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BLACK&WHITE  作者: 鷹雪
DEADMAN CALLING
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解決しない回答

よかったら一読後、感想その他を残していっていただけると嬉しいです。

 ウダルー刑務所の中にあるレクリエーションルームと書かれた部屋の中に、突如として数人の男達が入ってくると、そこにいた連中を、おざなりに「悪いな」などといって次々と部屋から追い出していく。

 彼等がこうした人払いをするのは、緊急の”会合”が開かれるからに他ならず。彼等自身もいつもなら一緒の場所には立つことの無い黒人、白人、イタリア人、メキシコ人、アジア人と多彩である。


 そして、余計な人間が全て外に出た頃あいを見計らって、それぞれの”ボス”達が室内へと最低限の人数を連れて入ってきた。

 民間の刑務所であるここには”人間”以外の罪人を収容することはない。こうした場所に超人が1人でもいると、それを中心に強大な勢力を作りあげ、ついには正面玄関から堂々と出ていくことになるだろう。そして、超人を複数入れたとしたらここは戦場となり屍の山が出来上がるかもしれない。

 そうした”実験”はすでに何度も時期をずらして行われ、いつも同じ結果を生んでいた。


 だから、”かつてそうであったように”こうした刑務所は、人間だけが収監され、旧時代とかわらぬ縮図が今も”この中でだけ”続いていた。

 人種で、犯罪歴で、金の力で、そして暴力で。

 ここにはそれが常にあり、そして人が住むには最適の”バランス”のとれた状態に管理させていると考えていた。


 そんな旧時代のパワーバランスに生きるボス達が、緊急で集まったのには理由があった。

 禿げあがった頭で小柄な体格をした白人の老人がまずは立ち上がる。


「突然の呼び出しに応じてくれて感謝したい。まず、これを先に伝えたかった。

 分かっていると思うが、こうした”会合”とは”親睦会”とはまったく違う、ということも次いで強調しておきたい。とにかくこれは……」

「まったくよ。聞いたか?いちいち偉そうに、深刻な顔でシンボク会じゃなーいとか言いやがって」


 まだ年若い黒人が口を開いて揶揄すると、老人は相手を一睨みする。

 そんな視線を相手は全く意に介さなかった。


「なにかな?」

「こっちはよ、仕事前に呼び出されて。しかも、休憩時間を潰して集まってる。あんたの演説だけ聞かされるのは、ごめんだと。まず!いいたいのさ」

「……少しは、黙っていられないのかっ」

「ハッ、仲良し会じゃないとはあんたがいったんだぜ?どうせ、そこのイタ公と白いの同士。なにか発表会するってことだろ?

