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BLACK&WHITE  作者: 鷹雪
DEADMAN CALLING
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ストーム・カミング

いよいよ後半開始です。

よかったら一読後、感想その他を残していっていただけると嬉しいです。

 信じられない話だが、眠れない夜だと思っていたのにサンダーランド警部は自分のオフィスの椅子からずれ落ちそうになって目を覚ました。

 どうやら、いつの間にか寝てしまっていたらしい。


「クソッ」


 思わず小声で呟くと、ゆっくりと姿勢を戻していく。超人といっても、寝起きの気だるさに変わりはない。それが、こんな横にならずに眠ったあととなれば特に最悪だ。身体の節々がきしみ、痛み、悲鳴をあげる。

 だが、はっきりしてくる頭の中と同じように、すぐにそれらは潮のように引いていくのがわかる。

 起きてすぐにまた頭を抱えてウンウンと悩むのは御免だった。なので、気分転換を兼ねて、サンダーランド警部はゆっくりと、静かに移動して締め切っていた自室から出ていく。


 まだ明け方のアークシティ警察署内は静かだった。夜勤の何人かが、黙って会釈をし挨拶をしている。

 日常はすでに始まっている、自分が唸っている間にも続いている。警察とはそういう場所なのだ。

 しかし、シャワー室や娯楽室にはいる廊下に入ると、警部の足が止まる。

(なんだ、これは!?)

 なんと、そこかしこにだらしなく寝こけている警官達がいた。とっくに自宅に帰って寝ているはずの連中が、なぜかいる。それも一人や二人ではない。中には、家から持ってきたのか、ご丁寧にも廊下の隅で寝袋にくるまってイビキをかいている連中もいる。

 そんな邪魔な連中を起こさないように、そろりそろりと忍び足で警部は通り過ぎていく。目指すは休憩室のコーヒーだが、このまま誰の体も踏まずに行けるだろうか?



 ヴィー!


 続いてガタンという音でイハラ刑事は眼を覚ました。

 自分が、椅子に寄りかかって寝ていることに気がつく。そうだった、昨日は泊りってことでここで粘っていたんだっけ。

(机に突っ伏して眠るとか、いつ以来だろ?ベットで男も女も隣に居ないことですら奇跡だって言うのに)

 目が覚めて最初に思い浮かんだのが、滅茶苦茶な今の生活に対する自嘲の言葉とは、なんとも悲しいところだ。

 顔をあげると、そこには丁度コーヒーをゲットしてすするサンダーランド警部がいた。


「あっ、警部っ……」


 慌てて立ち上がろうとすると、警部は目で「そのままでいい」と目配せをしてきた。

 休憩室の窓から見えるアークシティは、赤い太陽が昇りはじめていた。いま、何時だろうか?


「皆、帰らなかったのか?」

「……ええ、まぁ。その……だって、事件は”終わってない”ですから……そうですよね?」


 答えておきながら、少し不安になってしまい。思わずイハラは聞いてしまう。

 しかし、それにはサンダーランドは答えず。「そうか」とだけ言う。しばらく、無言の時が続く。

 その静寂に耐えられなくなり、イハラ刑事は堪らず聞いてみた。


「あの、特戦班から連絡は?」

「…………ない。向こうも大変だろう。最後に話した時は、ドミニオンとエージェントが好きに振舞って、現場の空気が最悪だとあの警部補が泣きを入れてたからな」

「そりゃ大変だ」

「ああ……連絡をくれ、と伝えておいたが、まだ来ない。きっと、それどころじゃないんだろう」


 再び、静寂が流れる。

 イハラは、警部がいったい何を考えているのか。なんとなくだがわかっているつもりだった。

 政府の組織が裏で仕組んでいる。この事件は、”問題物件”となってしまったのだ。それに対抗するために、なによりも頼れる力の持ち主を手元に置いておきたいが、ない。

 そのかわりになるのも、例えばあの髑髏の不死者はこの町に居ない。光の騎士も、ブラックサンの連中もいない。

(俺達じゃ、駄目なんですか!?)

