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BLACK&WHITE  作者: 鷹雪
Knights of round Vol.1 Runaway
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ヒーローズ

よかったら一読後、感想その他を残していっていただけると嬉しいです。

 ボクストンは車両を慎重に進んでいた。

 前回は子供達に不覚を取った彼だが、今回は前回の轍を踏むつもりはさらさらなかった。というよりも、そんなことになるわけがないのだ。

 1度ならず2度のこちらからの襲撃を、あの未熟な子供らが生き延びたと言うこと自体が奇跡のような話だと思っていたし、それは間違っていないと冷静な分析の上で結論は出ていた。

 そもそも、自分の娘はまだ力の発現も完全ではない。彼等自身が頼みにしているヴィクターは病み上がり、ほかのにしても長い日数をかけて逃げ続けたことによって身体の芯を削るような疲れにとりつかれている。それほど、追い詰められるかもしれないと言う恐怖は彼等を痛めつけているはずなのだ。例えこちらが3人といっても、最初のような油断や、2度目のような偶然が再び彼等を助けることは無いだろう。つまり、こちらが圧倒的に有利なのだ。

 だが、同時に考える。もしかしたらこれは彼等も考えていることなのかもしれない、と。つまり、正面からの最激突は勝てないのなら彼等が選ぶのはこちらの背後に音もなく忍び寄って……。


 その瞬間、ボクストンの背中で強い風が吹きのけるのと、なにかがストンと廊下の上に降り立ったのを感じる。

 思ったとおりだ、それをこそ待っていたと言うように、ボクストンは振り向くとすばやく腕を突き出し、いつでもブラストを発射できる体制を整えた。


「ハイ、パパ」


 そこに娘がいた。

 メガンが、いつも朝起きてきた時のように。ごくごく自然に、あの愛くるしい笑顔をこちらに向けて挨拶してきた。おかげで僅かに反応が遅れてしまう。

 ハッとした時にはメガンは自分の腰に飛びついてきていた。

 再会の喜びに抱きついたわけではない、それがわかるのはメガンは怪力でもって実の父親を車内の天井へとこすりつけるように持ち上げようとしたからだ。

 すぐさま右手が輝きはじめ、体内からエネルギーブラストを娘に向かって発射しようと試みる。


「メガン、よくやった。あとは任せろ!」


 どこからともなくトニーの会心の叫びがあがると、ボクストンの襟首を複数の手が掴んで彼を引っ張り上げる。



 外ではすでに準備はできていた。

 ディアナが開けたゲートに、トニーとルーベンが手を突っ込んでボクストンを無理矢理に引きずりあげる。同時に、ヴィクターがフォースフィールドに包んで彼を拘束。エネルギーブラストでフィールドの突破を試すべきか逡巡しているボクストンだが、そんな時間は彼には残されていなかった。

 皆から離れて先頭方向の車両に位置するところにいたホークガールがすでに矢をボクストンに向け狙いを定めている。ディアナが腕をあげて合図をすると、矢は放たれ、拘束していたフォースフィールドは解除された。


 突然、重力のある世界に放り出されたボクストンが最後に感じたのは。自分が走行中の車両の屋根の上にいて、子供らの罠に引っかかり、無様にも眼前で炸裂して飛び散って広がる網に絡めとられたことだ。

 そして身動きが取れないままもだえながら、車両の外へと転がり落ちて行った。



▼▼▼▼▼


「やった!」

「よっしゃ!」


 トニーとメガンの喜びの声に、ルーベンは頷き、ホークガールは離れから片手をあげてガッツポーズを決める。


「これで2人、まだのこってるわ。みんな!」


 気が緩まないように、ディアナが声をかける。


 彼等が恐れたのは、大人達が怒ってこの車両に危害を加えないだろうかと言う事であった。

 追ってくる親達と戦うのは仕方が無いかもしれないが、それに一般人を巻き込むようなことにはしたくなかった。なら、不意打ちでもなんでもして彼等をここから排除するしかない。

