チキンレース
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prrrrr prrrrrr
電話が鳴り、その音に不快感を感じてルシールは素早く受話器を取る。
「はい?」
『おはようございます』
「はぁ」
『あの……お迎えが来ていて、こちらでお待ちしているのですが』
「はひっ?!」
慌てて時計を確認する。
AM09;12とある。もう一度、確認する。何故か信じられなくて、わざわざ自分の腕時計を探し出してまで確認した。
(あ、3分遅れてた)
あってはならない話であったが。持ち帰った資料に目を通していたら、気がつかないうちに彼女は徹夜をしてしまっていたらしい。
検事 ルシール・マストロヤンニはすぐ行きますと受話器に叫ぶと。慌てて気が絵の下着をつかみ取ると、シャワー室へと飛び込んでいった。
▼▼▼▼▼
「……」
「あー、おはようございます。サンダーランド警部」
「おはよう、検事。良く眠れていないようだが?」
「ああ、その……昨日は遅刻しちゃいましたでしょ?気になっちゃって、もって帰った資料に目を通していたら、朝になっちゃってて。ホント、なんで夜ってこんなに早く終わっちゃうのかなーって」
「感心しませんな。自己管理はちゃんとやってもらわないと」
「はい……」
どうも自分は今、悪い周期に入ってきてしまっているのではないか?そんな事を考えてしまうくらい、今回は失敗続きだ。こんな調子だと、ここの警官達にもなんと陰口を叩かれることになるのやら。
「モルグの方は覗いてこられたとか?」
「ええ!ここに来る前に、ついで……じゃなくて、もういつでも来てくれていいという話だったので。検視官の方も、ちゃんと調べてくれて説明も受けました」
「……よかった。それで、次は容疑者と会いますか?」
「はい、ぜひ!!」
思わず大声をあげてしまった事に気がつき、ハッと自分のうかつさを呪いたくなる。
「すいません……もうちょっとあとで。色々とやることがのこってまして」
「そうですか…………ああ、捜査担当のイハラ刑事。彼……彼女がつきますので、使ってください。あと彼を直接逮捕したアイン巡査もいます」
「わかりました。ありがとう」
サンダーランド警部のなんともいえない視線を針のむしろのように感じつつ、ルシールはオフィスをあとにした。
『おいおい、頼むよ。うちのエースが』
「なによ、ボス。その言い方!」
若干どころではない電話の向こうにいる男の態度を見透かして、こっちも言い返す。
『今回のは、特別に力を入れようってことで君を送りだしたんだよ?それが遅刻、遅刻では示しがつかないだろう』
「ありがとう。ご忠告は痛み入りますわ。でもね!もともとは一息つく間も与えず、こっちに行けと命じた。あなたにそれをいわれたくないわっ!」
『だが、必要な事だった。今回の事件を起こした愛国者とか言う奴はね。これまでも色々と問題児で、どうにかならないかって声が多かったんだよ』
「……あなたもやりこめられた?」
『まぁ……逃げられた口さ。そう言う奴はごまんといる。だから今回は確実にってことで、君を送りだしたんだよ。しっかりしてくれ!』
「はぁ、気が乗らないわ―」
『なんだよ、やる気がないな。もう泣き言か?』
「そうかもね。だってこっちの警察。なんか感触が変なんだ。容疑者並みに変!すっごいセクシーで、私に何度も色目を使ってくる刑事をつけるし。それに警部!あの目は、女を蔑むそれだったわ……」
『どうかな?頼りない検事を見て不安になっただけじゃないか?』
「…………そう、かもね」
いけない流れだと思った。このままだと、へこんでこの後も悪い流れが続く気がしてきた。そこで、話題を変えることにした。
「ああ、そうそう。その愛国者さんの情報。なにかあった?」
『名前、カーネル”サウザンド”パトリオット。自称、ヒーローだそうだが。軍の方にはそれらしいものは何も残っていない。ただ、向こうが言うには新兵訓練で脱落した連中までは記録に残らないからわからないんだそうだ』
「軍に関係ないのかしら。本当に?」
『どうかな。実は、まったくなんにも出てこなかったからどうしようもなかったんだが。面白い情報がわかってきた』
「なに?」
『それなんだが、その愛国者は保険の契約をしている。なかなかのやつだな。それで、その金はどうやら政府から出ていることが分かった』
「ええっ?!」
『心配するなよ。ワシントンの連中とは関係ない。どうやって認可が下りたか知らないが、介護系の補助金が彼には何故かおりていることが分かったんだ』
「ふむ」
『警察、だろうな。これまで、好き勝手に町中で暴れていた男を常に助けていたのはそこの警察署の人間だ』
「ふーん。このアークシティって変わってるわよね。確か、住民もきっちり半分超人なんだっけ」
『そうだ。おかげでミュータントテロなんかの標的にもされるが、鉄壁の守りも誇っているよ。ワシントンや、あのアウトキャストとかいうカルトの私設武装組織並みの防御率さ』
「ははーん、そういえばヤンキース負けたね」
『うるさいよ。仕事の話をしろ…………それと、愛国者には面白い情報がひとつある。彼の本名についてだ』
「本名?正体がわからないと言ってたんじゃないの?」
『確かにそうなんだが。まぁ、決戦の場に送りだした者として、出来る限りの援護をしたいだけさ』
「……で?」
『ブライアン・ホーマー、ちなみにこの名前の情報は無いぞ。なぜならこれは……』
「だいたい読めた。誰かが変わりに消したのね、その情報。それは誰?わかってるの?」
『ああ、アークシティ警察署のサンダーランド警部だ。彼がこの名前の人物を、証人保護プログラムを使って消去させた』
「……色々凄い援護射撃が用意されているわね。まぁ、いいわ。こっちもちょっと舐められているみたいだし。取り合えずぶつかって、ひとつガツン!とやってみる」
電話を切ると、大きく深呼吸をする。そうだ、今回は大変な仕事になるのだ。
なんせ、ヒーローを刑務所にブチ込むための自分はここへ来たのだから!