 仮にそう訴えることは容易い。しかし、実際に動くとなれば。自分のような刑事としての捜査能力ぐらいしか能が無い人間では、やれることはほとんどないのだ。無責任なことは口にできないが、それでもやはり……。


「イハラ、そう言えばまだ言ってなかったな。今回の事件の解明、真犯人の逮捕。よくやってくれた、ブランクがあるとは思えないぞ」

「……ありがとうございます。その、役に、たったのでしょうか?」

「どうした?今日は固いな。もちろんだ、お前が周到に手をまわしてくれたおかげで、犯人からはまだ直接は話を聞けないが、だいたいの概要は把握することができた。困難な捜査だったろうが、スピート解決に貢献してくれて感謝する」

「その……それなら、よかったのですが」

「イハラ。殺人課に戻りたいか?」


 突然、正面から爆弾を投げつけられた気分だった。

 今の躁状態で、どうしようもない私生活を助長させるような超人としての能力。かつてのボスが自分を放り出したのは無理からぬことだと、理解はしていた。だが、未練が無いわけではない。

 今回、こうして事件の解決に執着しているというのも。結局は自分の為。

 棚ボタで転がってきたチャンスを生かし、まだ自分にはその力は十分あるんだと、かつての同僚達に見せつけてやりたかったという思いが無かったとは言えない。いや、むしろそれが本音だった。


「お前も、色々と大変だとわかっている。殺人課の連中だって、お前の力が以前と変わらないとわかれば受け入れてもくれるだろうさ。なに、警官なんて十人いれば馬鹿もクズもいる。仕事が優秀でも、私生活がどうしようもないなんていう奴はごまんといるさ」

「……」

「どうだ?戻りたいか?」

「…………警部、質問があります」

「なんだ?」

「それが、今回の事件の”俺の分”ってことなんですか?」

「なに?」


 サンダーランド警部の顔に疑問から眉をひそめると。イハラの腹の中で、急速に怒りがこみ上げてくる。


「俺は刑事になった時、殺人課にいつか入ってやると。そう思い、実現もした。

 まさか、こんなアホなことになって全てをふいにするとは思わなかったけど、それでも俺はまた刑事です。そして、また殺人課にも戻ることができた。一時とはいえ。

 ならば、俺が望むのはひとつです。分け前なんて要りません。そんなことを望むくらいなら、俺がそろえた証拠と、俺が捕まえた犯人にふさわしい処遇を。ムショにたっぷりの刑期をつけてブチ込んでください!」


 サンダーランドは無言だった。それが、いっそうイハラ刑事の心を激しくかき乱す。


「警部、警部!俺は、俺は殺人課が天職でした。

 死体があって、殺した奴がいる。そいつを探し出し、証拠をそろえ。法廷でそいつが逃げられないように、きっちりと全てをそろえて準備する。それが俺のやりたかったことでした。

 でも、殺人課なんてやっていると。必ず政治って奴にぶつかるんです。知っているでしょう?

 あいつのガキがどうとか、別の捜査のナントカ言う奴の関係者だとか、どこぞのアホのために見なかったことにしろとか。上司はなんだかんだ文句を言うが、政治って奴が出てくるとロクなことになった試しがない!そんな時は、いつも、いつも、いつだって悔しくて眠れなかった。酒と女がいなけりゃやってられなかった。それでも、俺は刑事なんです」

「…………」

「警部、殺人課には確かに戻りたい!だけど、それはそんな政治で戻りたいんじゃない。そんなクソみたいな取引で、なかったことにされたくないんです。

 俺は今回、殺人課には戻りません!でも、この事件だけは誰にも渡したくありません!

 もし、もし、それが可能だというなら。サンダーランド警部、お願いだ。病院に入っている、ムショにブチ込むために捕まえたあの2人を釈放するなんてこと、しないで欲しい。

 死体は、あいつ等が作って。あいつ等が、犯人なんです!証拠はあります、足りないなら今ある材料だけでも吐かせることだって出来る。だから、あいつら殺人犯に思い知らせてやってほしい!」


 いつしか、様々な感情の混じった熱い涙をイハラは流していた。いつもの躁状態から来る、フワフワと元気大爆発状態になる彼(彼女?)が、こんな感情的な言葉を口にするとは、涙するのはいったい何時以来だろうか?

