逆転の法則
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「えっと、殺し屋ッスね?」
「そうだ」
資料室の中にあるパソコンの前にコピーキャットとアインはいた。
コピーキャットの捜査が、次の段階に移行したのだ。今回はなかなか味わえない、スリリングなものだった。
なにせ答えがあって、証明式が完成し、残るは問題文の穴を埋めるだけ。こうした穴埋めが最後に来ることは普段なら滅多にないことだ。しかも、かなりの難度がすでにこの時点で予想されている。
「そうなると、どこかの組織トカ。マフィアなんかに囲われているヤツ?」
「いや、プロではないだろうな。アマチュア、それもどちらかというと殺しを趣味でやるようなクズの類いだ」
音がして画面に結果が映し出されるが、どうやら満足するものではなかったようだ。2人の顔に喜びの影はなかった。
「もうちょっと、絞れないと。ちょっとキビシいかと」
「……超人。それも……テレパスでやってみてくれ」
ピッと音がして今度は写真が出てきたようだ。
「まだ74人か。南米、EUなんかは消していいだろう」
「そうなると、Canadaとうちの国で?」
「さらに、今捕まっていない奴だ」
「21人、この辺っスかね」
アインはそういうと画面端のシークバーを動かしていく。
エグザイルの顔をまだ盗んだままのコピーキャットは、その画面に見落としはないかと瞬きもせずにじっと画面を見続けていた。
(し、しかし。違うとわかっても、こんなに似ていると……それもこんなに近くで!!)
憧れの人の顔が、こんなに近くにあることで自分のテンションが変になりつつある所為なのか、アインの鼻息はついつい荒くなっていく。
が、コピーキャットの方はそれには気がついていないらしい獣顔のアインの後ろから覆いかぶさるようにして、自分の手で操作している。
(こ、この手、手をちょっとだけでも握ったりシテ。いいだろうか?ってか、イイヨネ?)
「あ、よかったら操作。やりますかネ?」
そう言いながらも、いささかわざとらしく自分の左手で相手の右手を取ろうとすると、コピーキャットの眉がぴくりと動いた!
「すっ、スイマセン!!」
「これだ!……ん?」
どうやら自分は自爆してしまったらしい。あわてて謝ったことはなかったふりをすると
「あ、どれッスか?」
「……ああ、これだ。この2人」
「ああ、コイツっすか。すぐにプリントアウトしますネー」
そう言うと、必死に誤魔化そうとして粛々と作業を行った。
出てきたのはスペイン系の顔立ちをした兄妹、デスグラシアである。
「兄のデスウィッシュ、妹のデスパレス。そもそもは別々に活動していたのか。どちらもテレパスで、力を合わせる事でより強い力を出すといわれる。殺しを好み、2人で殺人ツアーをやったとネット上で公開したのが最初、か」
「こいつらでいいッスか?」
「ああ、この2人は昔から殺しの手口や演出を変えることで工夫を凝らしている。今はまた、なにか新しい方法でやっているはずだ」
「へー」
「問題はここからだ。アイン君、彼等を見つけだしたい。どうしたらいいと思う?」
まだ、コピーキャットの抱える問題文に空いている穴を埋めるにはだいぶ足りなかった。
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取調室から出てきたルシール検事を引っ張るようにして腕をつかみ、オフィスに放り込む。そして、サンダーランド警部は開口一番、雷を落とした。
「あんた!あんたいったい何をしてくれているんだ!?!」
「えっと、お仕事?」
「仕事?仕事だと?あれがそうだというんじゃないよな?!」
「それ以外に何か?」
「何をそんなにお高くとまっていられるんだ?!問題がない、だと?
ないわけ無いだろうが!対応は慎重にと言っただろう!それがなんだ、様子のおかしい相手をひたすら尋問しただけでなく。出してはいけない過去の案件を使って、自分の用意したストーリーに同意させたんだぞ!?正気を疑う!」
この非難には多少はルシール自身も思うところがあったが、それでも自分の出した成果はしっかりと主張しないわけにはいかなかった。
「お言葉ですけどね、警部。正規の手続きを経て、ちゃんと出した結果よ!まるで盗み取ったかのような言い草よね!