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ジャッキーは職場でもあるモルグで、実に楽しい一晩を過ごすことができた。
若かったころの話、怪人のかつての事件、口を開けば次々と懐かしい話に花が咲いた。
それでも、明け方ごろになると。コピーキャットは黙りがちになり、ジャッキーも気を使って話しかけないようにした。その後も、2日連続で遅刻してきた検事がモルグを訪れ。昨日の検視結果と所見を、死体を見せながら披露させてもらった。
それも終わり、同僚達も来て。そろそろ自分は帰宅する事を考える、そんな時であった。
朝方から姿を見せなくなったコピーキャットが、いつのまにやらまたこの場所に戻ってきていることに気がついた。
そういえば、同僚達もなんだかんだあって今はここに居ない、自分だけだ。
老眼鏡を机に置くと、席を立ってコピーキャットの側に立つ。なぜだろうか、怪人は昨日見ていた被害者の入っている場所とは全く違う方向を向いて考えこんでいた。
「コピーキャット、姿が見えなかった」
「……ああ、他の職員たちが来るからね。その間に被害者の所持品を見に行ったのだ」
「見れたのか?」
「もちろんだ。連絡を入れてくれていたんだな。おかげで、むこうでも古い友人に会えた。それに快く対応して貰えた」
「ま、自分たちの世代じゃ。あんたは伝説だからなぁ」
「”レジェンド”ではないさ。だが、感謝する」
「…………それで、まだかかりそうかい?そろそろ俺は帰る時間が迫っているんだ。なんだったら、あとの事は他のヤツにいい含めておくんだが」
「いや……どうかな。実は、とまどっている。判断を……決断を下せないせいで、進めないのだ」
「どういうことだ?」
「聞いてくれるのか?」
「この老人が役に立つかはわからないがね。それに、今回の事は警部達も気にしている。あんたの捜査を応援できるなら、なんだってさせてもらうよ」
コピーキャットはひとつ頷くが、それでも再び口を開くには幾分かの沈黙が必要だった。それほどにして、今の彼は迷っているということなのだろう。
「明け方の事だ。ここでの声を含め、出来うる限りの情報を集めて、再び再構築をしようと試みた。だが、失敗した」
「問題かい?ああ、”雑音”ってやつか?」
「それは答えにとても近い。
なぁ、古い友よ。経験から君の勘で答えてほしい。警官は、”まだ死んでいない被害者”を”死んだ”と判断して、トドメを自分で刺すだろうか?」
「何だって!?」
「言った通りだ。撲殺された死体に出会い、その死体にさらに損壊する行為に及ぶかと聞いている」
「そりゃ……滅茶苦茶な話だな」
「同感だ」
「えーっと、顔を知っている相手とか?憎んでいる相手とかか?」
「たぶん違うだろう。初めて見る顔の相手だ。それが死体ならと、警官は損壊する行為を働くと思うか?」
「……悪いが、そういうことならやるわけがないとしか答えられないね。無駄なことだし、なによりそんなことする理由がわからないよ。検死をすればわかることだしね」
「確かに」
「それでも……参ったな。どういうことなんだ?」
「説明したが、最初のアプローチでかなり強い”雑音”が発生した。原因は私の心が大きく揺さぶられるほどの衝撃を受けて驚いたからだ。
そのおかげでおきつの”証明”に制限が掛かっているのが現状だ。
問題は、私の見たものだ。現場についた警官達は、わざわざ脈を測ってまで”生きている容疑者”を”死んでいる”といっていたんだ」
「本当かい?」
「意味がわからないだろう?私もそれで混乱していた。ここに来ればより詳しい情報が入ると期待してきたのだが、信じられない話だが”その情景には誤まりはない”ということしかわからなかった」
「……」
「こういう時、ほとんどヤケのようなものだが。さらに広く大きく、死者たちの声を聞くことにしている。偶然でも、なにか手がかりが出てくることがあるからだ。そして、それらしい声をここで聞いた」
「ここ?」
「そうだ、この段の一番下。女性のようだな。彼女の声がとても気になることを言っている」
ジャッキーは慌てて机に戻ると、コピーキャットが差したところに入っている死体の情報に目を通す。
「確かに!確かに、女性だ。殺人だそうだ。夫が首を絞めて殺害したとある。犯人はもう逮捕されているはずだ」
「そうか、断言しよう。夫は無実だ」
「!?」
「気になったので、彼女の目も盗んで現場の再現をおこなった。実際の現場に入ってないので、あまりしっかりとしたものではなかったがな。そこで、”雑音”を生み出すほどの事件とはまた違った。驚きの事件が再現された」
「な、なにがあった?」
「それなんだが、彼女は”2度”絞殺されていた。そして今、君が目を通しているその報告書は、何者かの指示によって書きなおされているものだ。
ジャッキー、すまないがこの死体を取り出して君の手で再度調べてみてくれないか?このコピーキャットが正しければ、その報告書にはない。複数の絞め跡が残っているはずだ」
「そ、そ、そりゃ一体?!」
「私も驚いている。パトリオットとは違う犯人を見つけ出そうと思っていたが、そいつも超人のようだ」




