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BLACK&WHITE  作者: 鷹雪
Knights of round Vol.1 Runaway
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血族

よかったら一読後、感想その他を残していっていただけると嬉しいです。

「冗談じゃない!冗談じゃないから!」


 ホークガールが口の中でそれを繰り返しているのは、きっとそれで自分を納得させようと無理矢理にしているからかもしれない。

 拒否の声をあげた時の皆の顔が忘れられない。メガンは、あの何が起きているのかわからないと言った少女の顔が。ディアナの大きく見開かれた目が。狼狽するトニーやルーベンが。その反対に、やけに冷静に自分を見てくるヴィクターのあの目がイライラさせた。


 席を立つとすぐさま2階へと上がる。さっさと荷物をまとめるためだ。

(アークシティ?ふざけるなっ)

 冷静ではいられない事情があったし、自分の態度も考えも無茶苦茶であることはわかっていた。

 サングラスでは隠しきれない、少女の面影が残る自分が1人旅をするのに煩わしい視線とそこから感じる孤独はなによりも面倒なものだった。だから、たまたま見かけた強盗どもの後をつけ。退屈しのぎにヒーローの真似事をしようとした時に彼等を見つけた時は、ちょっと嬉しかったのだ。

 それが例え、自分の都合であったとしても。

 彼等と付き合っての旅は最高で、出来るなら一緒に居たいとも思っていた。

 だが、無理なのだ。

 「しかし」とつい腕を止めてしまう。彼等と一緒にいると、なにかとても心が安らぐのを感じた。自分は彼等にとっては新入りで単に一緒に旅をするだけの関係のはずなのに、楽しかった。惹かれるものがあった。

 あの町に向かうという話しでなかったら、もしかしたらまだ一緒に居ていいのかもしれない、と。



「ホークガール!?」


 驚きの声が後ろから上がって、そちらに顔を向ける。

 部屋の扉の前で、ディアナとメガンが立っていてどちらもホークガールが自分の荷物をまとめて出ていくのを見てショックを受けているようだった。そのことに少しばかり胸が痛む。

(でも無理、無理なんだから!)

 自分の中のなえそうな気持に気合いを入れる。そして出来るだけ冷たい声で本心を隠そうとした。


「私は行くわ。ここでみんなとはお別れ。西海岸から北に回って……ベガスもいいかもね。とにかく、アークシティには私はいかないから」

「ちょっと待って、突然そんなこと言わないで」

「メガン、ごめんなさい。でもね、これだけは駄目なの。いえ、嫌なのよ。私が東海岸に寄りたくないのと同じ理由でね」

「ホークガール、落ちつこうよ。あたし達はこれまで一緒にやってきたじゃない。東海岸に行きたくないって言うのも、ちゃんと話してくれたから尊重した。今回のことだって、アークシティがダメな理由を話してくれれば皆が無理矢理ってことはないはずよ。話しあいましょう?」

「ディアナ。悪いけどそれはダメ、あの小説家のおばあさんも言っていたでしょ?あなた達には危険が迫っている。どこかで保護されなくちゃいけない。アークシティなら、ここから列車に乗れば1日半もかからずにつく。最高じゃない」