大体にして、捜査の進行とやらを見てもわかるじゃない。被害者がいて、加害者がいる。これであとはなにを探しているって言うの!?別の加害者?それがいるという証拠は?!」
「言ったはずだ!事件が起こったのは数日前!捜査も始まってすぐだ!
その容疑者は様子がおかしいし、急ぐ必要はどこにもないし。他の可能性がないことを潰す時間はまだある!ここはアークシティだ。どこぞのエメラルドシティのように、捜査に時間が割けないわけじゃないんだぞ!」
「あら、随分と贔屓の引き倒しをするのね。自分の愛する町ってわけ?かっこいいヒーローさん、お仲間の為なんでしょうけれどね。こういう場合は、当然のように一番怪しい奴から調べるの。警察学校で習わなかったの?」
「そんな言い方はやめろ!!あんたもわかって言っているはずだ、こっちの言いたい事をな…………いいか、ルシール検事。今回の容疑者は、どこぞのスラムに住むチンピラじゃない。暴れたら手のつけられない、そんな超人でもあるんだ」
「そうね。それなのに正義の味方、らしいわよ?」
「しかも、あれは精神的に不安定になっている。あんた達が何を考えているのかは分かっている。自称ヒーローを捕えて、大きく宣伝をしたいんだろう?だからといって、こんな状況で正規のどうこう理由をつけてまで急いで進めるような話なのか!?何を企んでいる!」
「企む?こっちがなにか企んでいるというの!?笑っちゃう、どうせ企んでいるのはそっちでしょ?裁判対策?それもいいわ。でも、こっちはあなたの考えに賛同するなんて考えないでね。私は、検事なの!!」
この不毛な怒鳴り合いに、終わりは見えそうにない。
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イハラは退屈していた。
サンダーランド警部のオフィスの中では、先程から上の者同士の激しい怒鳴り合いが続いている。これでは自分がやれることはなにもないというものだ。
こんな性転換、もとい性回転体質(?)になってしまったせいで追われた殺人課に緊急転属させてもらったが、あのかわいらしい検事も口説けず。警部の考えていた時間稼ぎもままならなかったのは一目瞭然である。
(自白、かぁ。メンドウヨネー、こりゃ揉めるわ)
裏でこうゴチャゴチャと対立している場合、こういった状況になると餌を見て目の色を変えた犬舎に一本の骨を投げ込むようなもので、収拾がつかないのだ。どうせ、これも最後は政治のパワーゲームになるだろう。
(そうなると警部は不利、かな。色々と肩入れしているからね。どうしても前のめりになれない)
頼もしい上司で、いい男ではあるのだが。こういった腹黒いやりとりには適さない人物でもある。あそこの中でおきていることの結果は見えていた。
「ちょっと、チョット。イハラ刑事っ!」
自分を呼ぶ声に反応して、後ろを振り返る。
アインがひょいと部屋の外から顔を入れて呼びかけていたが、その隣に立つのは珍しい事の『カサンドラ』の……あれ?