 サンダーランド警部は、黙ってこの刑事の慟哭を聞いていたが、ふいに


「覚悟がお前にこそ必要。そうだったな、探偵?」


 そうかすれた声で呟くと、


「そうだ。だから言っただろ、若いの?お前はまだ、経験が足りないのさ」


 イハラは驚いてその声の主を見る。昨夜より、いつの間にか姿を消していた怪人コピーキャットが、またもやエグザイルの顔を借りてそこにいつの間にか立っていた。いつからここにいたというのか?


「フン、たかが探偵の分際で。警察にとやかくいえる立ち場かよ」

「ならばどうする?雷人よ」


 見回すと、寝ていたはずの連中はイハラの声で見が覚めたようで。次々に体を起こすと、旭の指す中に立つサンダーランド警部を見ていた。


「ここが勝負の分かれ目、か」

「すでに”実験”の開始は宣言されたのだろう。なら、今からでも間に合うかもしれん」

「間に合わなかったら?」

「若造、再びその時は問おう。なにが”問題”なのか、とな」


 サンダーランドは怪人のそのふざけた返答に、フッと頭を垂れて苦笑いを浮かべるが。その顔が再び上がった時、その目には力強い光が宿っていた。


「イハラ!ヘリを出す。パイロットを呼び出して、至急準備させろ。アイン!特戦班に残っているのは何人で、誰だ?」

「え、えっと。2人です。ドリーとロジャーの……」

「ああ、あのアホ達か。いいだろう、すぐに呼び出して準備させろ!

 さぁさぁ、お前等!いつまで寝ているつもりだ!せっかく署に泊ったんだ、誰よりも早く準備をさせてやる。まずはさっさとそこで熱いシャワー浴びて、シャッキリさせてくるんだ!今日は大忙しになるぞ!」


 ついに雷人の号令が下されたのだ!!



▼▼▼▼▼



 刑務所の中では不穏な空気が流れたままだが、不思議なことに静かに時間はたっていった。

 朝食の時間も何事もなく過ぎ、自由時間が来る。


 あの超人は誰の側にも寄ることなく。いや、むしろ見たところ昨日よりも幾分か目つきが鋭くなっているのは、さすがに昨夜の”あの体験”から身の危険を感じたからであろうと思われた。(実際は全く別の理由だったが)


 全ての派閥に属する男達が、超人を、ヒーローと呼ばれる存在を憎む彼等が、ギラつく目をむけ、僅かなチャンスも見逃すまいと、遠巻きに見張っている。

 それまでも険しい顔をしていたその男は、このレクリエーションの時間となると激しく頭を左右に動かし。まるで、誰かを探しているように振舞っているようだが、この場所で生きる知恵があるものなら今のこの男と接触を持とうとする奴など誰もいないのは明らかであろう。

(どうせ、俺達の目を恐れて。恐怖から必死に、あんな芝居をうっているのさ)

 たいした根拠もなく、だが自分達が相手にもされないとは考えたくなくてそんな風に男の行動を理解する。


そうして男はいつしか中庭へと出ていった。


 もちろん、それを”監視”する連中も。続くようにして中庭へと次々に出ていく。

 その様子は、もう明らかに不審な姿となって看守達の目にうつってはいたが、彼等はそれにいちいち注意したりなどしない。彼等の仕事とは所詮、ここにぶち込まれた囚人達を外に出ないように見張ることしかしなかったし。彼等を雇う会社の連中は、この悪いことが起こりそうな恐ろしい前兆について、まるで気づいていなかった。


 そんなわけで、殺伐とした空気の流れに敏感で、巻き込まれるのではないかと身の危険を感じはじめた目端のきく連中は理由をつけてさっそく職場に来ることなく休みを取ってしまった。現場の管理責任者がこの事態に頭に来て、電話をかけて来るように促そうとしたが。結局思うようには逝かずに、最後の1人を怒鳴りつけてしまうと。そいつは電話の口頭で「じゃ、辞めるよ」とだけ告げてあっさりと切ってしまった。