 俺達?俺達はそんな事に興味はないぜ。おい!チャイニーズ、お前等は?」

「ハナシがあるというから来た。終われば帰る」

「ほらな?さァ、さっさと手品を見せてくれよ。お開きにしよーぜ。すぐ終わるなら、今から戻ってバスケをもうワンゲーム楽しめるはずさ」

「それならば、さっさとしてしまおう」


 やる気を見せない一部の出席者に、イタリアなまりの声があがる。


「うちで”飼っている”看守……そう、ジョーイのことだ。奴が面白い話を持ってきた。とても、とても興味深い話だ」

「?」

「さっき、ここに新人共が連れてこられたのは知っているか?」

「ああ、またぞろいいケツはないかって。我慢できない奴等が値踏みにいったと聞いたぜ」

「そのなかに”ヤツ”が紛れこんでいると聞いた」

「?」

「おい!さっぱりわからねーよ。なんだよ、その”ヤツ”ってのはよ!」


 もったいぶったことに苛立ち、不満の声が上がると間髪いれずに老人が全てを明らかにする。


「”超人”だ。それも、ヒーローを。自警団員をしていたという奴らしい」


 ざわり、それまでそこそこの緊張感が漂っていたこの場に。明確な殺意が急激におしよせ、そして波のようにさっと引いていった。

 この場にいる全員の表情が変わり、その目の奥には様々な暗い感情が浮かんでは消えていく。


「おい、今。”超人”っていったな?それも、元”ヒーロー様”だと?」

「そうだ……名前までは教えなかったが、どうやら活動中にうっかり相手の”頭を叩きつぶした”らしい。それでここに連れてこられたそうだ」

「……ちょっと待て。うちは民間の、それも”人間”指定の刑務所だ。そこに超人を送りこんでくるはずがねぇ。そんな話は聞いたことがねぇ」


 そんな中、黒人は周りの1人に耳打ちすると。そいつは急ぎ足で部屋を立ち去っていく。


「確かにそうだ!超人と人間は同じ場所にするべからず、とはお偉い政治家たちが決めたことだ。最厳重刑務所か、病院に入る決まりになっている。ガセだろう」

「いや、確かにおかしな話だが。あり得ない話というわけじゃない。度々、実験を兼ねるように人と超人をまぜて収監した例は、過去にもあった」

「だが、それはすべて失敗した。有名な話。それを繰り返すと言うなら、この国の役人も、馬鹿だね」

「まぁ、聞けって。外に居る兄弟からの手紙で知ったんだが、うちの刑務所を運営しているタウロン社は2年前に株主に対してこれから先の展開として超人共の刑務所にも手を広げると約束しているんだ。

 ん?わかるだろ?

 ついに、ここも禁断の果実に手をのばしたのかもしれん。そういうことだ」

「……それがなに?だからなに?どうしろというの?」


 ボス達自身が知らず知らずに興奮状態に入ってしまい、会合はあとは紛糾するのを待つばかり。そんな風にこの場にいる男達が考えはじめた頃。先程出ていった黒人が1人、仲間を連れて戻ってきた。


「なぁ、なぁ!ちょっと、いいかい?俺にも話させてくれよ」


 1人、冷静に手をあげた黒人チームのボスは促されると、ゆっくりと立ちあがり、ゆっくりと話しだした。


「まず、謝罪したい。いつものつまらない仲良し会になるんじゃないかと思ったから、俺はつい……そう。つい、茶化しちまった。反省するぜ、心の底からな。だから許して欲しい。

 次に俺の意見を聞いてほしい。

 お前等、なにをくだらないことをくっちゃべっているんだってな。

 いいか?お前等がこんなムショに放り込まれて、外じゃもうやる奴もいない、古臭いテレビの猿山ショーを。毎日無理やり俺達がやらされているのはなんでだ?ああっ!?

 確かに、中には頭を使わない馬鹿もいるだろうさ。でもな、ここにいる連中は全員が馬鹿ではないとわかっているだろう!!ああ、そうだろう!?

 そう、奴等だ。あいつら、超人の癖にいい子ぶりやがった。正義とかクソ寒い台詞を吐いて、俺達を力で叩きのめしたあいつら変態共!そいつらが悪いんだろうがっ!!

 なぁ、おい。なぁ、おいっ!

 これはチャンスだ……そう、チャンスなんだよっ。下っ端はまた外に出ていくこともできるだろうが、俺達くらいだともうそれに期待することはできない。こっちから、奴等のいる外には出ていけないんだ。命をかけて出ていくとでも言わなきゃな。

 だが、だが、向こうがこっちに来てくれると言うなら。おもしれーじゃねぇか。そうだろ?」

「お前、そいつとやりあおうっていうのか?」

「当たり前だろうが!他に何をするつもりだ。

 何だお前等、そいつの足元にひれ伏して、俺達を支配してくださいと乞うつもりなのか?このムショに超人という神を俺達で作ってやるって言うのか?タマなしどころか、女ともいえねぇ腰ぬけぶりだなァ!ええ、おいっ。

 うちは御免だぜっ。俺を、俺達を叩きつぶして、綺麗に並べてここに放り込ませたあのクソ超人の同類だと言うなら。ここではどちらがルールか、教えてやろうじゃねぇか!」

「…………」


 他の人種のチームのボス達は、その声にすぐには賛同はしなかった。

 彼らとて同じ思いをもってはいたが、その心の奥底にはかつて自分を叩きつぶした多くのヒーロー達が残していった傷跡があり、それが急に痛み出しているからだ。

 だが、そんな彼等を見ても言いたい事は言った。そういうことだろうか、最後にというと黒人のボスにうながされ、会合中に入室した男が前に進み出る。


「こいつな。さっき言った、今日の新人たちを値踏みにいった奴の1人だ。どいつが”俺達のおもちゃ”なのか、こいつに答えてもらって。そしたらあんたらも態度を決めるといい。さァ、話してくれ」