「……驚いた。随分と詳しいのね、なにかあるの?あるなら話して頂戴」

「嫌よ、これについて議論は無し」

「待ってよ!メガンのパパやママ達にホークガールは見られているんだよ?この先はどうするの?」

「1人旅に戻るだけだもの。心配はないわよ。出会う前にやってたことよ、だから心配は……ちょっと、メガン!?」


 荷物を詰め込むのを再開したホークガールの後ろから手が回ってくると、メガンが腕ごとベアハッグしてきたのだ。


「ごめんね、ホークガール」

「何がごめんよ、このガキ!離しなさいよ、ちょっと。蹴飛ばすよ!?」

「うん、いいよ。我慢する」

「そういうことじゃないの!……ディー、ディアナ?メガンに言ってやめさせて!」


 だが、後ろから彼女に向かって答えたのは別の人間であった。


「メガンちゃん。ありがとね、そのまま離さないであげて」

「ちょっ、ジェシカさん!?このババア、何を企んでいるの?」

「企んでいるとはひどいわね。ちょっとお話しをしたいだけよ」


 ホークガールの視界がゆっくりと横に動いていく。メガンがゆっくりと方向を変えているのだが、持ち上げられているせいでどうも変な感じがする。

 そうしてしかめっ面したホークガールは、入口に立つジェシカとディアナと対面した。



▼▼▼▼▼



 不機嫌な顔のまま黙っているホークガールに、まずジェシカから口を開いた。


「ねぇ、じつはあなたの顔を見ていて思ったのだけれど。私とあなた、”以前にあったことはないかしら?”」

「さぁね、知らない」

「そう?そんなことはないと思うんだけれど、私はどうしても思い出せないわ。喉まで引っかかっている感じで」

「フンッ、それが出てくるまでメガンにこうして貰うつもり?」

「ああ、そうね。そういうわけにもいかないわね」

「なら今すぐにでも離して頂戴!」


 癇癪を爆発させるホークガールに対し、メガンもディアナも不安そうだが、ジェシカはそんなことは全然なかった。それどころか抗議を無視して質問してくる。


「ねぇ、あなたの話をさっき聞いていて。とても気になったことがあるのよ」

「そうですか、知らないっ」

「あなた、確かに自分の家のことは口にしていたわね。でも、反対に”絶対に触れない”こともあった。あなたの本当のご両親のことと、あなたがなんで家を出たのかってこと」

「……」

「私ね、思うんだけれどこの2つは密接に関係していることだと考えているの。

 だってね、たしかに普通の人間の家族の中に超人が1人いると言うのは大変なことよ。それでも理解してくれる家族がいて、あなたはそれを乗り越えるだけ強さのある娘さんよ。見ているからそれくらいはわかる。

 そのあなたが、どうしても家を出なくてはいけない理由があったはずよ。それを話して頂戴」

「…なんでそんな愉快なことを考えたのか知らないけど。話すことはないわ」

「嘘よね。話を聞いていると、所々であなたの行動はおかしなところがあるわ。ディアナ達に金銭的な援助をしたり。彼等のトラブルを一緒に引き受けたりしてる。

 当初は損得でつきあっているはずのあなたが、そこまで思い入れを強くしたのは別の理由があるはずよ。それをここで話して欲しいの」

「お断りね」

「……あのね、ホークガール。もうあなた達は全員が一蓮托生だってことを理解しなくちゃいけないの。政府はあなた達全員の存在に気づきはじめているだろうし、彼等の両親も当然知っている。

 あなたが強硬な態度で逆らっても、彼等があなたを1人の超人として脅威と考えるのは変えられないのよ。

 それにね、あなたが行きたくないと言うのはアークシティに知り合いがいるからでしょ?いいえ、たぶん家族がいるのね?

 最初は友人関係かと思いもしたけど、あなたが利用した賞金システムには私、心当たりがあるの。あれは”誰もが利用できる”というシステムではないわ」

「……」

「だから話して頂戴。まず、名前から全部ね。ザビーネだっけ、ということは……あれ?あらっ…………嘘っ、そういうことなの?嫌だ、それじゃあなた。

 ああ、そういうことなのね。全部つながるわ。驚いた、ザビー。あなた大きくなったのね、私が見たのは本当に小さな頃だったから。サングラスもしていて印象も全然違うし。気がつかなかった。

 あなた……そう、あなたはブラウンの。いえ、リンダの妹さんなのね」

「!?」


 突然、ジェシカが勝手に1人でなにかを納得しはじめたのをみて2人は混乱する。だが、それも長いことではなかった。オホンと咳払いを一つすると、毅然とした態度で情けない姿で泣きそうな顔になっていたホークガールに向け、ジェシカは命令した。