 走行中の列車から落ちて、むこうも無傷というわけにはいかないだろうが。正直言って、今の彼等の力ではこれ以外の方法は無かった。必死なのだ。


 残るはあのリメーンとか言う若者ただ1人。だが、それでも彼の強力な力は、今の子供達にとっては脅威である。

 しかも、これまでのように肉親の情を利用した挑発や不意打ちは、多分通用しないだろう。




「ヴィクター!?」


 メガンの緊迫した声で、全員が気がついた。車外の風にあおられる中、ヴィクターが顔を突っ伏して動かない。慌ててトニーが寄って覗きこんで様子を確認する。


「まずい!ディー、ルン。唸ってて、顔色も悪い。これ以上は無理だ」


 ディアナは異変を感じて近づいてこようとするホークガールにそのまま動くな、と指示を出したが内心では焦っていた。

 もともとヴィクターはギリギリの体調だった。それがここで最後だからと無理をしたせいだろう。これ以上の戦闘を彼に望むわけにはいかなかった。


「トニー、ルン。聞いてちょうだい、リメーンとか言うのが残ってる。あたしたちでやるしかない」

「……わかった。それがいいだろう」

「じゃ、どうするよ?」

「今考えた、後方の車両に移動しましょう。2人は最後尾に、あたしは貨物車両の外の壁にゲートを作る。奴が最後尾に着いたら、そこにもゲートを作る。2人でどんな方法でもいいから、そこにあいつを押し込んで」

「無茶じゃないか?失敗のリスクも多いぞ」

「わかってる。でも、あいつは飛行能力があるし。今のあたしらで不意打ちもさすがに難しい。

 これだってゲートを開くのに、貨物車両は最後尾からは距離がありすぎるから、複数を一気に開くことになる。やればあたしは動けなくなってしまうわね」

「それでもやるのかよ!?」

「この車両を人質に取らせないようにするには……自分達が出来ることだけで撃退するには、それに賭けるしかない。うまくいけば、あいつは車両の壁面なりに叩きつけられて転がり落ちていくはずよ。」

「……」

「もしそれでもダメな時は……総力戦よ。でもそんなことにはなりたくない。だから成功させましょ」


 2人はうなづくと一足先に後部車両目指して進みはじめる。ディアナはメガンに振り向くと言った。


「メガン、あなたはここでヴィクターといて。彼を守ってあげて頂戴」

「わかった。ディー、気をつけて」


 心配そうにそういうメガンの額に素早くキスすると、前方車両に待機したままのホークガールに指示を出す(残り1人、車内の動向を探って知らせよ)大振りなジェスチャーでサインを送る。一応役に立つかも、と一度だけ教えたことがあっただけだが、こちらの言いたいことは分かってもらえたらしい。むこうはひとつ頷くと、1人だけ反対方向の前方車両へと進みだした。

(さぁ、あたしもいかないと)

 ディアナは魔杖をしっかりと両手で握ると、自分も後方へと進路を取った。



 リメーンは違和感を感じていた。

 車内を歩く彼を見つけ、なにかと絡んで邪魔をしてきた車掌の首をへし折り。そいつの身体をトイレに放り込みながら、唐突にその違和感を覚えたのだ。

 あのガキ共は間違いなくこの列車に乗っている。それは間違いは無い。

 だが、それぞれが乗り込んだというのに騒ぎが何処からも上がっていない、すでに車両の3分の1ほど自分はみてしまったというのに、だ!

 力尽きて親の姿を見ただけで投降した、とか?ここまで親達の手をくぐり抜けてきた連中が?脳裏にあのガソリンスタンドでのふざけた姿が思い出され、すぐに否定する。それはない、とても考えられない事だ。

 ということは……。

(もうすでにやられたと?……そうか、他にないだろう)

 無理もない話ではある。やはり彼等は戦士と言っても親なのだ。子供が嫌がれば、情もあるから手も抜く。そうしてまた出しぬかれてしまったに違いない。

(だが、今度はそうはいかんぞ。ガキ共!)

 

 ホークガールはゆっくりと電車の進行方向へと進みながら、慎重に自身の獣人の能力である超感覚を鋭敏にしてへばりついている屋根の上から車内の様子をうかがっていく。

 幾ら超感覚といっても万能ではない。なんとなく、こんな感じというのがわかるだけだ。しかし、何も感じないのだ。

 残っていたのはリメーンとかいう、プライドが高そうな奴だ。追いついてきたと思えば、自分達にこれまで出しぬかれているという怒りの感情のまま動くわけで、そんな物体が自分のそばに近づけば、彼女がわからないはずが無かった。……もちろん万能ではないとわかってはいるのだが。

(だいぶ……前の方に来てしまった。最後の1人は、行ったり来たりして後ろの方には来ていないのかな?気配を消して動いている?まさか、もう通り過ぎていた、なんてことは無いよね?)