「え、えと。今日来たのは7人。1人は弁護士、1人は普通の奴だった。あと4人はチンピラで、強盗だの、殺しだのしてブチ込まれたって話しを聞いた」

「……1人抜けているな?」

「それが、よくわからない。ヘラヘラ、フラフラしてて。こっちのいうことを真面目に答えなかった」

「さぁ!どいつが本命かな?当ててみようぜ」

「4人は別でいい。3人のどれか、ね」

「弁護士といったな?なら、脱税かなにかだろうな。除外していいだろう」

「残り、2人」

「どっちだ?」


「オイオイ、どっちとかどうでもいいだろ?

 考えてみろよ。5人はきっちりと別、と断言できる。ならよ、その2人。どっちといわずに、両方でいいんじゃねぇか?だってよ、相手は超人なんだろ?なら、俺達が殺しに行っても普通はなんとかしてみせるものだぜ。

 つまり、生き残った方が”俺達のおもちゃ”ってわけだ。な、単純なことだろ?

 こりゃ、クイズショウのようにいちいち1人じゃなきゃいいってわけじゃない。ここはムショだ。そしてここで生きていくなら俺達作ったルールに従う。

 そして超人とか抜かす元ヒーローのクソには特別厳しいルールが適用されるってわけさ。楽しくなってこないか?」



▼▼▼▼▼



 ルシール検事は休憩室の隅の席に座り、ボーっとしていた。

(終わった、私のキャリアがついさっき終わっちゃった)

 なんともあっけなく、どうしようもできずに無力感に身をゆだねるしかやる事がなかった。


 サンダーランド警部に放り出されるように会議室から出された彼女は、しばらくして会議室から出てきた警部の口から聞いた言葉に固まってしまった。

(緊急の簡易裁判を経て、刑務所に速攻で収監ってどういうこと?これがこの自由の国であっていいことなの!?)

 なんともいえない不快感と、それに自分が手を貸してしまったという事実に泣きたくなった。


 まさか局長が持ちかけてきた案件が、こんなとんでもない陰謀が絡んでいるとは彼女は夢にも思っていなかった。ただ、彼女が聞かされたのは”ヒーローを自称する、粗暴な男がついに罪を犯し。警察はそれをなかったことにしようとしている”という情報だけだったのだ。

 騙された、などと嘆いて見せても仕方がない。こうした”政治の罠”はいつだって起こりうることだと言うのは頭の中ではわかっていたし、実際に同僚や知り合いがそうしたことに直面し、全てを失ったり、必死の抵抗の末に生き残るのを見たことが何度かあった。なんで、最初に自分はこの話を疑わなかったのだろう。

 はっきり言って自分は、負け犬になるしかなさそうだ。回りからメタメタにされるだろう、例えお咎めなしになったとしても、昨日までのような順調なキャリアを歩めるはずもない。

 今回の事件を任された時、この裏にあった計画を誰も自分に教えてくれなかったということは、話を振ってきた局長が上手か。自分の交友関係を見直す必要があるのかもしれない。

(それも、手遅れ)

 落ち込んでいる彼女に関わりたくないのか、ここの警察署の警官達は誰一人として近づいてこなかった。そのことが、今のルシールの気持ちをさらに惨めなものにしていた。



「検事。ここにいたんだ」


 声がして、思わず嬉しくて素早く振り向いてしまった。そこには3人が、イハラ刑事とアイン、そして見覚えのある老人がコーヒーを片手に立っていた。


「君を探してた。ちょっと話そうよ」


 まだ、男っぽさが抜けないらしい”女”のイハラ刑事がそう言って椅子を持ってきて席につくと、続いてアイン達もそれぞれ椅子に座る。


「?あっ、検視官?」


 その中のロングコートを着た老人の顔を見てて思い出した。たしか死体の検視をしてくれた医師だ。

 しかし、なぜか相手はやたら年に合わない不敵な笑みを浮かべると黙って席についた。


「ああ、検事。チガウチガウ、そいつは探偵。今回の事件を調べていた、一番のお手柄であるところの邪魔者だよ」

「……その、超人なのデス。つまり、そういうコトで」


 イハラとアインの言葉でルシールもだいたい想像がついた。要するに、まさに今回の事件のヒーローというわけだ。


「その、なんて言っていいか。わからないけれど……とにかく、あなた達の力のおかげで事件は解決したわね……。おめでとう」


 正直、口から飛び出るたびにわかってはいても血を吐くような思いだった。

 自分がこんな、屈辱的なセリフを言わなくてはならないなんて…………悪夢だと信じたい!


