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BLACK&WHITE  作者: 鷹雪
DEADMAN CALLING
78/178

最悪

よかったら一読後、感想その他を残していっていただけると嬉しいです。

(ダリィ、もうなんかダラダラ寝てたい)

 アインは絶不調であった。

 いつもとは違い、心もち頭が下がり目は上目遣いになってしまう。同僚の女性警官などは「なに、それ萌える」とかいってキュンキュンしていたようだが、当のアインは完全に元気を無くしていた。

 警部は検事が来てからというもの、明らかに機嫌が悪くなりピリピリと小さな放電を繰り返しているし、これみよがしにイハラ刑事を復帰させて噂の検事殿につけていた。間違いなくトラブルが起こるだろう、あー胃が痛い。

(こんな時は、『カサンドラ』で美人にお酌をして貰いつつビールを一杯……)

 朝からこれである。重症であった。


「アイン巡査?」

「はひ?」


 見上げると、身体中に衝撃が走る。尻尾がピンと立ち、顔に血がのぼってくるのを感じる。心臓が早鐘のように鳴りだしたのがわかった。


「ちょ、えっと、エグザイルさんっ?!」

「……」

「どっ、どっ、どうなされ……アレ?」


 何かがおかしいと気がつき、首をかしげているアインにエグザイルの顔をしたコピーキャットは、しっかりと自分の要望を伝えた。


「君の力を借りたい。ちょっと、付き合ってもらおうか」


 そう言うと、コピーキャットは机に突っ伏してへたっていたアインの腕を掴み立たせると、【資料室】のある方向へと引きずるように引っぱって行った。



▼▼▼▼▼



 コンコン、とオフィスの扉をノックする音に、サンダーランド警部は顔をあげた。

(検事、か)

 32才の才媛との話だったが、落ちつきはないし、大丈夫か?と思わせる態度だが、警部にはそう悪い印象ではなかった。しかし、今回の件では間違いなく敵に位置する存在であり、面倒の中心になるのは間違いない。


「いいですかぁ?警部ぅ」

「どうぞ、といっても。もうはいってきていますね」


 ルシール検事は、どこか必死に見える笑顔を浮かべ


「あのですね。容疑者とお話し、させてもらいたいのですがァ」


 という。

(来たか)

 とは思ったが、拒否するわけにもいかない。わかりました、とだけ簡潔に言うと


「よかった。なんか、反対されちゃうんじゃないかって思ってました」


 などと小娘のような仕草で言われ。ついつい、余計なことを口にしてしまった。


「なぜです?あなたの仕事を、我々が邪魔するといいたいのですか?」

「そういうわけじゃ……いえ、あのね。彼の、あの愛国者を名乗るヒーローの事件。うちの局だと、またかーって感じで扱われてまして。滅茶苦茶やってるって言ってて」

「そうですね」

「それに、関して……ホント、ごめんなさい。噂で聞いたことなんですけど、警部とかここの警官の皆さんはすっごく寛容な態度だって。彼が暴れるのを歓迎しているっていわれてまして」

「それは、酷い話ですね」

「そうでしょうねぇ。いや、笑い事じゃないってことはわかってます。ま、どうせ”自分達の思うとおりにいかなくて”、ただのやっかみなんでしょうけど」


 いちいち、勘に触る言い方をしているのは挑発しているからだとわかった。だが、わかったからといって回避”できない”こともあるのである。


「今回は違う、そう聞こえますが?」

「ああっと……犯行方法は頭部を鈍器で撲殺。そして、直前にバットで被害者のその頭部を叩いたのは1人しかまだいない。これだとやはり、確実だと思えますけれど。警部は違う見解をお持ちで?」