イハラはなにも言わずに席をたつと、すたすたとアインの前まで行ってから口を開いた。
「アイン、ちょっと教えて。そこにいるのは誰?」
「あ、凄い。イハラ刑事見ただけでわかるんスカ?」
「まぁね。ボディラインが”ない”もの。この美貌で男バージョンとはどんな御褒美なのよ」
「チョットだけですけど、力を貸して欲しいンデス」
イハラはちらと後方のオフィスに目をやったが
(いいか、どうせここではもうやれることはないでしょ)
と判断すると、ホイホイと2人の後についていった。
だがそんなイハラ刑事だが、エグザイルの顔をしたコピーキャットの大胆かつ破天荒な事件の仮説を聞かされ。続いてアインがさ探し出してきた2人の顔写真のコピーを見て、目を丸くした。
「えーっと……悪いけど一度だけは質問させてね。正気なの?」
それは紛れもないイハラの心の奥からでてきた言葉だった。
そしてコピーキャットの答えは短く、簡潔だ。
「ああ」
「……今の状況を言うわね。検事の手によって、容疑者は自白したの。検察は嬉々としてこのあとの為にと用意していた準備を実行する。つまり、逮捕状が出されるわ。今はまだオフィスでグダグダ騒いでいるけど、どうせもうすぐ終わる。つまり、わたしら現場はもう手を出せなくなるの。
それなのに、こんな状況で。そんな凄い仮設を元に。捜査を続行しろと?」
「そうだ。それが依頼だった」
「はぁ、信じられん」
「判明したのはここのモルグにあった死体の1つだが。この2人が犯人だとするなら、この町で他にも何人か殺されているはずだ。彼等の手口で唯一変わらないのは、殺す時は一度に複数回を連続で行うところにあるようだからな」
「……それも捜査したの?」
「勘だな。まだなにもない」
「はぁ」
呆れたように、悩ましげに何度も溜息をつくイハラに対し。横からアインが援護に入る。
「でも刑事。これはチャンスですよ。パトリオットの事件は、ガッチリしていて動けまセン。この人の仮説が正しいなら、そこから突き崩せるかもシレナイ」
「……はぁ」
「そ、それにですね。そっちの女性の事件。そちらでも容疑者が別人で逮捕されてしまいますし。なんとかしないと……」
「アイン」
「……はい?」
「まったく、信じられないわ……やっぱ、殺人課ってこうじゃないと!」
いきなり大声をあげ踊りださんばかりに喜びだしたイハラに、目の前の2人はキョトンとしてしまった。そんな2人を置いてけぼりにして、イハラのテンションは上がりっぱなしになっていく。
「騙し騙され騙し返す!こういう取引はたまらんわー!風紀課だとね、ここまで刺激的な事案はそうそうないのよね。いいわ!どうしたらいいの?」
「……協力、感謝する」
「えっと、えっとですネ。イハラ刑事に、この2人を見つけだして欲しいんです」
「ワタシに?」
「はい。どうも、この探偵はこの手の捜索は得意ではないというし。自分も、そういうのムリで。なので、イハラ刑事の力を貸してクダサイ」
「いいよー、なにをすればいい?」
あっさりとニコニコ顔で了承する相手に、コピーキャットが口を開く。
「まず、この2人が犯人であるという証拠を押さえる」
「あるの?」
「ああ」
「どこ?」
「この警察署の中」
「ここ!?」
「ジャッキーに再度見てもらったが、推測した通り。死体の首には絞め跡は2か所あった。だが、最初に調べた検視官はそんな単純なことを見逃していた。このことから、ある推論が立てられる」
「なに?」
「……誠に遺憾な話だが。この2人のテレパスもまた、自分と同じ事をしたと考えられる。
つまり、時間帯にしてはそこに私がいなかった時間。”検事がモルグを訪れたあたりで、彼等もそこにいた”ということだ。そうでなければ、説明がつかない」
「……凄い話ね」
「ブッ飛ぶでショ?これ」
「署内のカメラまではどうこうしていないはずだ。奴等は気づかれはしないという絶対の自信があるのだ」
「自分は目立つんで、それにカメラの中を見せろとか言うと、警部に話が行くかもしれないッス。それはなんとかしたいので……」
「わかった、よござんすよ。他には?」
「もし、まだこの町にいるとするなら空路だろうな。あと、ホテルに名前を変えて一緒に行動しているはずだ」
「なるほどなるほど。他には?」
「あと、これはイハラ刑事の今の本分といいまスカ。ネットでなにか仕掛けているかもって。アンダーグラウンドで、そういう映像の録画を流しているんじゃないかト」
「わかった。そっちも全部面倒みてあげる」
開いたメモ帳に速記で書き終えると、パタンと音を立てて立ち上がる。
「それじゃ、あとはこのイハラさんに任せておきなさい。すぐにバリバリ情報を集めてきてあげるから。大丈夫、あんた達はそこのコーヒーでも飲んで、体を楽にして、休んでて。ここからはお姉さんが、優しくエスコートしてあげるからっ」
そういうと楽しげに身をひるがえした。
その後、休憩室で2時間のコーヒータイムを過ごすことになったアインとコピーキャットであったが、2人に会話は全くなかった。まぁ、それは主にコピーキャットの顔に緊張している獣人が
(な、何を話せと言うノダッ!?)