 なにか、不安のようなものが無いわけではないが。とにかく今は、そいつの姿を感知して位置を知ることが重要なのだ。



▼▼▼▼▼



「ヴィクター、大丈夫?」

「……うん」


 うつ伏せになって顔を伏せたまま動けない彼は返事はするが、とても調子がいいとは見えなかった。外でこうして雨ざらしとなっているのである、冷たい夜の吹きぬけていく風で体温も低くなっているはずだ。

(服とか……あと飲むもの!駄目だ、全部客室に置いてきてしまっている)

 それでもせめて、と思って自分の体をすりよせているが、これがどれだけ役に立つかわからない。せいぜい気休め程度だろうが、それでもなにもしないよりいいかもしれない。


「下に戻って、何か持ってこようか?」

「いい……動いちゃダメだ。まだ、残ってる」


「おやおや、具合が悪そうだな子供達。見てやろう」


 聞きなれない声がいきなり自分達にかけられてメガンはハッとする。

 ヴィクターのことに気が取られて、周囲に対して注意を怠ってしまっていた。彼女はうつぶせのまま周囲を見回すのと、動けないヴィクターがうつ伏せのまま”見えない手”で彼女の元から引きずられるようにズリズリと不自然に車両の上を進んでいくのは同時におこった。


 そのいきつく先には、サディスティックな笑みを浮かべるリメーンが車外に出て、同じく屋根の上にいつの間にか仁王立ちしていた!




 足もとまで引きずられてきて動きを止めたヴィクターを、リメーンは満足そうに見下ろす。

 次に彼の襟元を捻りあげながらあっさりと持ち上げてみせる。


「おお、本当に顔色が悪いな。死にそうではないか、ヴィクトール・モリスン」

「……」

「どうした?」

「吐きたくなる声だ。せめて静かに話してくれ」


 それまで目を閉じていたヴィクターだが、少しだけ目が開く。そこから覗く目には、はっきりと反抗の意志がギラつくように輝いていた。


「ヴィクター!」


 悲鳴のようなメガンの声がようやく上がり。その声で、襲撃準備をしていた皆もこの状況を知る。


「いい目だな、ヴィクトール。おお、そうだ。ヴィクターと呼んでもいいかな?」

「…お断りだ」

「そうか、”ヴィクター”。私はリメーン、覚えているよな?お前達、ガキ共の未来のリーダーとなる男だ」

「”初めて聞いた”な、その自己紹介」

「なら覚えておくといい。私はお前の”性能”を評価しているぞ。戻ったらさっそく、私の役に立てさせてやろう」

「…………」

「どうした?感謝の言葉がないぞ?お前のような、親に壊されかけたポンコツでも役に立つと評価してやっているのだ。喜ぶべきだろう」

「……そういうことなら」

「ふむ、なんだ。言ってみろ」


「僕よりクズが偉そうに吹くなよ。ゴミ箱に捨てるぞ、”ポンコツ野郎”」


 一瞬、リメーンの体から殺意がわきあがり、ヴィクターに叩きつけられる。しかし、それくらいでは彼の眼には恐怖は浮かぶことはなかった。するとなにがおかしいのか、リメーンが笑いだす。


はははっはは、はははっはははは!


 一定のリズムを刻むその笑い声は、次第に狂ったように調子を崩していく。



(撃てない!?やっぱり、無理)

 ホークガールはそう判断するも、弓につがえた矢はそのままにしていた。チャンスがあればリメーンの背中に躊躇することなく打ち込むつもりであったが。それをするなら”絶対”に命中をさせないといけないという問題がある。もし、リメーンが矢をかわしたとしたら次はその向こう側にいるメガン達に当たるかもしれないという問題が。

 それにあいつは念動力のような力を使うのは知っている、このまま自分が近づくというのも正しいとは思えなかった。



(やられた!?)