「ああ、いいのいいの。犯人は捕まえたけれど、警部はあの通り怒って部屋に閉じこもっちゃったし。なんか、詳しいことは知らないけれど、裏であんたらがうまい事すすめてたんだって?」

「……ああ、うう」

「殺人課に限定復帰!っていわれた事件がこれよ。いきなり政治とか、冗談じゃない」

「あ、アノ。イハラ刑事?検事にその、キツイこといっているのデハ?」

「はァ!?アイン、なに馬鹿言っちゃってるの?この人は、勝ってるの。つまり、あのパトリオットを見事にブチ込むことができたのよ!?出来たんだよね?」

「え、ェェ」

「ほら!つまり、負けてるのはこっち。真犯人なんて捕まえても、用はねぇといわれたらどうしようもない」

「そ、そんなァ!これからどうなるんデス、検事?」

「う、ウゥ」

「アイン、それこそ検事に聞いてやるなよ。”無実”の人間を”有罪”にするなんて、真面目に仕事やってるとなかなか無い体験をしている真っ最中なんだよ。言葉も無いさ。

 なに、これからなんて簡単。警部の考え一つで決まる」

「と、いうと?」

「警部が負けを認めて。捕まえた真犯人を保釈、ありゃなかったということになってパトリオットは無事犯罪者に。あとは時間が解決してくれるよ」

「……」


 言葉が無かった。その上、獣人のアインがそっとこちらを上目遣いに見てくるその目の純粋さが、さらに自分の心を痛めつけてくる。

(こ、この人達。どうやら真犯人を逮捕しても、やりきれなくてワタシに復讐しに来たってところかな……)

 思わず、喉まで出かかる「私だけが悪いんじゃない!!」の声。だが、それを言ってしまうのは検事としてのプライドが許さなかった。



「あれ?ひょっとして、こっちはウサ晴らしに来てると思ってない?」

「……違うの?」

「チガウチガウ、別だって」

「え、そうだったんデスか?」


 アインとルシールが聞くとイハラは不愉快そうに眉をひそめて反論する。


「なにそれ。まぁ、聞きなさいって。

 事件は真犯人を逮捕、でもどうにもならない。警部があとはどうするか決めるだけ。

 こうなったら、こっちはやることがない。つまり、その間に全部”聞かせてもらおう”ってこと」

「???」

「……わかってないな。あのさ、この事件にはまだ分からない部分があるでしょ?そこにいる探偵に、それを解説して貰おうって言うの」


 そういってイハラ刑事は、コーヒーをすすりつつ顎でコピーキャットを指す。

 指された方は、一瞬かぶっていた帽子を深くすると次の瞬間帽子を脱いだ。そこからあらわれたのは、流れるような黒髪と先程までの老検視官とはちがう、【カサンドラ】の美人店主の顔が現れた。


「……手品みたい、それ。さ、探偵。聞かせてもらおうかな。舞台は用意した、あとは謎解きで終わらせて」


 しかし、この探偵は刑事の求めを拒否する。


「イハラ刑事。勘違いをしてもらっては困る。

 君がお望みとあらば、最初から事件の経緯について説明するのもかまわない。

 だが、ミステリ小説ならば、ここで探偵が答え合わせをして、それで全ては大団円となるだろうが。今回の事件ではそうはならない。事件は終わり、真犯人は逮捕したが、法が既に別人にその罪があるとして刑の執行を告げたと言う」

「まぁまぁ、落ちつきなさいよ。この町だけなのか知らないけれど、探偵ってのはいちいち好戦的で困っちゃう。……まだね、その時じゃないんだよ。きっとね。

 あなたの言うとおり。これで終わりじゃ、うちの署のメンツってのも傷ついたまま。そう言うのが一番許せないのが、今はだんまりを決め込んでいる。……嵐がくるよ、間違いなくね。そう、そう信じないとね」

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