ってな感じで一杯一杯になっていた事も原因ではある。
しかし、そんな2人の前に2時間後にさっそうと現れたイハラ刑事は。車のキーを投げてきて
「アイン、そこの人。ちょっとドライブいこうか」
といって駐車場へと促した。
車に乗り込むまで3人は何も語らず。アインがエンジンを入れて動きだすと、イハラの口が凄い勢いでまわりだした。
「ごっめーん。待ったよね?ホント、時間かかっちゃったよー。
なんていうかさ、こっちも久しぶりの”本気”?それで全開で頑張ったけど、やっぱ現役じゃないせいかキレが悪くってさー。もう、なっかなか難しくて!」
「あの、イハラ刑事?前置きはいいんで、結果をお願いシマス」
「え、ああそうだったね。
ビデオテープは抑えたよ。あと、実際に見た!
凄かったね、本当に写ってた。モデルみたいな場違いな恰好した2人組。入口から入ってきてモルグの中の職員とちょっと会話。で、帰る。
実際にあそこにいた時間はわずか26秒。テレパスとは聞いていたけれど、あんな短時間で影響与えるとは想像以上に強力ね。帰ったあと、話していた職員が何か書類を手にして書き直しているのもうつってた。これ、証拠になるよ。
あ、そうそう。言ってたけど本当だった。ジャッキーだっけ?あの検視官が、検事に説明している横でこれが行われていた。悪いけど、シュール過ぎて最初笑ってみちゃったよ」
「うわー、マジッすか」
「マジっすよ。次に2人の使っている名前らしきものはわかった。空路だというから、航空警察の知り合いに送って調べてもらった。夫婦ってことにしてるのかな。兄妹が夫婦!なんか淫靡な香りがするねっ。」
「はぁ」
「ホテルの方はまだ見つかってない。っていうか、移動してる。あと、どうもそのホテルでも殺しをしてるっぽい。ここ数日でホテルからおかしな飛び降り方をした自殺者がいる。念のため、勝手に処理をしないよう押さえておいた。実は、こういうのでちょっと色々と手間取ったのよねー」
「おおっ、そうなんスカ」
「うん。嫁を殺したって言う旦那の事件。こっちでも周辺に2人がいなかったか聞き込みを初めている。わざとらしく浮いている格好で歩きまわっているみたいだから、もういくつか話が出ているかもね。
あとね、ちょっとコピーキャットだっけ。見てほしいのがあるんだよね」
イハラ刑事はそう言うと、懐から写真を2枚取り出して後ろのコピーキャットに渡した。アインは運転していたのではっきりとは見えなかったが、そこには見覚えのある自分の同僚の姿があったように見えた。
そして「どう?」とコピーキャットに感想を求めた。
驚いたことに、その2人を見た探偵の顔には驚きが浮かんでいた。そして、その理由をあきらかにする。
「ああ、わかるぞ。たしかこの2人は”パトリオット事件”の”被害者を発見”した警官達だ」
「そうでしょうね。実はテレパスが犯人と聞いて、ちょっと思い当たることがあったのよ。この事件を難しくしている要因の1つは、あのパトリオットのバットを損壊した事。
普通に考えてもヤバいことをベテランの、それもこのアークシティで勤務して超人を相手にあれはまずやらないことよ」
「ど、どういうことッスか?」
「簡単なことだ。テレパスによって思考を強制的な影響下におかれてたんだ。その後遺症、というのが正しいかわからないが。自分の意志を、自信をなくしている状態になっていたのだ。だから恐怖心が刺激され、不安を必要以上に敏感に感じた」
「その通り!サンダーランド警部は、最初から慎重に事を運ぼうとしていた。なのに、悪いことが続いたせいで動けなくなっている。なんていうか、清廉な人なのよね。うぶっ、タマランワー」
「チョット、自分の喋りかた真似しないでくだサイヨ」
「あ、ごめん。気になった?なんか、高ぶっちゃって。久しぶりに身も心もこう……ビッチになれてる!って感じ。男が必要なのよー」
「仕事が終わったら、酒場で相手探してクダサイ。署内恋愛は貴方、禁止なんですから」
「ブゥブゥ」
「それで、これからどうする?」
「これから?もちろん、コピーキャットさん。逮捕に向かいますよー。ちょっとドライブでもして―、時間を潰すけど。署内のほとんどに話を通したから、あのデスグラシアだっけ?あの2人はすぐに探し出せるはず。