 ディアナは唇をかんだ。

 恐れていた事が起こってしまった、こうなったら総力戦しか残っていない。だが、今の自分達は未熟で、なによりも長期の逃亡によって疲れ果てていた。

 力を尽くせば勝つことはできるかもしれない。だが、そうなるとこの走っている列車に乗っている乗客の安否は当然保証など出来ない。ディアナの記憶がフラッシュバックして、あの自分が滅茶苦茶に半壊させてしまった町の姿が蘇る。

 あんなことを再び自分は繰り返すというのか!?



「くそ、クソっ!あの野郎っ」

 遠目であったが、トニーの目には十分だった。ヴィクターの体を持ち上げてニヤニヤ笑いを浮かべるリメーンを見てはやくも血が沸き立つような怒りが吹き上がる。

 だが、どうする?

 自分達はすでに最後尾の車両で間抜けにスタンバイしていた。あそこまで今から戻るっていうのか?それで間に合うと?

 突然、トニーは自分の肩にルーベンが手を置くのを感じて振り向く。


「トニー、下に降りるんだ」

「下?」

「そうだ、車内を移動してあそこまで行くんだ。あいつの下から攻撃するんだ。間に合うかどうかわからないが、それしかない。ディーがゲートを開くのを見たら何をするかわからない」

「でもよ!?」

「覚悟を、決めないといけないのかもな」


 ルーベンのその言葉を聞いて、トニーは絶句した。それはあの時、トニーがルーベンに言い放った言葉だったが、彼はこの時にその言葉を返してきた。意味することは1つだと思った。

 トニーは頷くと、するすると器用に車内へと天井から降りていく。ここでゲームオーバーになるわけにはいかないのだ。



 狂った声をあげて大笑いしたリメーンはようやく落ちついてきたのか、ヴィクターに再び問いかける。


「それで?さっきのがお前の”最期の言葉”でいいのか?」


 その眼にはしっかりと殺意が隠すことなく浮かんでいる。それを睨みかえすがヴィクターはなにもいわなかった。

(こいつは僕を殺すつもりだ。だが、それなら最後に僕がこいつを……)

 ”そんな事”が可能かどうかは分からなかったが、ヴィクターの腹も決まっていた。多分、自分の力では絶対にやりたくないようなことを今からしないと皆が、この列車の安全はないのだ。


 だが、その一瞬は訪れることは無かった。

 少女が、メガンが突然「うわぁぁぁーーー!」と声をあげながら突進してくると体当たりをしてヴィクターとリメーンを突き放す。続いて、少女は拳を振り上げて力一杯リメーンをぶっ飛ばす。


ばぐんっ


 走行中の車両の屋根に半回転して叩きつけられ、あやうく転がり落ちそうになるのを耐える。そこにメガンが突っこんできてもう一撃をその横っ面に叩きつけようとした!!



▼▼▼▼▼



「残念、だったな」


 リメーンのその言葉は、嘲笑の笑みと一緒にメガンにむかってかけられた、

 あとわずかでリメーンの頬にめり込むかに見えたメガンの拳が、直前で停止していた。それどころか、ヴィクターのフォースフィールドに包まれたかのように彼女の身体は流れたまま空中で静止している。メガンの顔も歪んでいた。


「メガン・ヒルだったな。将来はパワータイプになるといわれていると聞いていた。お前の能力が完全に覚醒していれば、私が止めるよりも先にこの顔に一撃を入れられたろう。くやしいな?」

「よ、よせっ」


 仰向けに倒れながら、必死に身体を起こそうとするヴィクターは口にした。リメーンがこれからメガンに”すること”が何かを察してしまったのだ。

 だが、相手はそんな言葉でやめるような慈悲の心は無かった。残酷な笑みを浮かべる。


 そしてメガンを、11歳の少女を車両の上から夜の闇が広がる車外に向けて簡単に放り出してみせた。

 一気に後方へと流れる景色の中に投げ出されたメガンのその時の顔をヴィクターは見てしまっていた。彼女の目に恐怖は無かった、逆になにがおきたのかわからない。そんな目だったが、それは自分を見ていた。


「……っ!!」


 動かない身体と力の中で、ヴィクターは無様にもがくことしか出来なかった。



「嫌っーーーー!」

 ディアナは絶叫した。信じられない一瞬の爆発力で逆転したかに見えたが、現実は非情であった。非力な自分の魔法ではどうにもできない。ルーベンやトニー、ホークガールは遠くにいて、ヴィクターも何も出来ない。