「……まだ捜査は始まったばかりですよ」

「もちろん!もちろんそうですけれど、なにかあるのかなって。だって……ねぇ…………ほら」

「はっきりと聞いてください」

「んじゃ、言いますけど。そんな容疑者にはあまり熱心に話を聞いて無いようですよね?なにか理由が?」

「……見ればわかりますがね、別人のように大人しくなってます。いつもの狂った感じではなく、ね。医師との相談で、精神鑑定の検討をしています」

「あら、そうなの?!で、するんですか精神鑑定」

「ですから、まだ決まってませんよ。何が言いたいんですか?」

「いや、だってそれは、あなたの手口じゃないですか?去年も2度、彼がやらかした3つ目と7つ目の事件で精神鑑定の必要の検討を持ちだして。でも、結局やらなかった。でしょ?」

「理由があってのことですよ。彼への訴えが取り下げられたからです」

「ええ、そうね!なぜか!いつも!!彼を訴えると言った人達は引っ込んでいる。おかしな話よね」

「うちは関知してませんよ。警察が、圧力かけたとか言わんで下さい」

「あら、そんなことは言ってません。ただ、とっても仲がいいんだなって。これ、感想です」

「…………」


 やはり挑発だった。乗るんじゃ無かったと後悔したが、同時に相手の指摘にも一理あることを認めざるおえなかった。あの馬鹿を見捨てておけば、もっと早い時期にこれとは違う形で騒ぎが起こったのは間違いない。

 そもそも、今回だって裏ではあの馬鹿の為に動いているのだ。さすがに少しばかり分が悪いが、それでも”そうあるべき法則”からいえば、あの馬鹿は今回も無罪放免となるはずなのである。


「そう言えば警部、彼の個人データなのですが」

「データはありません。見当たらないのですよ」

「ああ、本当なんだ!?」

「ええ、これまでにも何度か強い意向で調べましたが。どこにも出てきません」

「へー、ふーん」

「なにか?」

「いえね。調べたらちょっとおもしろいことが分かって。彼、何度も怪我をして入院していますよね?」

「まぁ、ご存じでしょうが。銃を向けられても平然と立ち向かう男ですからね。怪我は良くしてますよ」

「サン・ナヴァ-ル病院ですか?そこでの支払いを調べたんですよ。保険に入ってました」

「……」

「ヒーローだって怪我をする。保険に入っておこう。なんかCMでも使われそうなフレーズ」

「……」

「でも、私思ったんですよね。これを見て。噂に聞く彼、愛国者の人ってこんな”細々としたこと”に頓着するだろうかって」

「……」

「男は淫売の子、女はビッチ。そう叫ぶ彼がですよ?自分には確実な保険が必要、なんて思って用意するでしょうか?」

「コメントのしようがありませんね」

「本当に?なら、彼の生活費はどこからでているか御存じ?」

「さぁ、別に納税額を調べる財務省の管轄には興味がありません」

「なんと、国が払っているんですって!なんでそんなことになっているか、興味ありませんか?」

「……何が言いたいんです、検事?」

「とぼけるなってこと!ここの警察の、どれだけが関わっているかは知らないけれど。あの変人をいいように使って、自分達が利用しているんでしょ!」

「まるで私がなにかしているみたいな言い方だ」

「そうね、言い方は失礼だったかもしれないけれども!この事件が終わって、ちょっと暇で、興味が出たからその件を追求する準備はあるんですよっ」

「その時は、内部監査をともなって来られるといだけでしょう」

「随分余裕ね!」

「仮定の話に何を言えと?」

「そうね、仮定の話じゃ何を言っても、何を言われても気にはならないかもねっ!それじゃ、ブライアン・ホーマーって誰の事か教えてもらえます?」

「っ!?」


 ブライアン・ホーマーなる人物の名前を告げられると、あきらかにサンダーランド警部の顔色が変わった。

(おお、やっぱ凄い威力だった)

 内心でルシールはほくそ笑むが、顔の表情は緊張しつつも威厳を保ったものにしていた。


「誰です、突然に?」

「そう?でもブライアン・ホーマーと名前を言ったら。あなた、確実に、顔色を変えたわ!私はそれを見た!舐めないで頂戴ね、これでも以前はCIAで働いていた事もあるんだから。言い逃れなんかさせないんだから!」