 それはもはやこの刑務所が誰にも止めることのできない危険物に、わずか十数時間の間に時限爆弾へと変わってしまったことを意味していた。

 いつ爆発するか分からない、だがもうすぐ目の前でその瞬間が来るのは間違いない。そんな爆弾に。



 罪人たちは超人を八つ裂きにした上で焼き殺すことになるだろうと思っていた。

 看守達は囚人が暴動という形でここを乗っ取るだろうと考え、恐れていた。

 そして、パトリオットは…………。


『ここよ、ここよ』


 これまでになく、はっきりとした。”彼女”の呼び声がする。聞こえるのだ、彼の耳にだけ。

 繰り返し、耳元に囁き、自分の位置を知らせてくる。


 その時は近い。


 深呼吸をする、先程からいらつかせる視線を送ってくる連中が邪魔だった。だが、そいつ等に関わっている場合じゃない。”彼女”を見つけ、手に入れることが一番なのだから。

 落ちついたところで、鋭く周囲に視線を向ける。

 クソみたいな申し訳程度の中庭、壁で囲っていて、そこの上から見張りがライフルを持って見下ろしている。

 クソ共はそんな箱庭の中で、自由時間をめい一杯楽しんでいるようだ。

 どこかの倉庫から持ち出したのだろうか、バーベルを始めとした筋トレグッズを一心に使っているヤツ。椅子に座ってボーっとしているヤツ。そして、申し訳程度の大きさのこの中庭で楽しんでいる野球……まて、野球だって!?


「おー、ナイスボール」


 そう言ってゴムボールがピッチャーと思しき男の元へと投げかえされる。


「ちゃんと守れよ!」


 そう叫んでキャッチャーが腰を下ろすと、手製のバッターボックスにぼろぼろになりかけた”木製のバット”をもったバッターが入ってくる。


『そうよ、ダーリン。やっと見つけてくれた』


 男は……いや、もうその表現は正しくないだろう。

 カーネル”サウザンド”パトリオットは、鋭い視線をまったく動かすことなくボソッと声を呟いた。


「ベイビー、ベイビー。見つけたぜ、俺の”相棒”。さぁ、俺にお前の名前を教えてくれ」


 それは奇妙なやり取りといえるだろう。

 この場にいる誰も、その会話に参加することはできない。なぜなら、それはパトリオットと、その”相棒”だけの会話だからだ。


『ルビー。ルビーと呼んで頂戴』


 いつもの”相棒”達とは違う匂いがする。

 ふしだらで、男好きで、なによりも……そうだ、カノジョは悪いヤツのことをよく知っている。


『もちろん。さぁ、来て。知りたい事を、全て教えてあげるから』


 誘う声に、奇妙な興奮を感じる。


「わかったぜ、ビッチ。お前が”相棒”なら、俺も心強いってもんだ」



 カウントはツースリー。

 追い込まれているが、どっちかと追い込まれたふりをしているだけだ。今日のピッチャーは少し乱暴な奴だ。気を使ってやらないと、あとでどんな嫌がらせをしてくるかわかりはしない。だが、それも終わり。ここでストライクゾーンなら一発ホームラン、ボールなら出塁。どっちもこちらに文句はない結果だ。


「おい、おいっ。なんだよ、お前!」


 キャッチャーの声で、興奮気味だったバッターは後ろを振り向く。

 昨日と違い、やたら目つきの悪くなった新入りがそこに立っていた。なにかいっているようだ。


「なんだ?」

「……をよこせ」

「ああ?」

「そいつを、こっちによこせ」


 どうやら、自分が手に持つバットの事を言っているらしい。


「あぁ、なんだよ?素振りでもしたいのか?なら、そこらでてめぇのちっちゃな息子でも振り回してやってろよ。こっちは見ての通り、ゲーム中なんだ」

「そいつをよこせ」


 オウムのように同じ言葉を繰り返され、イラッと来た。そういえば、ここにブチ込まれたのもムカつく母親の連れてきた男の頭をカチ割ってきたことも原因の1つだったっけ。あいつもそうだった、『部屋を片付けろ』そればかりだ。