 メガンの力はまだ完全ではない。こんな列車から放り出されても耐えられるような体では……。



「っ!?」

 ホークガールは息をのんだ。何が起きたのか、彼女の夜目はしっかりと状況をあますことなく認識させていた。

(本当なら、お前は天使になれたはずなのに)

 なぜだろう、あの時の。彼女がこの醜い身体になってしまった時に姉の言った言葉が。リンダ・カッチーニがなにげなくいったそれが唐突に頭の中に浮かんでしまった。

 そうなのだ、彼女に羽があれば。それで宙に飛び立つことが出来さえすれば……。



 トニーは車内にうつって走っていた。

 といっても、急ぐことはできてもたかが知れている。気のせいだろうか?今、外で何か女の悲鳴が上がった気がした。

(まさかっ!?)

 ヴィクターに、兄弟に何かあったのだろうか?だが、ここにいてはちっとも状況がわからない。焦りだけが、彼を突き動かしていた。



(?)

ルーベンにはなにが起きたのか、はっきりとは分からなかった。だが、悲痛なディアナの声でまずいことが起こったのはすぐにわかった。

 続いて、なにかが前方の車両から後ろに流れていく風景の中に何かが投げ出されたように見えた。はっきりとはわからないが。

 だが、彼が実際に考えていたのは別の事であった。なぜであろうか、先程から、この最後尾にきてからかすかに聞こえていた”音”があった。それが今、この瞬間にはっきりとした”羽音”のように羽ばたく音が混ざり、轟音へと変わって……。



▼▼▼▼▼



ピロリ ピロリ ピロリ


 それは音をあげて”何かの到着”を知らせていた。ディアナは悲鳴をあげるのに忙しくてすっかり忘れてしまっていたが、彼女のポケットの中にある携帯電話が鳴っていた。

 そう、それはあのジェシカ・ラズベリーが別れ際に「お守りになるから」と意味不明なことを口にして無理矢理ディアナに持たせたあの携帯電話である。

 それがさわやかな電子音をあげて告げていた。有名な作家にして、超人達の最悪の疫病神。ジェシカ・ラズベリーが、この先も戦う宿命にある子供達の為に用意した最後の一手。



 騎兵隊の到着である。



 少女を放り出し、絶望の声を味わう余韻をリメーンが味わうことは無かった。

 突如、列車の後方で上がる轟音と共に巨大な羽を広げた飛行機が近づいてきて列車の上にいる一団にライトを向ける。それがあまりにもまぶしくて、遮ろうと手をかざしてみるがそのせいでなにがきているのかさっぱりわからない。

 つづいてなにかジェット音がして、2本の小さな炎が噴き上がると列車の横の闇へ。メガンが姿を消していった方向へと凄い速さで突っ込んでいくが、すぐにそれはこの列車の方へと戻ってきた。今も走っている列車に、簡単に追いついてしまったのである。

 うまく光をよけ、夜の闇の中を飛ぶそれは赤と黒の姿をしているようだが、それがわかったのは戻ってきたその手にはメガンが抱きかかえていたからである。

 そのままジェット音させた”そいつ”は先頭車両方向へ。ホークガールの所まで行くと、降りてメガンを彼女に渡した。

 ホークガールに抱きしめられたメガンは、自分に起こったことが信じられないのかビックリした表情で固まったままだ。



(そんな馬鹿な!?)

 リメーンも固まっていた。一瞬の勝利の味はすでにカラカラに渇いてしまっている。

 飛行機から照らされる光に背を向け、闇の中に立ち。今しがた自分が地獄に送ったはずの少女をあっさりと救助してみせたそいつから目が離せない。こんなことがなぜおきた?これはどういうことだ?いや、そもそも。”なぜ彼がここにいる”のだ?


 レッドミスト若きクライム・ヒーロー。

 東海岸では彼の”ボス”と同じくらい彼の名前は有名で知らないものはいない。あそこでひどい目にあわされるヴィラン達にとっては忌々しい存在。

 同時に、彼は若きヒーロー達にとっても次世代のリーダー的ポジションに立つことを自然とさせる存在感があった。

 その彼が、遠く活動拠点から離れたこの場所に、なぜ今いるのだ?!


