確かに、確かに、確かにお前の姿は見なかった。だがな、匂いがした。騙してやろうと、逃げきってやろうと、うまくいくだろうという。そういう匂いだ。

 ここに誰もいないというなら、何故そんな匂いがまだ残ってる?

 答えは簡単だ。ガキでもわかる問題ってやつさ。そう、”まだ隠れている奴がいる”ってな。どうだ?俺はお前に会えて、とても嬉しいぜ?なんせお前1人だけが仲間外れじゃ、カワイソウってもんだからなぁ!!!」


 その距離の長さを思えば、ビリーがベットに行って武器を取り出して構えるまで十分な時間があるように思われた。

 だが、実際はベットに手が届くかどうかの瞬間に襟首をむんずとつかまれると牢の中から外へと勢い良く放り出され、落ちないようにと作られた鉄柵に背中がめり込み痛みが走る。だが、それを素直に味わっているようなビリーではなかった。

 倒れても必死に這いずって離れようとするが、そこにパトリオットの蹴りが飛んでくる。

 再びフッ飛ばされ、転がった先で彼が最後に見たものは、笑顔と勝利の雄たけびをあげるパトリオットがバットを振りあげ迫ってくるところだった。


 最後の抵抗をしようとして、ビリーは叫び声をあげだ。


 だが、次の瞬間。頭部に激しい衝撃が襲いかかり、意識が遠のくことを感じながらビリー何もかもがどうでもよくなってしまった。

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