「……」

「ブライアン・ホーマー、知ってるわね?あなたがどうやったかは知らないけれど、保護証人プログラムにやったでしょ。どうせあなたのことだから、そのファイルはちゃんと取ってあるはずよ。出しなさい!」


 しばし2人は睨みあいが続き、オフィスの外では何事が起こっているのかと、警官達がチラチラと横目でその様子を確認していた。

 サンダーランド警部は、結局人頃も言い返すことなく立ち上がると、背後の棚から1つの黄色い封筒を取り出してきた。

 それを差し出し、ルシールが受け取ろうとすると僅かに持ち上げてみせ、そこで初めて口を開いた。


「検事、これを渡す前に言っておくことが3つある。

 まず、これは過去の事件だ。それもとても酷いものだ。誰にでもホイホイと見せびらかす類いのものではない。だから、読み終わったら返してもらう。これは私のファイルだ。忘れないでもらおう、これにある名前はすでにこの世に存在しない名前。この意味はわかるだろ?

 次に、私になにやら含む所があるようで色々と言っていたな。はっきりと言わせてもらおう、下種の勘ぐりはやめろ、とな。

 あんたは分かってやっているのかしらないが、この世の中では超人にミュータント騒ぎをふっかけて火の無いところに煙があるとわめく連中がいる。どこでそこまでの情報を手に入れたかは知らないが、知らないうちに踊っているなんてことにならないよう。あんたは気をつけた方がいい。

 最後に、このファイルを見せるが。ここに書かれたブライアン・ホーマーの名はあの馬鹿に……カーネル・パトリオットを自称するあいつには絶対に!いいか、絶対に言うな。

 CIAだかの尋問テクニックのつもりでどこかで出すつもりなのだろうが、それはやめろ!これは警告じゃないぞ、忠告だ。俺も、あんたにとっても良いことなんて一つもない。

 なんでこんなことを言うかといえば、どうなるかわかっているからだ。教えてやる、あいつは不安定になる。繰り返すが、それは誰にとってもいいことにはならないぞ。これを、あんたがきちんと理解してくれていることを願うよ」


 そういうと、ゆっくりと封筒を下ろしてルシールの手に渡した。

 なんだかそれが、説教をされたようなのが悔しくて部屋を出る前にルシールは言いたい事を言ってやることにした。


「いろいろと、どうも。

 でもね、私にも1つ。どうしても腑に落ちないことがあるんです。なんだか聞いていると、あなたはあの愛国者が!あの暴力的で、粗野なあの男がバットを振りまわして他人の頭をぶったたいて回っているというのに。今回のように”人を殺すはずがない”と確信している風に見えるのはまったく理解できないわ!

 人が1人死んでるのよ!?確かに、連続暴行魔で、殺人もやっていた。でもね、それを止めるのにヒーローと呼ばれる連中に殺人許可証があたえられているわけではないの!ルールは守ってもらうわ!ただ、それだけ」


 吐き捨てるようにそう言うと、さっさと振り返ることなくオフィスをあとにした。




▼▼▼▼▼



 ルシールの悪い流れは、どうやらまだまだ終わって無いらしい。

 警部から”取り上げた”封筒の中にあったファイルは、名前の部分が消されていたが何が起こったのかを鮮明に記録していた。ぶっちゃけるが、想像を越えて強烈な内容がそこにはあった。

 おかげで、ファイルを閉じて胸にしっかりと抱えると。トイレに駆け込んで意の中のモノを全部吐き出し、それでも足りなくてキューキューと全てを絞り出さんばかりにもっと吐きだした。


 確かにこれはヤバかった。


 これだけでフラフラになって戻るのをみたイハラ刑事が、また微妙に色目を使いつつも「大丈夫ですか?」と聞いてきてくれたのは嬉しかったが。

 とにかく、ここは気を取り直して。容疑者との面会に踏み切ることにしたのだ。


 が、これもまた大外れであったのだ。

 てっきりこちらを見てふざけた態度で罵声を叫ぶ男を予想していたが、現れたのはしょんぼりと座る気の弱そうな青年がいただけだった。

(なにこれ!?誰コレ!?)