「さぁ、ザビー。いえ、ザビーネ・カッチーニ、全てを皆に話して聞かせてあげなさい。それが嫌なら、私がかわりにあなたの物語を語って聞かせてあげるわよ」


 どうやら、老いた小説家の恐喝まがいの説得は成功したようである。

 情けない顔をしたホークガールは、ジェシカの言葉を聞くとがっくりと肩を落として小さな声でメガンに「逃げないから、下ろして頂戴」とだけもらした。



▼▼▼▼▼



 ある日、超人となったザビーネ・カッチーニは盗みを働いた。

 酒屋に並んだ酒を2本ほど失敬して、悪友たちと回し飲みしたのである。ちょっとしたイタズラ程度のきもちであったが、なぜか親はそのことを嗅ぎつけると烈火のごとく怒った。

(なぁーにー?ちょっと悪いことしただけじゃない)

 当然だが、ザビーはまったく懲りていなかった。だが、それから父の自分を見る目が変わったような気がして、それが耐えられなかった。なぜ、そんな犯罪者を見るような目をするんだろう?


 答えは意外な形で出た。ある晩、夜遅くまでラジオを聞いて夜更かしをしていた。彼女の目は夜だからといって鳥目になったりはしない。むしろ闇の中もよく見ることができた。

 そのせいもあってだろうか、その時は疲れてきてしまい。鋭敏になった感覚を鎮めようと、ようやく眠ろうとしたのだ。

 ところがその時、たまたま彼女の耳の中に入ってきた。隣の部屋で眠る父が寝言でいった「お前の親と同じ道を行くんじゃない」という呟きを。


 それを調べようと思ったのは、どちらかというと好奇心からだった。

 かつて政府の捜査官をしていた父に対してのちょっとした反抗もあったかもしれない。

 自分の持つ超人としての力、獣人の超感覚を駆使して父の部屋を、仕事場をひっくりかえしてみたのだ。それは信じらられないほどあっさりと、細部にわたって知ることが出来てしまった。


 ザビーネの本当の両親もまた、超人で獣人であったという。

 【ラット&チーズ】というふざけた名前の盗賊団。彼女はそいつらが潜伏していると思われたホテルの寝室で、用意された子供用のベットの中でスヤスヤと眠っていたらしい。

 その時の捜査主任は、なかなかにエゲツナイ人物だったようで、両親に向けて子供を返して欲しくば、すぐにでも投降しろと詰め寄ったようだ。とにかくそれでなんやかんやあって、結局作戦は失敗。哀れな子供は親に見捨てられ、政府も役に立たない赤ん坊が価値が無いと悟ると放り出そうとした。


 カッチーニ夫妻が赤ん坊を引き取ると申し出たのはその時だった。

 長いこと盗賊団の後を追っていたカッチーニ氏は、この件で政府の職員から退職していた。



 ザビーが最初に思ったのは、なかなかクールで重い過去だな、というあっさりとしたものだった。だが、続いて恐ろしさに身体が震えた。自分はそんなことを知らないまま、ちょっとばかり超人としての力を使っただけで。長年、父が秘密にしていた自分の情報のほとんどを引き出してしまっていたという事実を恐れた。

 自分にはぬぐい去れない盗賊の血が流れている。

 愕然とした。認めたくなかったし、信じたくなかった。その力を封印したいとも願ったが、鋭敏な獣人の感覚は彼女の意志だけで押さえつけられるほど弱くはなかった。


 しばらくは悩む時間が続いた。

 だが、時間がたてばたつほど悩みはいつのまにか苦痛へと変わる。段々と自分の中で悪い意志が蠢いているのを感じはじめたのだ。なにかがあると、心の奥底で(力を使えばいいじゃない。別に”問題はない”でしょ?)と呟く誘惑が生まれていた。正直、それにのまれるようになんども小さな罪を重ねていった。