「レッドミスト!?何故お前がここにいる……」

「おやおや、ご挨拶じゃないか。リメーンだったな。ここしばらく、姿を見ないと思ったらそっちこそこんな”南”の果てにいたなんてね」

「うるさい!お前こそ私の質問に答えろ」

「相変わらず、いい根性しているな。いいだろう、教えてやるよ。ボスの命令でね、それに”彼女”の頼みなら断らないよ。それがお前等の邪魔が出来るとわかればなおさらね」

「彼女?何を言っている!いったい誰が……!?」

(ああ、クソ。あの女かっ)

 ジェシカとかいうあの老婆だとわかった。そういえばやけにあっさりと吐いていたのはつまり、”こういうこと”だったわけだ。同時に、彼女についたまま残った二人のことも思い出したが、それは今はどうでもいい。



 全てはまたひっくり返されてしまった。

 リメーンは歯噛みしたいのをこらえ、必死に頭の中を切り替えようとする。

(ガキ共に加えて、レッドミスト。やっかいだが、負けるわけにはいかない)

 この期に及んで、リメーンの中に撤退の2文字は無かった。いや、むしろここからもう一度逆転してやろうという気ですらいた。今回の家出した子供達の捜索の責任者は自分で、ここまでいいようにやられてきてしまったが、彼一人で任務を果たして戻ればあの役立たずの親達にもこれから先、でかい顔をさせなくて済む。

 そのついでにレッドミストも処理できれば、おつりどころの話ではない。

 つまり、彼の野心にとって最高の結果が待っているということだ。逃げるなんて選択肢は無い。

 それに今も走っているこの列車自体がいい人質になる。もしもの時は……。


「どうもやる気満々って感じに見えるな、リメーン?」

「わかるか、レッドミスト?私が引く理由は無い、それだけだ」

「ふーん、余裕なんだね」

「このガキ共を頼りにしているならよした方がいいぞ?ボロボロのクズみたいな役立たず達だ。私の問題はお前をどうするか、それだけしかない」

「なるほどね。つまり、”この列車を人質にとる”ってわけだね。了解、わかった。


ヤング アウトキャスト! 攻撃開始だっ(YOUNG OUTCAST! GO ENGAGE!)」



 レッド・ビートルの声に合わせるように、飛行機の下部のハッチが開き。次々と超人達が飛び降りてくる。

  


 闇の中を赤々と体を燃えあがりながら飛んでくる、フレイム・バード。

 不敵な笑みを浮かべ、ぴっちりと女性らしいボディラインが出るスーツを身につけた、ダガ―。

 昔のミュージシャンのステージ衣装のような派手ないでたちと輝く金髪のハウリング。

 かわいい主人を背中にのせ、獣の咆哮をあげて飛び降りてくるサイバネティクスのパーツをつけたゴリラ、サイゴ―。

 女ピエロに扮した無表情のドール・ガール。


 U.S.エージェントに匹敵する東海岸のヒーローチーム。アウトキャストの2次団体に所属する若きヒーロー達がリーダーの声に従うように次々と降りてくる。

 フレイム・バードはわざとだろう。リメーンの側を横切るように飛び越えていくと、それに決して気を取られたわけではなかったが、サイゴ―の巨体が続いて突撃してくる。

(おのれっ!)

 必死の抵抗を試みようと、リメーンはさっそくゴリラの突進を止めようとしようとするが、なぜか身体に力が入らない。


「!?」


 フフフ、やけに不気味な声がリメーンの耳元でしてドール・ガールが笑っているのがわかった。 次の瞬間、ゴリラの突撃を正面から受けてしまう。そしてゴリラと絡み合うようにしてリメーンは列車から後ろに流れていく夜の中へと消えて行き、ヤング アウトキャストの面々もそれを追って次々と視界から消えていった。



「野郎っ!何処にいった、俺がっ……あれ?」


 何か外で異変が起こっていることにさすがに気がつき、窓を開けて強引に身体を乗り出して屋根に掌を向けたトニーはそこで呆けた顔をしてしまった。

 そこにはホークガールとメガンがいて、ヴィクターに肩を貸している。そのそばには、見たこともない黒と赤のコスプレ野郎が立っていたのだからしょうがない。

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