「へへっ、これが欲しいのか?」

「ああ、そいつをよこせ」

「そうか、わかったよ。このバット、触りたいんだよな?わかるぜ、このバット…………たっぷり、味わえよこのオカマ野郎!!」


 この瞬間にはもうキレていた。頭の中ではココナッツをカチ割るようにこのアホの頭もカチ割り、ジュースのように血を噴き出させてやろうと思っていた。

 だが、実際にできたことは全く逆の事が起きた。

 パトリオットはあっさりとバットを取り上げてしまうと、足をすくい相手を転ばせてしまう。

 さらにそこに情け容赦のない追撃を、構えてからゴルフスイングのような、すくいあげるような軌道で素早く木製のバットを振り抜いた!


 ガッ、コーン


 なんとも間の抜けた音ではあったが。やられかたまでもが間抜けな姿であった。

 硬直したかのように全身をピーンと直立した形のまま、空中を2回転してからそいつは地面へと勢いよくそのまま叩きつけられる。とうぜん、そいつはぴくりとも動こうとはしない。もしや、死んだのか?


「やりやがった。あいつ、いきなりやりやがったぞ」


 監視していた連中は口々にそう囁く。そして、思い出した。

 そうだ、良く考えてみたら、今のあいつは見たことがある。なぜ、誰も気がつかなかったのだろうか?

 アークシティ、あの超人と人間が半分ずつ住むといわれる町にいるという、最もイカれた狂人とも噂されるヒーローだ。マイクを向けられれば口汚くののしり、カメラを向けられれば唾を吐く。悪党は意味不明に、蛇の用につけ狙う。

 そいつの名前をカーネル。カーネル・パトリオットといった。


「なんだ?どうした?」


 壁の上、監視塔から銃を持って見ていた看守達は一斉に緊張して銃を構えた。

 1人の男が、不自然な姿勢で大地に倒れているのが見える。生きているのか、死んでいるのかわからない。

 だが。それが何で起こったのかはすぐにわかった。

 そいつの前に、やたら不敵な笑顔を浮かべ。手に持つバットに気持ち悪くもキスをしている男がいたからだ。


「緊急連絡!!」


 看守は銃を構えたまま、無線を取り出すと喚きだした。



 ついに、ついに!待ちに待った相棒が戻ってきた。パトリオットは帰還した!

 いつも通りの”儀式”は終わり、”契約”は果たされた。

 世界のあらゆるものが力強く息を吹き返し、自分に全てをとりもどしてくれる。

 囚人服という、いつもとは全く違う服装ではあったが。その常軌を逸した目の輝きを周囲へと走らせる。


 そして、パトリオットは声をあげて叫んだ。

 それはまるで喜びの声だった。戻ってきた世界を見回した時、彼の周りには”彼の獲物達”しかいなかったからだ。囲んでいる壁は、その獲物を”逃がさない”ための檻だ。

 そこの上から、ヒステリックに叫んで警告しながら。先程から必死になってこちらに銃を撃っている看守達は飾りだ。

 見回せばそこにはすぐに獲物が集まっていて、そしてそいつらを追うプレデタ―を止めるものはここに誰もいない。


「チクショウ、なんだあいつ。どう言う事なんだ!?」

 

 上ずった声をあげ、必死にトリガーを引く看守達。だが、その弾はパトリオットにかすりもしなかった。

 そのかわりに、その周囲で逃げ回ったり、倒れて動かなかったりする哀れな男達の体に次々と穴を開けて、みるみるうちに血を流していく。

 何が起こっているのかわからず、何をどうすればいいのかわからないまま看守達はただ引金をひき、弾を撃ち続けるだけだった。

 カーネル・パトリオットは、自分が撃たれていることなど全く気がつかないように、周りの囚人達に向かって駆けだすと次々に襲っていく。

 やけに間の抜けた音とともに中庭の犠牲者の数はどんどん増えていった。



 嵐が来たのだ。

 恐れていた嵐が、おこるべきではない場所で、予期された嵐が。

 それはあっというまに中庭を”たいらげ”、所内へと入っていく。

 それを、見張り台からひたすら撃っていた看守達は呆然と見守るしかなかった。

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