あと、悪いけどサンダーランド警部には他人を通じてこの動きを報告させてもらった。どうせもうすぐ力を借りることになるだろうし、貴方だってどこかで接触は取るつもりだったのでしょ?」
「ああ」
「だよね?よかった。
実はちょっと悪い話があるの。1時間前ほどかしらね、パトリオットの逮捕状を取る動きがあるって情報を耳に入れたの。
検事さんはさっさと決めてしまいたいようね。他にもきっと準備しているはず。
ただそうなると問題は犯人を逮捕しても、それがパトリオットの事件で彼等が関係していることを証明できるかしら?」
「それならば心配ない。アンダーグラウンドの件を忘れたか?奴等はゲーム感覚で行った犯行を映像に残し、リアリティーショーのように編集してネットに放流しているのはわかっている。
今回も、事件の全容を映像として残しているはずだ。所持品を改めればすぐに出てくる」
「なるほどね。それなら大丈ー夫」
イハラはとても楽しそうにそう言った。
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「サンダーランド警部!」
誰かに呼びとめられ、手渡されたクシャクシャのメモを丁寧に広げていく。
するとそこにはペンでイハラが書いたらしき文字があり。
『ドクロのジョーカーと接触。真犯人を発見』
と書かれていた。
ただそれだけであったが、サンダーランドは全てを理解した。
(そうか、見つけることができたか。これでなんとかなるか?いや、そうもいかないか)
すでにルシール検事は逮捕状を取ったはずだ。そして、サンダーランドを敵視して”あの馬鹿”には一切近づけさせようとはしない。これからも多分、会わせろと言っても相手にはしないだろう。
(ぎりぎりに間に合ったか。これでこっちもようやく戦えるようになる)
心なしかそれまで、疲労と敗北感で縮こまっていた身体に力が戻ってくるのを感じる。
そうだ、戦いはまだこれからなのだ。
あの、カーネル”サウザンド”パトリオットという厄災が復活する前に、なんとか止めなくてはならないのだ!!
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無線からの連絡を待って、アークシティの中をぐるぐると当てどもなく走らせていると、ようやく待ちに待った連絡が本部から送られてきた。
『パトロール651より連絡。イハラ刑事、いいですか?』
「ありがとう、教えて頂戴」
かなりの高級ホテルの名が伝えられると連絡は終わる。
「そこに向かうッスね。しっかし、高いところに泊っているんだナァ」
「自己掲示欲が強いようね。一連仕事が終わって、今は勝利に酔っている。そんなところじゃない?」
「……」
「さて、それじゃここで実は1つ黙っていた問題があるんで伝えないといけない」
「ハ?」
「……わかっている。犯人を取り押さえるのに、警官隊を出せない。違うか?」
「その通り!」
「ちょ、チョット待ってクダサイ!?それじゃ、どうするんですか?」
「まぁ、この3人でするしかないかな。ニャハッ」
「ええっ!?」
アインは動揺して、握っている運転を誤らないかとヒヤヒヤした。
「まぁね。冗談じゃなくて、これは本当。本来なら、対テレパス用のフル装備のSWATを用意したいところだけれど。ちょっと時間がないのよ、こっちの動きもバレるし」
「し、しかし……」
「他はね、まったく使えない。人を多く配置すれば、それだけ影響を気にしないといけない。アインは見ていないからわからないんだろうけど、あれほど強力なテレパスが相手だと物量は無理ね」
「そうなると、不意打ちか?」
「それしかないかな」
「本当に大丈夫なんスか?」
無表情のコピーキャット、困り顔のアインとちがい。相変わらず満面の笑みを浮かべるイハラは陽気に断言してみせた。
「おう、まかせろ!女は度胸だっ」
「……あの、ずっとあんまはっきり女っていうからツッこんでおきますけど。イハラ刑事、男ですよね?いまは両方行ったり来たりしてますけど、もともとは男だったじゃないデスカッ!」
底抜けに明るい笑い声が、パトカーの中に広がった。