 そして、だから彼女は決断を下したのである。



「家を出たの。最初は本当の親達を探そうかと思ってた。

 でもね、あなた達に会う前にも色々あってさ。会うのが怖くなったのよ。もしかしたら、自分はただ親にあって悪事を働くことへの理由を得たいだけじゃないのだろうかって。

 だからね、盗みはしないと決めた。かわりにヒーロー紛いのことをしてたの。悪党共をブチのめしたり、そいつらの活動資金を頂いたりしてね。もちろん、そういうのは全部ヒーローしているのに連絡を入れてた。

 父さんは東海岸の連中と仲良くしててね。だからそれでいくつか個人の連絡ルートを持っていたのよ。私はそれを使わせてもらってた」

「ザビー、このお婆ちゃんが言う事じゃないけど。それはやっぱり危険なことなのよ?正体を明かさないで活動するのは、彼等にも理由があるのだから」

「そうだったのかも……これで全部かな。それで?ジェシカさん、私はアークシティ、行きたくないんだけど?」

「まだそんなことをいってる…………良く聞きなさい、ザビー?

 あなたこそ一番にアークシティへと向かうべきなの。方々で1人で喧嘩を売って回ったと言ってたでしょ?そういった連中は、傭兵や流れ者が多いわ。そしてヴィランと呼ばれる人たちはそういう人物達の情報を集めるのがとてもうまいの。

 今までは子供だからとか、誰がやったかわからないからというだけで何とかなってたはずよ?でも、彼等と一緒にいたことで存在はもう知れ渡ってしまう。

 この先、1人旅でなにかしようとすれば。今度は今までのように上手くいくかどうかは分からないわ」

「そうかもしれない、でもそうじゃないかもしれない」


 頑強に認めようとはしない。わかっていても意固地になっているのかもしれなかった。

 ジェシカは大きく息を吸ってから吐き出す。まず、左にいるメガンの目を見た。次に右にいるディアナの目を見た。どちらも不安そうで、それでもわずかに希望にすがるような輝きがあった。

 そしてジェシカはホークガールの、ザビーの目を真正面からしっかりと見つめると言った。


「ザビー、そんな意味のない抵抗をしても無駄よ。あなたは利口な娘よ、それはわかってる。

 私があなたを見たのはリンダの後を子犬と一緒に危なっかしくも追いかけて走っている時だった。あなたの中に流れる血にはカッチーナの家の物がしっかりと流れているわ。

 あの人達はね、国を守り、法を守る人達なの。あなたはその娘なのよ。

 それにね、どうせこのままでいても今さら悪人の真似事なんて出来やしないわ。どうせ半端に良心が邪魔して、かえって苦しむことになる。私はね、方々を旅してまわっているおかげでそういう不幸になる超人達も一杯見てきた。

 だから理解するべきなのよ。あなたの旅も、彼等と同じようにやめる時が来たって。

 それにね、ザビー?

 知っているかしら。旅する鳥は、次の”帰る場所”を目指して長い距離を旅しているのよ。あなたの居場所は両親のもとではなかったかもしれないけれど、実の両親のもとにあるとも思えない。

 だから、ね。アークシティを目指してみなさい。

 決して楽な道ではないわ。彼らだけじゃない、あなたの後ろにも大きな影は迫っているのよ。ここまであなたも逃げてきたのなら、彼等と同じようにこのまま逃げ切らないとダメよ。

 あなたは彼等を助ける力があるし、彼等もあなたを助けることがあるはずよ。これまでもそうだった。なら、これからもそうかもしれない」


 彼女の返事はとても小さく、聞き取りにくいほど小さかったけれども。何を言ったのかはここにいる皆にはちゃんとわかっていた。

というわけで、全員これにて覚悟完了となりました。

次回からはいよいよ、彼等のアークシティにむけた最後の逃走(闘争?)が始まります。

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