 あの安っぽいパルプコミックにでてくるようなヒーローよろしく。アイガードをつけているはずのそいつは、いつもは見せない仮面の下の素の顔で目の前に座っている。それがまた、妙に病的というか。フワフワしていて、受け答えも何とも便りがない。

 ルシールはペースを崩されまいと、心の中で自分を奮い立たせると。雑談をして、時に褒めあげ、時にけなし、最後はほtんどやけになってしまって褒め殺したりもしてみたが。相手はさっぱり反応が良くないのだ。

「精神鑑定を考えている」

 ふと、サンダーランド警部の言葉を思い起こしてしまう。だが、この様子を見るとなんだかあの言葉にも説得力があるような気がしてしまう。

(嘘よ!こんなわけがない。これもどうせ、対策かなんかなのよ。こっちにつけ入れさせまいと、手を打ったに違いないんだから!)

 押しても引いても、叩きつけてもダメとわかると焦りからかルシールはだんだんと、それもかなりの早さでその視野を狭めていった。

 容疑者と対面しているこちらの部屋からは見えないが、どうせマジックミラーの裏側ではあの警部は『どうだ?無理だろう?』とでも思ってほくそ笑んでいるに違いないのだ。

 自分が何故、このアークシティの警察署に送り込まれたのかということの意味を知っていただけに。ルシールはどうしたらいいだろうかと勝手に自分で追い詰められていった。


 そして、それは禁断の言葉を使わせる理由になった。


「ねぇ、パトリオットさん?ブライアン・ホーマーという名前に聞き覚えはない?」

「……え?」

「ブライアン・ホーマーよ。どう?ブライアン・ホーマー」


 繰り返して聞くと、相手の無表情が固まったような気がした。そして僅かな沈黙があって、すると不思議な話で、カーネル・パトリオットを名乗る男はへラッとするように笑みを浮かべると。


「ブライアン・ホーマー。名前です」


 そう、”とても幸せそうに”口にした。

 ルシール検事は、何故かその様子を見て、自身の背中の毛が逆立つのを感じた。そして、じわじわと胸に不快感が広がり、染みるような不快感を感じていた。何故そんなことを感じたのか、まるでわからなかった。


 そして、その瞬間。いままでの悪い流れが綺麗さっぱりとなくなった、そんな気がした。すべてがガッチリと噛みあい歯車が回りだすように物事が動きはじめている、そんな感覚が。


 マジックミラーの裏でサンダーランド警部が座りこんで頭を抱えていた。

(あの女!あの女!)

 失望と、何より自分への怒りで立っていることができなかった。あの”馬鹿な女”は”あの馬鹿”をたぶん上司でなのだろうが、それに言われた通りにムショに放り込むことだけに集中しているだけのお使いだったのだ。良く考えろ、などと自分が伝えた忠告はまるで無駄だった。

 あの状態のあの馬鹿を、さらに不安定にしてくれた礼は、この後で必ずやってくるのは”分かって”いた。


「あの、警部。大丈夫ですか?」


 躁状態でいつもは気の利かないイハラが、珍しく声をかけてくる。


「おい、イハラ。頼みがある」

「なんです?」

「ちょっとグレイスンのところに行って、あいつらの囲っているヒットマンのリストを手に入れてこい?そいつら全員に依頼したい事がある」

「はい?」

「……冗談だ。嘘だからな、本当にやるなよ」


 掠れた声でそう言ったものの、もしもイハラが本当にリストを持ってきたとしても、きっとサンダーランド警部は怒らなかっただろう。

 むしろ、これ幸いにと今考えている通りに”この向こう側にいる馬鹿”をどうにかして殺してくれとリストに書かれた全員に依頼したかもしれない。もっとも、それで何とかなるとは思えないが…………。



 それから僅か7分後のことである。

 カーネル”サウザンド”パトリオットこと元ブライアン・ホーマーは、供述書に自分の罪を認めるサインを入れていた。そこにはパトリオットとは書かずに、ブライアン・ホーマーとだけ書かれていた。

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